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第2話 入学式の後で

本作品はカクヨム様にて先行公開中です。


 入学式は、生徒だけ。


 これがサスティナブル王立学園の伝統らしい。


 卒業式は、親も含めて家族総出で迎えるけれども、入学の門をくぐった瞬間から「一人で頑張る気概を持て」という意味から来るんだとか。


 しかも、校長の簡単な挨拶がすむと、担任を紹介されてお終い。30分も掛からなかった。


 一人で頑張るとか言われてるワリに、高位貴族はメイドを連れてくるのが許されてるんだよね~


 ちなみに、男子が100人以上暮らす巨大な金獅子寮の最上階は高位貴族専用だ。高位貴族最底辺のオレも、3階暮らし。マジで肩身が狭いw


 ただ、部屋はすごいよ。


 三畳ほどのメイド用続き部屋まである。主人に見せられないような掃除道具やお世話用の道具がギュウギュウ詰めでストックされているんだ。


 だから、実質は四畳半一部屋。トイレとシャワー付きになってるのは、さすが、この世界の特権階級だけはある。


 前世の記憶からすると、身の回りを全部ミィル任せにしてる贅沢さで自分がダメになってしまいそうだって思うんだけどね。


 でも、普通の高位貴族だと、勉強もする机で御茶を飲む生活って「テント暮らし」だとか「駅のベンチに寝泊まりしてる」って感じるらしい。


 ストレスが溜まるんだろなぁ。

 

 お昼を食べた後、三人でお散歩。オレが部屋にいたらミィルが部屋を片付けられないからね。しっかり、家を空けるのも主の務めさ。


 メリッサがコンディショナーの効果でフワフワの髪を嬉しそうにイジりながら、小さな声で誘ってきた。


「今宵は、わたくしの部屋で明日のお勉強はいかがでしょうか?」


 反射的にメロディーの顔を見たら微笑んでいる。どうやら話が付いているらしい。


 この辺り、さすが公爵家の教育なんだよね。


 男が複数との交際をしていても、それが「公認された相手」である限り、ヤキモチを妬くのはダメっていうのが倫理になってるんだ。


 もちろん、順番争い的な部分を男に見せるのもダメ。


 古い価値観だけど「家の中のこと(おんなのたたかい)で主を煩わせるな」ってことらしい。だから、メリッサとメロディーは、お互いに話し合って分担を決めているみたいだ。


 今回はメロディが譲る約束をしたんだろうか?


「今宵は、私も招かれておりますので」


 ニッコリ。


「あ、そうなんだ。じゃ、三人で勉強だね」

「はい」


 二人に誘われるまま、春の日差しの降り注ぐベンチに座った。右にメリッサ、左にメロディが定番化してる。


 おそらく、これも決めてるんだろうな。


 座るやいなや、それぞれが可愛らしい文箱を出してきた。


「ショウ様。誤解を招かないように、私達に届いた男の子からの手紙は全てお見せしますね。ご自由になさってください」

「メリッサ、それは?」


 メリッサの代わりに、メロディーが答えてくれた。


「今晩、一緒に勉強しよう、というお誘いの手紙だそうです。ちなみに、全部男の子ですから、私達は聞きませんでしたが…… それにしても私がショウ様とお付き合いしていることは公言していますのに。本当に真心のない人達です」


 大人しい美少女がムスッとした顔だ。


「私も、儀礼上、開封はやらせていますが、中は聞いておりません、耳が腐りますので」


 メリッサちゃんって、わりと毒舌系? 毒舌系エロフって、ありがちなキャラじゃないかな?


