人の知らせは唐突に来る
自分も同じようなことを言われたら不快になるくせに。
嫌なことを言ってしまったと反省する。
「でも、よかった。小森さんが専門職専攻で」
「え? 」
ミミはパンに噛みついたまま、目を見開いた。
「ほら、専門職専攻の人って少ないじゃん? 同じ専攻の人と仲良くしたいって思ってたんだけど、なかなか話す機会がなくて。カリキュラムとかレポートとか、誰にも相談できなかったんだ。俺、自分から話しかけるタイプでもないし」
ミミの顔が曇っていく。眉間にしわを寄せ、返事をしない。
やはり彼女の姉に関する先ほどの言葉で、傷つけてしまったのかもしれない。皐月が顔色をうかがうように見つめていると、ミミが遠慮がちに口を開いた。
「あのさ」
ミミの口から放たれた声は低く、重々しい。
「実はその……百合園に謝らなきゃいけないことがあるんだよね」
「え? 」
皐月は、きょとんとした表情を浮かべる。謝ってもらわなければいけないことなど、皐月には心当たりがない。
「百合園はさ、今日発売された週刊誌、見た? 」
「ああ、ごめん……。俺あまりそういうの見ないから……」
「じゃあ、ネットニュースは? 」
「ああ……今日は見てないかも。……なんで? 」
ミミは顔をゆがませ、盛大なため息をついた。
「じゃあ、まだ、知らないんだ?」
皐月はその言葉の真意を理解できない。なんのことを言っているのかさっぱりだ。
戸惑う皐月を見て、ミミは自分のリュックをあさる。取り出したものは、週刊誌だった。
ぱらぱらとページをめくり、お目当てのところを広げると、皐月の前に置いて見せた。
手を取るまでもない。でかでかと書かれた見出しが目に入る。
「……は? 」
――スクープ! 三美神の後継者? 百合園家次男の華麗なる経歴――
――妊婦連続殺人事件の殺人鬼の正体! 処刑に関わった百合園家の次男 ――
「はぁ?はああああああああああぁあああ?」
あまりにも想定外な記事に、素っ頓狂な声が止まらなかった。周りが何事かと、二人に視線を向ける。
「やっぱり、知らなかったんだね。記事の内容としては信ぴょう性がないかもしれないけど……」
ミミが同情するかのように言う。
「写真は、本物だよね? 」
皐月は週刊誌を手に取って見る。確かに、使われている写真は本物で、妊婦連続殺人事件に関わったときのものだ。
犯人の少女を処刑したあとの写真。皐月だけでなく三美神の姿も写っている。
まわりからの視線が妙に変だったのはこの記事のせいなのだと、瞬時に理解した。処刑に関わったなどと書かれては、三美神と同じように武器を持ち歩き、平気で人を殺せる人物だと思われても仕方がない。そういった人物を避けるのは当然のことだ。
「でも、俺、別にそんなつもりじゃ……」
こんな書かれ方をしたら、皐月が父親の跡を継ぐと思われてもしょうがない。いや、記事を読むとそのように書かれているようだ。百合園家の次男でほぼ決まっている、と。そんな事実は一切ないというのに。
ミミが申し訳なさそうに口を開いた。
「うん、そうだよね。わかってる。それ、姉が書いた記事なの。百合園はこのまえ後継者になる気はないって言ってたから、信用できなくて。ちゃんと百合園に確認したかったの」
皐月は記事の最後を見る。執筆者として「小森ゆき」と氏名が書かれていた。顔を上げて、ミミを見る。
ミミは頭を下げた。
「ごめん、姉が軽率なばかりに。姉はこういうところがあるの。記事を書くためなら強引になる人で。でもまさかこんな事態になるなんて……。姉に言って、なんとか取り下げてもらうようにするから……!本当にごめんなさい!」
皐月はただただ困惑する。何も言い返すことができない。今この場でミミを責めるのは違う。
たとえ怒ったところでもう手遅れ。写真も名前も世に出てしまえば、もう収拾は不可能だ。ネットニュースにまでなっているのだから、皐月の名前と顔は全国に知れ渡っているだろう。
記事の内容を否定しようにも、先に出た衝撃的なニュースを覆すにはかなりの労力がいるものだ。
(ああ……どうしよう……。ますます普通の生活から遠のいていく……)
隣のいすに置いていた皐月のリュックから、音楽が鳴り始めた。スマホの着信音だ。グリーク作曲の「森の魔王の宮殿にて」。とある人物にだけ、この曲を設定していた。
魔物がどんどん近付いてくるかのような音楽。暗い音で、リズミカルに不安をあおってくる。同時に、嫌な予感がひしひしと襲い掛かってきた。




