寝ているメイドにイタズラをしてみた
沢山のブックマークと評価ありがとうございます!朝見てみると凄いことになってて驚きました。励みになります!それではどうぞ!
目を覚ますと先程と同じベッドで寝ていた。
デジャヴを感じる。
ただ違うことがあるとすれば、ベッドの側で椅子に腰掛けながら寝ているメイドがいることだろう。
多分さっきの人と同じだと思う。
顔くらい覚えとけよって思うかもしれないが、そもそも会話をしたい訳じゃないから顔と名前を覚えるのは苦手なんだ。これは脳が勝手に不要な記憶として処理してるからに違いない。それもこれも全部コミュ障のせいだ!俺は悪くない!
しかし、彼女が寝てくれていて良かった。
またいきなり話しかけられずに済むし、心の準備もできる。
しっかり準備しておけばなんとか会話できる気がするのだ。
コミュ障の最大の弱点は急に話しかけられることである。急じゃなくても大して変わらないけども…。
じゃあ意味ないじゃんとなるが、結局何が言いたいかというと、「話すという行為を先延ばしにしたい」これに尽きる。
だってそうだろう?誰が好き好んで嫌なことをやりたがるというのか。
会話をするくらいなら世界が滅びればいいのにと思うこともしばしばーーいや、いつも思ってたな。うん。
今だって「このメイドの人が永遠に目を覚まさなければいいのになあ」とか「もう一度寝てしまおうか」などと考えている。
今の状況を知りたいし、いつまでもこうしている訳にはいけないというのは分かっているが、どうしてもそう思ってしまう。
「すぅ…すぅ…」
だがしかしだ。
確かに話したりするのは苦手だが、無視をされたりするのは嫌だ。
我ながら面倒くさいと思うが、そこは普通の人と同じように傷ついてしまうから。
「…」
未だ規則正しい寝息をたてているメイドを見てみる。
こちらは上半身を起こしたりと結構動いていたし、体勢を変えたことによる布団の擦れる音やベッドの軋む音も僅かだが出てたと思う。
にも関わらず彼女は眠り続けている。
それはまるで「お前には興味ないから」と言われているようで寂しい。
コミュ障だからといっても孤独になりたい訳じゃないんだ。
というわけで彼女を起こしてやろうと思う。
でもただ起こすだけじゃつまらない。
ドッキリ的なのを仕掛けることにする。一度やってみたかったのだ。
さてどうしようかと部屋を見回して、作戦を練っていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
sideイーナ(メイド)
カチャンッ!
「…ぅん?…ハッ」
何かの音で目を覚ました。
お嬢様が目覚めるのを待っていたら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
私はこの屋敷にメイドとして勤めている。
名前は『イーナ・バルテル』という。バルテル子爵の次女だ。
十二歳の頃にこの屋敷へ来てから三年ほどが経ち、現在は十五歳になった。
主な業務内容はお嬢様のお世話をしている。お嬢様専属メイドと言ってもいい。
そのお嬢様は現在ベッドで眠っている。
上質な絹のような混じり気のない純白の髪。
宝石にも劣らないーーいや、宝石よりもっと綺麗な琥珀色の瞳。
以前窓から射し込む夜の星明かりに照らされたお嬢様を見た時は、その美しさも相まってまるで夜空で一際輝く月のように綺麗だと思ったほどだ。
そんなお嬢様は、普段作り物めいた整ったその顔に表情を浮かべることはない。
ご飯を食べる時も、旦那様や奥様と一緒にいる時も、お風呂に入る時も、寝る時も。
それなのに先程お目覚めになった時、そのお顔にはーー毎日顔を合わせている人にしか分からないくらいの微々たるものだがーー困惑と混乱といった表情が見て取れた。
◇
お嬢様はつい1週間前に突如高熱を出して倒れてしまい、意識が戻らずにいた。
旦那様はすぐに高名なお医者様や回復魔法の使い手の方をお呼びしましたが、倒れた原因も分らず終いで手の施しようがない状態だった。
