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第55話 王都に流行るは正義なり

 中盤の『歌』がウザイ場合は、サクッと飛ばしていただいてもストーリー上の問題はありません。それではお楽しみください。

 王宮までの移動を騎馬に変えた。迦楼羅隊の4中隊が、代わりばんこで付き添うんだけど、みんなが嬉しそうに囲んでくれてる。


 特にゼックスなんて「これで顔を売っておくと、後でなびいてくれる女の数が違ってくるんすよ」と得意顔。だけど、休みの日ですら律儀に隊舎へと帰ってくる彼には女の影が見当たらない。


 けっこう、本人もイケメンだし、それなりにモテる話も聞く。


 実に謎だ。


 とはいえ、個人はともかく、ゴールズがせっかく王都内を馬で動くんだ。往復の「通勤」だけに使ったらもったいないって思ったから、軍楽隊を付けて「行進」を見せつけることにした。


 これがまたウケた。娯楽が少ないせいなのか、毎朝夕、これを見るために道ばたで待っている子どもたちやご婦人方が多数現れたんだ。


 オレ達が音楽に合わせて行進する姿を見ると、歓声を上げて手を振ってくれる。もちろん、手を振り返すのは半ば義務。横にいるアテナ以外は、全員が手を振り返すようになったんだ。


 ただし、楽器は、鼓笛隊並みの打楽器と木管楽器系しか用意できなかったんで、曲は古典的な行進曲を使ってみたよ。「トルコ行進曲」に「ヤンキー・ドゥードゥル」だ。


 ウチの連中は特に「ヤンキー・ドゥードゥル」が気に入ったらしくって、しまいには口笛で軍楽隊と「合奏」を試みる奴まで現れた。


 そうしたら、今度は「ヤンキー・ドゥードゥル」の口笛が、なぜか子どもたちにウケまくって、街では必ず誰かが口笛を吹くのが聞こえるようになっていた。


 民にとって「ゴールズ」が憧れの存在として定着してきた実感は、オレにとっては凄く大事な要素だった。


 もちろん、来るべき『凱旋式』用に、とっておきの行進曲を用意してある。あ、オレが用意したんじゃなくて、王宮に伝わる「伝統的な行進曲」を使うんだけどね。


 そうすれば、最近めっきりとパーティーが減ってしまって、仕事のない宮中音楽人にもやり甲斐が生まれるだろうって、たいした意図は無くて決めたこと。でも、その演奏を聴かされてビックリした。


 オレの知っている、とある国民的ゲームのメイン音楽だったんだ。オリンピックにまで使われた曲が『王国建国以来の伝統的な行進曲」になってるってことは、この世界に転生してくる人は、出現する時代がランダムなんだってことを意味してるわけだ。


 伝わってる曲の名前はなぜか「我が祖国」だって。


 う~ん。含蓄が深い。


 ともかく、古い『軍歌』をみんなに仕込んだよ。ちなみに、元の曲を鼻歌で歌って、宮廷作曲家に採譜してもらったから、元の曲と微妙に違うけど、それはドンマイ。



When Show Comes Marching Home

ショウが帰る時


ショウが再び行進して家に帰ってくるさ

万歳!万歳!

心から彼を歓迎するぞ

万歳!万歳!

男たちは歓声を上げ、叫ぶだろう

女たちも全員出てきてきて黄色い声さ

そして僕らは皆、良いヤツだと感じるだろう

ショウが行進して家に帰ってくるとき。


古い教会の鐘が喜びに鳴り響くだろう

万歳!万歳!

最愛の息子を迎えるために、

万歳!万歳!

村の少年、少女たちは喜び、叫ぶだろう

彼らはバラを持って道にまき散らすさ

そして僕らは皆、良いヤツだと感じるだろう

ショウが行進して家に帰ってくるとき。


夜明かして、町中の宴の用意をするんだ

万歳!万歳!

英雄に三度の栄誉を誇れ

万歳!万歳!

月桂樹の花輪はもう準備ができている

彼の誠実な頭の上に置くために

そして僕らは皆、良いヤツだと感じるだろう

ショウが行進して家に帰ってくるとき。


国を統べる日々には愛と友情を

万歳、万歳!

彼らが選んだ愛と喜びが現れる

万歳、万歳!

我々も彼のために何かを演じよう

戦士の心を喜びで満たすために

そして僕らは皆、良いヤツだと感じるだろう

ショウが行進して家に帰ってくるとき。


(原詞)

When Johnny comes marching home again

Hurrah! Hurrah!

We'll give him a hearty welcome then

Hurrah! Hurrah!

The men will cheer and the boys will shout

The ladies they will all turn out

And we'll all feel gay

When Johnny comes marching home.


The old church bell will peal with joy

Hurrah! Hurrah!

To welcome home our darling boy,

Hurrah! Hurrah!

The village lads and lassies say

With roses they will strew the way,

And we'll all feel gay

When Johnny comes marching home.


Get ready for the Jubilee,

Hurrah! Hurrah!

We'll give the hero three times three,

Hurrah! Hurrah!

The laurel wreath is ready now

To place upon his loyal brow

And we'll all feel gay

When Johnny comes marching home.


Let love and friendship on that day,

Hurrah, hurrah!

Their choicest pleasures then display,

Hurrah, hurrah!

