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第16話 ご褒美タイム…… だよね?

 新歓キャンプから緊急帰京したオレ達を待っていたのは一週間の臨時休暇だった。


 そりゃ学校行事がテロリストに狙われたら当然そうなる。


 そこにスコット家からの「ご招待状」が届いた。

 

 相手は公爵様。「パッと思いついて、遊びに行く」みたいなわけにはいかない。


 儀礼的な手紙を最低3回は往復してから訪問するのが礼儀(マナー)だ。しかし、ご招待状に(おとな)いの返事を出す前に公爵家家令のヘンリーさんがやって来た。


「命の恩人であるショウ君が、何の気遣いをする必要があろうか。娘もメリディアーニ様と一緒に君を待っている。一刻も早く、とのことにございます」

 

 家令によるお招きの形式は、同格か、格上の貴族に対してとるのが普通だよ。それなのにヘンリーさんが我が家まで来ていただいた以上、後で、と言うわけにはいかない。


 ちなみに、伯爵家である我が家の場合、なんでも取り仕切ってくれるのは「家宰」のへクストン。侯爵家以上になると仕事が増えすぎるので、家の中だけを担当する「家令」を置くことになっていて、それがヘンリーさんってことになる。

(家令も貴族家同士の外交に近いことまでが仕事のうち)


 公爵家紋章の入った最高級の馬車で30分。その間、しきりに「今日は非公式で」「お気楽に」「お嬢様のことを御心のままに」の三点セットが、笑顔とともに繰り返されたよ。


 到着した「外門」から敷地内だ。しかし邸の見える「内門」まで10分。バカバカしいほどの広さだ。


 あちこちに働いている人がいて、馬車が通ると、全員がこちらに深々と頭を下げる。


「普段、お館様は、仕事を続けるようにと仰っています」

「え?」

「ショウ様がお見えだと家中の者にはくれぐれも、とお館様から申しつけられております」


 ひぇえええ


 この待遇ヤバッ。マジでやばい。伯爵の息子に、なんてことをしてくれるんだよ。


 いくらオレでも、いや、高位貴族の最下級にいるオレだからわかる。


 公爵家が本気でもてなす賓客扱いをされる伯爵家の息子、なんてあるわけがないと。


 異例のご招待に緊張はマックスだ。


 内門を抜けると、騎士団が直立不動。どの人も儀典用の制服姿だ。


 そこに一際デカい男が一歩前に出て、こちらを向くと、右膝を突いて屈むのが見えたんだ。


「すみません、ヘンリーさん、停めてください!」

「かしこまりました」


 停止しきらないうちに、飛び降りる。


「おぉ」


 小さなどよめき。


「スコット家騎士団総長ムスフスであります!」


 声、デカっ


「オレンジ・ストラトス伯爵家 ショウ・ライアン=カーマインである。出迎え、重畳(ちょうじょう※)である」

 

 え~っと、いや、偉そうにしてるけどさ、伯爵家の息子が公爵家騎士団長よりも偉いのかっていわれたら、ちょー微妙なんだよ。っていうか、たぶん、向こうの方がぜんぜんエライ。


 ただ、右膝を突いての礼を取られてしまうと、こちらは「貴族」としての返答をするしか無いんだ。空気を読める男なんだよ、オレって!


「この度のご活躍、家中(かちゅう)の全騎士を代表いたしまして! どうぞ、名乗りのご裁可を賜りますよう」

「許す」


 パッとムスフスさんの右手があがった。


 居並ぶ騎士達の一番奥から一歩進み出た男が右膝をつけて跪くと「第一騎士団長、ベスレーエフ」と名乗った瞬間、そこから20人ほどが()()で剣を抜いて両手で目の前に捧げ持った。


 ジャキーン! って効果音を書き込みたくなる感じだ。


 そして、次の一団から進み出て跪くと「第二騎士団長 タックルダックル」と名乗って、またしても20人がジャキーン!


「第三騎士団長 ライスバーガ」 ジャキーン!

 

 ん? ちょっと美味そうな名前?


「第四騎士団長 ウンチョー」 ジャキーン!


 すげぇ、ヒゲ。ラーメン食べるとき邪魔にならないかな?


 え? 余計な感想はいらないって? 違うんだよ! 逃避してるの! 騎士員が揃って儀典用の正規の礼服を着て100人近く並んで、しかも騎士団長自ら跪いて名乗るわ、騎士に栄誉礼までされちゃってるんだよ!


 ビビるに決まってるじゃん!