お医者様から「持って後一週間」という余命宣告をされ、皆が諦めたかのようで屋敷の中は暗い雰囲気が立ち込めている。
そして、それからあっという間に一週間が過ぎて今日が丁度その一週間最後の日となった。
泣きたくなるのを必死に我慢していつも通りにお嬢様の部屋をノックをして、返ってくるはずもない返事を待たずに入った。
部屋に入って愕然とした。
なんと今日余命宣告の最終日だというのに、今まで昏睡状態だったお嬢様は目を覚ましていた。
感動のあまりどれだけ心配していたかなどを一方的に話してしまった。そんなことをしてしまい恥ずかしいけど、それだけ嬉しかったのだ。
その後は、急ぎ食堂で朝食を召し上がっていた旦那様と奥様へお嬢様がお目覚めになったと報告をした。
すると、お二方とも物凄い勢いでお嬢様の部屋に向かって行った。
私も一緒に向かいお嬢様の部屋をノックしドアを開けると、そこには何故かベッドへダイブしているお嬢様がいた。
その場にいた全員が暫しの間、呆然と立ち尽くし言葉を失っていたが、一早く立ち直った旦那様がお嬢様へ駆け寄り寝ているだけと分かり、一同ホッとした。
まだ寝かせておこうということになり、旦那様や奥様は仕事があるのでそれぞれ執務室へと向かわれた。
私はここに残り、お嬢様に何かあった、もしくはお目覚めになられたら旦那様と奥様へ報告をしに行くという役目を仰せつかった。
とりあえずうつ伏せになっているお嬢様を仰向けにして、布団をかけ直す。
お嬢様は寝顔も本当に綺麗だ。
起きている時の無表情なときも良いけど、寝顔はなんだか年相応の可愛らしさも感じる。
旦那様も奥様も大変な美形なのでその良いところを余すところなく受け継ぎ、更に洗練したとしか言いようがない。
お嬢様の寝顔を見ると思わず胸が高鳴った。
顔に熱が集まるのが分かる。きっと今は耳まで真っ赤になっているだろう。
何度見てもこうなってしまう。本当に美の神様の生まれ変わりなのではないだろうか。
同性の私でさえこうなるのだ。きっと男の人が見たら一発でノックアウトされるだろう。
◇
ということがあり今に至る。
お嬢様の寝顔を楽しんでいるといつの間にか寝ていたらしい。
そして、ベッドで寝ているお嬢様へ目を向けると、頭まですっぽりと布団で覆われていた。寝相の良いお嬢様にしては珍しい。
僅かな驚きとほっこりとした気持ちを持ちつつ、流石に頭まで布団を被っては暑いだろうと思い捲ってみると。
「あら?」
顔を出したのはお嬢様ーーのお気に入りの可愛らしいクマのぬいぐるみだった。
もっと下の方へ行ったのだろうかと更に捲るが、ベッドにはこのクマのぬいぐるみしかいないようだった。
お嬢様が居ない!
『誘拐』の二文字が真っ先に思い浮かんだ。
だが屋敷の警備は厳重だし、そもそも子供とはいえ人を一人拐うなんてすればそれなりの物音も出るし、目の前にいた私は流石に目を覚ましただろう。
でもあの大人しいお嬢様が一人で何処かへ行くとは考え難い。
お嬢様は屋敷内だろうと使用人を最低でも一人は連れていなければいけないと旦那様からも言われている。
お手洗いには一人で行かれることもあるが、そのときは必ず近くの使用人に声をかけるし、近くまでは私や他の使用人がついていく。
何よりもそんなことでベッドにぬいぐるみを置いて、まだ寝てると偽造をさせる必要はないはずだ。
目の前が真っ暗になった。
私が寝てしまったからだ。少しでも目を離してしまったから。
私は自分を責める気持ちを抑えきれず固まりそうになる体に鞭を打ち、急ぎ旦那様へ報告をしようと踵を返そうとした。その瞬間、袖をクイクイッと引っ張られ、そちらを向くとそこにはーー
キラキラと期待のこもった目をして、薄らと悪戯げな笑顔を浮かべているお嬢様が居たのだった。
お読みいただきありがとうございます!なるべく毎日更新できるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!
お嬢様より先に名前が明らかになるメイド…お主、さては主人公じゃな?※違います。
お嬢様については次話までお待ち下さい。
次話もよろしくお願いします!