第17話 メイド達は見た
本作品はカクヨム様にて先行公開中です。
メリッサも、メロディーも、すっかり「その気」だった。本日はメリッサ。明日の朝はメロディーになると、本人達から告げられた。
ひゃっほーぃ
言っておくけど、オレが頼んだんじゃ無いからね? そりゃ、確かに二人とも豊かなあれがアレなんだけど、いくらなんでも、そんなので血迷ったりしない(ホントだよ)。
思春期男子の煩悩は、王都に来てくれたバネッサちゃんと超積極子作り中だから問題ない。休みの日には王都のカインザー邸に行くけど、必ず朝まで一緒だよ。
金獅子寮(男子寮だよ!)にいる間はミィルだって積極的だ。言っておくけど、これは貴族家の男子では普通なんだよ? よその女の子に手を出すと、お家騒動になりかねないからね。
貴族の家の「おばあちゃんの知恵」みたいなものらしい。思春期男子の自重なんて、全くあてにならないってスタンスだ。もちろん、メリッサ達も「貴族の普通」だということで受け入れてくれてる。
まあ、前世の感覚だといろいろと「ありえない!」があるけど、それを言っても始まらないんだよ。
まあ、ミィルの場合には、昔から「お姉ちゃん」的位置付けだったから、むしろ嬉しいらしい。それに、オレのことを本気でスキだって思ってくれてるしね。この世界だと何の問題もないっていうか、むしろミィルは周りから「ラッキーだね」って言われてる。
まあ、そこを追求しても仕方がないんだけど、ともかく前世のオレでは考えられないほど「解消」されちゃってるわけだ。本来、意志が弱いのにアテナに手を出さずに「良い人」をやっていられるのも、ある意味、この二人のおかげだよ。
それは素直に認めよう。
だから、今回、オレがムリヤリ頼んだわけでは断じてない。ホントだからね?
メリッサとメロディーが、恥ずかしさを二の次にしてオレを招いたのは、この世界の貴族の男女交際の問題が関係してるんだ。
基本的に貴族の男女交際は家と家との関係に直結してる。だからこそ「おばあちゃんの知恵」を社会全体が認めている。
男子寮であっても専属メイドに部屋をあてがって、みんなも、それを当たり前に受け止めてるんだよね? 一方で、貴族の子弟に自由恋愛なんてものは存在しなくて、男女交際についての家長の権限は絶対だ。
許しのない関係を深めれば、マジでやばい。勘当とか決闘ってのが現実の問題になりかねないし、それが本人同士の問題ではなくなるのはよくあること。
逆に、許しさえあれば、あるいは家長が必要だと判断すれば、婚約者との「契り」はまったく問題ないどころか推奨されてしまうものなんだ。
今回がそのケースだった。
メリッサもメロディーも、同じことを、それぞれのお父さんから聞かされた。
言葉を換えるとリンデロン様とノーマン様が同じ結論に達していたってこと。
「国王陛下は王子のことで判断を誤り、なおかつ暴走する可能性がある」
という、途轍もない危機感だ。
王子達が婚約者をつけられないまま学園卒業を迎えてしまうのは「親」として断じて許せないという意識が強い。だから感情を暴走させて「未婚の令嬢に対して一方的な王命を出して、王子の結婚相手にするという末期的な暴君」を演じさせてしまうかもしれないんだって。
この場合の「未婚」というのは、婚約状態も含まれてしまうんだ。
婚約者のいる娘を、強制的に息子の嫁にすると何が起きるのか。
サスティナブル王国史では2人の王がそれをやった。
どちらの国王も、結果的に内戦をもたらしたのは歴史が教えてくれることだ。最近だと、百年前に起きた「婚約内戦」がひどかった。
これによって我が国はハノーバー朝から、現在のウィスラー朝に変わった。
その混乱につけ込まれて、西のアマンダ、東のガバイヤ、南のサウザンド連合国に領土を激しく削り取られてしまった。
これは避けたい。
本来は、ゲール第一王子が妻を迎えるように父として命じるか、逆に廃嫡する、あるいは弟の補佐に回ると宣言させてくれてもいい。ただ、それだけで事態は大幅に改善する。
もちろん、黒い噂のある第二王子は、その過程で慎重に排除され、円満な形で「支持母体が弱い」と言われている第三王子が立太子となるだろう。
しかし、王はゲールを説得することも見捨てることもできず、野望も抑えられない。
だから、第二、第三王子にも相手が決まらないし、立太子がきまらないのだ。
