楽しくてつい忘れちゃうことってあるよね
沢山のブクマと評価ありがとうございます!なんだか夢なんじゃないかと疑ってしまいます。それではどうぞ!
「ふぅ…今日は大変だったな」
あれから色々あって、今は夜。
今日の出来事を思い出す。
事故に遭って死んだと思ったら、超絶究極美幼女(ここ重要)になっていて。
その上目が覚めたら知らない人が話しかけてきて、この身体の両親と初対面をして記憶がないことがバレてひと騒ぎ起きたり。
「でも、あれは楽しかったな」
そのときのことを思い出して無意識の内に笑顔が溢れる。
◇
ショックが大きかったのか、泣き出してしまった母をイーナが連れて出て行った。おそらく母の自室に連れて行ったのだろう。
そして残された俺と父。
俺が気まずげに視線をあちこちにやっている間、父は眉間にシワを寄せてずっとこちらを見ていた。いやん、そんなに見つめられると照れちゃう!
暫くして口を開いた父に「何か覚えていることはないか」「本当に何も覚えていないのか」といったことを聞かれたが、何も思い出せないとしか答えられない。
「記憶どころか中身別人になりました!」などとは口が裂けても言えない雰囲気で、そのことがバレたらどうしようと気が気でなく冷や汗が止まらなかった。
まったく、コミュ障の俺になんて試練を科しやがるんだ!
そうして何とかその場を乗り切った俺は、部屋へ戻りベッドへゴロンと転がり、この身体と今後のことを考えていた。
俺は一度死に、目が覚めるとこの世界でこの身体になっていた。
この身体の元の持ち主は、余命宣告をされていたらしく今日がその最終日だった。多分元の持ち主はそれで死んでしまい代わりに俺がこの身体に入ったのだと思う。
もしくは、無事に峠を乗り切り前世の記憶を思い出したのかな?でも、元の持ち主の記憶がないのは何でだろう。あまりのショックに一時的に記憶がどっか飛んでったのか?
いずれにしろ、元の世界の俺は死んでしまったのであちらへは戻れないだろうし、元の持ち主の分までこの身体を大切にして生きていくしかないだろう。
そしていつの間にか夕食の時間になったようで、イーナが呼びに来てくれた。
食堂で父、母、俺の三人で食べるらしい。
先程の件もあり、なんだか居心地が悪い。
席に着くと母がニコニコしながら、こちらを向いていた。
何だろうと思っていると母が声を掛けてきた。
「イルメラちゃん、さっきは取り乱してごめんなさいね。例え記憶がなくなっても貴女は私たちの娘に変わりないわ。これからまた一緒に楽しい思い出を作っていきましょうね」
その言葉に俺は泣きそうになった。
元の持ち主がまだこの身体に残っていたのか、それとも俺の涙腺が緩いだけか、俺の心がじんわりとした温もりに包まれた。
「いい母親を持ったな」と思ったとき、誰かが「うん!」と返事が聞こえた気がした。空耳だったのかは分からないが、元の持ち主が笑っているような気がした。
それからは、何故かコミュ障力を発揮せず両親と普通に会話ができた。
以前のイルメラの思い出話しや家族のこと、この屋敷の人たちのこと。
色々な話しをしたがとても楽しかった。
両親の名前も聞いた。
父がギルベルト・クラインベック。
領地持ちの貴族で、爵位は伯爵だそう。
通りででかい屋敷に使用人も居ると思ったよ。
二十代前半くらいの見た目をしているのになんと、すでに三十路を超えているらしい。見た目詐欺も良いところだ。
容姿は超がつくイケメンで白っぽい銀髪に、綺麗な翡翠色の瞳をしている。
俺も転生するならこういうイケメンに転生したかったなと思ったが、すぐにイルメラに悪いと思い直した。
この身体もめちゃくちゃ美形だしな。
それに一度死んだのに、また人生を歩めるというのは普通できないだろう。これ以上の贅沢はバチが当たりそうだ。
母の名前はエリーゼ・クラインベック。
こちらも三十路を迎えているらしい。これには父の時よりびっくりした。
母は腰まで届くふわふわとした深い青色の髪に、私と同じ琥珀色の瞳をしている。
そして俺をそのまま大人にしたような、凄い美人さんだ。
