天使が舞い降りた日
その日は、雲ひとつない快晴で、空気も澄んでいてなんとも気持ちのよい朝だった。
小鳥たちは軽やかに囀りながら飛び回り、なんだかご機嫌な様子。
眩しい太陽の光を浴び、町人たちは気分よく仕事や家事を始めだし、市場の商人たちも「今日は稼げそうだな」と談笑しながら開店準備に精を出す。
各家の使用人たちも「お天気日和だわ」とシーツやカーテンといった大物の洗濯を始めるなど、朝から誰もかれもが忙しく、でも気分良く活動し始めていた。
でも、ある伯爵邸の庭には、使用人はおろか庭師1人の姿すら見当たらなかった。
どの窓もきっちりと閉じられており、人の活動を感じられないほど、異様な静けさに包まれている。
街の空を囀りながら飛んでいた小鳥たちも、なぜか伯爵邸の近くに来ると静かになり、お行儀よく整列するかのように窓枠にとまり始める。
まるで小鳥たちが部屋の中を見ようとしているようにも見える、まさに異様な光景だった。
そんな静まり返った伯爵邸に響いたのは、女性の声。
「お生まれになりましたーーー!!!!!!」
邸中の人間が固唾を飲んでこの時を待っていたのか、一気に息を吹き返す。
「奥様!!!よくぞ頑張られました!」
「かわいい女の子ですよ!」
「まぁ!!奥様に似た白金色の髪かもしれません!」
口々に上がる喜びの声。皆がみな、涙ぐみながらもこの瞬間を喜びあい、邸中に幸せなオーラが充満していく。
生まれたての赤ちゃんは赤みを帯びていて、濡れた髪色は薄い金色のような色をしていた。
ベッドに横になった美しい女性はほっと息をつきながらも赤ちゃんをその胸に抱き、はらりと涙を流す。
隣に立つ、これまた美しい男性も涙ぐみながら女性を労わり、わが子を愛しい目で見つめる。
そして、ベッドの縁に手をかけて一生懸命に赤ちゃんの顔をのぞき込む小さな男の子。
「なんて可愛いの。どうか元気に育ってね。神よ、この子をどうぞお守りください」
「なんて可愛いんだ。神よ。愛する妻とこの子たちに出会わせてくださり感謝します」
「かわいい…!ぼくのいもうと…!」
この日生まれた1人の女の子がこの物語の主人公。
妖精のように美しく、優しい心を持ち、それでいて賢い、「慈愛の天使」と呼ばれる女性に育つのは、まだ先のこと。
そんな彼女の輝かしい功績の第一歩は「ほんぎゃっ、ふにゃっ、ほぎゃぁ」という泣き声で、その場に居合わせたすべての人間をKOしたことだった。
「かわ!!ひぃ!」
「なにこのかわいさ。可愛すぎる…」
「これが尊いということか…」