女神系とゴリマッチョ系
「さぁ、リリーシュ様。旦那様のところに参りましょう!この可愛らしいお姿を見せてさしあげないと!」
そう言うマーサに連れられ、絨毯の敷かれた階段をぽてぽて下りる。
落ちたら危ないのでマーサに手をつないでもらって足元をじっくり見ながら足を進める。
絨毯が敷いてあるとはいえ、マジで危ないからね!
この顔に傷つけたら侍女たちが自害しかねない、という危惧もあったり、なかったり。
「おお!リリ!!!父様を見送りに来てくれたのかい?!」
心地良く響き渡る、ちょっと低めの声を発したのは今世のお父様。
エルフィン伯爵家当主のレイヴン様。
もうね、さっすがリリーシュの父というべく美しい男性である。
いや、本当に女性が裸足で逃げ出すレベルの美男なのである。
というか…女神?なんだかキラキラしいオーラも出てるしパッと見、女神なのである。
そんな美しいお父様が駆け寄ってきてヒョイッと抱き上げてくれたものだから、私も嬉しいし楽しいしでヘラッと笑ってしまう。
「ぐふっ」
「ごふっ」
階下から変な声が聞こえたのは気にしない。
隣でマーサが涙を流して祈りのポーズをとっているのも気にしない。
うん、気にしない。私はできる子…。
「リリ。このまま抱っこで城まで連れて行きたい気分だよ…」
そう、お父様はお城で働いているらしい。
難しいことは分からないけれど文官とかいうものじゃないかと思っている。
だって軍人には見えないし、大臣とかはでっぷりしてギラギラしたイメージあるでしょ?
うちのお父様はめちゃくちゃ細身で華奢なくらいだから!
物静かで本が似合うもん。あ、もしかして司書的な仕事かもしれない。
「今日もリリは可愛いなぁ!もしかして父様と一緒にいたいのかな?こうなっては仕方ない!今日は休もう!!よし、休もう!!」
いやいやいや、それはあかんって!
社会人でしょ!ちゃんと仕事はしないと!
それに…、見送りに来たのはそういう理由じゃないし…。
「とうたま。めっ」
「はぅん!!!」
「ぐふっ!!かわ・・・」
「うちの子…最強では…?」
使用人やお父様が何かつぶやいているけど気にしない!
だって。ほら!ほらほら!ほら…!
「レイヴン様。リリーシュ様も呆れていらっしゃいますよ。さぁお早く。間もなく登城の時間ですよ」
重低音のような低い声が耳心地良い。
炎のように強い赤色の短い髪。日焼けした肌。凛々しく太い眉。太い鼻梁。鋭い眼光。
そして何より、頼りがいのありそうな厚い胸板。
待ちかねたのか、玄関から広い歩幅でこちらに近づいて…。え!近づいて!?
「リリーシュ様、お寂しいでしょうが、御父上をお連れすることどうかお許しください。」
「ひぁっ…!」
ぎゃぁぁぁぁぁぁ!
来ました!ありがとう!最高!生きててよかった!尊い!
本日も大変すばらしい筋肉です!!!素敵です!!!
そう!そうなの!何を隠そう、私は筋肉フェチなのである。
自分も家族もみーんな華奢な上、お父様は美女系。お兄様だってキラキラしい美少女系。
私が怖がるからという理由で、邸内で働く使用人はみな中性的な男性ばかり。
その反動なのか、前世の関係なのか、男らしい筋肉モリモリ、いわゆるコワモテ系が好きなのである。
「こら、ゲイル。愛らしいリリが怖がっているではないか!近付きすぎだ、バカものめ」
「はっ!それは大変失礼いたしました。ですがもう時間ですので・・・」
「わかった、わかった。…リリ~、ではお父様は行ってくるねぇ~」
「リリーシュ様、御前失礼いたします」
「ひぅ…、いってらっちゃいまちぇ…」
ゲイル様、尊すぎる。なんて素敵なお姿なの。
上司であろうが関係なく物申せるとこも素敵よ…!
あぁ、またうまく話せなかったし、嬉しすぎて涙目になってしまった…。
明日こそ!明日こそちゃんと会話するのよ!
いつかあのたくましい腕で抱っこしてもらうんだ!!
内心ふんす!と鼻息荒く下心いっぱいで意気込むリリーシュだったが、周囲はみな「怖いのに頑張って令嬢として返事するなんてエライ」と誤解していたのであった。