人の進路を勝手に決める
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食堂の料理を受け取った坂本は、取り巻きの男女とともに、遠目から皐月の姿を見ていた。坂本たちの視線に、皐月が気付くことはない。
「ねえ、どうする……?」
取り巻きの女子が言った。坂本はぎこちなく笑う。
「行こうよ。百合園がそうだからって、百合園の性格が変わるわけじゃないんだし。あのときだって、みんながいろんなこと言っても怒んなかったでしょ? 」
「いや、わかんないじゃん……。今も人を殺せるようなもの、持ってるかもしれないし」
茶髪の男子が同調するようにうなずいた。
「やっぱりあいつ危ないやつだって。俺たちと一緒にいても仲良くする気なかったじゃん」
「それは……たぶん、人見知りするタイプだからで」
「坂本は優しいからああいうのほっとけないんだろうけど。でもやっぱり、俺たちとは住む世界が違うっていうか」
坂本と取り巻きたちの隣を、一人の女子がすり抜けて出てきた。売店のレジ袋を提げた彼女は、黒髪ショートでだぼだぼTシャツを着ている。坂本の取り巻きの一人だ。
坂本たちの暗い雰囲気に首をかしげ、坂本たちの視線の先に顔を向ける。何かを納得したように何度かうなずいて、視線を坂本たちに戻した。
「そんなに嫌なら別の場所で食べれば? 私は行くけど」
黒髪ショート女子は意地悪く笑う。意気揚々と皐月のテーブルに近付いていった。
「あ、私も……」
「やめとけって坂本」
行こうとした坂本の二の腕を、取り巻きの男子がつかむ。取り巻きの女子が心配そうに言った。
「ほうっておきなよ、坂本。百合園はやばいし、あいつはあいつで変なやつなんだよ」
取り巻きたちは黒髪ショート女子の後ろ姿を、不信な目で見つめていた。
「ほんと、専門職専攻って頭いいけどおかしい人多いよね。ほら、行こうよ、坂本」
坂本は皐月の座るテーブルに顔を向けたままだ。眉尻を下げて、不安げな瞳で見つめていた。
「ここ、空いてる?」
皐月の頭上から降ってきた声。食事を進めていた皐月の目の前に、黒髪ショート女子が立っていた。スーザン事件に関わるきっかけとなった人物だと、皐月はすぐに気付く。
だぼだぼの黒いTシャツには、ドクロマークがでかでかと主張している。ピアスや指輪は、ゴツゴツとしたデザインのものをつけていた。
皐月は黒髪ショート女子の顔をじっと見つめ、ふと定食の受取所に顔を向ける。
坂本とその取り巻きたちの姿を見つけた。皐月の視線に気付いた彼らは、どこかおびえるような瞳で、そそくさと移動していく。
わけがわからない。黒髪ショート女子だけがどうしてこちらに来たのかも理解できない。
「あいつらは来ないよ。薄情だよね」
黒髪ショート女子は、坂本たちを見て意地悪くはにかんだ。
皐月に対するまわりの反応の変化について、何か心当たりがあるような言い方だ。
「……どうぞ」
座って、と手を差し出した。黒髪ショート女子は、嬉しそうに笑う。
ご機嫌に座って、さげていたレジ袋から菓子パンを取り出した。パンの袋を開け、口に入れる前に言った。
「そういえば。自己紹介してなかったよね? わたし、小森ミミ。百合園……って呼ぶけどいいよね? 百合園と同じ専門職専攻だよ」
皐月は目を見開いて、ミミの顔を見つめる。坂本たちと一緒に行動していたものだから、てっきり別の専攻かと思っていた。
ミミは大口を開けてパンにかぶりつく。
「わかるわかる。わたしが専門職専攻には見えないんでしょ。よく言われる」
もぐもぐと噛みながら、口をおさえて言った。
「あいつらとは専攻違うのに、巻き込まれちゃって大変だったんだよね。今のうちに離れておこうって思って。もともとみんなとわいわい騒ぎたいほうでもないからさ。百合園のこと利用させてもらっちゃった」
パンを飲み込んで、てへっと笑う。
「それは全然いいけど……」
皐月も食事を進める。定食のみそ汁をすすり、ミミを見た。
「小森さんは、政策専攻かと思ってた。お姉さんが記者やってるって言ってたし。記者かジャーナリストを目指すんならそこじゃない?」
「いやいや勝手に決めないでよ。別にお姉ちゃんと同じ道を進みたいわけじゃないから」
「ああ、そうだよね。ごめん」




