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Evergreen  作者: 奈良 早香子
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第一部 第六章 決断(後編)

 ユナの部屋を出てから、ラクスはずっとある考えにふけっていた。

 それはラクスがずっと慕い続けてきたユナのこと、そしてそのユナの心を開かせたルシアのことであった。

 ユナは10歳のときに母親を失い、国王として多忙な父親とも多くの言葉を交わす機会がないまま育っていた。しかし、ユナよりもさらに早い、わずか5歳のときに母親をなくしたラクスとは、よく話していたし、遊んでいた。

 王宮ではお互い対等に話せる同世代の友人がいなかったため、2人の間柄は友達や兄妹と呼ぶのが一番相応しかった。

 当時はラクスもユナのことを妹として見ていた。

 もしそのときのままの気持ちでいたら、おそらく国のためでもラクスはユナと結婚しようとは思わなかっただろう。

 ラクスがユナを妹でも幼なじみとも思わなくなったのは、4年前のある出来事がきっかけだった。


 その頃はユナとケルスとの王位継承問題が深刻化し、泥沼化の危険性も考えられ始めた時期であった。

 ラクスはケルスの息子である以上、表立ってユナの味方をすることができずにいた。また、問題が深刻化するにつれ、ユナと遊ぶことも、話す機会すら少なくなっていた。

 そんな日々を過ごしていたある朝、ラクスはいつもよりかなり早く目を覚ました。

 時計を見ると、再び眠りの世界へ戻ってもよい時間だったが、ラクスはそうすることなく着替えをすませた。給仕に起こされるよりも早く目を覚ますことは珍しかったし、そのまま朝の散歩をするのもいい、と考えたからである。

 外が歩ける状態かを確かめるために窓の外を見てみると、朝の穏やかな日差しが辺りを包んでおり、その日一日が晴天に恵まれるだろうことを物語っていた。

 ラクスがそのまま王宮の広い中庭を眺めていると、中庭の片隅に一人の少女が座り込んで何かをしている光景が目に入った。

 遠目からでもそれが誰なのか、ラクスはすぐにわかった。

 ユナである。

 この広い王宮の中で、13歳くらいの少女で給仕の服を着ていないとなれば、該当するのはユナしかいない。それに、ユナの持つ美しい肩までの金髪が朝日に映えている。ラクスがユナの姿を見つけられたのも、その金髪の存在感が強かったからである。

 しかしながら、中庭にユナがいることがわかったラクスだったが、ユナが何をしているのかはわからなかった。

 服が汚れることも気にせず、ユナは中庭の片隅に座り込んで何をしているのだろうか?

 ラクスはそのことが気になり、当初から予定していた散歩も兼ねて中庭に降りて行くことにした。


「ユナ、何をしているのですか?」

 ラクスが声をかけると、ユナは驚きで体をビクッと震わせてから、ラクスの方へと顔を向けた。

「あ……よかった。ラクスだったのですね。」

「僕ではない人に見つかってはいけなかったのですか?」

「ええ、なるべくなら……」

 ユナは答えながら正面を向き、一時中断されていた作業を再び始めた。

 ラクスがユナの肩越しにその手元をのぞき込むと、ユナは素手で土を掘り返していた。そして、その隣には動かなくなった小鳥がいた。

 ユナは小鳥の墓を作ろうとしていたのである。

「素手で土を掘り返して墓を作るなど、一国の王女がすることではないでしょう。給仕か誰かに頼めばよいのに。」

「ええ、それが出来るなら……」

「出来ないのですか?」

「そうですね……正確に言えば頼める雰囲気ではないのです。ラクスではない誰かに見つかれば、きっと代わりにお墓を作ってくれたと思いますけれど。それに、してはいけないことではないと、そう思います。

 この子は私の部屋の窓にぶつかって死んでしまいました。そのときのガラスが割れる音で、私は目を覚ましました。原因が私にあるわけではありませんが、この子を見つけたのは私ですから、私が埋葬してあげることがこの子のためでもあると思うのです。このまま死体をさらしておくのも、とてもかわいそうです。」

 ユナは動物も植物も、全て人と同じような存在として扱った言葉を使う。

 世の中ユナと同じ考えを持つ者がいないとは言えないが、ユナは王族である。王族は人の上に立つ立場ゆえに、自分は国民ともまた別格であると思う者がほとんどで、ユナと同じような考えを持つ王族がいたとは聞いたことがないし、ラクスもユナと同じようには振舞えない。

 しかし、ラクスはそんなユナを異端だとは思っていない。むしろ、守るべき存在だと思っている。

 ユナは考え込むラクスをよそに、言葉を続ける。

「こうしてこの子のような小鳥たちを埋葬してあげることは、これが初めてではありません。誰も、気付いてあげないのです。いえ……気付けないのです。それほど、誰も心にゆとりが持てなくなってしまいました。みんないつも緊張していて……昨日も恐い夢を見てしまいました。」

