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第25話 ロマオ領訪問


 ロースター侯爵の城館は大手門が開け放たれた上に、アプローチ道路から徹底して美しい花々が飾り立てられていた。


 これだけ飾るなら、この付近の住民が総出になる必要があったはず。


 そんな華やかな道を通るオレが連れているのはいつもの迦楼羅隊の200名(まだケガの治療中で回復待ちの人がいるので、ホントはもっと少ないけど)。


 ちゃんと隊服、マント付きだから、立派には見えているはず。


 一方、迎える側のロースター侯爵が出してきた儀仗兵は千人を超える規模となった。ただし礼装のみで兜も鎧もナシ。誰ひとり帯剣すらしてないのは「敵意なし」を伝えてくる、こちらへの気遣いに見えた。


 あっちこちで花びらまで撒かれて、徹底した歓迎ムードを演出していた。


 そもそも、ロマオ領に入るところからして演出は始まっているんだ。


 領境まで出迎えに来た儀仗兵は、終始、先触れをするように行進してきたし、時折見かける領民達は、遠くからでも深々とお辞儀をしてみせた。


 そして、ロマオ領都・ハイに入って、いざ城門の前までくると見事なフォーメーションで道の左右に別れたところも計画的。


 ザッと音を立てんばかりに「歓迎」の敬礼をして見せたんだ。


『あれ? この敬礼ってウチのやり方じゃん』


 右手を胸に付ける「ゴールズ」方式の敬礼だ。ピタリと決まった姿は徹底した練習を感じさせてくる。


『これを、ここでやるのかよ!』


 内心仰天してしまった。


 確かに、敬礼の仕方なんて秘密でもなんでも無いので、知っているのは不思議では無い。だけど、ついこの間まで敵国だった相手の敬礼を兵士に練習させていたわけだろ? 


 そう言うのは普通ありえない。


 これをさせているロースター侯爵がすごいんだよ。


 何がすごいのかって?

 

 軍隊にとって「敬礼」って、本当に基本中の基本なんだ。なんだったら、()の使い方よりも徹底して叩きこまれる行動だ。あ、こっちの世界だと某侯爵家以外で箸は出て来ないから「ナイフとフォークの使い方」かな?


 ともかく、基本中の基本である動作を仲間達と共有しているってことは、自分達の忠誠心を行動に出しているようなモノなんだ。


 前世でも、あれだけ自由を愛するフランスの、それも外人部隊ですら「敬礼」は、最も大事な基本動作として徹底されているほどだ。


 その「敬礼」を、降伏したばかりの相手に合わせるなんて、ちょっとでも軍を知る者からしたらありえないほどの屈辱だというのはわかりきったことだ。


 それなのに、これだけ徹底して「揃った敬礼」ができると言うことは、兵の一人ひとりに至るまで、当主に対する鉄の忠誠心を持っていると言うこと。


 逆を言えば、強烈な忠誠心を捧げられるだけの器量を持った当主というわけだ。


『ロースター侯爵って、ホントに油断ならない人物だってことだな』


 優秀な人材なのは分かっているけど、そういう人は相手次第で対応を変えるものだというのが世の常。


『こっちも値踏みするけど、あっちもオレのことを見ているはずだ』


 城門まで徒歩の出迎えは、ロースター侯爵自ら家族を連れてだった。


 後ろには、恐らく主だった家臣だろう。十数人が、少し間を開けて控えていた。


 全員が頭を深々と下げて「臣下のポーズ」で迎えだ。


「出迎えご苦労」


 偉そうだけど、立場上、オレから声をかけるしかないし、声をかける相手が「降伏してきた侯爵」に対する言葉になるので仕方ない。


「面を上げよ。陛下は一同に直答をお許しなさる」


 ノインが横で声をかけると、やっと顔を上げた。


 短髪のロマンスグレーは、ノーマン様を彷彿させるような切れ者イケオヤジと言った風情だ。


「輝ける皇国の若き英雄であらせられる皇帝陛下に、ご来臨いただけること、まことに光栄至極に存じます。私めはロースター・ロランにございます」


 こういう時に家門名の「ロマオ」を名乗らないのは国王級に対するマナー通り。

 

「こたびの領民救済に当たった侯爵のお働きには心から満足している。今日は世話になる」

「ありがたきお言葉をちょうだいし、心より感謝申し上げます」

「そちらは、ご家族か?」


 家族を紹介して良いよ、って水を向けるのは作法だよ。


「はい。是非とも、ご紹介させていただく誉れの時をいただきたく存じます」

「許す。ご家族と親身な話もしたいものだ」

「ありがたき幸せ。こちらは妻のマリアと嫡男となるジョースターでございます」


 カーテシーとキリリとしたサスティナブルの貴族式礼を見せるあたり、徹底してる。


 ジョースター君は年の頃は20代の真ん中だろう。母親譲りの青髪を短髪にしているのが凜々しい。


 こちらも小さく肯いておく。正式な言葉のやりとりは長くなるので、入室してからになるから、ここは淡々と紹介だけ聞くのが礼儀なんだよ。


「一番上の姉のショウコ、下の姉のキャオ、そして娘のシャオでございます」


 三人がニコッっとカーテシーをしてみせてきた。シャオちゃんは、心なしか頬が赤い。十分に言い含められているのが丸わかりだよ。

 

