やめてほしかっただけ
自分が殺してきた人たちに、傷つけてきた人たちに、赦しを乞いながら生きていくうえで、かすかな幸せを感じることだってあったかもしれないのに。
こうやって考えることがいけないのだろう。皐月はまた、少女のことしか考えていない。被害者のことを考えていない。そんな自分が、嫌になる。
「こんな人生なら、産まれてこないほうがよかった。いっそのこと、一瞬で誰かが自分のことを殺してくれたら」
瑠璃のつぶやきに、皐月は眉をひそめる。
「……わからなくてもいいわ。皐月が理解できるとも思ってない。でも、少なからず、殺されることで救われる人間はいるの。自分で死ぬ勇気はないくせに、ね。だから良いことだとは言えないけれど」
そのとき、皐月の頭の中で少女の言葉が思い起こされる。
――連れて行ってほしいよ。ここじゃない遠いところ……私だけじゃ、いけないから――
これは少女の本心だったはずだ。その意味はもう、本人の口から聞くことは出来ないけれど。それが瑠璃の言ったことと同じ意味だったとしたら。
ここじゃない遠いところに、少女は行けたのだろうか。
「自分が死んでもいいと思ってるやつは、たいてい他人も大事にできないものよ。だから、殺人鬼に対して同情はしてもためらっちゃだめ。どれだけ悲しい状況を背負っていたとしても、手に持ってるのは凶器で、何人も殺したようなやつなんだから」
瑠璃は笑っている。しかしその目は、犯人の少女を見つめる和也のような、冷酷さを感じさせた。
「何人も殺し続けた殺人鬼が、三美神から生き永らえたところで、同じことを繰り返さないとも限らないのだし」
皐月と目が合うと、瑠璃の瞳に冷酷さは消える。
「和也はああ見えて殺り方が激しいほうだからね。皐月には刺激が強かったでしょうね」
瑠璃の顔に浮かんだ艶やかな笑み。色っぽくて、まるで恋焦がれるかのような笑みだった。
皐月の中に、不快な嫉妬心が渦巻く。自分には、そんな顔見せないくせに。父親の話でそんな顔をされるのも、実に複雑だった。
「やっぱり、皐月は向いてないのよ、こういう仕事に。皐月は平和主義だから。本来なら、私が呼ばれるはずだったんでしょう……? 処刑管理課のキャリア警部の指名で」
ふと、瑠璃は目を伏せて、手を口に当てる。眉をひそめながら、ぼそりとつぶやいた。
「わざわざご指名だなんてね……」
どこを見つめるわけでもないその目元は、不快感に満ちている。
「自分のほうが立場が上だとでも思ってんのかしら。いい気分ではないわね……」
吐き捨てた瑠璃を見て、皐月の顔に影がかかる。
瑠璃にはこれ以上、三美神の仕事にかかわってほしくない。しかし、瑠璃を三美神から遠ざけることがいかに困難なことであるのか、ひしひしと感じ取っていた。
瑠璃の心は、そもそも皐月には向いてない。皐月が愛情をもって説得したところで瑠璃が心変わりするはずもないのだ。それでも、瑠璃のことが大事であることに変わりない。
瑠璃が一緒にいてくれるために。瑠璃が危険な目に合わないために。瑠璃に振り向いてもらうために。
皐月の頭の中は今、そればかりがぐるぐると駆け巡っていた。