これが現実である以上、王にできる手段は限られてくる。王の代理を務める人間の有用性と、万が一への備えという点で王太子を確立する必要性は日々高まっている。その中で「王子の婚約者に相応しいのは、やはり公爵家の娘である」という声は、親国王派を中心に日々高まっていく一方なのだ。
まして、今は「婚約」すら発表できてないのがオレ達だった。
メリッサはこう言われた。
「この状態で褒賞の儀を迎えてしまうと、陛下が何を言い出すか分かったものではない」
一方でメロディーは、もっと過激なことを言われたらしい。
「褒美は褒美としても、二人の正妻は身に余るだろうから、どちらか一人を王家へ差し出せと言うのは十分にありうるだろう。君たちのどちらかを王子と結婚させておいて、ショウ君に西の辺境地のあたりで巨大な領地を与えれば『領地が運営できるようになるまで正妻候補は王都に置くように』と、親切ごかしに言う手がある」
もちろん、王都に残された「正妻候補」には、もう一人の王子をあてがうように動いてくるから、結局どちらもオレとの結婚は無理になる。
メロディーが震え上がったのは当然だった。
しかも、最初に王家に差し出されるとしたら、どう考えてもメロディーになるのが貴族の常識だ。
以前なら、それでも諦めていたかもしれないが、もう「真のナイト」と出会ってしまった以上、絶対に拒否だ。
これでノホホンとしていられるほど、二人はパッシブでは無い。
「絶対に、ショウ様以外とはイヤです」
全力で父親に訴えた。
それを家長として受け入れて、機会をくれたのが今日というわけだ。
今できるのは物理的に「よそ様にお嫁に行けない身体」になるのが確実なんだ。
え? アテナのことはいいのかって?
なんだかんだでエルメス様は恐れられている上に、今回の激怒が治まってない。デビュタント前の娘に、結婚を命じてきたら、その場で暴れ出してもおかしくないことくらいは、さすがに国王陛下もおわかりだとのこと。
さすがに、まだ、そこまではできないだろうということらしい。
全ての流れを読んだ上で、王を暴走させる目標を与えないこと。それが今回のご招待の目的だ。
そして、スコット家に招かれたのは、偶然ではなくて、メリッサとメロディーが話し合った結果だった。
ここもまた、同じ結論だったのはすごい。親子共々気があうんだねw
「第一夫人はメリッサだから先。その代わり、我が家に呼ぶのはメロディーが優先」
まあ、こういうことに、男が関わらないのは別に問題ない。二人とも可愛いし、二人とも愛してるし、二人ともぼにょんぼにょ……
いや、よーするに! 思春期男子だから、どっちが先でも、どっちのお家でも、いいんだよ。
シーツをはためかせられないっていうのも聞いてきた。むしろ、それはオレにとってはホッとすることだ。
ベルに案内されて、いったん、中庭を見下ろすテラスへとメロディーをエスコート。
そこにはお茶の用意ができていた。
小さく頭を下げてから退出したベルの所作は、物静かなのにむちゃんこ素早かった。
メリッサの用意ができるまで、オレの相手をしてくれるわけだけど、やっぱり、こっちの世界だって、こんなシチュは特殊だよ。気持ちを慮って、内ポケットに「赤いパッケージのチョコ」を取り寄せて、紙を剥がしてテーブルに置いたよ。
「これは、さ、木の実は入ってなくて、純粋にチョコを楽しむお菓子なんだ」
「まぁ、やっぱりお優しいです。こういう時に、ちょこれーとを持ってきてくださるなんて」
「一口サイズに割っても良いし、囓っても良いよ」
でも、メロディーは、お菓子に手を伸ばさずに、モジモジしてる。
「あのぉ」
クルッと周りを見渡してから「ちょっとだけ、ズルさせてください」と、ゼロ距離の場所でオレを見上げてきた。
目を閉じてそっと唇を差し出してくる。
このぐらいのことは理解してあげないとね。
チュッ
細い背中をゆっくり、何度も撫で下ろす。
細い指を俺の肩に掛けながら、甘えるように頭をもたせかけてきた。
まあ、メロディーからしたら、たまらないもんね。
オレは「優しさ」だけを前面に押し立てて、メロディーをゆっくりと抱きしめていたんだ。
落ち着くまでに十分は経ったはず。
いったん、イスに座らせた。
「あっ、ごめんなさい。お茶が冷めてしまいましたね」
「大丈夫。きっと、すぐに来てくれるさ」
言っているそばから、テラスへの戸がノックされた。絶対に、見ていたよね?
