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好きなものは語りたいよね

話しの区切りって難しいですね。つい長くなってしまいました。

 朝目が覚めたら目の前にイケメン(カール)の顔があった。

 悪戯したくなり、ペンで顔に落書きをしようとした。

 カールとバッチリ目があった。


 そして俺は今カールの膝の上で、髪を梳かしてもらっている。

 何故だ?

 怒られると思ったが、ニコニコしながら俺を膝に乗せているこの状況。

 カールってば、まさか…そういう趣味が?

 今日は早起きだったようでイーナが起こしに来るまで暫く掛かり、その間ぬいぐるみのように可愛がられた俺なのでした。


 朝食を済ませた後、のんびりとお茶を飲むーー何てことは出来なかった。

 明日は第一王子のお披露目会があるのだ。

 昨日は王都に着いたばかりで、疲れも溜まってるだろうと見逃されたが今日はそういう訳にもいかない。

 パーティのマナーや作法のおさらいなど、やることがいっぱいだ。


「綺麗ですよ、お嬢様!」

「そうね。そのドレス、本当によく似合ってるわ!」


 なんだ?俺は嫁にでも行くのか?

 今俺は、装飾品やドレスの試着をしている。

 取っ替え引っ替えをすることすでに一時間以上経っている。

 着せ替え人形の気分を知ることが出来る、とても有意義(ゆーいぎ)な時間でした。ふふふ。つかれた。


 着せ替え人形イルメラちゃんが終わると、やっと今日の予定が終わった。

 後は自由に過ごして良いと言われたが、外に出ては行けないとも言われてしまった。

 現在の時間は午後の4時過ぎくらい。

 お茶をしようにも夕ご飯が食べられなくなりそうだし、こういう時にできる趣味も持ってない。

 自由な時間が欲しいと思っても、いざ手に入ると何をすれば良いのか分からない。

 よくあるやつだな。


 兄はもうそろそろ帰ってくるだろうけど、それまでが暇すぎる。

 とりあえず屋敷の中を散歩してみよう。

 何か面白いものがあるかもしれない。

 うーん…お!リビングに母がいた。


 母はソファに座って本を読んでいた。

 何読んでるんだろう?

 前に回り込んで表紙を見てみると、最近大人気の恋愛小説だった。舞台もやるという話をイーナから聞いた。

 まあ俺は恋愛小説とか興味ないけどね。


「……?…イルメラ、どうしたの?」


 俺に気がついたのか、母が声を掛けてきた。


「なんでもないです」

「そう?何かあったら遠慮なく言うのよ」


 そう言い読書へと戻っていく母。

 娘がやってきたのにまだ本を読み続けるとは、ぐぬぬ。

 そこは「あら、私と遊びたいの?良いわよ。おいで」くらい言ってくれても良いじゃないか。

 俺は暇なんだ!


 それにしても、かなり集中して読んでるな。

 そんなに面白いのだろうか?

 なんだか興味が湧いてきた。


 母が座ってる隣へ行き、本を見てみるとページ数的にまだ半分もいってない中盤辺りだった。

 このくらいからなら、読み始めても内容を理解できそう。

 一緒に読ませてもらおう。


 ふむふむ、なるほ『ペラ』…。

 へーそんなこ『ペラ』……『ペラ』……『ペ』バシっ!


「きゃっ!…イルメラ?急にどうしたのよ、びっくりするじゃない」


 母よ…。

 読むのが速い!

 思わずページを押さえちゃったよ!

 まあ、勝手に横から読んでるだけなんだけどさ。


「一緒に読みたいの?」

「うん」

「こっちへおいで」


 流石は母。

 俺が本を読みたいと察してくれたらしい。

 そして母は流れるような動きで俺を自分の膝の上に座らせた。

 今日はよく膝の上に座らせられる日だ。

 後は父で家族コンプリートできる。しないけど。

 と、まあ思考はこの辺にして、折角母が一緒に読ませてくれているので、本に集中する。


 ーーヒロインが悪役に虐められている場面。

 悪役もなかなか酷いことをするな。ヒロインが可愛そう。

 思わず掌を握る指に力が入る。


 ーーヒロインとヒーローが両想いなのに気付かず、すれ違いが起きてしまう場面。

 違う!違うんだよ!二人とも両想いなんだよ!気づいてよ!そんな悲しまなくても良いんだよ!