 そして、気の強そうなショウコちゃんも、キャオちゃんも、決意を顔に浮かべていたから、恐らく「それなりに覚悟せよ」は言われているんだろう。


 婚約者がいるらしいけど、占領国の皇帝に指名されちゃったら、側妃だろうが側室だろうが喜んで受け入れなきゃいけないんだからね。


 なまじ、二人の姉も美女だけに、そのあたりは心配しているんだろうなぁ。


 本来なら侯爵としても、上の二人なんて見せたくないところだろう。けれども、後で「姉もいたのに、なぜ迎えなかった」と難癖を付けられる事態は防がなきゃならない。もちろん、後から「こっちが良かった」だとか「こっちもよこせ」と言われたら最悪だ。


 姉達は「当主の命令で」婚約者と涙の別れとなる。


 このあたりは貴族の辛いところだよね。


 娘の意志よりも政略が優先されるんだから。 


 けれども侯爵はさりげなく、しかしあざとく「末娘押し」をしてきた。このあたりは、ヤリ手と言うよりも図々しさすら感じるよ。


 だって、上の二人はシャオちゃんを起点にしているから「姉」と呼び、シャオちゃんだけ「娘」って呼んだのだから。


 言外に「シャオを選んでくださいね」というお願いだ。


 ここでの対応の仕方一つで、後々のロースター侯爵の叛意、或いは忠誠心につながるから、最初の一言がとっても大事なのは想定済み。


 実はこの「一言」をベイクと何時間も協議してきたほどだ。


 そして、一晩がかりで決めたセリフを、ふと思いついてゼックスを呼び出して聞いてみたんだ。


 なんか呆れた顔をして「親分、女の子を口説くんですよね? 国を滅ぼすための説得でもするおつもりですかい?」と、ため息までつかれてしまった。


 う~ん。オンナの子向けのセリフをベイクと考えたのは、根本的に間違いだったかも。相談する相手を間違えた?


 と言うわけで、ゼックスの意見を取り入れて、道々決めてきたセリフをオレは笑顔でシャオちゃんに向けたんだ。


「ロースター侯爵のご息女は、皆お綺麗だと聞いていたが想像以上であったな。中でも、将来、もっともっと綺麗になりそうなシャオ殿は私と年も近いようだ。ぜひとも滞在中は、そなたにご案内いただこうか」

「恐れ多うございますが、万民の喜びに代えて大役を務めさせて頂きます」


 頭を下げたまま、シャオちゃんが緊張しながらも美しい声で答えてくれた。


 考えに考え抜いた言葉は「姉達の美貌を褒めつつも、シャオちゃんを一番だと誉めて、なおかつ、この子だけを欲するということが分かるように」と選び抜いものだ。


 オレの努力は身を結んだらしい。


 明らかにロースター侯爵一家は、ホッとした空気だよ。


 ま、ここで「こちらのご家族は、みんな綺麗だなぁ、()()で徹底的に案内してもらうか、ぐへへへって」って感じて悪役として振る舞ったら、侯爵としては断れないんだもん。


 もちろん、そんなことをしたら、いつか「ざまぁ」を食らっちゃうに決まっているもんね。やらないよ。


 それに、そもそもNTRは禁止だよ!


 ってことで、いささか異例だけど、シャオちゃんを目顔で呼び寄せた。


 以心伝心。


 素直にエスコートポジションに着いてくれるのは、躾の良さと頭の良さの両方を感じさせてくれる。

 

 これは良い感じだ。いくら美少女でも中身の無い美少女なんて、いらないもんね。

 

 連れ帰る必要のある美少女であるなら、しっかりした女性であることがオレにとっては重要だからさ。

 

「では、ロースター殿、ご自慢の城を案内いただこう」


 父の代わりに、シャオちゃんが「ハイ」と小さく答えた。

 

「ふつつかではございますが、精一杯務めさせて頂きます」

 

 そんな風に顔を赤くして腕を預けてくるシャオちゃんをエスコートしつつ、城へと入るオレ達。


 もちろん、無警戒でいるのはシャオちゃんの色気で惑わされたわけではない。


 アテナが淡々と横を歩いてるのを、侯爵がどう思っているのかは、いつか聞いてみたいと思ったよ。

 




 完全アウェイの場所に入っていくハズなのに、戦闘状態ではないというバランスの悪さがショウ君の反応を鈍らせています。一方で、ロースター侯爵は一切の叛意を見せずに恭順の姿勢です。そのあたりの心をアテナが感じ取っているため、平常運転で横にいます。


いつも誤字訂正へのご協力をありがとうございます

「目顔」という言葉がありますが、これは「目で見せる表情」という意味の言葉として使用しています。

(三省堂国語辞典より「〔気持ちをつたえるための〕目と顔の表情。」)


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