落ちて異世界へ
今俺、翁誡は落ちています。
なぜ落ちているのか、それは遡ること三十分前。
日が傾き夕日が輝く時間、学校が終わったので急いで帰路につく。
いつもなら友人とだべったり道草を食うが今日は真っ直ぐに帰宅する。そんな自分を呼び止める声が一つ。
「誡~やっぱ今日は無理か?」
「あ~悪い、昼も言ったけど今日は無理。」
「そっか、了解。じゃあまた明日」
「おう~じゃあな!」
小走りで校内を移動する。途中声をかけてきた友人たちに挨拶を交わしながらも立ち止まることなく走り続ける。
友人たちからの誘いを断り急いで帰るのには理由がある。それは久々に両親が返ってくるからだ。
俺はごく普通の家庭に生まれた。兄妹は妹が一人の四人家族、ただ少し他の家庭と違うのは両親の職業か。母は海外を飛び回る貿易会社社長をしていて父はその手伝いをしている。そのせいか二人とも家にはほとんど帰ってこずいつもは妹と二人で暮らしていた。
そんな両親が久々に帰ってくるため急いで帰路についていたのだがそこで俺に事件が起きた。
いつも通る道、少し小走りで家まで帰っていた。もちろん車にも気をつけていたし足元にも気をつけていた。怪我なんてしてしまったら忙しい両親に迷惑をかけてしまうからだ。だからいつも以上に注意していた。……気をつけていたんだ。
家を目の前にした坂道、何の障害物もないその坂を上っていく。
視界内には何の代わり映えのない坂道、穴などあるはずが無いんだ、ただ今日に限っては違ったらしい。
確実に踏んだと思った地面が唐突に消え、踏み込んだ右足が空を踏む。そのままバランスを崩した俺は真っ暗な大穴にまっさかさまに落ちていく。
「うわああああぁぁぁァァ―――――――!!!???」
叫んだ声が誰かに届く間もなく落ちた穴が閉じ、辺りが真っ暗になる。
そして今現在に至るというわけだ。
かれこれ五分ほどか、一向に下は見えず真っ暗なためにどこを落ちているのかもわからないが落ち続けている。
ただこの落下現象、不思議でならない。
五分以上落ち続けていて底が見えないのも不思議だが一番の不思議は落下速度が変わらないということ。パラシュートと言った空気抵抗を大きくして降下速度をゆるやかにするためのものが無かった場合落下速度は早くなっていくと思うのだが今の速度はパラシュートを開いたときの降下速度ぐらいか。例えるなら羽を上から落としたようなひらひらとゆっくりと落ちて行っている。
一定の緩やかな速度で落下しているため落ちた最初はさすがに死を覚悟したが今は今の現状がどうなっているのかを冷静に考えることができるくらいには落ち着いた。
さてどうしたものか。多分だがこの落下速度なら例え地面に激突しそうになっても軽傷で済むだろう。にしてもどこに落ちているのだろう、落ちたのがマンホールや突然地割れでできた大穴ということもないだろうし………
そんなことを考えていると先ほどまで光一つなかった空間に下から目を覆うほどの強い光が辺りを包み込む。
瞬間、一瞬ふわっと浮かぶとドサッ!と尻餅をつきながらも地面に着地した。
訳が分からなかったが突然の光でやられた目が回復するまでの間に辺りを手探りで触っていく。
五分ほどの降下を体験したが痛みもないしどこも怪我はしていないようだ。
地面を触ってみる。硬い、けどコンクリートの上というわけではないようだ。地面から妙な暖かさがある。例えるなら床暖房か?
「……ぁ……――――……――――……」
「!?」
声がした。小さくて聞き取れなかったが確かに少し高めの少女の声。何を言ってるかまでは聞き取れなかったが人がいるだろうと辺りをつけた方に声をかける。
「あ、あのすみません。そこに誰かいますか?」
「―――――。」
確かに声は聞こえた。ただ何語だ?聞いたことのない言葉で返答された。
急に光を入れないように目を手で覆いゆっくりと目を開ける。開けたばかりはぼやけていた視界も何度か瞬きを繰り返すと安定しだす。そのまま徐々に光を加え完全に目を開ける。
「ッ!きみ、は……」
最初に視界に入った人物、その人物を見た瞬間息を吞む。
それは透き通るような金髪に真っ赤な宝石のような綺麗な瞳、頭の左右に真っ黒な角をつけた美少女が熊のぬいぐるみを抱えて立っていた。
その時、こんな訳の分からない状況が続いたのにも関わらず俺の中に一つの感情が芽生えた。俺は人生で初めて一目惚れというものを経験した。




