第19話 褒賞の儀
本作品はカクヨム様で先行公開中です
人々から尊敬と親しみを集めている国王陛下の挨拶は盛大な拍手によってしめくくられた。
いよいよ、メインの「褒賞の授与」だ。ヤバい、マジで緊張だよ。
上席儀典官の朗々とした声。
「オレンジ・ストラトス領 ガルフ・ライアン=カーマインが長男 ショウ・ライアン=カーマイン」
「はい」
「前へ参られよ」
「はい」
軽く見ても300人、500? いや、もっと多いよ。
ホールの扉が開け放たれて、向こう側から覗いている人達も合わせると千人近い人が見ていた。
ひぇ~ これヤバいって、右手と右脚が一緒に出ちゃいそうだよ。
国王陛下の立っている壇上。
指定されたポイントには、目立たないけど、ちゃんと印が付いているのが、何気に親切。たぶん前線の兵士なんかを叙勲する時にも、戸惑わないようにするためなんだろうなぁ。
ホール中の目が、オレに突き刺さってくるよ。あれ? 意外と大丈夫だ…… あ、そっか。メリッサやメロディーとの「あの時」の視線に比べれば、何気にイケちゃうじゃん。
あの時の二人の可愛らしい顔を思い出したら、なぜか顔がニヤけてしまった。
ふと見るとメリッサとメロディーまで顔を赤くしてる。わかっちゃったかな?
小さく肩をすくめてしまった時に、上席儀典官は「みなの者!」と声を張り上げたんだ。
「先般実施された王立学園の新入生歓迎行事において、次のような活躍をしたものである。これよりご説明いたーす」
王立学園の生徒と親たちが密集しているところからは、小さく手を振る姿が見えてる。さすがに手を振り返せないけど、ニコッと笑って見せたら、あっちこっちで嬉しそうな顔になってくれた。
そこでなぜか儀典官が変わった。
「ひとぉーつ 川に落ちた級友を、危険を顧みずに自ら飛び込み、救命具を抱えて泳いで近づき(ここで、えーと言う声が上がってた。泳げるというのは、それほどに珍しい)友人に救命具を被せると、岸まで自らの力で泳ぎ寄せた。その勇気と、平素からことあるに備えて泳ぐための鍛錬をしていたことは明白であり、まことに貴族としての鑑と呼べる功績である(うんうん、と頷いてるのは男子、胸の前で両手を合わせて、ポーッと見つめてくるのが女子だった)」
一気に、そこまでを読み上げると、さっきの上席儀典官が前に出てきて声を上げた。
あー コイツの方が偉いのかも。
「ふたーつ これは誠に重大で、偉大なるサスティナブル王国の永遠なる歴史上においても特筆すべき功績であることを鑑み、異例ではあるが、上席儀典官からみなさまへご説明すべき案件であると国王陛下によりご裁可いただいたものである」
なんか、自らの権威を、このオッサンは楽しんでないか? ま、いーけどさ。
「先般の王立学園新入生歓迎行事において、神聖なる学び舎である王立学園学外実習施設、通称「ゲストハウス」において、新入生歓迎レセプションにおける……」
長いので割愛。少なくとも、朝礼だったら20人くらいは倒れる長さで喋っていたよ。
……よって、古今まれに見る、知謀、勇気、武力を見せたことは、まことにサスティナブル王国貴族として見事の一言である。よって、これなる褒賞を与えるものとする。ショウ・ライアン=カーマイン、偉大なるサスティナブル王国においての永遠不滅の御光来にあられるジョージ・ロワイヤル国王陛下の前へ」
「はっ」
三歩進んでから右を向いて国王陛下の前に跪いた。
なんか中学校の卒業式を思い出しちゃったよ。
「いち ショウ・ライアン=カーマインに王国名誉勲章を与えるものとする」
おぉ、と小さなどよめきと、嵐のような拍手が巻き起こる。王国《《最高》》栄誉勲章に次ぐ、名誉。しかも最高栄誉勲章は、高位貴族の当主だけが受けられるので、事実上、最高の勲章だった。
ひとわたりの歓声というかどよめきと拍手が収まった頃、ふたたび、上席儀典官が声を張り上げた。
「いち ショウ・ライアン=カーマインをサスティナブル王国におけるヴァイカウント、すなわち子爵位に任ずるものとする」
一瞬、シーンとなった会場から「うぉおおお」というどよめきが広がった。キョロキョロしている学園生達は、おそらく平民枠の子達なのだろう。
