成長は喜ばしいよね 後編
昼過ぎ。
俺は庭で一人、お茶とクッキーを楽しんでいた。
何故ケーキでないかと言うと、イーナの策略にはまったからだった。
『ケーキですか?ケーキは完成するまでに時間がかかってしまいます。今度、私が料理長へ最高のケーキを作ってもらうようお話ししておきますので、今回はクッキーなどいかがでしょう。イチゴのジャムが美味しくできたと料理長が言っておりましたよ』
『最高のケーキ…イチゴジャム……じゅるり』
というようなことがあり、ケーキはまた今度になった。
よく考えたら、時間はたっぷりあるのだしケーキが焼き上がるまでゆっくり待てば良かったのでは?
まあいいや。
急にお願いするのも料理人に悪いよね。
「あむ…もぐもぐ」
クッキーにイチゴジャム付けるとめちゃくちゃ美味しい!
お茶が終わり庭園を散歩していると色とりどりの花が沢山咲いているところを見つけた。
おお、こんなところあったんだな。
上品な花の香りがしてとても居心地が良い。
ここは客に見せる用の派手な表の庭園と違って、落ち着いた雰囲気だ。
近くにあったベンチに腰掛けて暫くぼーっとその光景を見ていたが、早起きしたからか眠くなってきてしまった。
船を漕いでいると、イーナに「部屋へ戻りましょう」と言われたが、誕生日のこともあり困らせてやりたくなって断った。
今はイーナ以外の使用人は連れてきてないので、どうすればいいのか考えているようだ。
「こっち、座って」
このベンチは大人3人くらい余裕で座れる大きさなので、「ここに座りなさい」と言わんばかりに俺の隣をペチペチ叩いた。
「ですが、侍女が主と共に座ることはできません。お許しください」
「いいから、こっち。誰も、見てないよ?」
何度かそんなやりとりを繰り返し、漸くイーナが折れてくれて俺の隣に腰を下ろした。
そこで眠気が限界だったので、イーナに膝枕をさせてもらう。
おお、これが膝枕というもZzz…。
◇
ふあ〜。
よく寝た。
辺りはオレンジ色に照らされて、その光を受けている花がとても綺麗だ。
もう夕方やんけ。
結構寝てしまったけど、イーナが起こさないなんて以外だった。
彼女ならこんな時間になる前に起こしてくれそうなものだが。
そう思いイーナを見ると…
「すぅ…すぅ…」
寝てる。
なんだかデジャヴを感じるな。
風邪をひくといけないので、この私めが起こしてしんぜよう。
と思ったが、イーナの気持ちよさそうな寝顔を見ているとそんな気も失せてきた。
イーナはずっと俺に侍ってくれているので、きっと疲れていたのだろう。
ゆっくり休みたまえ。
彼女が目覚めるまで、この庭園を見てよう。
前世では花にあまり興味がなかったが、今は結構好きだったりする。
暇な時に屋敷の表の庭園とか見てたからね。
でもこっちの庭園の方が好きかも。
花の香りに包まれてる感じがして、昼寝をすれば気持ちよさそう。
今度やってみよう。
「…おじょうさま?」
イーナが目を覚ましたようだ。
だが、まだ寝ぼけているのかぽやぽやしている。
朝も弱いタイプなのかな?
「イーナ、戻ろう」
「…はい」
そして、ぽや〜としたイーナと部屋へと戻った。
結局今日も普段通りの一日だったな。
夕食の時間になり、食堂へ行くことに。
イーナも普段通りに直っていた。
食堂の前まで着き、イーナがドアを開けてくれて中に入ると…
「「「「お嬢様、お誕生日おめでとうございます!」」」」
「おめでとう、イルメラ」
「お誕生日おめでとう、イルメラ」
両親の他に、屋敷の使用人が集まっていた。
これには俺もびっくり。
まさか祝ってもらえるなんて思っていなかった。
諦めていたのにこんなサプライズをしてもらえるなんて。
嬉しくて涙が出てきた。
これは身体のせいで涙もろくなっているな。
「驚かせてしまったようだね。大丈夫だよ、皆んなお前に喜んでほしくて集まっているんだからね」
そんなことを父が言ってくる。
どうやら俺が涙を流している理由をびっくりしたからだと思ったらしい。
まあ、本物の6歳児だとそういう反応もあるのかな?
