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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第3章 動乱編

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第51話 チャレンジャー!

 演習の後の反省会となる。ヨク城に設けた「会議室」では、ティーチテリエーの采配により、ガーネット家のメイドが交代で常駐するようになっていた。


 双方の中隊長クラスが出席するということなので、迦楼羅カルラ隊からはショウとフュンフだけ。ピーコック大隊はムスフスと中隊長達である。


 メイドがサーブしたケーキと紅茶に誰も手をつけなかった。仕方なくショウがさりげなく一口目を食べると、安心したように一同も一口食べる。一気に止まらなくなるのはよくあるパターンだ。


 ショウも一緒にケーキを平らげるのを優先し、美味しい紅茶を一口飲んだところでおもむろに話し始めた。  


「みなさんはさすがです。選りすぐりのメンバーが猛訓練に励まれただけはあると思いました」


 4分の1の数しかいない相手に完敗してしまった側としては表情に困る。言っている側に「イヤミ」のつもりがカケラも無いのが歴然としているからだ。


 裏返せば、絶対的な強者の自信が言わせるセリフだと思い知らされたということだ。手も足も出なかった側としては、それに反発することすらおこがましい。軍事の問題は、つまるところ「実力」がモノを言うのを骨身に知っているからだ。


 少年は屈託のない笑顔を浮かべながら続けた。


「実を言うと、煙の中の壁で半分くらいはイケると思ったんですが」


 頭をカリカリとかきながら「三分の一で防がれちゃったのはホントに計算違いでした。」と少年は恥ずかしそうに微苦笑を浮かべる。


「あそこで半分にしてしまえば、全滅に持ち込めるはずだったのですが」


 そう言って肩を一度すくめて見せた後、種明かしを始めた。


「今回の罠は、2日間で学習していただいた結果がみごとに活かされたわけです」

「え? 学習? 二日間で学習していた……」


 そこでムスフスは、初めて理解したのだ。


 砂塵とセットにして個別撃破狙いを来り返し、少しずつ数を削いでくる「漸減ぜんげん狙い」だと思わせるのも、2日目の4度の繰り返しも、全ては3日目の罠にはめるための行動だったのか、と。


 タックルダックルは、思わず尋ねた。


「ひょっとして、あの場所で仕掛けたのも意味があったんすか? あ、えっと、あったのですか?」


 言葉を直すタックルダックルに「普通に喋ってね」と断ってから、少年は一転して笑顔を消して語った。


「準備時間もそうなんですけど、ほら、各個撃破を恐れて偵察部隊を出してこなかったでしょ? これは不味いと思ったんで、今回を教訓にしてもらうつもりでした。それに、勝利条件がハッキリしている時は、よほどの必要性がないなら、最短手順で達成するべきだってことも覚えていただかないといけないです」


 つまり、今回の勝ち方は「教育」の意味を込めていた、ということだ。


 壊滅的な敗北を喫したピーコック大隊の全員は、今度こそ本気で唖然とした。あれほどの圧勝をしつつも「教育のための手段」として対応されていたなんて。


 自分の年齢の3倍近いオッサン達の何とも言えない空気に、ショウは慌てたように言葉付け足す。


「だって、ほら、偵察隊を出していれば、あの砂煙を迂回して到着するのは簡単なハズなんですよ?」


 ムスフスは思わず唇を噛みしめる。そうなのだ。演習の勝利条件を満たすだけなら、少数の斥候をバラ撒いておいて罠のないコースを探すのは簡単なことだった。

 

 あるいは、そもそも砂塵に突入する必要など無いのも明白なのである。


『我々は、昨日と同じだと勝手に思い込んでしまったんだ。だからこそ突入しても大丈夫だと思ったし、それで勝利できると思ってしまった』 


 自分が手のひらの上で踊らされていたのだと改めて感じるムスフスだ。


「突入してきた第4中隊と後続とに少しスペースがありましたよね? あれのおかげで、こっちの計算違いが起きたのですが」

「あれはライスバーガーの殊勲です。予定では一体となって突撃のハズでした」


 さすがベテラン中隊長。よくぞ、あの時に追走スピードを抑えられたと、ムスフスは賛嘆すると、途端にライスバーガーが口を挟んだ。


「いや、あれ、オレじゃないです。砂塵に入る前に、ミュートがスピードを落としたんですよ。俺達は、それに合わせただけで」

「ふむ。それはいったい?」

 

 ムスフスは疑問を、新人中隊長に向けた。


「こちらのしたいことができる状況だったので」

「ん? どういうことだ?」


 ウンチョーが首を捻る。とはいえ、みなを代表しての言葉でもある。


「あ!」


 ムスフスにとっては、そのヒントだけで十分だった。まだ理解してない部下達に意味を解きほぐすのは大隊長としての務めだ。


「我々は突撃を予定していた。昨日と同じであればどうするかという想定までしてね。つまり、我々にとっては『予定通りに勝てる方法』を見せられていたわけだ。突撃すれば勝てると思っていて、そこに突撃すべき場所が見つかれば、それを止める理由など無い、ということだ」