このスゴさがわかってないっていうか、わからないよね。「伯爵家なのに子爵」って意味なんてさ。
たぶん隣のヤツに聞かされているはずだ。「伯爵家の息子」から「王国貴族本人」に叙爵されたのだよと。
仮に、父上に勘当されてしまっても、オレは自分の家を《《立てる》》ことが可能になった上に、カーマイン家を受け継げば、今後は、オレ個人が「子爵」を誰かに与えられるってことになったんだ。
すごいご褒美をもらえるよ、とは聞いていたけど、実際に聞いてみるとドキドキがすごい。サスティナブル王国史の中でも、いきなりの子爵叙爵なんて片手で余るほどしか例がないらしい。
「いち ショウ・ライアン=カーマインに中金貨を与えるものとする 以上!」
地味にありがたい。前世で言えば1億円だけど、こっちの世界で平民に対して使うなら100億くらいの価値があるもんね。これで、道路をバンバン作っちゃおう~っと。
「頭を上げ、受け取るが良い」
静かな声が頭上で響いた。
もちろん、頭を上げるわけにはいかない。両手を頭上に差し上げるだけだ。
その手にそっと盆が載せられる。
「これからも、期待しておる」
「ありがたく」
どーっという、うなりにも似た歓声と拍手が盛り上がったところで、音がピタリとやんだ。
えっと思って気配を探ると、陛下が会場に向けて掌を見せている、つまりは「静まれ」の意思表示だ。
「ショウ・ライアン=カーマイン子爵」
「はい」
「立ち上がってもらえるかね?」
「はい」
ん? こんなの聞かされてないよ。
褒美をもらったら、そのまま後ずさりして礼をする形のはずなのに、立ち上がれだなんて。でも、ここは、言われたとおりにするしかないと言われている。ある程度予想外のことが起きるっていう「予想」を言われているのってグッと気楽だよね。
立ち上がる瞬間、チラリと舞台奥に座っていらっしゃる公爵様達を見ると、苦い顔をなさってる。つまりここから「来る」ということか。
「みなの者聞いてほしい。王立学園創設以来、知・勇・胆に優れたこの者への褒美には私も悩んだ。果たして、これで十分と言えるのかいなか、だ」
臣下から慕われている国王陛下は、優しい笑顔を浮かべて「具申を差し許す。忌憚のない意見を述べよ」と、驚愕の発言をしたのである。
さすがに、ここで勝手に話し始める人間はいなかったけど、声なき声でザワついたのは事実だ。しかし、中学校の学級会のように軽々しく手を挙げられるわけでもない。
なぜなら、愚案を発言すれば恥をかくだけだし、逆に名案をパッと提出すれば「王が悩んだと発言する問題を《《解決してしまう》》提案」をしたことになるからだ。
特に、下位貴族にとっては「親」との関連もあり、うかつなことを言えるわけがなかった。
驚くべき緊迫感を破って手を挙げたのはロウヒー侯爵だった。ミガッテ君のパパさんだよね。なんか顔はあんま似てないけど、雰囲気が似てるなぁ。小太りでいじめっ子みたいな感じw
「恐れながら申し上げます」
「ほう。ロウヒー侯爵。さすがであるな。何か考えがあるのかね?」
「発言の機会をいただき恐悦至極にございます。愚見を申し上げさせていただきますが、子爵を拝命したご本人は王立学園において戦略演習でも才能を見せつけた、大変優秀な生徒であるとうかがっております。我々のような大人は、若く優秀な者を見かけると、ついつい余計な世話を焼いてしまいたくなるものでございます」
「ふむ。それは理解できるぞ。私も、このように優秀な若者にふさわしい家柄、才能のご令嬢に心当たりがあれば、我が王子のことを差し置いても、ぜひとも紹介してみたくなるものだ」
ハハハハと機嫌の良い笑いを響かせた後「して、そなたには心当たりがあるのだな?」と言葉を続けた時だった、上席儀典官が静かに舞台上を動いたのだ。
異例のことだけど、シュメルガー公爵に呼び寄せられたはずだ。
うん、知ってた。
典礼の専門家である儀典官であっても、このタイミングで動いて良いという前例を知らなかったんだろうけど、一方で、公爵に呼びつけられて無視するという前例もなかったのだよね。
進退窮まった時に、あの人を突き動かしたのは、すぐ横で睨んでるこわ~いオジさんだ。
