高校生せいかよ
俺を買ったのは高校生くらいの男だった。実年齢からは年下なのだろうが、今は年上だろう。買われた俺は瞬く間に檻から出るように促せれた。周りの空気がさっきよりも重く感じた。俺は持っていた食料を隣の檻へ投げ込み、その場を後にした。
「それでは、今後ともご贔屓に。」
俺を売った男は、買った男にそう言って礼をした。買った男は無言のまま歩き出した。俺が少し戸惑っていると、売った男が
「おい、何をしてるいるんだ。早く付いていけ、あの人がお前のご主人様だ。くれぐれも問題を起こすなよ。」
俺は咄嗟に無言の男に付いて行った。広場を後にすると今度は宿のようなところに着いた。男は中に入っていった。俺が入り口で立ち尽くしていると、男が出てきて俺に手招きをした。中に入ると卑しいものを見るような目で人々が俺を見てきた。俺は気にせず、男について部屋の中へ入った。
「僕の名前は、原山敦史って言うんだ。アツシって読んでくれるかな。えぇと、君は名前はあるのかな。」
部屋に入ると男は優しい声で俺に話しかけて来た。なんか日本人みたいな名前だな。みんなそうなのか。
「はいアツシ様、スリーと呼ばれていました。」
俺が答えると、男は少し考えて言った。
「それって本当の名前なのかな、もしよかったら本当の名前も教えてくれるかな。」
本当の名前も何もそう呼ばれたからスリーと言っただけだ。この名前以外なんて知らない。それともこの世界へ来る前の名前を言えば良いのか。俺は日本というところから来た藤井悠とでも言えば良いのか。本当は大学生で男だということも。一瞬打ち明けることが頭によぎったがやめた。
「ありません。」
男はまた考えて少し嬉しそうに言った。
「嫌じゃなければ、僕が新しい名前を付けて良いかな。」
「はい、お願いします。」
従わなければどうなるかわからない。俺は仕方なく従った。
「じゃあ、ユウなんてどうかな。」
「ユウでお願いします。」
俺は咄嗟に遮って答えた。運命の悪戯か元の名前に戻るとは、嬉しかった。
「よしじゃあ、ユウにしよう。ユウ、ぼくの話を聞いてくれるかい。」
男は嬉しそうに言って話し始めた。
男は自分のことについてしょうじきに話してくれた。自分がこの世界の人間ではないこと、転移でこの世界へ来たこと。そして、力を手に入れたこと。冒険者をしてお金を稼いでいたこと。少女を買うのが夢であったこと。色々な話を聞かされたが、テンプレみたいなものだった。しかし、少女を買いたいとかヤバいやつか。
「ということなんだ。もちろん、君に何かするつもりはない。ただ一緒に旅をして欲しいんだ」
大体わかった。そういうことか、俺は主人公側ではなくヒロイン側ということか。色々詰んだ気がしたが、顔に出さないように堪えた。いっそやっぱり、打ち明けようか、いや、青年の夢を壊すわけには行かない。年上として男の夢に付き合うのも悪くはない。しばらく、それっぽい言動を心がけようと誓った。