まあ、それは計算のうちさ。
「恐れ入ります。お支度をしていただく時間となりました」
「わかった。じゃ、メロディー。また、明日、君をゆっくりと抱きしめるよ」
「ありがとうございます。お待ち申し上げております」
大きな瞳にウルウルと涙を溜めて見送ってくれた。
案内の途中、ベルは、独り言を言っていた。
「さすが英雄様は、こんな時でもお気遣いいただけるなんて。お嬢様へのお優しいお振る舞いに、心から感謝を。本日は、最後までしっかりとお役に立たなくては」
深々とお辞儀をしてくれた。
やっぱり、全部見てたな。
ま、それがお仕事だよね。メイド長ともなれば全てを見ているのも当然さ。オレは、何も言わずに客間を通り抜けた浴室に案内された。
あっと言う間に脱がされて、よってたかって洗われるのは、さすがに、慣れてはいる。もちろん、恥ずかしいコトは恥ずかしいんだよ?
特に、今回は初めて会ったばかりのメイド達だからね。ただ、公爵家ともなると、可愛くて繊細なテクニックを持ったメイドさんがいるんだよ。
しかも、この子達はオレに対して好意MAXを隠さないものだから、あやうく、暴はっ……、あー まー いろいろと、ヤバかった。
でも、オレには「だいじ」が待っているからね。自制心、自制心。
風呂を上がったオレにはバスローブが着せられる。
最後にローブの前を合わせてくれたのはメイド長自らだった。
なぜかひざまずいて、ローブの前を合わせたベルは「お見事」と一礼した。
うわぁああああ
しょうがないじゃん、思春期なんだよ! あんなに可愛くて、絶妙なテクを持った子に、あれこれされて、寸前だったんだよ?
反応がすぐに収まるわけないじゃん!
なんて慌てる気持ちを押し殺すのも貴族の芸のうちさ。
「メリディアーニ様は、隣でお待ちです。礼法に則り、大役は私を始め、スコット家に古くから仕える信用できる者達ばかりを11名。カーマイン家よりショウ様の専属でいらっしゃるミィルさんにお手伝いいただき、作法通りとさせていただきます」
「あい、わかった」
??? たいやく? いったい何をするんだろ? 12名も?
「ご夕食は、お部屋にお持ちいたしますので、お好みのお時間にご所望ください」
「そうか。よろしく頼む」
「では、こちらへ」
天蓋付きのベッドのある部屋へとベルに先導された。
『え?』
ベッドには、一糸まとわぬ姿のメリッサがいた。
ゴクリとつばを飲み込んでしまうよ。
「それでは後ほど」
ベルが出ていくのを待ちきれずに飛びついちゃったよ。ほぼ、ヘンタイの図式だけど、いーんだよ、愛し合っているんだから。
「愛してるよ、メリッサ」
「お慕い申し上げております。ショウ様。生涯掛けて、変わらずに愛をお誓い申し上げます」
「オレもだよ、ずっと君を愛しているからね」
熱いキス。
相手は初心者だけど、オレにはちゃんと蓄積してきたモノがある。さすがに、そこまで緊張しなかった。
「ショウ様。愛してます」
「君はなんて素敵なんだ、メリッサ。愛してるよ」
睦言なんて古今東西、そうそう変わるものでもない。それに、考えるよりもハートに任せて言葉にしていけばいいんだから、難しいものでも無いさ。
普段は閉ざされるベッドを覆うカーテンが開け放たれて、午後の日差しで全てが見えているのも、思春期男子にはご褒美だ。
それに、この世界の女性は我慢強い。どれほど恥ずかしかろうと、どれほど痛かろうと、夫のすることを全て受け入れ、我慢できる女性が「良き妻」という評価だ。
オレは好きなように動いていいんだもんね。
メリッサもメロディーも「命がけで自分のために戦ってくれた、真の騎士」だと思ってくれてるから、愛情はリミットを突破してる。
そして二人は親が認めたことをしようとしている。
もうね、後は、思春期男子が欲望のままなんだよ。
よし、いくぞ!
