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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.6 人のうわさはいつまでも続く
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人の尊厳を守って逃がす

「くたばれぇええ!このくそがきがぁああ!」


 顔をゆがめて咆哮ほうこうする女。頭に向けられた銃口。響き渡る銃声。向かってくる弾丸。


 心なしか、スローモーションに見える。弾丸は普通のものより大きくて太かった。なるほど。これなら頭が吹き飛んでもおかしくない。


 皐月は抜刀の態勢のまま駆け出す。頭を傾けて、弾丸をかわした。ひらりと浮いた髪に当たり、毛がパラパラと舞う。そんなことはものともせずに、女に向かって走り進んだ。


 連続で鳴り響く銃声音。地面、カフェの窓、パラソル屋根に弾が当たった。女の放った弾丸が、器用に避ける皐月に当たることはない。


「だぁあああああ、ちょこまかと!」


 いら立っている女は、皐月の頭に向かって撃ち込んだ。向かってくる弾丸を見つめる。皐月の両腕は、勝手に動いていた。


 さやと、二つに切られた弾丸が、地面にカラカラと落ちる。女が必死な形相で再び撃とうと構えるあいだに、皐月は後ろに回り込んでいた。


「うそ……だろ……」


 女の後ろで、皐月は日本刀をななめにかかげた。


「速すぎる……! 」


 皐月がふりおろす瞬間、銃声が耳を刺す。


「いってえええええええええ」


 皐月の目の前から、女が消える。日本刀はななめに空を切った。


 皐月の足元で、女がすねをおさえながら小刻みに震えている。


 こつこつと固い足音を響かせながら、哲が近づいてきた。女の目の前で、薄い笑みを浮かべる。


「皐月に真っ二つにされなかっただけマシだろう」


 哲はジャケットを開けて、リボルバーをホルスターにはめなおした。


「……俺は今、特段機嫌が悪いわけじゃない。これ以上何もしないなら、この場は見逃してやる」


 女は唇を噛みしめる。脂汗がにじむ顔で、哲をにらみ上げていた。おさえているすねには、弾丸がめり込んでいる。骨の損傷が大きく、動けないようだ。血がだらだらと流れ、地面を汚していった。


「冗談じゃないよ……。こっちは百合園の子どもを始末しにきたんだ。傷一つもつけられず、無様に戻ってきただなんて笑われちまうよ! 」


 女は銃を握りしめ、後ろにいる皐月に銃口を向ける。皐月の行動は遅れていた。刀の構えが、間に合わない。


 瞬間、女の手首に脇差が貫通する。皐月に向けられていた銃が、女の手から落ちた。


 女の手首に刺さる脇差の柄を、哲はかじを切るかのように、すばやく一回転させる。同時に女の腕も一回転し、ひじの関節から軽やかな音がした。


「ぎゃぁあああああああああああ」


 涙を浮かべ、鼻水を垂れ流しながら女は叫ぶ。哲は脇差から手を離すことなく、冷たい視線を女に向けた。


「もう一度言う。これ以上何もしないなら、この場は見逃してやる。俺は優しいからな。でも……三度目は、ない」


 耳に残るよう、はっきりと語気を強める。女はぐちゃぐちゃの顔で、必死にうなずいた。


 哲は脇差を引き抜く。


「うぁああああああああああああ」


 哲は脇差についた血を振り払って、さやにおさめた。足元では女が地面をい、少しずつこの場から離れようとしている。哲の言いつけは守るつもりらしい。痛みを極力感じないよう四つんいになって進むさまは、まるで養豚場の豚だ。


 皐月は不満げな表情を浮かべ、落ちているさやを拾い上げた。持っていた刀をさやに納める。


「なんだ、その顔は」


 哲に顔を見つめられ、ほほ笑まれた。


「もしかして、殺すべきだと……? 自分で殺せなかったのが不満、だとでも?」


 言葉尻に、意地の悪い高慢さをひしひしと感じさせる。


「ち、違います!」


 否定したものの、それ以上はなにも返せなかった。


 刀を空振りしたとき、悔しさが込み上げてきたのを実感していたからだ。哲が邪魔をしなければ、仕留められたはずなのに、と。そんなことを考える自分にぞっとする。


 冷静で静かな哲の声が、耳に届いた。


「これでいいんだ……。きっとおまえの父親は見逃さないだろうから」


「え? 」


 突然何を言うのかと、皐月はきょとんとした顔で哲を見つめる。哲は、意地の悪さを感じさせる高慢な笑みを浮かべた。


「……いや。おまえには関係のないことだ」


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