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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.6 人のうわさはいつまでも続く
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人の悪意からとっさに救う

 女子高生が不満げに二人に一歩近づくと、哲は振り向いた。


「君の意思でないのだとしたら、すぐにそれを捨てたほうがいい」


「え? なんでそんなこと……」


 ピーーーーーーーーーー………。


 かわいらしい箱から、似つかわしくない甲高い音が鳴る。女子高生は不思議そうに箱を顔に近づけた。同時に哲の舌打ちが響く。


「これだからテラス席は嫌なんだ! 変なやつに、絡まれやすくなるから」


 突然、鼓膜を突き破るほどの爆音が響き渡る。皐月は衝撃に耐えるよう目をつむった。気付かぬうちに、哲に押し倒される。


 体全体にのしかかる重さ。とりあえず自分は無事なのだと自覚する。


「あーーー……いたい……いたいよぅ」


 女性の泣き声が聞こえる。ただ、それだけ。


 それ以外は静かなままだ。焦げてしまうような炎の熱さも感じない。ほのかに、上品な大人の香水の匂いが、鼻をかすめた。


 おそるおそる目を開けると、目の前は真っ赤な夕焼け空。瞳を動かしても、周りが燃えているようすはない。


 皐月の耳元で、冷静な声が放たれた。


「あの箱の大きさじゃ、さほど影響はないと思っていたが」


 皐月の上で、のそのそと哲が体を起こす。女子高生がいるほうへ顔を向けた。


「手を持っていかれるくらいの威力はやっぱりあったな」


 皐月はすぐに体を起こし、哲と同じ方向を見る。


「うわあああああ……いたい……いたい……手が……顔が……」


 二人が座っていたテーブルの先で、女子高生は地べたに座り込み、声を上げて泣いていた。赤い血と、茶色く焦げた肉片が、周りに飛び散っている。


 箱を持っていたはずの手は、ない。女子高生の顔の半分は焼けただれ、茶色くなった皮膚の下に、ピンクの組織がのぞいていた。焼けた皮膚がくっついて、片目が開かないようだ。


「うっ……うっ……どうして……どうして……」


 哲は渋い表情を浮かべて、皐月を見た。


「……すまないな。押し倒したのが俺で。瑠璃だったらともかく、俺に押し倒されても嬉しくはなかろう」


「いや、この状況で何言ってるんですか!冗談にしてもセンスがない!」


 哲は皐月の顔をじっと見つめた。やがて、ため息をつく。


「そうやって言い返す元気があるなら大丈夫だな」


「あ……」


 皐月も驚いた。不思議なことに体の震えが止まっている。


 だからといって、完全に恐怖が消え去ったわけではない。襲われる立場であることをますます思い知らされる。


「皐月、とりあえず、刀はいつでも抜けるようにしておけ。脇差はこちらに」


 手を差し出される。皐月は二本の日本刀のうち、短いほうを哲に渡した。


 皐月は哲に言われるがまま、すぐに刀が抜けるよう、柄を握って身構える。正直、どうなるかはわからない。ただ、この場では哲の指示に従っていると安心できた。


 命を狙われているから、武器を使うのだ。人を殺したいから使うわけではない。頭の中で、そんな自己弁護を繰り返す。


 哲は脇差を片手に提げ、ジャケットの内側からリボルバーを抜きだした。銃口を女子高生のほうに向けて引き金を引く。


 弾丸は女子高生の横を通り過ぎ、数メートル先の地面に撃ち込まれた。


「ちいぃ!」


 響く舌打ち。


 まるまるとした体系の女性が、顔をゆがめて片足を上げている。弾丸がめり込んだ地面を恨めしそうに見下ろし、足を下ろした。


 真っ赤な口紅が印象的な濃い化粧。派手なミニワンピース。ふさふさとした毛皮のコート。艶のある真っ赤なハイヒール。派手なマニキュアをしている手には、黒くゴツゴツとしたピストルが握られていた。


 女は真っ赤な唇をこれでもかと横に伸ばし、勝ち誇った顔をする。


「初物はあたしがる。この機会を逃してやるもんか」


「やはり来たか。命知らずめ」


 哲は女に銃口を向けたまま、冷ややかな表情を浮かべる。


「この俺の前で、そんなことができると思うな」


 ゆっくりと距離を詰めてくる女を、皐月は身構えたままじっと見つめていた。


「俺を……殺すつもりなんですね? 」


 哲に向かって尋ねたつもりだった。しかし顔は女に向けているうえ、声も届いたらしい。女は立ち止まり、のどを鳴らして笑う。


「へぇ……? 」


 にやにやと笑いながら、ピストルを太い指でくるくると器用に回しだした。


「あんた、まさか知らないのかい? おめでたいねぇ。そんなんで三美神の手下としてやっていくつもりだったのかい? 」


 女が皐月を見つめる瞳は、一般人のそれとはだいぶ違った。この世の闇しか見ていないような瞳。人を傷つけること以外は何も考えていない瞳。どこか一線を越えてしまったような瞳。

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