「今すぐ首を引っこ抜くよ?」と言わんばかりのガーネット公爵。気の弱い人なら、その表情でひっくり返っちゃうかもね。マジで怖い顔だよ。
儀典官としては、どちらにも前例がないのなら、どう判断しても責められることも無い。まして、命をかけてまで「迷う」ことではないと言う、極めて人間的な判断をしたわけだ。
そこで二人の公爵から「あること」を囁かれた上に、書状を渡された。
来たついでに、とでも言うみたいにガーネット公爵から衿のカラーをひっつかまれて、何事かを囁かれてた。
とうとう腰を抜かした儀典官は、顔色を変え這うようにして王の下へとたどり着いた。
見ている者達は、展開されている異様な光景に驚くだけ。ま、普通に驚くよね。
王に耳打ちし、書類を見せる儀典官と、目を剥いて半ば驚き、半ば怒る国王陛下
「そんなバカな!」
小さく、そんな声まで出ちゃったね。
ザワザワザワ
最後まで聞かされた国王陛下は、明らかに愕然とした、力のない表情でロウヒー侯爵へ「すまん。続けよ」と答えたんだ。
そうだよね。王様がこの時点で発言をやめさせたら「ヤラセ」がばれちゃうもん。
静かなざわめきが収まり切らぬ中で、それでも、ここで引っ込むわけにはいかなかったのだろう。
「幸いにして、我が家と関係の深いハーバル家の当主パール・タック=ニルベンガー子爵から、ご令嬢の婚儀について委任を受けておりまして。王立学園の2年生にして最優等生でもあるニビリティア様を、ここでご紹介したいと存じます。会場内にいらっしゃるはず。どうぞこちらへ」
すげぇ。リンデロン様ってホントにすごい、ここまで「予定通り」じゃん。
「はい」
か細い返事が聞こえた瞬間、シュメルガー公爵が「あいや、待たれよ」と立ち上がった。
「ニビリティア・タック=ニルベンガー様のことは存知申し上げている。とても優秀だそうだ。カーマイン子爵にとって誠にお似合いな才媛であることも同意しよう。しかしながら、《《第一夫人の承認》》もなしに王命ともなりかねない形で『妻』を紹介すれば、今後の王家の典礼の上でも問題が生じかねん。そうだな? 上席儀典官殿」
緊張と恐怖で震えながら「左様にございます。前例も典礼にも存在しない形の王命となる可能性がございます」と、先ほど《《突きつけられたとおりに》》答えるしかなかった。
一方でロウヒー侯爵も引っ込みが付かないんだよね。わかるーw
「これはしたり。ショウ・ライアン=カーマイン子爵には、第一夫人はおろか、現在は妃のみと伺っておりますが、何かのお間違いでは?」
「つい先日めでたいことがあってな」
とノーマン様がニヤリとしたと同時だった。
上席儀典官が、小さく「ヒィ!」と悲鳴を上げた。
いつのまにか上席儀典官のすぐ横にリンデロン様が立っていたんだ。まるで幽鬼のように気配を全く感じさせない動きだった。
低音の落ち着きのあるトーンで喋り始めた。
「みなの者に、この場を借りて告げておく。つい先日、シュメルガー家のご長女メリディアーニ様と、我がスコット家の長女メロディアスは、同時にショウ・ライアン=カーマイン子爵との婚儀が成立した。証書は…… 儀典官、確認が終わったのなら申せ」
儀典官は、仕来りや故事来歴の専門家であるけど、このような「場面任せ」の状況に慣れてない。したがって「法的」なことになる以上、法務大臣の「確認せよ」に従うしか無いっていうのがリンデロン様の説明だった。
そして、書面は完璧さ。だって現職法務大臣が、たかだか「結婚の証明書」を間違えるはずが無い。
なによりも、公爵自らが、お互いの娘の結婚証明書に署名して、互いの公爵家の者による「契りを交わしたことを証明します」という仕来り通りの血判状まで付いていた。これを否定できる儀典官などいるわけがないんだ。
完璧な書面。完璧な結婚。完璧な読み。
「確認…… いたしました」
「ならばショウ・ライアン=カーマイン子爵に問いたい」
「はい」
リンデロン様の問いかけに、手はず通りに貴族の礼をして承れば良い。
「第一夫人はシュメルガー家より婚儀を営まれたメリディアーニ様でお間違いございませんな?」
「はい。良縁を結べて身に余る幸いにございます。《《我が妻達》》の采配はメリディアーニに任せたく存じます」