「恐い夢、ですか?でもそれは夢ですから、気にするほどのことではないでしょう。」

「いいえ。同じ恐い夢を、何度も見るのです。今、私はこうして小鳥を埋葬してあげていますよね。この小鳥が、人になってしまう夢なのです。夢を見る間隔も、段々短くなってくるようで……そして、これが現実になってしまうような気がします。国が乱れ、この子のように誰にも埋葬されない人々が街に溢れ返るような……ですから私、王宮を出ようと思っています。」

「え!?」

 ラクスは驚いて普段よりも少し大きな声をあげた。そんなラクスとは対称的に、ユナは静かに続ける。

「父様が亡くなって1年が経ちました。あの日から始まった王位継承問題は、未だに解決していません。そのせいで、叔父様ともラクスともあまり話が出来なくなってしまいました。それに、誰かの笑顔を見ることも本当に少なくなりました。

 政治のことなんて、私には全くわかりません。でも、私が王になるよりも、叔父様が王になる方がずっといいことだと思っています。母様と父様の結婚が祖父に猛反対されたことも知っています。それも理由にすれば、きっと反対する国民も少なくなるでしょう。それでも、今までこのことを叔父様に言えなかったのは、私の味方だという議会の人たちが、私がいなくなることでその後の立場が悪くなってしまうのではないか、と思っていたからです。でも、それがいけなかったのですね。」

 ユナはそこまで言い終わると一旦言葉を切り、深く掘った穴の中に小鳥の死体を収めた。そして、その上にゆっくりと土をかけていく。

「私はまだ13歳です。私が王になっても、ただの飾りになってしまうだけです。仮に、叔父様が補佐をしてくれるのだとしても。それに比べて叔父様は政治のことにも詳しいですし、年齢も37歳ですから、私よりもずっといい王になります。」

「そのことを……誰かに言いましたか?」

 ラクスはやっと気持ちが落ち着いて、ユナに質問することが出来た。それでも頭の中には、何か焦りのようなものが存在している。

「いえ、ラクスが初めてです。決心したのも、つい先ほどです。叔父様に言う前に、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれません。それに、決心を自分自身で確かめるためにも。」

「王宮を出て、どこに行くのですか?」

「ディバの森へ行こうと思っています。あそこには王族専用の別荘がありますから、そこで暮らしていこうと思います。多分、これからずっと……王族からも籍を抜きます。」

「では、もう王宮へは……」

「そうですね、来ないと思います。ラクスと会えなくなってしまうのは、とても寂しいことですけれど。」

 言われてラクスは心臓が一つ大きく鼓動したのがわかった。

 ユナは言葉通り、ただ純粋に思ったことを口にしたのだとわかる。恋愛感情など、全くなく。

 ただ、決心したことを初めて告げる相手として自分を選んでくれたこと、会えなくなることが寂しいと自分だけに限定して言ってくれたこと。それがラクスにとってはとてつもない価値があるように思われた。

 しかし、これからはもう会えなくなってしまう。

 様々なものが、ラクスに哀愁とユナに対する恋愛感情を芽生えさせていた。

 そんなラクスの心がわからないユナは、小鳥の埋葬を終えると泥で汚れた服を払いながら立ち上がった。

「小鳥のお墓を作るのを止めないでいてくれて、ありがとうございました。王宮でラクスと話したり遊べたこと、とても楽しかったです。今まで、ありがとうございました。これからは、ディバの森で隠居生活を楽しむつもりでいます。朝食の後、叔父様に先ほどのことを話すつもりです。それでは。」

 ユナは笑顔でラクスに軽く会釈すると、その場を立ち去っていった。それはラクスが見た久しぶりのユナの笑顔だった。


 その日、ユナと別れた後でラクスはすぐにケルスに会いに行った。

 ユナがケルスに隠居の話を伝える前に、そのことをラクスはケルスに伝えた。そしてその後、国の大きな行事だけでもユナに王宮に戻ってもらえるよう、ケルスに頼み込んだ。

 ユナの選んだ道は国にとって最良の道であり、ユナを引き止めることは国にとって最悪の道になりかねない。それがわかっていたラクスは、ユナに会うための最後の望みをケルスに託した。

 また、この時点ではまだユナがあまりにも幼かったため、ラクス自身との婚約の話を出すことはできなかった。ケルスが王となり、同時にユナがラクスと婚約したと発表すればユナ1人が全てを背負い込んだように国民の目に映ってしまう。それでは、ユナの決心が無駄になってしまう。

 結果としてラクスの意見は受け入れられ、ラクスは年にたった3回だけユナと会う機会を得ることになった。

 しかし、ディバの森に行ってしまったユナは、王宮に帰って来たとき、すでにラクスを名前で呼んでくれなくなっていた。もう、身分が違うからと。ユナはラクスに心を閉ざしてしまっていた。