 おっと、まじめな話、お付き合いしている人がいる女性は、別の男性からの手紙を受け取ると、すべて侍従に読み上げさせる形を取るんだよ。侍従の目の前でもできる公明正大なやりとりしかしていませんってこと。


 それが付き合っている男性に対する誠意ある習慣ってことらしい。


 でも、今回は、ふたりとも「聞いてない」っていってるわけだ。これは「読んでない」っていうのとまったく同じ意味になる。


「これをどうすれば良いの?」


 にっこり笑ったメロディーが「ショウ様が、よしなにお使いください」とキッパリ。


「えっと、オレが好きにしろって。読んじゃってもいいわけ? ラブレターかもしれないのに?」

「親に公認された恋人がいる淑女に、そんなモノを送る方が悪いのですわ。教室で大声で読み上げていただいてもよろしくてよ?」


 メリッサも、ウンウンと、全面同意の顔で頷いている。えー そんなことされたらトラウマらない? 立ちなおれないよw


「一度、恥をかかされれば、二度と私達に近づいてこないでしょうから。そうですね…… さすがに王子殿下のふみが混じっていたら、読み上げるのだけは避けて差し上げた方がよろしいでしょう。教室の後ろ側に貼る程度で」


 メロディー、何、それキチクだよ? 


「でも、そんなことをしたら……」


 爽やかな笑顔を見せながらメロディーは付け足してきた。


「私達は、ご当主様に公認された恋人ですので、お手紙を送りつけたことが公表されると先方がお困りになるだけかと。真心の籠もってないことをすると恥をかくということを、実施教育をして差し上げるのも、よろしいと存じますわ」


 さすが、スコット家の娘。


 真心の籠もってないと非難しつつ、キチクなやり方をサラッと笑顔で正当化したよ!


「私達は、それぞれご当主様より公認された恋人です。アテナ様の件があるので、婚約をしておりませんが、その程度のことをわきまえられぬ者が貴族であるなどと言うのはおこがましいことですわ」


 メリッサがいうのはスコット家の話だ。


 メリッサもメロディーも「ぜひとも、私をもらってください」と道ばたの段ボールに入れられた子猫みたいな目をして頼んできたから、別にすぐに婚約でも良かったんだよ。(父上は、半死半生だったけどw)


 少なくともシュメルガー家当主のノーマン様も、スコット家のリンデロン様も「すぐにでも婚約を」と仰っていた。


 ところが、ガーネット家の問題があったんだ。


 例の決闘の結果を知っているノーマン様も、リンデロン様も「三公爵家同時の婚約式」を行うという意向で決着させようとしたんだ。


 でも、ガーネット家のエルメス様が「娘は既に差し上げている」の一点張りらしい。


 三公爵家は形式上同格な上に、エルメス様の頑固ぶりはいつものこととなって、両家は説得に手を焼いたんだ。


 もう少し時間をかけて調整するにしても、今すぐ婚約ってことにすると、何事も形式を大事にする貴族同士の問題が禍根を残す可能性があるんで、回りくどいけど「当主公認の恋人」という変則的な形をとってるんだ。

 

 婚約することは決まっているんだから「恋人だけど本来的には婚約者と同じ」っていうのがメリッサとメロディーの主張。


 公爵家令嬢が、非公式にでもポツリと漏らせば、普通はそれが徹底されるんだよ。ところが「婚約するまでは、誰と恋をしても自由だ」と触れて回ってるヤツがいるからややこしい。


 バカ(王子)だけど、《《権威》》だけはあるんだよね。


 だから、取り巻き連中も含めて「ワン・チャン」あるかもってことで、上級生を含めて煩わしいことになっている。もちろん、学園は「生徒達の自治」ということで知らぬフリなんだろう。


「とにかく、私達に送った手紙は、すべて「婚約者に渡します」って宣言をしております。である以上、ショウ様がこの手紙をお持ちくださるのは当然の権利です」


 おしとやかで、大人しそうな笑みを浮かべるメロディーの「宣言」がどう行われているのかは謎だ。


 聞いちゃったらヤバい気がするんだけど、オレは、これをどうすればいいんだろう?


「ん? メロディー? 何か言いたい?」

「僭越ながら申し上げます。もしも、扱いにお困りでしたら、そういう時は家臣に相談されると良いかと。家中の者同士、色々と情報交換もしておりますでしょうから」


 ピーンときた。


 要するに、リンデロン様がメイドを通してミィルに何かアドバイスをしてくれてるんだ。


 すげぇ~ 入学式が終わった直後だというのに、スコット家の権謀術数に触れちゃうんだよw


 とは言え、渡された文箱の扱いは置くとして、オレの胸は躍ってたんだ。


 前世ではやったことがなかったけど「女の子と一緒に試験勉強」ってシチュ。


 生まれて初めて味わえる!


