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07 弟子を拾いました②

 

「すごい魔力……」



 魔法に変換されてない魔力が、どこからかたくさん流れてくる。魔力の濃度も質も素晴らしい。

 周囲を見渡すが、魔力の持ち主の姿は見えない。



「離れているのに、ここまで良質な魔力が届くなんて……探さないと!」



 オフェリアは魔力の流れを辿って、魔力の持ち主を探し始めた。

 そして走って数分、怪しい集団を視界に捉える。オフェリアは建物の死角に身を潜めた。



「手こずらせやがって! さっさと連れて行くぞ」

「い、いやだ! やめて!」

「うるさいな! お前、餓鬼の口に布を巻け」



 三十代ほどの男ふたりが、十歳ほどの黒髪の少年を捕まえようとしていた。少年の服装は酷くみすぼらしい。この国のスラムでは珍しくもない、人身売買を目的にした子どもの誘拐現場というところだろう。



(この国の治安状況から、日常的なことだと分かっていても……見ていていい気分ではないわね)



 オフェリアが眉を顰め、魔力の持ち主が三人のうち誰なのか探る。三人とも興奮状態で、パッと見ただけでは分からない。

 もう少しじっくり観察したいとオフェリアが壁から顔を出したとき――少年の黄金色の瞳と視線がぶつかった。



「――――助けて!」



 そう言われたときにはもう、オフェリアは魔法を放っていた。

 少年を捕まえようとしていた男たちに雷がお見舞いされる。瞬く間に彼らは白目を剥いて、気を失ってしまった。しばらく起きることはないだろう。



「あなたは大丈夫そうね」



 オフェリアは姿を現して、地べたに座る少年を見下ろす。

 男たちが気絶した今も、良質な魔力はまだ新しく漏れ続けていた。



(探していた魔力の持ち主は、この少年ね! 最高の魔力だわ。素敵……っ)



 湧き上がる興奮を抑えながら、オフェリアは少年をじっくりと観察する。

 黒い髪は肩くらいまで伸びてボサボサ、長い前髪の隙間から見える瞳は黄金色。着ている服は土埃まみれの雑巾のようで、そこからのぞく手足にはまったく肉がない。

 幸運をもたらすという迷信を持つ金の瞳を持っているから、奴隷商に狙われていたのだろうと推察する。



「ねぇ、あなたの名前は? 年は分かる?」

「ユーグ……十歳」

「家族や帰る場所はある?」

「ない」

「今着ている服以外に持ち物はあるのかしら?」

「ううん。これが全部」



 見た目通り、スラム孤児のようだ。これから学校に通うようなことにはならないだろう。魔力があっても使い方が分からなければ、宝の持ち腐れになってしまう。



(素質があるのに、このままでは勿体ないわ。どうするのが良いかしら。質の高い孤児院に預けるか、魔塔に保護をお願いするか、それで成長したころに会いに行って――……いえ、もっと確実な方法があったわ)



 オフェリアはユーグに手のひらを向けた。



「ユーグに提案があるの。私の弟子にならない?」

「で、でし?」

「えぇ、私は魔術師なの。魔術師というのは魔力という力を利用し、魔法と呼ばれるあらゆる奇跡を起こす人間よ」

「僕に、その力があるの?」



 ユーグは瞳を揺らし、オフェリアを見上げた。

 オフェリアは自信に満ちた笑みを浮かべる。



「そうよ。しっかりと学び、私の教えを守るなら衣食住を保証するわ」

「いしょくじゅう?」

「綺麗な新品の服に、温かい出来立ての食事、屋根のある寝床を用意してあげる。もう飢えを恐れたり、寒さに苦しまなくても良いようにするわ。魔法の腕を上げて魔術師として成功すれば、お金も名誉も手に入る。自分の力で不自由を感じない、贅沢な暮らしを手に入れるのも夢じゃない。魅力的でしょう? 私の弟子にならない?」



 理想の魔術師がいないのなら、自分で育てれば良いのだ。幸運にも希望の卵は目の前にある。

 そして自分には魔術師として百年以上生きてきた経験と知識がたっぷりあった。

 オフェリアは、もう一度力強く手を差し出す。



「私オフェリアが、あなたを一流にして見せるわ!」

「――っ」



 ユーグは大きく目を見開いてオフェリアを見上げた。

 ゆっくりと腰を浮かし、黄金の瞳を期待に輝かせ、やせこけた頬を興奮で赤く染め、引き寄せられるようにか細い手を伸ばす。



「うん。僕、弟子になる」



 少年はオフェリアの手をしっかりと掴んで、そう返事をした。



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\2024年4月18日発売/


弟子の重すぎる師匠愛(?)に翻弄される
呪われた女性魔術師のお話です!
詳細は⇒【活動報告にて】


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