人の謝罪になおさら笑う
「記事はすぐにでも差し替えます。ネットニュースも取り下げます。ですからどうか、怒りをお鎮めになってください」
「大丈夫ですよ、怒ってませんって。それに」
一気に室内は重苦しい空気に包まれる。
「そんなことをされても、もう間に合わないんですよね」
編集長の体がぶるぶると震えていた。哲はにっこりと笑みを浮かべている。
「記事に出てた彼は好青年でね。……事件に巻き込まれていたのを三美神が助けて、そのお礼にって、ちょっとばかり手伝ってもらってただけなんですよ? ……決して三美神の後継者なんかじゃなかったし、我々もそのつもりではなかったんですが……」
「うちの者が大変申し訳ございません……!」
編集長の謝罪が、大きく響く。哲はわざとらしいため息をついた。
「あんな記事が出てしまったものだから、彼、散々な目にあったんですよ? さっそく命を狙われて。俺がたまたま近くにいなかったらどうなっていたことか……」
編集長の呼吸が乱れる。哲から降り注がれる威圧が苦しいのだろう。この場にいれば誰だって、あまりの重圧に押しつぶされてしまうはずだ。
「これからも彼は襲われ続けるでしょうねぇ。いろんな人に顔が知られたんですから。御三家の人間とはいえ、普通の善良な青年だったというのに。あの記事のせいで普通の生活もままならなくなった」
ひしひしと、痛いくらいの視線が、編集長にそそがれる。
「……どう責任を取ってくださるおつもりで?」
ただただおびえているだけの編集長。何も答えようとはしない。次の謝罪の言葉をどう述べようか、考えあぐねているのだろう。
哲は嘲笑する。
「……なあんて、大丈夫ですよ、編集長。言ったじゃないですか。怒ってないって。……取って食おうなんて考えてませんから」
編集長の体の震えはおさまらず、頭を上げることもない。哲は正直、退屈になってきた。ため息をつく。
「いい加減、頭を上げてくれますか?当の記者本人も来たようですし」
編集長はぴくりと反応し、おそるおそる頭を上げた。
「とはいっても、こういうクレームは上に言うようにしてるんです。下に注意するのは上の役割じゃないですか」
哲の声色も、表情も、穏やかだ。しかしその目の冷酷さは、失われていない。
「それにね、別に悪いことばかりではありませんでしたからね」
「……といいますと? 」
編集長はけげんな顔で尋ねる。
「正直なところ、彼はそもそも、裏社会に名前が広まりつつあったんです。初めて彼を助けたころから、じわじわと、ね。こんな事態にならずとも、遅かれ早かれ狙われることにはなったでしょう。あの記事が出たことで、本人の中にようやく適当な危機感が芽生えたことは、良いことだと思います」
「そう……ですか」
力のない返事。哲に対して何をされるかわからない恐怖は抜けない。
「だからといってそちらの記事を許すつもりはありませんけどね」
編集長の体がびくりと震える。その反応に、哲はあきれたように言った。
「ああ、もう土下座はなしですよ。もう見飽きたので」
謝罪をされたところで、広まった記事の内容は取り戻せない。だからこそ、文句の一つは言っておきたいものだ。たとえそれが無駄に終わったとしても。
「別にね、三美神のことを好き勝手書いていただいて構わないんですよ。最低限規制されている以外のことでしたら、なんでも」
編集長に向けられた哲の目つきが、鋭いものに変わる。
「ただ、三美神の脅威につながるようなネタを軽々しくのせるのは違うでしょう。これは立派な、規則違反です。おたくはこれで……何度目でしたっけ? そのせいで会社が危険な状況になったこともあったでしょう? 」
再び、編集長にじわりじわりと威圧がのしかかる。
「……はい。申し訳ございませんでした」
編集長はぎこちなく首を垂れた。