 そんなユナが心を開いたアクトのルシア。

 プロポーズをしたときでさえどうにか感情を抑えていたユナが取り乱す様を見るのは、ラクス自身記憶する限りではここ数年見たことがなかった。

 ルシアにアクトであるという以外で、ユナを引きつける何か力のようなものがあるのか。

 それを確かめるため、ラクスはユナの部屋に行くよりも前に、ルシアに会うために地下牢に行っていた。



 ラクスがルシアのいる地下牢を訪れたとき、ルシアは牢の隅に小さくうずくまり、じっと鉄格子を見つめていた。ルシアは目を覚ましてからいつまでも同じ態勢で横になっていることが苦痛になっていたので、見張りの兵士にわからないよう牢の隅に移動して座っていた。

 ただし、薄暗い牢の中の、しかも隅の様子などラクスからはほとんど見えなかった。

 ラクスが見張りの兵士を移動させ、ラクスとルシアの2人きりになってもなお、ルシアは牢の隅で微動だにせず座ったままでいたので、本当に牢の中にルシアがいるのかどうかすら、ラクスには疑わしく思えるほどだった。

「ルシア、そこにいるのですよね?僕はラクスと言います。僕と少し、話をしませんか?見張りの兵士は移動させましたから、この話を聞く者は僕たち以外にいません。できれば、光の届く位置までこちら側に来てほしいのですが。」

 ラクスは肩膝をついて座り、目線をルシアと同じにした。

 その態度を見て、ルシアはかたくなになっていた心を少しだけ緩めた。

 あくまで上から目線の見張りの兵士たちには声をかけられるのも嫌だったが、対等に話せることを暗に示してくるラクスとならば話してもいいと思えた。

 ルシアは立ち上がらずに、ゆっくりとラクスにその姿が見える位置まで移動した。

 光の前に現れたルシアには、ラクスがユナの話からイメージしていた明るい雰囲気はなかった。

「あなたがラクス王子なの?」

 ラクスが名乗ったのをちゃんとルシアは聞いていたが、あえて王子だとは名乗っていなかったので、そのことをまず質問してみた。

「ええ、そうです。……深い翠の髪と瞳ですね。その色は人工的に作るのは不可能に近いとされていたものですよ。多分、ルシアが唯一の成功例です。」

 ラクスはユナが興味を持っていたアクトの本を、ここ数日ではあるが読み続けていた。今の言葉は、その本から得た知識を利用している。

「そんなの知らないわ。刻印を見たって今まで何かの痣だと思っていたから、自分がアクトだなんてまだ実感ないのよ。」

 ルシアは牢に入ってから初めてこれだけ長い言葉を口にした。

 ルシアにとって、ユナにプロポーズをしているという予備知識のあるラクスは、当初それほどいいイメージを抱いていなかった。しかし、実際話し始めると兵士たちよりはずっと好感が持てた。

 ユナが言っていたラクスの持っている優しさが、ルシアにも伝わってくる。

「自分がアクトだという記憶も無くしてしまったようですね。」

「そんな記憶、元からなかったのかもしれないわ。名前だけは憶えているのに、ユナと出会う前のことが今でも思い出せないなんて、おかしいでしょう。」

 ルシアは自嘲気味な笑いを浮かべ、続ける。

「でもね、自分のこと以外なら知っていることって結構あるの。アクト排除法のことも知ってる。つまり、わたしが起動されたのはアクト排除法成立後。創られてから今までどこに保存されていたのかはわからないけど、起動したのがユナに会う直前だったとしたら、わたしに記憶がないつじつまが合うわ。誰が、どうして、どうやって、はわからないけど。」

「あながちそうとも言えませんよ。」

「どうして?」

 ユナはラクスの方に少し身を乗り出して尋ねた。

 ルシアはラクスに対する警戒心を完全に解いていた。

「アクトには自分自身がアクトであると予めインプットされているのが通例です。起動前の記憶がないことも同様ですが、これは極めて重要なことです。稼働時間が非常に長いアクトにとって、その姿が一切変化しないことは当たり前ですが、仮に人間と同じように過去を持ち、自分自身を人間だと信じて生活を続けていくと人格崩壊を起こす場合が多くなるのです。インプットされた過去と現在の関係が矛盾してしまった場合、一切変わることのない外見に疑問を持ってしまった場合が人格崩壊の主な原因です。それを防ぐために、アクトは自分がアクトであると自覚している必要があるのです。しかし、それが君にはなかった。」