「スコット家家中 騎士団員一同、閣下への感謝と尊敬を!」

「「「「「「ヤー」」」」」」 


 ビリビリビリビリビリ


 後ろの馬車の戸が揺れるほどの大声量。その時、オレは気が付いたんだ。


『あ! この形! これは儀礼上の栄誉礼ではないヤツだ』

 

 騎士達が顔の前に捧げ持った剣の持ち方が()()()()にしていた。


 ゴクリとつばを飲む。


 同じ栄誉礼でも、この形は特別なモノ。


 最大の敬意であるところは同じだけれど、この持ち方をした「栄誉礼」は、戦いで最も()()()()活躍をした仲間の騎士に対するものだ。


 ちょっと、っていうか、マジで嬉しい!


 前世で、親にも褒められたことのなかったオレが、こんな強そうな人達に「仲間」として褒めてもらえるなんて。


 オレは慌てて、答礼する。


 右の握りこぶしを左の肩へ。


 全員に、グルリと視線を合わせ終わると、ムスフスさんがデカい声で号令を掛ける。


「直れ!」


 ザッ!


 一斉に剣が納められての直立不動だ。


『この人達は、きっと、ホールでの戦いを認めてくれたんだ』


 嬉しかった。


 すくっと立ち上がったムスフスさんは、さっきとは一変した気さくな笑顔を浮かべて近づいてきた。


「勇者よ。よくぞお嬢様を救ってくださった。あなたに千の感謝と千の敬意を」


 リアルで「勇者よ」とか言われちゃった。照れるかと思ったけど、さっきの栄誉礼の影響なのか、思ったより普通に受け止めてるオレがいた。


 笑顔に促されて、邸の玄関に向かって並んで歩き出したんだ。騎士団員は微動だにせず、直立不動。


「様々な人に助けられましたから」

「さすが、お館様が気にしていらっしゃるお方だけはある。誰にもできない偉業でした」

「いえ、さすがにそれは大げさです」


 オレの歩幅に合わせてくれるところは気遣いの人だよなぁ。確かムスフスさんは、異民族初の公爵家騎士団員で、そこから上り詰めた苦労人だ。


 今、オレを見る目も、明らかに温かな気持ちが伝わってくる。


 こういう人に認めてもらえたのは、嬉しかった。


「それは謙遜というもの。状況は全て聞きました。昨夜、我々はそれを元に徹夜で話し合いましたが、ケガ人を一人も出さないことは不可能でした。控えめに言っても十人では済まない死者が出ます。それも、状況が始めからわかっていて、こちらも剣を持っているという設定でも、そうなります」

「いや~ たまたま上手く行ったというか」

「私が、その場にいたとしても、お嬢様を確実に助けられると言い切れません。騎士団総長として、心からの感謝をいたします。そして、もし将来、同じ戦場にいることがあれば、我が騎士団は、ショウ・ライアン=カーマイン閣下に全面協力することをお約束します」


 やべぇ~ 2メートル以上もある黒檀の肌を持った苦労人のイケメンだよ? 無茶苦茶強そうで、しかも優しそうな男に、そんな風に言われたら、感動しかないよね?


 オレは「異国での風習ですが」と言って右手を差し出した。


「お互いに敬意を払うという時に、剣の手を握り合うという儀式です」

「おぉ。なかなか、カッコイイ」


 ガッチリ握手を交わしてから、玄関で別れた。最後に、振り返ったら


 全員からガチの歓声が上がった。純粋体育会系の、実に男臭い歓声。


 ヤバい。


 男からの声がこんなに嬉しいモノなんだって初めて知ったよ。


 スッと、上等なハンカチが差し出された。


 ヘンリーさんだった。そっと涙を拭ったら、また歓声がデカくなった。


 これ以上、泣かせないでくれよw


「ありがとうございます。あの、これって」

「これはお館様のご命令ではございません」

「え?」

「お嬢様のお命を救った英雄に対して、騎士団は自発的にこれを決めたようです」


 話を聞いたら、騎士団の進発が王命によって停められたらしい。


 自分の命を捧げても守るべきスコット家の令嬢の危機がわかっているのに駆けつけられなかった悔しさ。そして、そのお嬢様を命がけで守り抜いた「少年」に、こうして気持ちを表したかったってことらしい。