「ふむ。娘もよろしく頼みますぞ、婿殿」
「はっ、義父上。非才の身ながら家族のため、そしてサスティナブル王国のため、身を賭して励む所存にございます」
「ふむ。というわけだ。ロウヒー侯爵殿。さて、王のお耳をお騒がせしたことになるが、いかがいたすおつもりか?」
何しろ、今年いっぱい、婚族は増やせない。これは王国法の決まりだから、たとえ王命でも無理って言うか、そんなことをしちゃったら「婚約者を奪う」ってヤツよりもヤバい結果をもたらすよ。
でも、ここで問題なのが、令嬢の名前を出してしまった以上、何もなかったではすまされないってこと。
しかも公爵家令嬢を第一夫人とするという意志が、これだけ大勢の前で公表されちゃってる。これを覆すのは禍根を残すことになってしまうよね。
国王も、それがわかる程度には、頭があるのだって話だ。
どうにも収拾が付かない形になった。
ホントは、もうちょっと前の時点なら、一番簡単な打開策として「戯れ言でみなを騒がせたな、あいすまぬ」と、王が笑って見せて、盛大な冗談だったという形で収められたかもしれない。でも、娘の名前が出ちゃっている以上、当然、王のメンツは丸つぶれ。しかも下手をしたら西辺境地域でハーバル家が反乱を起こすぐらいはあり得るヤバいジョークになってしまう。
あるいは、ロウヒー侯爵が「事情も知らず、愚かな提案をして申し訳なかった」と謝るのが、王にとっては一番傷の少ない形らしい。しかし、侯爵のメンツもそうだけど、最低でもハーバル家は、親を変えてしまうはずだ。って言うか、もう、この時点で、何をやっても、それは避けられないだろうけどね。
さて、出番だな。その時初めてオレは能動的に動いたんだ。
「国王陛下に、申し上げたき義(儀)がございます」
王も、オレの言葉にすがるしか無いよね?
「許す。直言せよ」
「はっ。孺子にとりまして、陛下のお目にとまった女性を我が身内に迎えられることは、喜びにございます。しかしながら、王国法を守るのも我が義務でありますれば、いかがでございましょう。陛下から、同じ子爵のよしみでと言うことでパール・タック=ニルベンガー子爵へとお話しくださいませんでしょうか」
つまり、遠回しに「側妃として自分に差し出せ」という王命を出せってこと。
それなら「ご褒美を渡したよ」っていう王のメンツも立つし、差し出したハーバル家側も、収まるところに収まって、公爵家からの第一夫人がいるから仕方ないと思ってもらえるはずなんだ。
さすが国王陛下。おそらく、そのことを素早く察知したのだろう。
この辺りの感覚は、さすがとしか言いようがないよ。
「カーマイン子爵は、なかなかに壮健なお身体であるようだ。良き妻を抱えながら、さらに妃を欲するとは。いや、なんともめでたいことだ、なかなかにめでたい」
王は、必死に上機嫌を作って見せた。同時に、舞台上の貴族も、率先して王の上機嫌に迎合して見せたのだ。
それは、追従というよりも、お人好しの王に対する貴族達の好意であったのかも知れないね。
舞台上の貴族達が拍手し始めたことで、会場全体が万雷の拍手に包まれていったんだ。
ただ一人、ニビリティアだけが、真っ赤な顔で頬を押さえて立ち尽くしてるのが見えたんだ。
ごめん、君だけ恥ずかしい思いをさせちゃったね。
でも、周りが声を掛けているのはたぶん「おめでとう」という言葉。
その表情は明らかに喜びで輝いていたから、オレもホッとしたんだ。
・・・・・・・・・・・
もちろん、その日の夜、あらためてニビリティアの所に頭を下げに行ったよ。
「ごめんなさい」
心から謝った。オレのせいだとばかりは言えないけど、恥ずかしい思いをさせちゃったのは確かだからね。
「あ、あのっ、ホントに私なんかで、よろしいのでしょうか?」
「ごめんね。本人の承諾も無いのに。ただ、ニアが来てくれるなら嬉しいよ」
「いいえ。謝っていただく必要なんて少しも無くて。むしろ私も、すっごく嬉しいです。こんなの夢みたいです。本当に、最高の結果です。私はゲール王子殿下と白い結婚をすることになると言われていたのに」
「白い結婚?」