 焦ったさを感じてついつい興奮してしまう。


 ーー悪役を断罪する場面。

 彼女は許せないわ!ヒロインとヒーローの間を引き裂こうとしたり、ヒロインを虐めたりととんでもない悪女だったわね。当然の報いね。


 ーー数々の苦難を乗り越えたヒロインとヒーローが告白をする場面。

 きゃあ!なんて素敵なの!私も将来はこんな風に…。


 …………パタン。


 ふぅ…読み終わった。

 なかなか面白かったじゃないか。

 なんだか最後の方はおかしくなってた気がするけど、きっと気のせいだろう。

 いや、気の迷いか。


「ふふ、イルメラったら表情がコロコロ変わってて可愛かったわよ」

「…っ!」


 一瞬何を言ってるのか分からなかったが、理解したら顔がボンッと真っ赤になった。

 可愛いと言われて嬉しくなるだなんて。

 きっとこの恋愛小説を読んだからに違いない。

 まったく危ないところだったよ。

 中身まで乙女になってしまったら、完全に女の子になっちゃうじゃないか。


「ただいま。二人とも何をしてるの?」


 カールが学園から帰ってきた。

 母の膝に座る俺を見て、何をしてるのか疑問に思ったようだ。


「おかえりなさい。一緒にこの本を読んでいたのよ」

「なるほど。…ああ、その本は最近人気の小説ですね。学園でも噂になっています」

「そうでしょう?とっても面白いんだから。それよりもうすぐ夕食の時間だから、荷物を置いていらっしゃい」


 もうそんな時間か。

 やっぱり本を読むと時間過ぎるの早いな。

 今後の暇つぶしにいいかもしれない。

 また母のところにお邪魔して別の本を読ませてもらおう。


 そうして、夕食も終わり風呂も済ませて寝る準備万端の状態のまま部屋で寛いでいたが、さっきからあの小説を読んだせいで胸がドキドキしっぱなしだ。

 恋愛小説があんなに面白かったとは。

 正直今までなめてました。

 うーん。考えてたら読みたくなってきたぞ。

 母から借りてこようかな。

 よし、そうしよう。善は急げだ!


 そうして廊下をぱたぱたと走り、母の部屋の前まで来た。

 ノックを適当に2、3度し返事が来るまで待つ。

 わたくし淑女なので勝手に入るなんて下品なことは致しませんわよ。オホホ。

 すぐに「どうぞ」と優しい声が返ってきた。

 それでは失礼します。

 勢いよくドアを開けて中に入る。


「あら、イルメラ。どうしたのかしら?」

「本、読みたい、です」


 すると母は何かを察したようで、ニコニコとしながら「ちょっと待っててね。今持ってくるわ」と言い、本棚から数冊持ってきてくれた。


「イルメラくらいの歳だとこれがおすすめよ。少し子供向けな内容だけど、その分純粋に楽しめるわ。それとこっちの本は少し前に流行っていたもので、とっても面白かったから是非読んでみて。後はこれとこれは特におすすめよ。ヒロインがーーー」


 やばい。

 母の話が止まらない。

 これがあのマシンガントークというやつか!

 ちくしょう、なんて連射力なんだ!これじゃあ手も足も出ない。

 いや、そもそもこっちは弾が詰まってるんだけどなあ!


「ーーというわけで、どれから読む?」


 あ、やばい。

 何も聞いてなかった。

 というか全部恋愛小説じゃないですかー。

 流石母、分かってらっしゃる。

 で、どれにするか選ぶんだよな。

 うーん、適当に決めてもいいけど、ここは母に選んでもらおう。


「お母様、決めて」

「私が選んでいいの?そうねー…やっぱりこれかしらね」


 そう言って母が選んだのは、伯爵令嬢と王子の恋愛を描いたものだった。

 相手が王子とは、ベタだなー。

 ん?王子?なんか王子に関係することがあったような気がするけどなんだっけ?まあ思い出せないなら大したことではないんだろう。


「ありがとう。読む」


 本を受け取り自分の部屋へ帰ろうとドアへ向かうが、ふと「折角だから母の部屋で読んだらいいじゃないか」と思い、そのまま回れ右をして母の元へ戻ってきた。


「ふふ、どうしたの?急に戻ってきて」


 俺が戻ってきたのが可笑しかったのか、母はくすくすとお上品に笑っている。


「ここで読みたいので、…だめ、ですか?」

「ダメなんて言うわけないじゃない。好きなだけ居て良いわよ」


 よし、言質は取ったので今度から暇なときは入り浸ろう。

 まあ、王都は明後日にでも発つらしいけど。


 母もどうやら読書の途中だったようで、また再開している。

 夕食前にも読んでたし本が相当好きらしい。


 俺も本を読もうと、母の座っているソファの隣へ腰を下ろす。

 早速本を開くと読書に集中する。


 ーーーー。


 ふぅ。

 大体半分くらいまで読んだ。

 ずっと同じ姿勢だったせいか、身体が痛い。

「うーん…」と伸びをしながら、母の方をチラと見ると黙々と本を読んでいた。

 かなり集中してるようで、こちらに気づいた様子はない。


 その目が本に釘付けになっているのを見ていると、なんだか淋しさを覚えた。

 「自分を見てほしい」と思ってしまう。

 内なるイルメラが年相応に駄々を捏ねているのか、それとも俺は甘えん坊だったのか。

 理由はどうあれ甘えたくなったので、母の膝の上に座って「私を見て!」とアピールする。

 やった後に怒られたり、嫌われたらどうしようと思ったがそんな心配はいらなかった。


 母は最初びっくりしたようだったが、「そのまま膝に座ってて良い」と言うように俺の頭を撫でてくれた。

 それで安心した俺は、疲れもありそのまま眠りに落ちていった。


「ふふ、私の可愛いイルメラ。おやすみなさい」


 最後にそんな言葉が聞こえた。

お読みいただきありがとうございます!沢山のブクマ、評価ありがとうございます!励みになります!今後とも「コミュ障TS令嬢は構われたい!」をよろしくお願いします!

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