 扉の前には二人が待ち構えていた。


「「お待ちしおりました、ショウ様」」

「やぁ。メロディー。お招きありがとう。そしてメリッサも、出迎えてくれて、ありがとう」

「ショウ様、本当は、うちの騎士団も同じことを考えていたみたいです。ほら、これ、団長のトヴェルクから渡されたんですって。お父さまが苦笑いなさってたわ」


 メリッサが手に持っていたのは騎士団からの「上申書」だ。


 騎士団長が、家長に対して、それこそ進退をかけるような決意で出す「お願い」のお手紙みたいなものだ。


「それは?」

「こういうのをやりたいから、ぜひ、我が家に招いてほしい、ですって」

「そのために、上申書を?」


 コクンと頷いたメリッサは「それだけの感動を与えたのですよ? 確かに奇跡ですからね? ショウ様。もうちょっとご自覚いただかないと困ります」と小さく頬を膨らませた。


 いやぁ~ あの事件の直後「もっとご自分をお大切になさってください!」って二人に泣かれちゃってさ。でも、オレからしたら、二人の安全の方が比較にならないわけで。


 で、お互いに「あなたこそが大切な」なんて言い合っちゃって、イチャイチャしてたら、学年主任のブラウザ先生に怒られたw


「とにかく、お入りください」


 二人に挟まれるようにして入ったんだ。


 え?


 リンデロン様と、横に立っていらっしゃるのはお母さんだろうか?


「初めまして。母親のハーモニアスよ。気軽に「ハーモニー」か、ううん、簡単に『お義母(かあ)さん』と呼んで頂戴。待っていたわ、小さな英雄様」

「初めまして。オレンジ・ストラトス伯爵家長男ショウ・ライアン=カーマインと申します。本日は、お招きに預かり光栄です」

「あらあら、ご丁寧に。でも、これからは、ここはあなたの家よ? もっと肩の力を抜いてね。それで、この子が2歳下のリズラテイラムよ」

「初めまして。英雄様」


 小さなカーテシー


 左手を後ろに回して、紳士の挨拶を返すと「リズムとお呼びください」と小首をかしげて、ニッコリされてしまった。


 わっ、メロディーと同じ黒髪だけど、こちらは、ちょっといたずらな感じが可愛い妖精系って感じかな…… って、まだ10歳か。


「うちにも、クリスっていう一つ下の妹がいます。友達になってくれると良いな」

「お友達にもなりたいですけど、お姉さんよりも、お名前で呼べる関係(いもうとちゃん)が良いです」


 ニコッ


 ん? 確かに、オレとメロディーが結婚すると、クリスは義姉になるけど、なぜ、名前で? この微妙な空気って、何かヘンだぞ?


「ショウ君。まあ、堅っ苦しく考えるな。あ、リズムは当分というか、もう、絶対に婚約者を探すつもりはないから安心してくれたまえ」


 リンデロン様が、トントンと肩を叩いてきた。人の良い父親を演じているけど、その目は冷徹に先読みしてる目のはず。


 なんでオレが安心するんだよ?


 チラッとメロディーを見たら、コクンと一つ頷かれてしまった。


「メロディー? あのぉ」

「ふふふ。私達、姉妹の仲も良いし、メリッサ様ともすっかり打ち解けられたわ。だから安心して? ずっと上手くやっていけると思うの」


 いや、確かに妹ちゃんは可愛いけど、2歳も下だよ?


「ほらほら、いくらなんでも気が早すぎるわ。そんな先のことは、もっと先に考えましょ? ショウ君。ほら、この子は次男よ。7つ離れているの。カルテット。ご挨拶を」

「はい。おにぃさま、ボクはカルティアステットっていいます。おねぇちゃんたちをよろしくおねがいします」


 ペコン。


 うん、可愛い。日本で言えば年長さん。良くできました。きっと教えられたとおりに言ったんだろうなぁ。ん? お姉ちゃん()を?


 チラッとメリッサに目を送ったら、なぜか笑顔が「大丈夫」って返してきた。


 ん~ なんか、家族全体で「あと、ひ、っと、り」と囃し立てられてる感じだよ。



 左目に縦線が入っちゃってるところにリンデロン様が肩をトン。


「ところでショウ君。既にお父上には話が通っていてね」

「はい」

「今日は泊まっていきなさい。メロディーも、メリディアーニ様も、積もる話があるだろう。ゆっくりと話せば良い。後のコトは全部、ベルに任せてあるから、不足があったら遠慮無く申し出てくれ」

 