美人は近寄りがたい雰囲気を持っていると言うけど、母の場合は表情が豊かで全くそんなことは感じなかった。
俺も将来こんな風になるのかなと思うと、何故か胸がドキドキした。
俺、中身は男なのに…。
ついでにこの場にいない兄のことも教えてくれた。
名前はカール・クラインベック。
歳は十五歳で現在は王都にある学園へ通っているらしい。
髪は母に似て深い青色で、瞳は父に似て翡翠色をしているらしい。
顔も父譲りのイケメンなんだとか。
美形一家だな。
この家の跡取りで学園に通う前から領地経営を父に付いて学び、すでに優秀な働きぶりもしていて皆んなからも期待されているんだって。
チート野郎だということがよく分かった。
だが、そんな完全無欠の最強兄にも一つ欠点があった。
それはーー超がつくシスコンである。
年齢も離れているし、イルメラが産まれたばかりの頃から世話をしてくれたり、遊び相手にもなってくれていたらしいが、そうしている内に愛情が爆発したんだとか。
ちなみにこれは本人談らしい。あまりにもイルメラと一緒に居たがるカールに父が聞いたところこのように言っていたようだ。
幸い彼のイルメラに向ける愛情は男女のそれではなく、家族への親愛なので放置されていたらしい。イルメラもなんだかんだ兄が好きだったのか、喜んでいたみたいだし。
だが、中身が俺になったのでカールには悪いが、なんだか会いたくないと思ってしまった。中身が俺だとバレるかもしれないし。
最後に俺のことも教えてもらった。
俺は今五歳らしい。兄とは十歳差だ。
髪は父譲りの瞳は母譲りだった。
以前のイルメラは口数も少なく表情も乏しい子だったようだ。
周囲からは冷たい印象を持たれてそうだなと思ったが、そんなことはなくこの屋敷の人たちはイルメラのことを可愛がってくれていたらしい。
良い人たちに囲まれて幸せな生活を送れていたようで何より。
それから、皆んなの好きな物や最近の身近にあった出来事を色々話してくれた。
母がいかにも良いことを思いついたという風にパンッと手を合わせ「明日一緒にお茶をしましょう!」と言ったときは、美人が子供のように無邪気な笑顔を浮かべるギャップが面白くてつい笑ってしまった。
俺は前世のときにはあまり家族と会話をしていなかった。
家にいるときはコミュ障ということもあり自分から話しかけなかったし、返事も素っ気なく返していた。用がなければ部屋に篭っていたし、今思えばもっと家族との時間を大切にすれば良かったな。後悔先に立たずってやつだ。
でもその分この『イルメラ』の家族を大切にしようと思う。
勿論イーナたちこの屋敷の人たち全員もね。
これからは頑張って自分からも話しかけてみようと思う。いくらコミュ障でもそれくらい出来るはずだ。多分。
◇
そんな感じで終始楽しく夕食を済ませ、部屋に戻って来たのだった。
今日だけで一月分くらいのイベントを経験した気がする。
でも悪くないと思った。
会話している最中ずっと心がぽかぽかしていて、癖になりそうだった。
こんなことは前世でも経験したことがなかった。
もっと話したいと思った。
今日はもう寝る時間なので、明日の、朝はイーナが起こしに来てくれるそうなので彼女と話しをしよう。
そう思いベッドへと入り、遠足前の小学生のようにドキドキワクワクしながら布団に包まると、身体は疲れていたのかすぐに意識は落ちていった。
翌朝。
誰かの声がして眠りから覚めるが、まだ寝足りないのかふわふわとした微睡を楽しんでいた。
すると声の主は俺の体を揺すってきた。
仕方なく目をゆっくり開ければ、そこにいたのはイーナだった。
一瞬「誰?」と思ったが、すぐに異世界に転生したことや昨日のことを思い出した。
そして昨日の夕食のときのことも。
あの感覚をもう一度味わいたい。
そう思い、イーナへ話しかける。
しかし、このとき俺は忘れていた。
そうーー。
「…っ」
俺、コミュ障だったわ。
こうして彼女は構ってちゃんへの一歩を踏み出したのでした。
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