初日は無事に乗り越えれたよね
自己紹介。
それは非常に難しいものである。
どこまで話せばいいのか、その境界を見定めなければその後の学生生活が悲しいものになるのは自明の理。
どうでもいいことをペラペラと話せば煙たがられるだろうし、かと言って名前だけとか内容が少なすぎると「えっ?それだけ?」って思われたり記憶に残らなくて影が薄い存在として認識されてしまうかもしれない。
それでは折角の学生生活が台無しだ。
順番が回ってくる前に少しでも考えておかねば。
そうだ。
他の人のやつをパク…参考にしてやればいいんだ!
よし、そうと決まれば次の人のをしっかり聞こう。
「次はイルメラ・クラインベックさんですね。どうぞ」
「へ?」
やばい!
他の人のやつ全然聞いてなかったから、どんなこと言えばいいのか分かんない!
ああ、時間よ戻ってくれ!
そんな風にうだうだしてたら、ふとクラスの皆んなが私に注目していることに気がついた。
どうしようと思っていると、アルが大丈夫とでも言うように微笑んでくれて、少しだけ落ち着くことができた。
「クラインベック伯爵が長女、イルメラ・クラインベック、と申します。…趣味は、お菓子作り、です」
「はい、ありがとうございました。それでは次、殿下。よろしくお願いします」
さらっと流れてくれて良かったー。
もし質問とかあったら、何も答えられなかった自信があるね。
それはそうと、次はアルの番か。
どんな自己紹介をするんだろう。
まあ、今までのアルはこういうの無難にこなしてたから心配とかしてないんだけど。
「アルフォンス・スペルフォードです。この学園には身分に関係なく皆平等に学業に励むという校則があるので、皆んなも気軽に声をかけて欲しいと思っています。それと皆んなも知ってるだろうけど、こちらのイルメラ嬢は私の婚約者なので…よろしくお願いしますね」
そうニッコリしながら締めくくったアル。
私のフォローまでしてくれるなんて、これができる男ってやつか。
あっ、そういえばさっき自己紹介してた時の私って表情意識してなかったから、無表情になってたかもしれない。
あれ?
何故かクラスの皆んなの顔色が少し悪い様な気がする。
寒いのかな?
室温とかは丁度いいくらいだと思うんだけどな。
「以上でクラス全員の自己紹介が終わりましたね。今日の日程は全て終わりましたので、解散とします。それではお疲れ様でした」
そう言うが早いか、担任が教室をとっとと出て行ってしまった。
残された皆んなは友達と会話したり帰宅したりと様々だ。
私も帰ろうかと考えていると、アルも同じく帰り支度をしていた。
「イル、この後時間ある?」
「何かあるの?」
「学園にあるカフェにでも行こうかと思って」
「行く」
アル、こっちは要件によって暇だったり暇じゃなかったりするから、その聞き方はNGだよ。
でもアルからそんな嫌な要件で呼ばれたことないな。
なんだかんだで良い婚約者様なのだ。
そんなこんなでカフェに到着した。
店内は落ち着いているシックな感じで、アルも私も気に入った。
私はカフェオレ(砂糖多め)でアルはコーヒーをブラックで注文した。
ていうかこの世界ってコーヒーもあったんだ。
「イル、クラスの中で誰か仲良くなれそうな人はいたかい?」
「…?」
急にどうしたんだ?
仲良くなれそうどころか、自己紹介聞いてなくてアル以外の顔と名前全然覚えてない…なんて言えないよな。
「分かんない」
「それもそうか、まだ初日だからね。…でも明日から私は生徒会に入らなければいけなくて、なかなか一緒に居られる時間が取れなくなるんだ。だからその間、イルの話し相手が居た方がいいと思ってね」
うえー。
慣れ親しんだ人と人間関係のストレスなく平和に学生生活を送る計画が早くも崩れ去る音が聞こえてくるようだよ。
別に話し相手がいらないって訳じゃないけど、話し相手を作るまでが難関なんだよな。
知らない人に話しかけるのって何だか怖いじゃん。
人類が全員生まれた時から親しければいいのに。
「一応私の方からもお願いしておいたから、あまり心配しなくてもきっと大丈夫だと思うよ」
ん?
いつそんなことしてたんだろ?
ああ、自己紹介のときか。
確か私のことも言ってたような気がする。
「ありがとう」
「婚約者のためだからね、当然のことをしたまでさ」
それから雑談を暫く楽しんでから、私を女子寮まで送ってくれてアルは男子寮へ帰って行った。
風呂や夕食を済ませて部屋で休んでいると、今日は入学式のみだったが身体は疲れていたのか、いつもより早い時間に眠気が襲ってきたのでそれに逆らわずに早目に寝ることにした。
明日からの学園生活を楽しく過ごせますように。
そう思いながら眠りについたのだった。
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