And let each one perform some part,

To fill with joy the warrior's heart,

And we'll all feel gay

When Johnny comes marching home.


(参考)


https://youtu.be/WtEqgG2EdTs?si=KlBJu9gjHD_SVif4


 こういうのを歌いながら、馬で「流す」んだぜ? しかも儀仗用にあつらえた「お揃いのマント、お揃いのユニフォーム」姿で颯爽と闊歩する。


 王都でウケにウケた。



『ショウが帰る時』は、いつの間にか王都の若者達に広がって、次第に「王宮広場に入るときは、みんなで大合唱する」って謎の習慣まで生まれてしまった。


 次第に、民の間に「ゴールズ」の人気が定着していくと目の利く商人達が、ユニフォームを勝機と捉えたらしい。


「せめて、子どもたちに向けてだけでも、どうか販売させていただきたい」


 王都の有力なテーラーに懇願されて、9歳未満の子ども向けに「そっくりマント」の販売を許可したんだ。もちろん、大人用は不許可だし、無断で作ったら死刑なのは、お触れを出してあるw


子ども向けのモノを許可するだけで、黙っていても小金貨が転がり込んでくるんだもん。人気が出るって言うのはこういうことだ。笑いが止まらないよね。


 ただし、販売する店に対して、徹底したのは「販売する時は、その子どもに誓約をさせろ」ってこと。


1 マントを着たら、自分は強い人になります。

2 マントを着たら、弱い人を守ります。

3 マントを着たら、正義の人として振る舞います。


 この誓約を破ったら、ゴールズが取り返しに行くぞとまで言わせて、売ってあげるわけだ。


 いや、これが親にウケた、ウケた。なぜか、商人達は子どもに着せたがり、子どもは親におねだりし、という感じだ。


 そんな風に3月も少しずつ進んでいって、卒業式を来週に控えたときだった。


 執務室で、いつもの通りに打ち合わせ。老公はあんまり変わらないけど、ブラスコッティ君の額に刻まれた縦皺が日に日に深くなっていく気がするよ。セロテープ芸でも教えた方がいい? あ、そういう問題じゃないか。


 そこに慌てふためいた様子の取り次ぎ係が飛び込んできた。


「ショウ様、サウザンド連合王国からの使者が到着しました」 

「用件は?」

「それが、そのぉ、お目にかかってから、直接話すと」


 言いにくそうな取り次ぎの者に、ブラスコッティが「それは無礼であろう。しかも、相手の言うままに、そんな振る舞いを取り次ぐとは、お主の職務の適性を疑わねばならんな」と口を挟んだ。


 ま、それは当然だよね。


「確かに、常であれば、もちろんなのでありますが、その使者が、ですね」

「使者が、何か特別なのか?」

「はい。名乗っていらっしゃる言葉をそのまま申し上げますと、サウザンド連合王国第47代目統領、レオナール・メタル=レアだと名乗っています」


 え? オレの知識の範囲では「連合王国」は弱小王国の集合体で、それを「統領」がまとめているってことになっている。


 つまりは、サウザンド連合王国の最高権力者だ。


「マジ?」

「いかがいたしましょうか?」


 だって、王国で、敵国の最高権力者に会ったことがある人なんて、いないんだよ。写真やマスコミがあるわけでもないしね。本物に会ったことのある人がいないと、当然ながら、その真偽を今すぐ確かめられないんだ。


 しかし、宿敵とも言える国に、統領が単身で現れるなんて事態を考えられるヤツなんていないんだよ。


 完全に、意表を突かれた感じだ。

 

 ノーブルも、ブラスコッティも表情を硬くして首を捻るばかり。


「あっ!」

「いかがしました、閣下?」

「何か思いついたことでもありますか?」


 二人がすがるような目で見てくる。いや、こっちだって、いきなり良いアイディアなんてないからね。


「王都の信頼の置ける商人であれば、ひょっとしたらわかる者がいるかも」


「なるほど。誰かある! 王都の主な商人を至急集めよ。特に貿易を営む商売を中心にするのだぞ」


 ブラスコッティの命令は直ちに伝達された。2時間もあれば、それなりに集まるだろう。


 さて、それまでは、と思った瞬間、今度は老公が王宮の執事に命じた。

 

「そのレオナール(仮)は、王宮の応接の間に案内せよ。茶菓子と茶を最上等な物にするのを忘れるな」

「はっ!」


う~ん、サウザンド連合王国の統領と言えば、歴史的に言えば「僭主」の類いだ。公の規定ではなくて、事実上の最高権力を握っている人だからね。


 元世界の「僭主」と言えば、ほとんどのケースで100年単位では必ず没落するんだよね。


 やっぱり、亡命ってヤツかなぁ……


 面倒ごとの予感しかしないよ。



トルコ行進曲はおなじみですよね。


「ヤンキー・ドゥードゥル」は、アメリカ南北戦争の頃の歌ですね。

https://youtu.be/65SCziAGthw?si=DDn2TapbSn64fR9-

「アルプス一万尺」って言った方がわかりやすいかもです。


知り合いの小学校の先生が、東京オリンピックの開会式を見て「入場行進にドラクエ? 確かに良い曲だけど、私は、もう20年前に使ったわよ」と自慢しておりました。

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