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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.6 人のうわさはいつまでも続く
92/162

人の力量をじっくり見出す







          †






「皐月」


 哲は皐月に脇差を返した。皐月は受け取った脇差を見つめる。


 哀愁のある、はかなげな声が静かに響いた。


「皐月のことは俺たちが守ってやる。形だけでも、瑠璃と同じ立場になるのなら」 


 瑠璃と同じ立場。それは今後三美神のもとで一緒に行動することを意味している。無理やり捜査に参加させるような強制力はないし、必ずしも誰かを殺す必要はない。しかし今までよりも、誰かに襲われる機会は増える。そのぶん、誰かを殺すことはあるだろうし、死体を目にすることもあるだろう。


「おまえはそもそも、俺たちと一緒に行動すること自体、不本意なことだろうし。本当は嫌だってこともわかってる。でもすでにおまえの顔は全国に知れ渡っているから、いつ殺人鬼に手を出されるか知れたもんじゃない。」


 皐月は受け取った脇差をぎゅっと握る。言われなくてもわかっていた。皐月には、これしか選択肢がない、ということを。


 あの女のような人間が、これからも接触してくるのだ。三美神の後ろ盾なしではいくら命があっても足りない。


「皐月が俺たちのそばにいてくれないと、守ってやるのも難しくなるんだ。もちろん生活は今まで通り、とはいかない。おまえの立場は三美神に近い存在として、国に厳重に管理される。自衛のための武器の所持は義務になるし、マスコミの報道も規制されないから振る舞いには気をつけなければならない」


 一度この世界に踏み込んでしまったら、もう後戻りはできない。普通の生活を送ることなど無理だ。


 皐月は静かに尋ねる。


「どうせ、拒否権はないのでしょう?」


 哲は短く息をついて、うなずいた。


「……約束する。三美神は皐月に何かあったらすぐに駆け付ける。絶対に、あんなやつに殺させたりしない」


「でも、守ってもらうばかりじゃいけませんよね。こうなった以上は」


 必要最低限、自分の身を守る技術は絶対に身につけておかねばならない。今回のような火事場のバカ力が、いつも通じるとは限らないだろう。


 襲われそうになったら、その都度自分で対処できるようになったほうが良い。


 哲はしばらく目を伏せて考え込み、冷静に言う。


「……大丈夫。基礎はできてる。剣道の有段者は伊達じゃないってことだな」


 皐月は哲をじっと見つめるだけで何の反応もしない。


「殺そうとしなくていい。あくまで自衛だ。自分の身を守れるほどの力があればいい。和也のマネをしろ、だなんて言うつもりはない。皐月に人を殺すような命令は出さない」


 スーザンでの光景を思い出す。和也のように冷酷無残に人を殺すことなど、皐月にはできない。しかしあれほどの力がなければ、生き残ることは難しいだろう。


 皐月の頭にだんだん白いもやがかかってくる。思考がまとまらない。皐月は自分で思っている以上に疲れていた。さっきまでの出来事が、夢だったのではないかとすら思えてくる。


 皐月は、鈍い頭を限界まで働かせながら言った。


「あの……西園寺様。三美神の下に付く代わりに、お願いがあるのですが」


 哲は皐月をじっと見つめ、おかしそうにほほ笑んだ。


「この俺と交渉する気か? 」


 皐月はすぐに後悔する。三美神相手に、お願いなど通用しない。特に新参者の皐月では、そうやすやすと聞き入れてくれないはずだ。


「いいだろう」


 思いの外、哲は柔らかい口調で返す。


「俺たちのせいでこうなってしまったところはあるからな。言ってみろ」


 皐月は意を決して、哲を見つめる。哲が聞いてくれるかはわからなかったが、今ここでしか言うチャンスはなかった。


「俺、できる限り事件の捜査に参加します。学業は優先させてほしいですけど」


「それは、もちろん」


 当然のことだと、哲はうなずく。


「だから、瑠璃ちゃんを現場に呼ばないでほしいんです」


 その瞬間、哲の表情が冷めたものに変わっていく。人間味のない冷ややかな顔に、皐月はひるむことなく続けた。


「今の段階では無理かもしれませんけど。でも、瑠璃ちゃんの代わりをつとめられるように精進しますから」

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