と気合いを入れようとしたときだった。
静かに扉が開いたんだ。
「え?」
しずしずと、二列で入って来たのは白一色の魔法使いのローブみたいなものを着た女性達。
しかも先頭はミィルと、さっき下がったばかりのベルだ。
「ええええ!」
「さすがに、ちょっと恥ずかしいですね」
メリッサは、少しも驚いてない。
ちらっとミィルの顔を見たら、イタズラな目でウィンクして来やがった。
その瞬間、オレは全てが飲み込めたんだ。
『見届け人』
毛布一枚許されてないベッドで、素肌のメリッサを抱きしめるオレを二十四の瞳が見つめてるんだよ! これはさすがに……
呼吸の音すら控えるように、じーっと見つめているのはスコット家のメイドさん達とミィルだ。
『ミィルめ! 絶対、これを知ってて教えなかったよな』
通りで小銀貨が十二枚だったわけだよ! この人数だったってわけだ。
くそ~
ミィルを恨むのは筋違いかもしれないけど、ぜったいに後で恨み言の一つも言ってやる。
固く決心したオレだったけど、自分でも驚いたのは「目的」を完遂できたこと。いや~ 精神をゴリゴリ削られたよ。なにしろ、その際中に、細部まで覗き込まれて確認されちゃうんだよ?
もう、どういうプレイだよって、オレは言いたい、絶対言いたい、こんな仕来りを作ったヤツは、正座させて三十分は説教したい。
マジで、こんなの、二度とカンベン…… あ、明日もあるんだ。
ヤバい。絶対に、オレ目覚めちゃうよぉ。
あ、必要なのは「最初」と、そして印の付いたシーツだけなんだ。だから、見届け人達は、オレ達が夕食を取る間に「戦利品」と小銀貨をそれぞれが手にして、嬉しそうに下がって行ったんだ。
やっと二人きりになってから、改めて何度も美味しくいただきました。
・・・・・・・・・・・
あぁ、なんて素敵なお二人なんでしょう。
お見事です。
シュメルガー家のお嬢様は、なんと素晴らしい淑女でした。痛みに耐えながらも、その痛みを殿方に伝えないように頑張っていらっしゃった。
これなら、きっと誰もが感動するはずです。一部始終を、細大もらさずに書き留めて、早くお伝えしなくては。
それにしても、さすが英雄様でいらっしゃいます。
最初は「見届け人」の入室にお戸惑い遊ばされたご様子なのに、大きな動揺を見せること無く、あのお見事なものをお役立てくださいました。
これなら明日のお嬢様の番でも、首尾良く達成されるに違いないわ。
もう、本当に完璧です。
それに、メリディアーニ様も、とても気高いお振る舞いでございました。お仕えする私達から見ても、それは完璧な女主人の姿そのものです。
公爵家筆頭の令嬢だけはありますね。
明日は、お嬢様も負けずに、シュメルガー家の見届け人達にしっかりとしたお姿をお示しくださるでしょう。
ともかく、お二方のお印のついたシーツに全員の署名と血判を押して、ご報告書をお届けしないといけません。ぐずぐずしていたらスコット家の名折れになってしまいますからね。
こんなバカなコト、するわけ無いだろ! とお怒りになる読者様もいらっしゃるかと思いますが、なんと18世紀の後半(フランス革命の辺り)までは、高貴な方の初夜は立会人がいるのは普通でした。王が直接見守ったという話もあります。全年齢対応のため、かなり省きましたが、おそらく、現代人だと、よほど特殊な方以外は途中で無理になると思います。
なお、この世界のお作法と常識に則ってメリッサの時の立ち合いはスコット家が、メロディの時の立ち合いはシュメルガー家が担当します。男性側はある意味「添え物」扱いなので、ミィルが両方で立ち合いました。きっと、心の中で「若様、頑張れ、頑張れ、あと一押し!」みたいに全力で応援していたでしょう。もちろん、堂々と偉業を完遂したのですから、誇らしかったと思います。
ミィルが「お家に帰ったら、ショウ様の堂々としたお振る舞いをみんなに自慢しちゃおう!」って考えたのは当然です。だから、ショウ君が王都の家に帰ると、みんなから祝福されてしまいました。なお、バネッサちゃんもお祝いの品を持って駆けつけてくれました。そんな感じの出来事です。
なお、史実だと、マリー・アントワネットは第1子であるマリー・テレーズを出産した時に、フランス各地から集まった50人の貴族達に、陣痛から出産までを横にイスを並べた形で一晩中見守られていたそうです。当然、初夜も20人ほどの貴族達が見守っていたそうです。そもそも「王妃の出産」は、人々にとってはお祭りと同じ意味で「誰でも参加可能」って話もあったほど。
しかも、史実にある立会人は「社会的地位のある人」なので、基本的に《《男性》》です。
うわぁああああ 絶対、無理w