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21 才能の芽⑥

 

「これで最後かしらね」



 リビングに置いてあったソファを魔法カードに収納する。

 何もなくなった部屋はがらんと殺風景になった。

 今日オフェリアとユーグは、四年半住んだ家を出る。

 オフェリアは解呪のヒントを探しに隣国へ、ユーグは魔法を学ぶためにルシアス学園へ旅立つのだ。


 この光景に少し寂しさを感じるのは、この家に愛着が湧くくらい生活が楽しかったという証拠だろう。

 家に感謝するように、オフェリアは引っ越してきた日以上に綺麗になるよう魔法で掃除をしていく。



「次の住人も見守ってあげてね」



 掃除を終えてそう呟いたタイミングで、ユーグが二階から降りてきた。荷物はリュックひとつで、とても身軽だ。



「お師匠様、二階は終わりました」

「私も終わったところよ。はい、カード。寮で必要なら新しい家具くらい買ってあげるのに。最低限の設備は最初から揃っているはずだから、雰囲気と合わないかもよ?」



 さっき収納したばかりのソファをはじめ、家具類の魔法カードを全部ユーグに手渡しつつ、念のため再確認する。

 けれどユーグはカードを受け取ると、大切そうに表面を撫でてからリュックに入れた。



「それでも、僕は使い慣れたこれが良いんです。これらには、良い思い出がいっぱい詰まっていますから」



 そうしみじみとした口調で、オフェリアとの生活を良かったと語られたら何も言うまい。

 オフェリアの胸の奥が、ポカポカと温かくなっていく。

 改めて、ユーグを見つめた。


 弟子の身長はさらに伸び、背伸びしても同じ視線にはもうならない。骨と皮しかなかった薄かった体は青年らしい逞しい体躯になりつつあった。

 本当に大きくなって――と、なんだか目頭が熱くなってくる。

 けれど出てきてしまいそうな涙を抑え込み、オフェリアは自然な微笑みを浮かべて玄関に向かう。



「さぁ、出ましょうか」

「ま、待ってください」



 ユーグは慌てたようにオフェリアの手を掴んで引き留める。

 何ごとかと振り向けば、ほんのり頬を赤くし、口を一文字にしている顔があった。「ユーグ?」と問いかければ、彼はたっぷり間をおいてから口を開いた。



「お師匠様のこと、抱き締めて良いですか?」



 一大決心を告げたかのように、ユーグの顔はさらに赤くなった。

 抱き締めるなんて珍しいことでもないのに、とオフェリアは不思議に思う。けれどユーグにとっては何か重要な意味があるのだろう。

 オフェリアは軽く両手を広げて、ユーグの正面に立った。



「おいで」

「――っ、失礼します」



 ユーグは緊張した面持ちのまま、遠慮がちにオフェリアを抱き寄せた。少し腕も振るえていて、強く鼓動する心臓の音も伝わってくる。



(そういえば、私から抱き締めることはあってもユーグからは初めてかも。普段甘えないから、言い出すのが恥ずかしかったのね。見た目は大きくなったけれど、本当に私の弟子は可愛いわ)



 オフェリアはクスリと笑みを零して、力いっぱい抱き締め返した。ユーグの体がますます強張るのも可愛いと思ってしまう。



「来年の今ごろ、学園に会いに行くわ」

「絶対ですよ。僕、お師匠様に会えるのを支えに頑張ります。楽しみに待っていますから、約束を忘れないでくださいね」

「もちろんよ。だから会うときは元気な姿を見せてね。健康に気を付けるのよ」

「はい。僕も約束します」



 こうして数分抱擁してから、ふたりは四年半住んだ家の前で別れ、それぞれの新天地へと旅立っていった。


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\2024年4月18日発売/


弟子の重すぎる師匠愛(?)に翻弄される
呪われた女性魔術師のお話です!
詳細は⇒【活動報告にて】


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