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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.6 人のうわさはいつまでも続く
82/162

人の進路を勝手に決める






          †






 食堂の料理を受け取った坂本は、取り巻きの男女とともに、遠目から皐月の姿を見ていた。坂本たちの視線に、皐月が気付くことはない。


「ねえ、どうする……?」


 取り巻きの女子が言った。坂本はぎこちなく笑う。


「行こうよ。百合園がそうだからって、百合園の性格が変わるわけじゃないんだし。あのときだって、みんながいろんなこと言っても怒んなかったでしょ? 」


「いや、わかんないじゃん……。今も人を殺せるようなもの、持ってるかもしれないし」


 茶髪の男子が同調するようにうなずいた。


「やっぱりあいつ危ないやつだって。俺たちと一緒にいても仲良くする気なかったじゃん」


「それは……たぶん、人見知りするタイプだからで」


「坂本は優しいからああいうのほっとけないんだろうけど。でもやっぱり、俺たちとは住む世界が違うっていうか」


 坂本と取り巻きたちの隣を、一人の女子がすり抜けて出てきた。売店のレジ袋を提げた彼女は、黒髪ショートでだぼだぼTシャツを着ている。坂本の取り巻きの一人だ。


 坂本たちの暗い雰囲気に首をかしげ、坂本たちの視線の先に顔を向ける。何かを納得したように何度かうなずいて、視線を坂本たちに戻した。


「そんなに嫌なら別の場所で食べれば? 私は行くけど」


 黒髪ショート女子は意地悪く笑う。意気揚々と皐月のテーブルに近付いていった。


「あ、私も……」


「やめとけって坂本」


 行こうとした坂本の二の腕を、取り巻きの男子がつかむ。取り巻きの女子が心配そうに言った。


「ほうっておきなよ、坂本。百合園はやばいし、あいつはあいつで変なやつなんだよ」


 取り巻きたちは黒髪ショート女子の後ろ姿を、不信な目で見つめていた。


「ほんと、専門職専攻って頭いいけどおかしい人多いよね。ほら、行こうよ、坂本」


 坂本は皐月の座るテーブルに顔を向けたままだ。眉尻を下げて、不安げな瞳で見つめていた。


「ここ、空いてる?」


 皐月の頭上から降ってきた声。食事を進めていた皐月の目の前に、黒髪ショート女子が立っていた。スーザン事件に関わるきっかけとなった人物だと、皐月はすぐに気付く。


 だぼだぼの黒いTシャツには、ドクロマークがでかでかと主張している。ピアスや指輪は、ゴツゴツとしたデザインのものをつけていた。


 皐月は黒髪ショート女子の顔をじっと見つめ、ふと定食の受取所に顔を向ける。


 坂本とその取り巻きたちの姿を見つけた。皐月の視線に気付いた彼らは、どこかおびえるような瞳で、そそくさと移動していく。


 わけがわからない。黒髪ショート女子だけがどうしてこちらに来たのかも理解できない。


「あいつらは来ないよ。薄情だよね」


 黒髪ショート女子は、坂本たちを見て意地悪くはにかんだ。


 皐月に対するまわりの反応の変化について、何か心当たりがあるような言い方だ。


「……どうぞ」


 座って、と手を差し出した。黒髪ショート女子は、嬉しそうに笑う。


 ご機嫌に座って、さげていたレジ袋から菓子パンを取り出した。パンの袋を開け、口に入れる前に言った。


「そういえば。自己紹介してなかったよね? わたし、小森ミミ。百合園……って呼ぶけどいいよね? 百合園と同じ専門職専攻だよ」


 皐月は目を見開いて、ミミの顔を見つめる。坂本たちと一緒に行動していたものだから、てっきり別の専攻かと思っていた。


 ミミは大口を開けてパンにかぶりつく。


「わかるわかる。わたしが専門職専攻には見えないんでしょ。よく言われる」


 もぐもぐと噛みながら、口をおさえて言った。


「あいつらとは専攻違うのに、巻き込まれちゃって大変だったんだよね。今のうちに離れておこうって思って。もともとみんなとわいわい騒ぎたいほうでもないからさ。百合園のこと利用させてもらっちゃった」


 パンを飲み込んで、てへっと笑う。


「それは全然いいけど……」


 皐月も食事を進める。定食のみそ汁をすすり、ミミを見た。


「小森さんは、政策専攻かと思ってた。お姉さんが記者やってるって言ってたし。記者かジャーナリストを目指すんならそこじゃない?」


「いやいや勝手に決めないでよ。別にお姉ちゃんと同じ道を進みたいわけじゃないから」


「ああ、そうだよね。ごめん」

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