 リンデロン様は嬉しそうに言った。


 横にいた、帽子付メイド服の女性が、膝を軽く曲げたメイド式のカーテシーで挨拶してくれた。


「よろしく。ベル」

「メイド長を拝命しております。よろしくお願いします。お名前をお伺いしても?」


 これは、当然、オレの名前を聞くわけが無い。後ろにいるミィルを横に呼んだ。


「彼女が専属のミィルと言います」

「それは、とても素敵だわ。ミィル。よろしく。ベルよ」


 いきなりのハグで、恰幅の良いメイド長に埋もれるミィル。


 やっと脱出してから、息を立て直した。


「公爵家のメイド長様にお目にかかれて光栄です」


 なんだか好意的に迎えてくれるみたいだし、メイド同士の挨拶用に「保湿クリーム」を多めに渡してあるから、上手くやるだろ。


 あ、もちろん、公爵家への手土産は別に持ってきてるんだよ? それはミィルの指示で別に運び込むはずだ。


「では、後はよろしく。それではショウ君。くれぐれもゆっくりしていってくれたまえ。今回の武勇伝は、今度ゆっくりと教えてもらうからな。それでは行ってくるよ、メロディー。メリディアーニ様、これにて失礼します」

「「行ってらっしゃいませ」」

 

 え? え? え?


 オレを招いたはずのリンデロン様は、家族を連れてサッサと出て行ってしまった。もちろん、大勢のメイド、侍従達が付き従っていったけど。


 あれ? そういえば「来訪の辞」もやってないじゃん。


 上級貴族を訪ねる時に、普通はしなくちゃいけない、アレコレと褒めまくる挨拶のことだ。普通、これは親戚でも訪ねてきたときでもない限り絶対に行う仕来りだ。


『これじゃあ、まるで、家族を紹介するためみたいだったなぁ』


「さ、ショウ様、ようやく静かになりました。こちらです」

「素敵なお部屋でしたよ。一緒に参りましょう」


 なんだかモヤモヤしながらも、オレは右手にメリッサ、左手にメロディーのいつもの形で階段を上って行ったんだ。



・・・・・・・・・・・



 いつかメロディーが言った通り、使用人は鈴を鳴らすまで絶対に入らないことになっているらしい。まあ、そうは言っても、絶対に「侍女の特権(盗み聞き)」はあるとは思うけどね。


 ともかく、ここで理性を飛ばしちゃってもOKってのは、さっきのリンデロン様の態度からも明らかだ。だって、使用人が入れないのに、家族が留守で、しかも泊まっていけ、だよ? 


 ありえない。


 ちなみに、ここに来る前に「こういう時、シーツはひけらかさないんですよぉ」とミィルからも教わってる。なんか、別のしきたりがあるらしいけど、それはその時に従えば良いらしい。


 ただ、事が終わった後に渡すようにと小銀貨(デナリウス)も十二枚入れた袋をふたつ持たされている。


 これが習慣なんだって。


 でも、メロディーだけじゃなくてメリッサもいるんだよ? 三人では、そんな雰囲気になるわけがなく、イチャイチャはあるけど、どっちかというと仲良しの友達とのお茶会って雰囲気だ。


 それであっても、今のオレには特別感が大きかった。


 だって ここは客間とか応接室じゃなくて、メロディーの「ベッドルーム」だよ?


 しかもベッドカバーがなぜか外されていて、枕まで見えちゃってる。


 そんなのを目にしちゃうと「普段、ここに寝てるんだ」って、ドキドキだ。


 だって、しかたないだろ!


 心って身体に引っ張られちゃうから、どうしても思春期の反応になっちゃうんだよ!


 といいつつ、小さなテーブルを囲んでいると、二人の優しい空気に包まれて、やっぱり嬉しい。


 ちなみに公爵家と言えども、ベッドルームは20畳よりちょっと広い程度だ。それ以上広いと使い勝手が悪くなるし、それ以下だと、何かあった時、入れる使用人の数が限られてしまうからね。


 あ~ 心拍数がどんどん上がってる。


 どこの国だって「女の子のベッドルーム」は特別な場所だ。たとえ親公認の恋人であっても、婚姻前で、お目付の侍女なして入れるのは、相当に異例なんだ。


 これでメリッサかメロディーのどちらかが席を外しちゃったら、心臓が喉から飛び出しちゃってるかも。


 二人とはすっかり仲良くなれたし、お互いに恋してるって思えてるから、お茶会自体には何の違和感もないのが救いって感じだね。


 ひとしきり、新歓キャンプの思い出話に花を咲かせた。


 オレが見てなかった、女子の「炊き出し」現場の様子を教えてくれて、仲良しになった子達の話を教えてくれた。さりげなく名前が出てくる「あの子は優秀です」って子は、たいてい騎士爵や平民の子、または男爵家の次女以降の子。


 ちゃ~んと、将来オレの所で雇える人材を見ていてくれるのは、オレに対する気遣いっていうか。さすが、将来のパートナーだよね。


 公爵家の教育のおかげで、二人とも見る目は確かだし。どんどん人材を獲得するよ!