 しかも、二人とも思いっきり、あれが、あれなのに! えぇい! 煩悩よ去れ

 理性、仕事しろ!


 と思った時期がありましたよ……


 明日の試験に備えて、マジで勉強しました。もちろん、可愛い二人に、せまーいお部屋で密着しながら、チヤホヤされての勉強は最高だったよ? 


 普通は、たとえ婚約者でも、男性を部屋に入れる時は側仕えがマン・ツー・マンディフェンスをするんだ。でも、なぜか、三人だけで過ごせた。


 呼ばない限り、専属メイドは、三畳のお部屋に入ったままなのは、ご当主の命令なんだって。


 えっと、それって……


「はい。絶対に出てまいりませんので」

 

 メリッサは、ニッコリ。


「万が一、邪魔してしまうと、メイドだけのお話じゃなくなるらしいです」


 メロディーは、控えめにポソッ。


「「翌日が休日の時、またご一緒に勉強してくださいますか?」」


 よ、よろこんでー!


 その時って、オレの理性は仕事をしなくて良いんだよね? とは聞かなかった。

 

 ただ、今回は、アチーブメントテストだ。

 

 マジで勉強しました。疲れた~ 夕食を挟んで8時間。ミッチリ勉強でした。


 だって、明日の「アチーブメントテスト」は、すっごく大事なんだ。


 実は、王立学園へ入学する貴族の子弟に「入試」はない。希望すれば貴族籍の確認だけで入学が許可される。


 けれども、それは「バカでもOK」ということではないんだ。


 入学後に何度も課される「アチーブメントテスト」で落第点を取れば、追試を1回だけ受けられて、それでダメなら即座に退学となる。再入学はありだけど、その場合は非常に高額な再入学金を払わされることになる。第一、非常に恥ずかしい。


 さすがに高位貴族になると、子どもの頃から家庭教師が付いているためなんとかなるが、男爵以下の子弟の中には、毎年、退学者が出る感じだ。


 なお、庶民は「優秀」な者しか入れないため、比較的上位の方に名を連ねるのが普通のこと。


 しかも、試験だけじゃない。


 授業の評価や態度が悪ければ、忖度なく悪い評価がつくのも有名で、それを保証するため、名誉校長は御三家と、五侯爵家の当主が交代で務めることになっている。(学園に在籍する子弟がいないことが条件)


 今年はカルビン公爵家が名誉校長なので厳しくなるって、もっぱらの噂になるほど。


 王立学園の価値は「卒業すること」なのだ。


 一番難しいとされる数学は、年齢相応だからいいとして、この世界の歴史は、まだまだ「オタ」を名乗れるほどじゃ無い分、マジで勉強したんだよ。


 試験の結果は、明日発表されるらしい。


 え? マジ? 先生方、採点で徹夜してない? 


 騎士団出身者が多いから、体力には自信があるって?


 やっぱ教師ってブラックなんだなぁ。


 金獅子寮も、女子の銀獅子寮も普通は「三人部屋」だし、お風呂もトイレも共同です。格差社会なので、公爵、侯爵クラスは何人メイドを連れてきてもOK。でも、メイド用の部屋は3畳一部屋だよっていうのがルールです。

 今回は「ブラック・メロディー」ちゃんが片鱗を見せてくれました。真心を見せない相手には、どんな策略を用いてもOKが、スコット家の家風なんでしょうかね。

 高位貴族は、少女であっても、甘いことをいっていられないと教育されています。

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― 新着の感想 ―
>要するに、エルメス様がメイドを通してミィルに何かアドバイスをしてくれてるんだ >すげぇ~ 入学式が終わった直後だというのに、スコット家の権謀術数に触れちゃうんだよw スコット家の権謀術数という事はエ…
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