「ミスってことも考えられるでしょう?」

「ラニア研究所がそんな初歩的なミスを犯すとは考えられません。君が翠の髪と瞳を持った唯一の成功例なら、人格崩壊を起こさないために細心の注意が払われたでしょう。それに、君は記憶以外の知識……例えば学問に関すること、生活に必要な料理などの知識、それを多く持ってはいませんか?その知識があるのに、最も必要なアクトであるという自覚の知識がないのはおかしいですよ。」

『ルシアって物知りなのね。薬草のことをこんなに知っている人は、滅多にいないのよ。』

 ルシアは初めて薬草を取りに出かけたとき、ユナにそう言われたことを思い出した。

 言われたときはさして気にもとめなかったが、改めて考えてみれば普通の人間が薬草に関して多くの知識を持っているのはおかしい。

 薬草を必要とするのは医者と薬剤師の他には、薬も満足に手に入らないような森の奥で生活をするユナくらいのものである。

 そういえば、ラムルにどの程度の知識があるのか試したいと言われて、テストのようなものを受けさせられた、ということもルシアは思い出した。詳細な結果は教えてもらえなかったが、かなり良いものだったというのは伝わってきた。

 どのタイミングでユナとラムルはルシアがアクトだと気付いたのだろうと思っていたが、ラムルのテストを受けた直前の出来事と言えばディルに襲われて怪我をしたときだ。おそらく、そのときの手当てで刻印を見られたのだ、と思い当たった。

「確かに……生活に必要のないことまで、わたしが知っていることはたくさんあるわ。」

「となると、故意に記憶を消されている可能性もあります。」

 ルシアはラクスのその言葉に何か引っかかるものを感じたが、結局それが何かはわからなかった。しかし、奇妙な夢にしろ、何か心にかかる出来事がルシアの中で起こっているような気はした。

「……わからないわ。それに、無理矢理過去を思い出そうとも思ってないの。大切なのは過去よりも今だし、その方が楽だったから。ユナと暮らしていけるだけで、満足だったのよ。」

 ルシアはこれ以上わからないことに対して話をしたくなかったので、そのまま続けて別の話題を口にする。

「あなた、ユナにプロポーズしているんですってね。ユナから聞いたわ。」

 ルシアはラクスの頬が少し紅く染まるのを見た。

 その話題が出ることをある程度予測していても、それが突然出てくるとやはり恥ずかしいものなのか、とルシアは考えた。

「ユナはそこまで君に話しているのですね。プロポーズを受けるかどうか迷っていると相談されましたか?」

 照れ隠しなのか、ラクスは一瞬ルシアから視線を外した。

 ユナの話ぶりからおおよそラクスの人柄は想像できていたが、王子という立場ならもっと傲慢になってもおかしくはないのに、ラクスはルシアの想像以上に誠実で純粋な人物らしかった。

「そうね、相談されたし、わたしなりにアドバイスもした。でも、内容は言えない。ユナに悪いし。ねぇ、ユナのこと、ずっと好きだったんでしょう?」

「ええ、今でも好きですよ。愛しています。」

 ラクスが口にした言葉の中には、すでに動揺がなくなっていた。

「いつから?」

「きっかけはありましたよ。僕はユナが生まれたときから彼女を知っていて、初めは妹のようなものでしたけどね。ユナを愛していると気付いた時から僕なりに好意は示していたつもりでしたけど、ユナにプロポーズしたときの反応からすると、僕が結婚のことを直接口にするまで、ユナは僕からの好意に気付いてはいなかったようでした。気付いたら気付いたであからさまに避けられましたからね、少し強引なプロポーズで混乱させたとは思います。ただ、これだけは断言できます。誰よりもユナを愛していると。」

 その言葉を聞いて、ルシアはラクスがどれほどユナを愛しているかがわかった。ラクスが嘘をつく必要はないし、ユナとラクスの間には、ルシアの入り込めない別の空間が存在している。

 そして、ラクスならばユナを幸せに出来るだろうと思えた。

「ユナのこと、幸せにしてあげてください。ユナは迷っているけど、わたしがいなければユナは絶対にあなたとの結婚を迷ったりしなかった。わたし、このまま殺されてしまうから、ユナの結婚を見届けられないけど……」

 ルシアは努めて明るく言った。

 目前に迫る死の恐怖が、ルシアにはあった。死ぬことがたまらなく恐かった。しかし、ルシアはそれを無理に隠そうと努力していた。

「いえ、おそらく君が殺されることはありません。今こうして僕と話をしていることが、その証拠です。」

「どういうこと?」

 ルシアにはラクスが嘘をついているようには思えなかった。言葉の中に、強い断定性もある。

「通常、アクトは発見次第破壊されるか、全国民にアクトが発見されたと布告されるかします。3年前にもアクトが捕えられたことがありましたが、そのときもアクトが発見されたと、逮捕された直後に布告されました。その後に公開処刑が待っているわけですが……しかし、君は生きていますし、君がアクトだと知っているのは極わずかな人たちだけです。僕と父とユナ、あとは見張りを含めたアクト排除兵たちだけです。しかも、緘口令がしかれているようです。おそらく、父がユナとの交換条件に君を使うつもりなのでしょう。」

