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第48話 チャガンのやり方

作者より

後半に、かなり直接的で刺激の強い描写がございます。妊娠中の方、小さなお子さんを育て中の方、グロ耐性のない方は、今回を飛ばしてください。

一応、本文中にも警告は入れてあります。

北方遊牧民族は、襲撃される側に対してとても残虐だよってことをご理解いただくための胸糞の悪い回です。ごめんなさい。

 小さいときからアルクイは双子の弟バルクイが苦手だ。


「お前は何でもオレより一枚上だよなぁ」

「何を言ってるんだよ。アルがいるから自由に動けるんじゃん」


 略奪行でも、隣村の女の子をナンパする(さらってくる)のも、草原の鹿を狙う時も、いつだってバルクイは先に動く。アルクイが「こうすると最高に上手くいく」と考えがまとまったときには、たいてい、バルクイは獲物目がけて一直線に動いているのだ。


 そのくせ、捕らえた獲物は「平等」に分かち合う。苦手意識はあっても、平等さという点では、何の構えるところがなかった。


「オレ達は一心同体だ。アルが考えてくれるってわかってるから、安心して自由にやらせてもらうんだ。当然のことよ」


 子どもの頃から、こんな会話を何回してきたか。しかも、この二人の仲はすこぶる付きで良い。


 チャガン族には「鞍を分かち合う」という言い回しがある。「刎頸ふんけいの交わり」とでも言おうか。互いに信頼し合い、死すらも互いのために厭わない関係性で結ばれた友を指す言葉だ。


 二人は双子と言うこともあって、文字通り鞍を分かち合って育ってきている。


 バルクイが奪ってきたものはアルクイのものであり。アルクイが手に入れたものはバルクイのモノである。「何でも分かち合う」のは、二人にとって自然だった。


 二人の間は女奴隷すら共有している。既に何人も子どもを産んだが、どっちの子どもか本人もまったく気にしてないのだ。

 

 アルはバルを苦手としている。だが、バルの持つ天性のカンを誰よりも信頼しているのはアルだ。

 バルはアルの理屈っぽさから時に逃げる。だが、思うままに動いても、それをちゃんと計算して役立ててくれるのはアルだと信じているのはバルなのだ。


 兄と言うこともあってアルクイが次期頭目とされているが、部族の中ではむしろ弟のバルを推す声が多いのが実際だ。


 現実に獲物を手に入れるのはバルに従うのが一番だからだ。


 しかし、アルが頭目になることを、一番に推しているのはバルなのである。


 実は遊牧民族では、この二人のような兄弟は珍しい。むしろ、年の近い兄弟ほど、血で血を洗うようなもめ事が起きるのが普通だ。


 しかしアル・バル兄弟においては完全に不要な心配となっていたのである。


「じゃあ、次の街まで競争しようぜ」

「バルに勝てるとは思えないんだが」


 そう言った瞬間に、既に走り出している。大草原を自由奔放に馬を駆けさせたいと思うのは、民族特有の本能のようなモノなのだろう。


 二人はそっくりな顔をしている。鼻筋が通り、意志の強さを示すかのように鋭い眼光、引き締まったアゴ、意外と上品に整っている唇。


 男としてならゴツさは不足しているが、その分、見た目は良い。流行の服でも着こなせば、王都でも女たちが放っておかないだろう。


 いわば「雰囲気を持った男」であった。


 その二人が、今は少年のような笑顔を浮かべ、時に叫び声を上げながら、楽しそうに疾駆している。二人の後を2000の騎馬が怒濤の勢いで追走している。


 それは、この世のものとは思えないほどに人を食った「絵」であった。


 この民族の騎馬特有のカマ付き槍を肩に掛けたまま、草原を走り抜ける馬場の姿は絵に描くほどの美しさで宙を駆け抜けるような姿だ。


「お? 家が見えるぜ」

「どうせ、また空だろ」


 略奪行の話は、相当なスピードで伝わっているらしい。


 小領地の貴族家あたりは、みんな家を捨てて大きな街に籠もってしまったらしい。昨日から見かける邸はみんな空っぽだった。


 今日も既に3つ見つけて、3つとも空っぽだった。


 そういう家も、よく探せば何か見つかるのかもしれないが、誇り高いチャガンが盗人のようなマネなどできるわけがない。堂々と略奪せねば気が済まなかった。


 よって、サラッと通過してきたわけだ。今度もそうなるのだろうと思ったら、アルクイがサッとハンドサインを出した。


 一同はスピードを緩めると同時に半包囲の体勢だ。


「いるのか?」

 