「ゲール殿下のご希望だそうです。でも、そうなったら、私は身分違いにも王妃になってしまいかねないワケで。子爵家以下の家から王妃になれば、最後はどうなるのかは、歴史をちょっと知れば、わかることです。これから、生きる希望なんてないって思ってました」
ニアちゃんは、超優等生だ。王国史だって、試験に出る、出ないなんてレベルを超越して勉強しているから「身分を越えた」王族との婚姻が何をもたらすのかよく知っているんだよ。
そして、白い結婚というのは「子孫を残さない前提の結婚」ってこと。当然、臥し所も別になる。政治的な思惑があるときに使う手だ。当然、娘の家には一方的に不利なわけだから、よほどの身分差があるとか、弱みにつけ込まないとできない。
ニアちゃんの場合は家が子爵家ということと、ロウヒー侯爵が専断できるということで「差し出された」形だったらしい。しかも、あの場で名前を出されるのは知らなかった。いきなり自分の名前が呼ばれたので理解が追いつかなかったらしい。
「ビックリしましたけど、自分の名前が呼ばれて、すごく嬉しかったです。まさかって思いました」
「本当は妻にもできたんだけど」
まあ、妃から「妻」にするのはできなくはないので、そのうちメリッサが何か考えるかも。
「そう言ってくださるのはとてもありがたいことです。けれでも私はショウ様と結ばれるということが何よりも嬉しかったです」
心からの笑顔だ。「ただ」と眉を曇らせた。
「ショウ様の腕の中に入れていただくのは、私としてとても安心なのですが、心配なのはメリディアーニ様です。私のことを何かおっしゃってませんか?」
「あぁ、大丈夫。喜んで迎えたいって言ってるよ。メリッサ達と良い友達になれると思う」
「ありがとうございます。だとしたら嬉しいです」
「あとさ、一応、王命による側妃ってことになるんだけど、形式的には、やっぱりお父上の承認を得てと言う形にしたいんだ。それまで、待てる?」
「待てる? ……あ! もう! エッチ! 当然です! ちゃんと待てますから、ご心配なく。もう~ ショウ様ってばっ」
はははと笑ってジョークにしようと思ったら、思った以上に真っ赤になっちゃって、ちょっとヤバかった。
え? もちろん、キスでゴマカしたよ。いーんだよ。何しろ国王陛下にいただいた「妃」だもんね。王国法的にも、ありありの、ありなんだよ!
「明日にでも、ウチに遊びに来てね。色々とみんなで話さなくちゃいけないから。それに、これ、使ってみて」
「あの、これは?」
「シャンプーとコンディショナーっていうんだ。きっと気に入ってもらえると思うよ」
さすがに直接教えるわけにも行かないので、ミィルに後は任せたんだ。
これで妻二人、側妃二人、所有物?一人か。
もちろん、ミィルはずっと専属だからね!
ちなみに、使者は早馬を飛ばしても往復で4千キロだもん。帰ってくるのは早くても半年後くらいかなぁ。
ま、遅くとも卒業までには何とかなるってことで、オールOK!
リンデロンが、いくつかのパターンを予測していました。そのうちの一つが『西側の子爵家あたりから「妻」を持ち出す可能性があり、もしも結婚してしまうと、立場上、そちらまで出かける必要が生まれてしまう』という説がありました。もちろん、その間に、王都で「婚約者剥がし」を狙ってくるだろうという読みです。
それを防ぐために「契り」を交わした証明を作り、互いの公爵家当主が結婚の保証をするという公的な結婚手続きを取りました。こうなると「妻」ですから、1年に婚族は1家という王国法の定めに抵触します。それであっても「卒業を待って」という王命になると、今度は「王命による妻を第一夫人にするというセオリー」と、既にいる実家がより高位である妻が優先されるという仕来りとがバッティングすることになるため、儀典官が「そのご褒美は待った!」と差し止めることになってしまいます。厳密には後から迎える妻の家柄が上だと第一夫人は入れ替わりますが、今回は「公爵家と子爵家の差」を王命でひっくり返すことになってしまうため、こちら問題が出ます。
ただし、王立学園は在学中の妊娠は認めていません。結婚すること自体は規定が無いのですが、この辺りは公爵の権威でごり押ししたみたいです。さすが権力者はヤることが違う。ま、妊娠しなければ、なんとかなるってのは想定内です。