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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.6 人のうわさはいつまでも続く
94/162

人の態度にとりあえず怪しむ





          †







 小森ゆきは古雅出版につとめる記者だ。週刊古雅で主に三美神がらみの事件を担当している。


 ゆきが最新刊に書いた記事の評判はすこぶる良かった。どこの週刊誌よりもはやい情報で、写真もきれいに映っているものを使っている。


 記事を載せるとき、編集長にはまだ早いと渋られていた。もっとよく裏取りをしてから、と。記者として裏取りが必要だとわかっていたものの、このままでは他の週刊誌にスクープを持っていかれるかもしれないと焦っていた。


 写真を撮った百合園家の次男は、スーザンの事件にも関与していたことがわかっている。妊婦連続殺人事件でも、西園寺瑠璃の代わりとして捜査に加わっていたことは把握済みだ。


 編集長からは「正式発表がない限りは、簡単に掲載はできない」と言われていた。正式発表なんて待っていたら、せっかく得た情報も宝の持ち腐れというものだ。「彼らは芸能人とは違う」と説明する編集長に対して、ごり押しにごり押しを重ねて、「何かあったら自分が責任を取る」とまで豪語した。


 その結果、ついにあの記事を載せることができた。記者人生の中で、一番大きいスクープになる。そう信じて疑わなかった。


 ゆきは半日ほどかかる取材を終え、出版社に戻ってきた。受付嬢の視線が妙に突き刺さることを自覚しながらも、部署に急ぐ。


 エレベーターに乗っているときも、廊下を歩いているときも、不安げにゆきを見る視線を感じた。不審に思いながらも、デスクのある部屋に入る。


 部屋の奥には、スチールガラスで仕切られた会議室がある。声は聞こえないが、中のようすは見えるよう作られていた。


 その手前に、部署の人間が集まって、中をのぞいている。デスクに積み上げられた書類も、大事な画面を開きっぱなしのパソコンも、放置されたままだ。


 なにごとかと首をかしげる。人だかりの中で、同期の女性が振り返った。ゆきの顔を見たとたん、この世の終わりのような表情を浮かべる。必死な形相でゆきに走り寄った。


「小森! すぐに来て!あんたの記事で大変なことになってるの! 」


「え……? 」


 同期に腕を引っ張られ、集まりの中に入る。前に出て会議室をのぞくと、まっさきに編集長の姿が目に入った。


 こちら側に尻を向け、床に頭をこすりつけている。土下座したまま、ピクリとも動かない。一体いつからその姿勢でいるのだろう。


 編集長が土下座をするその先に、優雅に足を組んでイスに座る、哲がいた。感情も何もない目で、土下座する編集長を見おろしている。


「どういうこと……? 」


 わけもわからず困惑するゆきに、同期が言った。


「三美神が直接出版社に乗り込むなんて、異常事態よ。三美神関連の記事に問題があったからに決まってるじゃない」


「ええ……?」


 そのとき、会議室にいる哲と、ばっちり目が合った。あのときデジカメ越しで見たのと同じ、射貫くような目だ。


 ゆきの心臓の鼓動が早くなる。嫌な脂汗が、顔ににじみだした。


 編集長にこんなことをさせているのだ。やはり記事に問題があったとしか思えない。まさかこんなに大ごとになるとは思ってもみなかった。


 ふと、哲の顔に笑みが浮かぶ。視線を編集長に向けて、口を開いた。


「一体いつまでそうされているのですか? 編集長」


 哲の言葉は外には聞こえない。もちろん、編集長の声も。


「……申し訳ございません」


 編集長の声は、震えていた。哲は艶やかに笑う。


「編集長がずうっとその体制でいらっしゃるものですから、俺も思わず偉そうな態度になってしまうじゃないですか」


 声はあくまで穏やかだ。しかし編集長はいまだに頭を上げられないでいる。


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