「わたしを?」

「そうです。父はユナに僕と結婚すれば君を殺さないと、交換条件を提示するつもりでしょう。そして、ユナは確実にその条件を飲みます。君と一緒に逃げようとしたくらいですから、君を助けるためなら、ユナはそれくらいのことはしますよ。まだユナは王宮に戻ってから目を覚ましていませんし、父もそのことを僕に言っていませんが、まず間違いありません。祖父が皆の反対を押し切って独断で決めた法律を遵守するより、よほど国のためになります。」

「ユナのこと……よく知っているのね。でも、あなたはそれでいいの?」

「たとえユナが彼女自身を犠牲として僕と結婚してくれるのだとしても、僕はそれを受け入れます。僕はそれほどできた人間ではないのですよ。」

「そう……じゃあ、あなたは何もユナに言うつもりがないのね。」

「わかりますか?」

 ラクスの顔は、ルシアが不思議がるほど落ち着いていた。しかし、ルシアはあえてそのことを尋ねることはせず、ラクスの問に答える。

「なんとなく、そう思えたの。」

「僕は父の考えを知っているとユナには言いませんし、ユナも僕には何も言わないでしょう。ユナは僕にただ、僕のプロポーズを受けると、それだけ言うでしょうね。君のことも、父に頼んで殺さずにすんだと。」

「お互いに全てを言い合えば、もっとわかりあえるのに……」

 ユナがラクスを愛していると、ラクスと直接話すことでルシアは確信した。

 確信する理由を言葉で説明するのは難しいが、しいて言うならユナとラクスは空気が近い。

 ユナはいつになったら、自分の本当の心に気付くときが来るのだろうか。

 ルシアが生き続ける限り、ディバの森がディバの森であり続ける限り、そのときはやって来ないのかもしれない。

 それに、ラクスもユナの本心を知らない。

 ルシアを助けるために愛していない人と結婚すると思っているユナと、愛されて結婚するとは思っていないラクス。

 現段階では、お互いのことを想っているのに、2人の心はかみ合っていない。

 しかし、ルシアはそのことを2人に言うつもりはなかった。

 時間ならばいくらでもある。これから2人は結婚するのだから。一緒にいれば、いつか気付くときが来る。

「何も言わなくとも、いずれわかるものです。ただ、今は言うべきときではない。それだけです。言ったところでユナが傷つくだけですし、僕はユナを傷つけたくない。僕が知らないふりをして全て丸く収まるなら、それでいいんです。」

 言葉の後ににルシアと同じように自嘲気味な笑顔を浮かべて、ラクスは立ち上がった。

「君と話が出来て、よかったと思います。これからも、ユナの親友でいてください。」

 最後にラクスはそう言い残して地下牢を後にした。

 ルシアとラクスが王宮で言葉を交わしたのは、これが最初で最後であった。



 ルシアとの会話を終えたラクスは、見張りの兵を元の位置に帰した後、アディックの執務室を訪れた。

 ノックをして中に入ると、アディックは机の上にある山のような書類に目を通している最中だった。

 3年ぶりのアクト逮捕やそれに伴う緊急通達の事後処理などで一気に仕事が増えたため、優秀なアディックでも滞りが出ているようだった。

「忙しそうですが……少し時間よろしいですか?」

「ああ、ラクス王子でしたか。構いません、どうぞお座りになってください。お見苦しい姿を見せてしまいましたね。」

 言いながらアディックは手にしていた書類を一旦机の上に置いて立ち上がり、ラクスに机の前に並べてあるソファを勧めた。ラクスがソファに座ると、アディックもラクスの対面にあるソファに移動して腰を下ろす。

「私の事務仕事は決済だけですから、見た目ほどの仕事量ではありません。お気遣いありがとうございます。」

 逆に気を遣わせてしまったな、とラクスは感じたが、それを言葉にすることはなかった。

 アディックは忠誠心が強く部下にも自分にも厳しいが、ケルスやラクスのように王族などの目上の者に対しては自らの力を誇示したりすることもなく、常に丁重に扱う。ラクスの年齢はアディックの半分にも達していないが、年齢で下に見てくることもない。上下関係をキッチリ分けているから、そういう意味ではラクスもアディックと話し易い部分はあった。

「先ほどは無理を言ってすみませんでした。でも、おかげでアクトと話すことができました。」

「お気になさらず。私はケルス王から『アクトが王宮にいることを知らない者を地下牢に通してはならない』という命令しか受けていません。ラクス王子はケルス王と共に私からの報告を受けておられましたから、問題ありません。どうでしたか?アクトの様子は。」

