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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.6 人のうわさはいつまでも続く
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人の知らせは唐突に来る

 自分も同じようなことを言われたら不快になるくせに。


 嫌なことを言ってしまったと反省する。


「でも、よかった。小森さんが専門職専攻で」


「え? 」


 ミミはパンに噛みついたまま、目を見開いた。


「ほら、専門職専攻の人って少ないじゃん? 同じ専攻の人と仲良くしたいって思ってたんだけど、なかなか話す機会がなくて。カリキュラムとかレポートとか、誰にも相談できなかったんだ。俺、自分から話しかけるタイプでもないし」


 ミミの顔が曇っていく。眉間にしわを寄せ、返事をしない。


 やはり彼女の姉に関する先ほどの言葉で、傷つけてしまったのかもしれない。皐月が顔色をうかがうように見つめていると、ミミが遠慮がちに口を開いた。


「あのさ」


 ミミの口から放たれた声は低く、重々しい。


「実はその……百合園に謝らなきゃいけないことがあるんだよね」


「え? 」


 皐月は、きょとんとした表情を浮かべる。謝ってもらわなければいけないことなど、皐月には心当たりがない。


「百合園はさ、今日発売された週刊誌、見た? 」


「ああ、ごめん……。俺あまりそういうの見ないから……」


「じゃあ、ネットニュースは? 」


「ああ……今日は見てないかも。……なんで? 」


 ミミは顔をゆがませ、盛大なため息をついた。


「じゃあ、まだ、知らないんだ?」


 皐月はその言葉の真意を理解できない。なんのことを言っているのかさっぱりだ。


 戸惑う皐月を見て、ミミは自分のリュックをあさる。取り出したものは、週刊誌だった。


 ぱらぱらとページをめくり、お目当てのところを広げると、皐月の前に置いて見せた。


 手を取るまでもない。でかでかと書かれた見出しが目に入る。


「……は? 」




 ――スクープ! 三美神の後継者? 百合園家次男の華麗なる経歴――


 ――妊婦連続殺人事件の殺人鬼の正体! 処刑に関わった百合園家の次男 ――




「はぁ?はああああああああああぁあああ?」


 あまりにも想定外な記事に、素っ頓狂な声が止まらなかった。周りが何事かと、二人に視線を向ける。


「やっぱり、知らなかったんだね。記事の内容としては信ぴょう性がないかもしれないけど……」


 ミミが同情するかのように言う。


「写真は、本物だよね? 」


 皐月は週刊誌を手に取って見る。確かに、使われている写真は本物で、妊婦連続殺人事件に関わったときのものだ。


 犯人の少女を処刑したあとの写真。皐月だけでなく三美神の姿も写っている。


 まわりからの視線が妙に変だったのはこの記事のせいなのだと、瞬時に理解した。処刑に関わったなどと書かれては、三美神と同じように武器を持ち歩き、平気で人を殺せる人物だと思われても仕方がない。そういった人物を避けるのは当然のことだ。


「でも、俺、別にそんなつもりじゃ……」


 こんな書かれ方をしたら、皐月が父親の跡を継ぐと思われてもしょうがない。いや、記事を読むとそのように書かれているようだ。百合園家の次男でほぼ決まっている、と。そんな事実は一切ないというのに。


 ミミが申し訳なさそうに口を開いた。


「うん、そうだよね。わかってる。それ、姉が書いた記事なの。百合園はこのまえ後継者になる気はないって言ってたから、信用できなくて。ちゃんと百合園に確認したかったの」


 皐月は記事の最後を見る。執筆者として「小森ゆき」と氏名が書かれていた。顔を上げて、ミミを見る。


 ミミは頭を下げた。


「ごめん、姉が軽率なばかりに。姉はこういうところがあるの。記事を書くためなら強引になる人で。でもまさかこんな事態になるなんて……。姉に言って、なんとか取り下げてもらうようにするから……!本当にごめんなさい!」


 皐月はただただ困惑する。何も言い返すことができない。今この場でミミを責めるのは違う。


 たとえ怒ったところでもう手遅れ。写真も名前も世に出てしまえば、もう収拾は不可能だ。ネットニュースにまでなっているのだから、皐月の名前と顔は全国に知れ渡っているだろう。


 記事の内容を否定しようにも、先に出た衝撃的なニュースを覆すにはかなりの労力がいるものだ。


(ああ……どうしよう……。ますます普通の生活から遠のいていく……)


 隣のいすに置いていた皐月のリュックから、音楽が鳴り始めた。スマホの着信音だ。グリーク作曲の「森の魔王の宮殿にて」。とある人物にだけ、この曲を設定していた。


 魔物がどんどん近付いてくるかのような音楽。暗い音で、リズミカルに不安をあおってくる。同時に、嫌な予感がひしひしと襲い掛かってきた。


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