知らないものは知らないんだから知らないんだよ!
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「…お嬢様?これは一体どういうことでしょう?」
ドッキリ名『布団の中にいたのはクマさんでした。』は大成功だったようで、彼女は顔を真っ青にして冷や汗をかいていた。
今までクローゼットの中に隠れていた俺はネタバラシとして彼女の袖を引っ張り、「俺はここにいるよー」とアピールした。
その時、こんなに良い反応をしてくれた彼女に、「突然現れた!」とまた驚いてくれるかもと期待せずにはいられず、少々悪い笑みが浮かんだのはご愛嬌ということで。
そしてこちらに振り向いた彼女が放ったのが冒頭の言葉である。
一見にこやかに見えるが、目が笑っていない。
「あ、その、あの…」
やめて!そんな目で見ないで!コミュ障が捗っちゃう!
「はぁ…。もういいですよ。お嬢様が無事なら良かったです。でも今後はこういうこと、もうしないで下さいね?」
「あ、はい」
「私はお嬢様がお目覚めになられたことを旦那様に報告して来ますので、大人しくしていて下さい」
なんだか問題児扱いされた気がする。
やはり『布団の中にいたのはクマさんでした。』は刺激が強かっただろうか。
そりゃあ女の子が寝てると思って布団を捲るとクマ(可愛くデフォルメされたぬいぐるみ)が居るんだからびっくりするよな。
歳若い娘に対しては些か鬼畜の所業だったというわけだ。
反省反省。
暫し椅子に座ってぼーっとしていると扉がノックされた。
これは返事をした方が良いのだろうか?
多分した方が良いんだろうなあ。
「どうぞ…」
蚊の鳴くような小さな声だったが、聞こえていたのかドアが開かれた。
部屋へ入って来たのは、先ほどのメイドと目が釘付けになる程の美女、それと眩しいくらいのイケメンだった。
一体後の二人は誰だろうと思い凝視してしまったのはきっと知らない人という理由だけではないだろう。
「おお、イルメラ!目が覚めたんだね!」
「イルメラ!本当に良かったわ…」
二人とも何故か凄い喜びようで、揃って俺に抱きついてきた。
「あの、あなた方は誰ですか?」と言ったらこの二人はどんな反応をするんだろうか、と好奇心が鎌首をもたげたが流石にそんな空気じゃないのは分かる。
いくらコミュ障でもそれは察せた。
それにおそらく彼らはこの体の両親だと思う。
メイドは俺のことを『お嬢様』と呼ぶし、『旦那様に報告してくる』と言ってたので報告を受けた彼らはそのまま娘に会いに来たというところかな。
これでこの二人が両親ではなく別の人たちだったら人間不信に陥りそう。
というかこの人たち俺のことを『イルメラ』って呼んでいたから、俺の名前はイルメラなのか。
いかにも女性名って感じで女になったんだなと改めて実感した。
暫くして二人とも抱擁を解いてくれた。
「イルメラ、さっきからぼーっとしてどうしたんだい?まだ体調が悪いのかい?」
考え事をしていたからか、父を不安にさせてしまったようだ。
何か喋らなければ!
ぐっ、この『しなければいけない』という義務感が俺を責め立てる。お腹が痛くなってきた。
「…大丈夫です。私、元気」
片言になってしまった!
ああ、穴があったら入りたい。いや、いっそ埋めてくれ!
「イルメラ、無理はしてはダメよ。もし何かあればすぐにイーナに言いなさい。私達が駆けつけるわ」
母はそう言い、『イーナ』という名前を出したときにメイドへ視線を向けていた。
なるほど、あのメイドはイーナというのか。やっと名前が知れたよ。
後駆けつけて来なくていいです。特に父は仕事があるだろうからそちらを優先して下さい。
二人とも娘の事を大事にしていることが痛いほど伝わってきた。
そんな彼らに「中身が別人になってしまいました」などと言った日には、卒倒してしまうんじゃないだろうか。
これは誰にも言わず墓場まで持って行こう。
「カールも心配していて毎日手紙を送ってきていたぞ。お前からも手紙を送ってやるといい」
「?あの、カールって誰ですか?」
知らない人の名前が出てきたのでつい誰なのか聞いてしまった。
すると部屋の空気がピシッと固まった。
三人共笑顔のまま身動ぎせず固まってるから、時間が止まってしまったかのようだ。
あれ、俺また何かやっちゃいました?
「何を言っているんだ?カールはお前の兄だろう。あんなに仲が良かったじゃないか」
「?」
冷や汗をかきながら父がそう教えてくれたが、正直俺が目覚めてから会ったことがないし、記憶もないのでピンとこなかった。
それが顔に出ていたのか、三人が息を飲む。
「イルメラ、私たちが誰か分かるかい?」
そう言った父は自分と母へ指を向けていた。
「おとうさんーま…とお母様?」
前世では両親のことを『お父さん・お母さん』と呼んでいた。その癖でそのまま呼びそうになったが、なんだか服装も高そうだし、メイドも雇っているしお金持ちっぽいので両親の呼び方は『お父様・お母様』かなと思い途中で変えたみたが変になってしまった。
なんだよ『おとうさんーま」って。呪文か?
幸いそれどころではないのか、皆んなスルーしてくれた。
「ああ、そうだ。名前は分かるかな?」
「…」
名前は知らないので、逃げるように視線を逸らすと三人共まるで雷が落ちたかのような愕然とした顔をしていた。
なんだか罪悪感がすごくてやばい。
「そんな…イルメラ、あなた記憶が…」
母がその場で崩れ落ちるように座り込んだ。
父は母の肩を抱き、難しい顔をしている。
メイドは呆然と立ち尽くしていた。
何このシリアスみたいな展開。
誰か!誰でもいいのでこの状況を何とかして下さい!
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