「落ち着いたものでした。こういう時に取り乱さないのも疑似生命体だからなのですかね。想像していたよりもずっと多くを話せました。」

「そうでしたか……逮捕後に移送車の中でいろいろ質問してみたのですが無反応だったので、意外です。」

 アディックは言いながら隣室の秘書に何か飲み物を持ってくるよう指示を出そうとしたが、ラクスはそれを手で制した。誰かに聞かれたくない話をするのだろうと判断し、アディックは秘書への指示を取り消す。

「今忙しいだろうとは思っていたのですが、アクトのことについてアディックの意見を聞いてみたくなったもので。僕はアクトと話すのは今回が初めてでしたが、アディックなら経験があると思い当たったのです。それに、今この王宮でアクトのことに一番通じているのはアディックですから。」

「買い被りすぎです、ラクス王子。私にはアクト制作最盛期の末端研究員ほどにも知識はありませんよ。知っているのは概要くらいです。ですが、その範囲でよろしければお答えします。」

「ありがとうございます。では、率直に言って地下牢のアクト……ルシアは、アクト全体の中でどの辺りの立ち位置に存在して、何の目的で作られたのだと思いますか?」

 ここでラクスは初めてアディックの前でルシアのことを固有名詞で呼んだ。王子という立場上、ルシアに肩入れしていると思われてはいけないので、固有名詞で呼ぶのを極力控えていた。

 アディックは少し考えを巡らしてから、ゆっくりと口を開く。

「そうですね……ラムル老の話と森の中で接した雰囲気から考えて、自立思考型であることは間違いないでしょう。ただ、想像していたよりも遥かに人に近いと感じました。

 一般的に市販されていたほとんどのアクトは見た目はほとんど人と変わらないまでになっていましたが、動きを見たり直接話すとアクトだとわかる場合が多いのです。一般人でも軍人みたいな規律正しい動きをしたり、言葉にしても抑揚がないというか、棒読みになる場合が多いので。

 しかし、あのアクトは刻印を確認するまでアクトだと確証が持てないレベルでした。まあ……刻印の解析結果でラニア研究所で制作された最後の個体だったということがわかりましたから、それまでに制作されたどのアクトよりも性能が高いと考えれば、そういう個体もあるのかとは思いますが。」

「ラニア研究所がアクト制作において群を抜いていたというのは知っていますが、それほどのものだったのですか?」

「ええ、私も資料で知る限りですが。そもそもラニア研究所についてわかっていることはあまり多くはありません。元々情報を外に出さない研究所でしたし、アクト排除法成立後、その技術力の高さから真っ先に破壊命令が出た場所ですが、アクト排除兵にとって最初の作戦行動だったせいか、上位研究員の抵抗が激しく銃撃戦が起き、最終的に火災が発生し、主だった資料が焼失したのに加えて、上位研究員が全員その場で死亡しました。生き残った研究員たちも研究の詳細は知らされていなかったため、ラニア研究所が何を目指していたのかはわからずじまいです。私は当時まだ兵士長という立場にはありませんでしたし、そもそも世に出たラニア研究所の作品は100体もありませんから、稼働中のラニア研究所のアクトを見たのは今回が初めてでした。」

 ラニア研究所が謎に包まれた研究所だったということはラクスも知っていた。少数精鋭の研究所で、女性タイプのアクトのみを制作していたというが、制作されるタイプがバラバラで、なぜそういうアクトを制作したのかという意図がわからないものが多かったという。

 また、研究資料が処分されてもうないことはわかっていたが、それらを確認する前に焼失していたということまでは知らなかった。そうなると、ラニア研究所についてこれ以上詳しく知ることは無理そうだった。

「ただ、アクトには様々なタイプのものがありましたが、その第一号を出していたのは大抵ラニア研究所でした。初期の頃の人の介助をするヘルパータイプから始まり、看護師や医師の技術を持ったタイプ、後期は歌手や俳優などの芸能タイプもいました。コンセプトはバラバラでも、ラニア研究所がそういった様々なタイプの最初の一体を世に出すと、他の研究所なり工場がそれを真似して増えていく、そういう場合が多くありました。現在は映像資料が残っていないので私の記憶する限りですが、芸能タイプのアクトはかなり人に近い動きや話し方をしていました。数自体少なかったですが。」

「では、アディックの私見で構いませんが、ルシアはどんなタイプだと思いますか?」

「なかなか難しい質問をされますね……」

 そう言って、アディックは腕を組んでしばらく無言で考えをめぐらせた。

 ラクスも口を挟むことなく、アディックの答えを待った。

「ラムル老からの情報から考えて、技術タイプでも芸能タイプでもないだろうと思います。ユナ王女の傾倒ぶりから考えると、人の心に寄り添う感情面に特化されたセラピータイプような……ただ、自立思考型とはいえアクト自身の意見も主張するようですから、より人に近い。まるで、人の手で創られた人のような……いや、すみません。忘れてください。私の口からは何とも言えません。」

