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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.7 きらびやかな唇をあなたに
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けたはずれな困惑をあなたに 2


「断るなんて、できないんです。今回ばかりは、三美神でも断れない相手なんですから」


 拒否権はないということらしい。ソファに浅く腰かけたまま、哲はため息をつく。


「大丈夫です。報酬は弾みます。僕たちも一緒なので、いつもより不自由かもしれませんが」


「条件がある」


 かぶせ気味に哲は言う。


「君たちは好きにすればいい。三美神われわれの行動を邪魔しないのであれば」


 秋一の顔に、今日一番の笑みが浮かぶ。


「もちろんです! それではさっそくなんですが……」


「ただし、瑠璃はつれていかない」


 秋一の顔が瞬時にひきつった。口角がぴくぴくとぎこちなく動いている。


「ええと……実は……先方がぜひご息女にお会いしたいと」


「なぜ? 」


「さ、さあ……そこまでは。ですがご息女をぜひ、と」


「依頼人は女性か? 」


「それは……」


 秋一は不器用な笑みを浮かべて、歯切れの悪い反応を繰り返す。


「あの……秘密で」


「性別を聞くこともだめなのか?」


「あう……」


 哲は不機嫌に顔をゆがめ、ため息をつく。整った顔をしているぶん、表情で相手に与える威圧は相当なものだった。


「例えば、依頼人が女性で。なんらかの性被害に巻き込まれた、という状況であれば。男所帯でおしかけようとは思わないし、瑠璃を連れていくさ。そういった事情はあるのかと聞いている」


「ございません」


 凛子がはっきりと答えた。


「……先方は女性です。しかし、今回三美神さまに相談されたいことは、性被害等ではございません」


 冷静に述べる凛子を、秋一が不快そうににらんでいた。


「神崎……。しゃべりすぎじゃないか?」


「この程度であれば問題ないかと」


 哲は目を伏せ、あごをさわる。


「依頼じゃなくて……あくまでも相談、か」


 誰かを殺すよう命令されるわけではない、ということだろう。それも予想に過ぎないのだが。


 凛子はうなずく。


「女性の手が必要であれば、私が同行するので問題ありません。西園寺さまが瑠璃さまをつれていきたがらない理由はわかりかねますが」


「ほんとですよ!」


 秋一が不満そうに頬を膨らませる。まるでハムスターのようなかわいらしさがあった。


「瑠璃さまは男にも負けないほどの実力を持ったお方でしょう? わざわざ西園寺さまがそうやって出し渋る必要もないと思いますけど。それに依頼人が直々に指名なされてるっていうのに……」


 とたんに、秋一はびくりと体を震わせ、口を閉ざす。


 哲の瞳が、秋一の顔をじっと捕らえていた。怒りとも不満とも言えないすさまじい威圧が、秋一を襲う。


 秋一はがっくりと肩を落とし、言葉を漏らした。


「うぅ……会いたかったなぁ。瑠璃さま」


「兎丸さんはそれが本音でしょう」


 凛子の声は冷たく、容赦がない。


「ですが実のところ、私も瑠璃さまが危険な目に合うような依頼ではないと思っています。それでもとおっしゃるのなら、私が代わりとして動く所存です。どうぞ力が必要なときはなんなりとおっしゃってください」


 凛子は静々と頭を下げた。


「あ、ずるいぞ!」


 秋一は再びハムスターのように頬を膨らませる。


 凛子が頭を上げると、哲は凛子に向かって人差し指を立てた。


「もう一つ、条件がある」


 秋一は眉を下げつつ口角を上げた。凛子の表情が変わることはない。


「……どうぞ」


 このさい、もう何を言われようと仕方がない。そんな諦めが、二人から見て取れた。


「今回の件に関わるのは、三美神で俺だけだ。他の二人には連絡をしなくていい」


 秋一はうなずいた。


「まあ、皆さまが関わるほどの大ごとにはならないと思いますので、それは大丈夫です」


「それと、百合園皐月を同行させる。瑠璃の代わりだ」


 秋一の目が見開かれた。


「……すまない。 結局条件は三つになってしまったな」


 凛子が続ける。


「瑠璃さまはつれていかない。三美神でこの件に関わるのは西園寺さまだけ。瑠璃さまの代わりに皐月さまをつれていく。ということですね?」


 哲はうなずいた。


 喉を鳴らす笑い声が応接間に響く。秋一はいやらしい笑みを浮かべ、口元に握った手をあてていた。


「百合園皐月さま、ね。もちろん存じ上げてますよ。こないだ、週刊誌に写真がのせられてましたよねぇ。ええ、もちろん見ましたよ、はい。さっそくお会いできるんですか? 嬉しいですねぇ」


 哲は返事をしない。なんの感情もない瞳で秋一を見つめるだけだ。


「確か、こないだのカフェでの事件も関わってたんでしたっけ? 三美神の後継者だって記事を書かれて、さっそく洗礼を受けたんでしょう? おかわいそうに。しかも長子ではなく三番目のお子さんじゃないですか。これから大変でしょうね。百合園って御三家の中で一番しきたりが厳しいっていうじゃないですか」


 秋一の話し方は、まるでオタクのそれだった。ねっとりとした言葉尻に、したり顔。


 と、認識したとたん、さわやかな笑顔で明るい声を出す。


「でもなー、でもなー、やっぱり瑠璃さまにお会いしたかったな~。神崎もそう思うだろ?」


「いえ、とくには。兎丸さん、あんまりしゃべると西園寺さまに嫌われますよ」


 処刑管理課にいる時点で、三美神の味方には違いないのだろう。


 とはいえ、哲はまだ、二人を信用することができなかった。年齢が離れすぎている、ということもある。印象も決して良くはない。特に秋一の。


 ただでさえ依頼の件も乗り気ではないと言うのに、この二人と関わりながらの仕事だと思うと、徐々に頭が痛くなってきた。

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