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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.6 人のうわさはいつまでも続く
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人の失敗をにこりと赦す

「どうぞお許しください、西園寺様。責任は記事を書いた記者にちゃんと負わせます。しかるべき処置を与えますので、どうかそれで穏便に……」


 哲はほほ笑み、穏やかな声を出した。


「そうそう。そのことなんですけどね」


 編集長は顔を上げ、おびえる目で哲を見る。


「……注意程度でおとがめなし。部署移動も謹慎もなし。でいかがでしょう? もちろん、編集長への責任追及もなしで」


「は? 」


 編集長は青白い顔で、必至に首を振る。


「……いえ、そういうわけにはいきませんよ! 」


 ここまでのことをやらかして、直接ここに来るほど怒っているというのに、何も罰を所望しないとは。当然、裏があるのだろう。


「小森には三美神関連のものはもう扱わせることはできません! 記者生命を絶たれてもおかしくないことをしてるんです! それを、何もおとがめなしだなんて……」


 編集長の言葉が何も刺さっていないのか、哲はほほ笑んだままだ。顎をなでながら、言う。


「三美神を怒らせて辞めさせられたやつ、より、上司に土下座させたくせに何もおとがめなしのやつ、のほうが居心地悪くなるかなって、思ったんです」


 言葉尻に隠された意地の悪さに、編集長の背筋がぞくりと震えた。三美神は、簡単に敵に回していい相手ではないことを実感する。


「し、しかしそれではあの記者をますます調子にのせることになります。せめて異動ほどの処罰は必要かと」


「それで調子に乗るようなら、それでいいんです。そちらが爆弾を抱えたままの状態になるだけですから」


 哲は満足げに言い放つ。


「たとえ彼女がどんな行動をしようと、たとえ彼女自身が自分を追い込むことになったとしても、たとえ彼女がこの会社にどのような被害を持ち込もうと、我々はいっさい関与しない。そして我々は、彼女を罰することを認めない」


 再び、編集長の体が震えだす。


 過去にこの出版社がどのような失敗をし、その結果どういうことになったか。哲はわざわざ掘り返すようなことは言わない。そんなことをせずとも、この会社に長いこといる編集長なら、この程度の注意で十分だ。


「……長居してしまいましたね。伝えたいことはちゃんと伝えたので。帰ります。時間を作ってくれてありがとう」


 ゆっくりと、品よく立ち上がる。まるで蛇ににらまれたカエルのように動けない編集長に、すっぱりと言い放った。


「見送りは結構です。面倒なので。今後も良い記事、期待しています」


 編集長をその場に残し、哲は会議室を出た。真っ先にゆきを見つめて、歩み寄る。他人行儀の笑みを浮かべて、言った。


「あの記事について、ちゃんと確認を取れていなかったこと、編集長に謝罪していただきました」


「あ……」


 ゆきの顔は青ざめ、周りはどよめいた。


「面白いくらいに土下座してくださるんですよ。私だってクレームをつけたくはありませんが、あんなデマを堂々と掲載されてしまっては、不快なので」 


 はじめてゆきはとんでもないことをしてしまったのだと悟る。緻密に調べるべきだったのだ。ちゃんと裏を取るべきだったのだ。後悔しても、もう遅い。


「よかったですね。あなたの代わりに、編集長が頭を下げてくれて」


 ふと、哲の顔から笑みが消えた。目つきも声色も、人一倍冷たいものになる。


「次は、ないからな」


 ゆきの腰が抜けた。その場に座り込む。足が震えて立ち上がれない。


 そんなゆきを一瞥いちべつすることもなく、哲はその場を後にした。


 和也がいたら、あの女性記者をそれこそ惨殺していたかもしれないな、と。恐ろしいことを簡単に想像しながら。

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