「いえ、こちらこそ。個人的な興味で困らせてしまいましたね。では別の質問なのですが、刻印の解析結果が出たと先ほど言っていましたが、ルシアの稼働開始日時はわかりましたか?」

「それに関しては、ラニア研究所制圧の数時間前でした。おそらく、アクト排除法成立直後、アクト排除兵がラニア研究所に向かっているという情報を受けて急いで稼働させたものだと思われます。自立思考型のアクトなら、自らの足で逃げることができるかもしれないと考えたのかもしれません。刻印の情報偽装はできませんから、間違いありません。」

「では、20年間どこかで稼働し続けていた、ということですか?」

「おそらくそうでしょう。アクトは人間と同じように飲食を行いますが、それは人間に似せるための行動であってエネルギーを得る意味合いはありません。刻印と体内の核が無事なら、補給なしでも稼働は可能です。ラムル老は最近稼働開始されたのではないかと推測されていましたが、刻印の解析結果の方が正しいでしょう。」

「ということは、20年間どこかで稼働していたのに、記憶がない、と。」

「その辺りにはいろいろ矛盾する事実があるので、全て推測になってしまいます。記憶回路に何かしらの不具合が出て記憶を失くしたのなら、何も覚えていないか、もっとまだらに記憶が残っているはずです。なのに、知識は丸々残っているのに自身の経験に関する記憶がない。となれば、ラムル老のように最近稼働したと考えるのが妥当です。ですが、あのアクトは刻印の初期設定では”ルシア”という名前ではないのです。そうなると、新しい”ルシア”という名前を与えられて誰かにかくまわれて20年間どこかで過ごし、名前以外の記憶を消されてディバの森に迷い込んできた……となります。」

「それはまた……新たな疑問の出る結論ですね。」

「ええ、全く。」

 アディックは少し苦笑して続ける。

「そもそも記憶を消すなら全て消した方が手っ取り早い。アクトならそれも可能です。それなのにわざわざ後からつけられた名前だけ残している。そんな器用な記憶の消し方は、たとえアクト相手でも現代の技術では不可能です。ラニア研究所が当時の技術力のまま残っていたとしても、です。魔法でもあれば話は違うのかもしれませんが、それも現代には存在しない。」

 精霊が魔法技術と共に世界から消えて100年以上になる。アディックはもちろん、もう魔法を見たことがある人もこの世には存在しない。

「ディバの森でユナ王女に見つけられたときも大して服は汚れていなかったという話ですから、どこからか逃げだしたというわけでもないのでしょう。20年間かくまってきたのに、名前以外の記憶を消してディバの森へ放り出す……言っている私でもちょっと意味が分かりません。自分を人間だと思い込んでいるアクトというのも初めて見ましたから、あのアクトに関してはわからないことだらけです。」

 ラクスはアクトについて聞けるのはここまでだろう、と判断した。

 思いがけずルシアについての追加情報を得ることもできたが、さすがにその情報を持ってもう一度ルシアに会うことは出来ない。王族が何度も地下牢を訪れてはいろいろ不審がられてしまう。

「ところで、ユナ王女の様子はいかがですか?」

 言われてラクスは少し入り込んでしまった思考の世界から引き戻された。

「まだ眠っています。医師の見立てでは、あと丸1日くらいは眠り続けるだろうと。」

「その点は本当に申し訳ありませんでした。薬を少し多く吸い込んでしまったようです。薬が効きやすい体質というのもあるかもしれません。ただ、後遺症が出るような薬ではないので、そこは安心してください。

 ユナ王女が目を覚まされたら、ラクス王子から、私が手荒なことをしてしまってすまなかったと謝っていた、と伝えていただけませんか?」

 アディックは一旦立ち上がってからラクスに深々と頭を下げた。

「頭を上げてください。アディックは王命に忠実に従ったまでです。ユナもそこは理解しているはずですから、怒ってはいないと思いますよ。僕から伝えるより、アディックから直接伝えた方がいいのではないですか?」

 本来ならアディックは謝罪を人任せにするような人ではない。ましてや王族にある種危害を加えたのだから、直接謝罪が本来の姿のはずだ。

 ラクスもアディックがユナにしたことに対して怒りは全くなかったが、アディックは非常に申し訳なさそうな顔でソファに座り直した。

「ユナ王女にとって私は友人を奪った憎き者です。しばらくは顔も見たくないでしょう。頭ではわかっていても、感情がついてこないことはあります。」

「そうですか、わかりました。伝えておきます。」

「それと、ユナ王女のことでもう一つ。」

 ここでアディックはいつになく神妙な顔つきになって続ける。

「ユナ王女はディバの森のことをよくご存知でした。足跡を残さないように歩いていたなら、おそらく我々でも追跡できないほどわかりにくく、それでいて正確なディバの森の抜け道を使っておられました。ただ、いくらディバの森のことを知っていても、あれだけ広大な森の全てを把握することなど不可能です。