「さあ、イルメラ席に着きましょう?今日は貴女の好きなものを沢山作ってもらったのよ」
そう言って俺の所まで来て、手を引いて席まで連れて行ってくれる母。
優しみを感じる。
席に着くと次々と料理が運ばれてきた。
どれも俺が好きなものばかりだ。
使用人たちも用意されていた席に着いて料理を食べている。
「イルメラも6歳になったから、今年はお披露目に参加するのね。でも心配だわ、可愛いから変な人に狙われないかしら?」
「お披露目…?」
「ああ、お披露目とは年に一度王城で開かれるパーティーみたいなものさ。無事に6歳を迎えて精霊の祝福を受けた子供が出席するんだよ」
精霊の祝福…。
確か王子のお披露目のときにも王が言ってたような。
小さい子供は病気とかで亡くなることが多いから、無事に成長できたら精霊の祝福を受けれたってことなんだろう。
ていうかまた王都行くのか。
馬車の旅疲れるんだよな。
「いつ、あるの?」
「まだ半年ほど先よ。うふふ、またカールに会いたいのかしら?貴方達仲が良かったものね」
違うんです。
今の質問は別に待ち遠しくてしたわけじゃないんです。
むしろ逆で、行きたくないと考えてました。
まあ、カールとまた遊べるのは良いけどね。
「まあ、先の話は今日はその辺にしておこう。今日はイルメラ誕生日だからね」
「そうね、今日はケーキもあるわよ」
この世界にも誕生日ケーキがあるのか。
あっ、だからさっきイーナがケーキを食べさせてくれなかったのか。
そうしてご飯を食べた後は結婚式とかで見るようなサイズのケーキが出てきた。
この世界には蝋燭を年齢分用意するといった習慣はないようだった。
ケーキを食べれるだったらなんでも良いけどね。
そして、切り分けられたケーキが全員に行き渡ると、もう一度使用人が整列して「お誕生日おめでとうございます」と言ってくれた。
この家の使用人は良い人たちしかいないのか?
俺は今幸せです。
「そろそろプレゼントを渡そうか。連れてきてくれ」
ケーキも食べ終わり、食後のお茶を飲んでいると父が使用人にそう言った。
連れてきてくれ?
まさか、人なのか?
奴隷的なものがこの世界あるんですか?
そう思い若干引きつった笑みを浮かべていると、プレゼントの正体が姿を現した。
俺より小さくて全身が白いその姿は見ていて、思わず抱きついてしまいたいと思うほど可愛らしい。
大人しい性格のようで、その場で静かにしている。
「気に入ったようだね。これから共に成長していくんだから、仲良くしてあげるように」
「はい!」
そう言って彼(彼女?)に駆け寄って抱き上げる。
思った通り毛がフサフサしていて気持ちいい。
なんて可愛い犬なんだ!
尻尾をブンブンと振っている。
前世では猫派だったが、犬も良いな。
「その子に名前を付けてあげたらどうかしら?」
「名前…」
うーん、名前か。
ポチ…って感じの犬でもないしな。
シロ…は流石に安直すぎるかな。
そうだ!この子に人っぽい名前を付けて一緒に遊んでたら、コミュ障治るのではないだろうか。
プラシーボ効果みたいな感じで、人相手の練習になるかもしれない。
よし、そうしよう。
じゃあ、この国に違和感ないような名前は……
「フローラ、にする」
「フローラか…まあ良いんじゃないかな」
父が驚いたような表情をしていたが許してくれた。
よし、決定だ。
今日からお前はフローラだ。
「ワン!」
「ひっ!」
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次回の更新は明後日です。