 バルクイが目でそう尋ねた。


「あぁ。ほれ、見ろ、屋根の雪を」


 指さした先を見る。屋根に雪が積もっている?


「さっきの家よりも少ないと思わないか?」

「ん? だいぶ南にきたからか?」

「さっき見つけた家と半日だぞ。気候など大してかわらん。違う。さっきはだいぶ前に人がいなくなったから降り積もった雪が厚かった。だが、見ろよ、この家」

「ほう?」

「窓も、凍りついてないところがいくつもあるぞ」


 この地域特有の「板窓」だが、雪がこびりつき凍るはずが、いくつもの窓が開け閉めできそうに見える。


「いる、な」


 ニヤリとバルクイが言った。


「じゃ、ヤるか? オレは10人」

 

 アルクイが左の口角を上げた。


「オレは7人だ。あ、こないだみたいに婆さんを含めるのは無しだぜ?」

「いや、当然、入れるだろ」

「わかった、わかった、だとしたらオレも10人にするから勝負にならないぜ」


 バルクイのカンは年寄りがいると告げている。


「じゃあ、今回は赤子もありにするか。12人ってところだ」

「よし、ならオレは11人だ」


 バルクイは、その賭けに乗った。



(作者より警告します:この先に残虐描写があります)



 サッと手を挙げると、若手がスレスレの位置まで突撃して板窓への投擲を行った。


 10キロ以上もある石だ。一撃で板窓が吹き飛んだ。


 四方から次々と板窓を吹き飛ばすと、中で人影がチラッ。


 ぴぃー ぴゅう~ ぴー


 指笛を鳴らした瞬間、吹き飛んだ板窓から、剣を抜き放った男達が家の中に突入していったのである。 


 それから5分と経たないうちに、家の中にいた人間は、全て物言わぬ姿となって庭に引き出されてきた。


 今は女を補充するよりも、先を急ぐ。だから、全部殺して構わないというのが徹底されている。しかも遊牧民族の常として、略奪した家に泊まるつもりもないのだから、本来は中に死体があったままでも全く構わない。

 

 外に死体を男女別に並べたのは純粋に「数えたかったから」に過ぎなかった。


「オレの勝ちだったな」


 女の数は12人だった。


 アルクイがニヤッとした、


「チクショウ、ウチみてぇに双子がいたとはな。ツいてねーぜ」


 赤子は確かめるためにだけ、裸に剥かれていた。既に生命の反応は無い。


 双子だった「それ」をカマ付き槍でツイッと引っ掛けて拾うと、遠心力で投げ飛ばしたのは腹いせのようなもの。


「さて、年寄りが多かったが合わせて30人も籠もっていやがったんだ。それなりに食料もため込んであるんだろ、全部いただいていくぞ」


 そう言い捨てて、二人は再び馬上姿となる。


「じゃ、ゲル(テント)に戻ったら、オレはスズを選ぶぜ」

「わかった。じゃ、オレはそれ以外で考える」


 女奴隷達のウチ誰を選んでも別に良いのだが、こうして「賭け」そのものを楽しむ二人だ。


 ゲラゲラと笑い合うその顔は、あどけなさすら感じさせている。


 バルクイは、さっき投げ捨てた「それ」を跨ぎながら、全く興味を失っていたのである。


 チャガンの馬列は、至る所で外道を繰り返しつつ、ただ南へと向かっていた。

 

いや~ 書いている側が胸クソでして。本作中、北方遊牧民族が敵に対して発揮されるとてつもない残虐性のごく一部を書かせていただきました。

彼らも、自分の子どもたちに対しては、とっても可愛がる「父親」の一面を持っています。

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