 森の中というのは想像以上に危険です。同じような景色がずっと続くので、すぐに自分の位置を見失います。ましてや夜ともなれば、森の中を知っていたとしても、移動もままならないのが普通です。むしろ、ユナ王女が道を知っていたというよりも、道を知っている誰かに誘導されているようでした。もちろん、あのアクトは何も知らない様子でしたが。

 それから、家の中の様子とユナ王女の歩くスピードを考えると、ユナ王女が逃げる準備を始めたのは丁度我々がディバの森に入った頃だと思われます。それがあまりにタイミングが良すぎたようにも感じました。まるでディバの森の状況を全て把握している誰かに知らされたようで、ユナ王女を誘導したのもその人物ではないか、という気がしてなりません。

 しかしながら、そういう人物がいたと仮定すると、どうして足跡を残さないように注意しなかったのか、アクトを逮捕したときにその場にいなかったのか、という矛盾が出てきてしまいますが。」

 そう言われても、ラクスには何とも判断がつかない問題だった。

 アクト排除兵たちが王宮を発ってから戻ってくるまで半日以上かかっていたので、想像よりも遅いとは思っていたが、その理由がユナの逃げ足の速さのせいだとは考えてもいなかった。

 ただ、アディックがこういう進言めいたことを言うのは珍しいな、とラクスは感じた。

 現時点でルシアを捕らえたと公表しないこと、ルシアについて緘口令が出ていること、緊急通達を誤報としたことなど、そうする理由は何なのか、アディックからしてみれば聞きたいことは山ほどあるはずだ。けれど、それが王命ならば疑問など口にせず、よほどのことがない限り従うのがアディックという人でもある。そのアディックが疑問を口にするのだから、ラクスには知っておいてもらいたいことだと判断したのかもしれない。

「申し訳ありません、余計なことでした。お気になさらないでください。」

 アディックの言葉に対してラクスが何も言わなかったので、アディックは最後をそう締めくくった。

「時間を取らせてすみませんでした。執務に戻ってください。」

 ラクスは言いながら立ち上がり、アディックの執務室を後にした。



 ユナが目を覚ましてケルスに会いに行った後、自室に戻ったラクスはルシアと、そしてその後のアディックとの会話を思い出していた。

 ラクスはルシアと接してみて、ユナが心を開いた理由がわかった。

 ルシアには、人に話をさせる力がある。人間がほとんど忘れてしまったような人間らしい純粋さ、それをルシアは持っていた。もしかしたら、そういう風に調整されているのかもしれない。

 それゆえ、ラクスも思わず本音で話をしてしまった。

 おそらく交わされるであろうユナとケルスの密約の話も、本当は話すつもりもなかった。

 ただ、その後にアディックと会話をしたことで、わからなかったことがわかるようになったこともあったが、更にわからなくなってしまったことの方が断然に多かった。

 ルシアが人の心に入り込んでくるのはそういう設定だからなのかと思っていたのだが、アディックの口ぶりからすると一概にそうとは言い切れないようだった。アディックの知るアクトとルシアはかけ離れすぎていて、比べようがない、ということなのかもしれない。

 それに、ユナの逃走経路のこと……ただ、これは直接本人に聞ける話題ではないようにラクスは捉えた。聞いたところで答えてくれないような、そんな話題のような雰囲気がある。

 と、そこで扉をたたく音がラクスの耳に届いた。そのとき、ようやくラクスは現実の世界に引き戻された。

 ラクスは扉の前の人物を待たせてはいけないと、考えを打ち切ってから扉を開けた。扉を叩いた人物をラクスはある程度予測していたから。

 そして、その予想は当たっていた。

「お部屋に入ってもよろしいですか?」

 そこには明るい笑顔でたたずむユナの姿があった。

「ええ、構いませんよ。ユナ。」

 ユナがラクスの部屋に入ることは、ユナが隠居して以来初めてのことだった。つまり、ユナは丸4年ラクスの部屋に足を踏み入れなかったことになる。

 おそらく、ユナ自身が隠居したときにそう決心していたのだろうが、それを破ることがどういう意味なのか、ラクスはユナに聞かずともわかった。

 ラクスはユナを部屋に招き入れ椅子を勧めたが、ユナはその椅子には座らず、すぐに本題を切り出す。

「あの、プロポーズの返事を、今してもよろしいですか?」

「……はい。」

「ラクス王子と……いえ、私、ラクスのプロポーズをお受けします。」

 ラクスの顔をまっすぐ見ながら言ったユナの言葉は、かつてユナが王宮でラクスをそう呼んでいたときの呼び方だった。


 第一部 完

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