 もちろん、そんなヤボな話ばかりじゃない。


 って言うよりも、メインは二人のドレス姿を褒めまくること。実際、無茶苦茶可愛かったしね。


 逆に二人はオレの英雄ぶりを頬を染めながら褒めてくれて、でもちょっとだけ涙を落としたのが可愛くて…… 


 まあ、要するに、いつものとおりにイチャイチャしたわけだ。


「ところで、王宮に招かれての褒章の儀の話なのですが」

「あぁ。それ、相談したかったんだ。パーティー付きだから、どっちに来てもらえば良いかな?」

「それなんですけれども、メロディーさんと話し合ったのですが、今回はバネッサ様をエスコートなさいますようにお願いします」

「え? いいの?」


 たぶんメリッサが一緒だと思ってたのに。オレとしては「お姉ちゃん」的なバネッサが横にいてくれるのは安心ではある。けれどもハレの場なのに「第一夫人」候補として、それでも良いんだろうか?


「ご説明いたしますね。まず、私達は公爵家令嬢、そして事件の関係者として確実に招待されます。普段のパーティーとは違いますので、シュメルガー家、スコット家として参加いたしますので、エスコートの問題もございません」

「うん。確かに、今回は社交はないもんね」


 事件の時にホールにいた子女は「家族」として招かれている。やっぱり家族への配慮が大きいのだろう。


「一方で、英雄ショウ・ライアン=カーマイン様は今回の主役です。やはりパートナーがいらっしゃる方が見栄えが良いのと」

「良いのと?」

「バネッサ様のお立場が側妃ということになりますので、正式な結婚式がおできになれません。だから、お披露目の場として最高の場を差し上げられるかと考えました」

 

 メリッサの説明は明解だった。


 そして、バネッサとオレとの「幼馴染み」の特別を認めてくれていて、大切にしてくれようとしているんだって思えた。


「メリッサ」

「はい」

「メロディー」

「はい」

「ボクは、君たちと恋人になれて、本当に幸せだよ」

「「ショウ様」」


 立ち上がって、二人をまるごと抱きしめる。


 優しい恋人で、本当に良かった。そして、これからも、この子達がオレのことを考えてくれるんだと心から思えたんだ。


「「さて、ショウ様」」

「ん?」


 二人が、頬を染めて、何事かを言おうとしてる。


「えっと、なにか?」


 メリッサが、メロディーをチラッと見てから「褒章の儀の件は私達も我慢したということは、ご理解いただけますよね?」と上目遣い。


「もちろんだよ。だからこそ、感動しているんだから!」

「「それでは、ご褒美を頂戴してもよろしいでしょうか?」」

 

 まさか練習してないよね、ってくらいの綺麗なハーモニー。 


「なんでも言ってよ。全力で頑張るから」

「まぁ、全力だなんて」


 いきなりメロディーが顔を覆ってしまった。指の端から覗いた顔が真っ赤だ。


 え?


「ショウ様。そのお言葉、とても嬉しゅうございますわ」


 ニッコリとしたメリッサの顔まで真っ赤だよ。


「バネッサ様のアップル領では「処女の勲章(シーツのシミ)」で、民草が華やいでいるとのお噂をうかがっておりますわ」


 オレは、その時点で、両手を前に出して言葉を停めさせたんだ。


「マジ?」


 二人の優しい人は、とても恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに頷いたんだ。





 


重畳ちょうじょう……元の意味は「きわめて満足なこと」で、貴族がよその家臣などにもてなされて満足なときに使う、褒め言葉の慣用表現になっています。


おー ショウ君、いきなりの3ぴっ× 笑笑

となるわけがなく。でも、普通のご褒美タイムではなくて、仰天展開が待ってます。

ホントは、それを書きたかったのに、騎士団員が、どーしても出演させろって聞いてくれなかったんですよぉ。


寝室での様子が続きます! 


蛇足。今回出てきた騎士団の人はあくまでも各隊の代表です。



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― 新着の感想 ―
新川さとし殿、此処まで詳しく貴族の習慣・各付け等を書いた話を読んだ事有りませんでした。 感服。
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