 出された()()に、少年はニッコリ。


「さすが大隊長。おっしゃる通り。昨日、たっぷりと学習してもらいました。みなさんなら、必ず『より良い対処法』を検討するはずです。そして、昨日までの戦いであれば、全軍突撃は必勝の手だったと思います。だから、我々が同じパターンだと見せてあげれば、必ず必勝の手を使いたくなります。完璧に勝てる方法だと思っているのに、それを止める軍人などいませんので」


 そこまで言ってから少年は「ただ、ちょっと待ってください? だとしたら、ミュートは罠を読んでいたわけですね?」と身体を乗り出した。


 ミュートは悪びれずに「はい」と返事をすると、そのまますましている。ミュート(黙り屋)の名前通り、余分なことを言わないつもりらしい。


 こうなると、喋らせてみたくなるのが人情だろう。


「では、答えてください。あなた方の部隊が取れる必勝策を」

「今日の時点で、ですか?」


 今度は少年が、人の悪い笑みを浮かべて沈黙で答えると、小さくため息をついた後に、チラリとムスフスをうかがった。もちろん「答えろ」と促す大隊長である。


「我々は100名ずつに分かれて出発するべきでした」


 少年は、黙って頷いてみせるだけ。仕方なく、ミュートは話を続けた。


「Aの隊は会敵必勝のつもりで積極策、Bの隊はヨク城を目指して一直線。ただし、Bの隊がヨク城の入り口、つまり今日の場所で会敵した場合は、半分の部隊で乱戦に持ちこみます。乱戦を挑むと損害は発生しますが、AかBのどちらかがぶつかっている間に、どちらかが入城でき、ぶつかっている隊のウチの半数は入城できる可能性が生まれます。勝利条件は半分以上ということなので、これで十分です」


 ムスフスからすれば、戦略の根本を否定されたことになるが、怒りを見せるほど狭量では無かった。むしろ「唖然」と口を開いた後で、頭を抱えたのである。


 演習前の会議において「個別撃破を避けるために全軍で動く」という大方針を説明したのはムスフス自身だからだ。


「うん。それも一つの方法ですね。でも、なぜそれを先に言わなかったのですか?」

「最初に説明された大方針にも合理性があったからです。事実、今日の煙のトリックに引っかからなければ、規定の作戦は正しかったことになります。古来、大軍に奇略無しと申しますので」


 タックルダックルが、小さな声で「喋れんじゃん」と呟いたが、全員が聞かなかったことにした。


 そこから、いくつかの質問をミュートにした後で「いくつか命令を伝えなくてはなりません」と少年はムスフスに伝えた。


「ハッ」


 背筋を伸ばして、受令の姿勢を取るムスフスだ。


「王都に戻った後、速やかにミュートを第3中隊長の職から解任すること。また、同日中に新たな中隊長の任命をすること」

「え! そんな! コイツは、命令違反をしたわけじゃねぇんす、んん~ むぐぅ」


 タックルダックルが思わず口を挟んでしまったのを、ライスバーガーが慌てて口を塞いだのである。


 一瞬、少年は噴きだしかけた顔を慌てて元に戻すと「命令はまだある」と、一瞬ミュートに視線を送ってニヤリとしてみせる。


「解任したミュートを、ただちに大隊付『軍師』に任命のこと。なお、軍師はいついかなる場合であっても、己の最善と思われる策を大隊長、中隊長に伝える義務と権利を持つこととする。指揮権は通常の通りとするが、軍師の意見を聞かなかった場合、後に合理的な説明をゴールズ首領に開陳する義務を負うものとする」

「はっ! 第3中隊長を解任し、同日中に新中隊長の名前をお届けします。ならびに、ミュート軍師の義務と権利について隊に徹底いたします」

「それから、ミュート軍師」

「あっ、は、はい」

「あなたに大隊付参謀本部を組織することを命じます。あなたが使いやすい人員であれば、軍・民を問いません。4月までにできますか?」

「はっ! 3月31日までに、必ずや大隊付参謀本部を組織いたします」

「よろしい。では、ピーコック大隊にだけ大隊付参謀本部を設置する意味は、お分かりですね? みなさんは、ゴールズの目と耳になってもらいます。時には敵中突破、あるいは不眠不休での情報伝達。あらゆる困難が待ち受けています。個人が負担する困難さにおいては、ゴールズのトップクラスとするつもりです。みなさんの目と耳が無ければ、この先の戦いでゴールズの全滅だってあり得ると全員が覚悟してくれることを期待します」


 全員が瞬時に立ち上がると、首領に対して心からの敬礼をしたのである。


 自分たちに最も困難な任務が与えられる。それこそが、彼らにとっては最高の誇りとなったのである。


「では、新しい任務に耐えられるように、新しい訓練の説明します」

「「「「「ハッ!」」」」」


 その30分後。


 訓練内容を説明されて、全員が顔を青くした。


 ライスバーガーとタックルダックルは「ちょっと失敗したかなぁ」という思いが心にチラつくのを止められなかった。


 何、この地獄……




   




ということで、レンジャー部隊並の基礎訓練と座学を含めたスペシャルメニューが用意されていました。なお、基本的に「騎馬部隊」ですが、任務には山越え等も入るため、過酷なまでの基礎訓練が必要になります。


陸上自衛隊第5旅団の動画がありました。

https://youtu.be/RGcDs4ner9Y?si=ah_E_vLzkdDxxEJy

空挺降下はやりませんけど、ロープ懸垂は必要ですよね。


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