しょせん、異端者 1
和也がスーザン女学院大学へ到着したのは、ちょうど学生たちが登校している頃だった。すでに来ていた哲と健一のあいだに入り、正門を見すえながら首をかしげる。
開かれたアーチ門の手前と中で、人だかりができていた。門を境界にして外にいるのは中年の男女、中にいるのは神父と大学の職員たちだ。
学生たちは、それを避けながら門を通っていく。
「……なにあれ?」
健一が短く息をついた。
「いなくなった学生の保護者だよ。寮生だった娘の荷物を受け取りに来たんだと」
「ふうん……」
和也も二人と同じように、顔を向ける。哲が静かにつぶやいた。
「都内に住んでいる者が二人、寮生が十一人だ」
和也の切れ長の目が、哲に向く。哲は正門を見すえながら続けた。
「それだけの数がいなくなってる。そのうえで大学がどういった対応をするのか、よく見ておくといい。おまえにとっては不快だろうが、手は出すな」
和也はうなずき、視線を正門に戻す。
保護者たちの先頭に立つ男性が、リュックを背負い、ボストンバッグを肩にかけ、段ボールを抱えていた。上が開きっぱなしの段ボールは、女性ものの衣服や小物であふれている。
門の向こう側にいる女性の事務員が、荷物の中身について淡々と説明していた。
「……娘さんの荷物は以上になります。では今後の手続きについてですが」
「あの……」
男性は、弱弱しく背中を丸める。
「ほんとうに、うちの娘が最後に何をしていたのか、わからないんですか?」
神父や事務員たちはお互いにチラチラと確認しあう。誰一人、何も言おうとしない。
「娘は、学校でどんな生活を送っていたんですか……?」
再びチラチラとお互いを確認して、事務員の女性が口を開いた。
「そういったことは学生のプライバシーにかかわりますし、ウチの信用にもかかわってくる問題ですのでお答えしかねます」
「どうしてですか……! 最後に娘がいたのはここなんですよ!」
「必ずしもそうだとは言えません。それに、他の学生のプライバシーにもかかわってくることですから」
事務員はあくまでも無機質な声で返す。その対応に、保護者達がワッと声を上げた。
「なに言ってんのよ! こっちは娘がいなくなってんのよ! プライバシーもくそもないでしょ!」
「荷物だけ渡されてはいそうですかって納得できるか!」
「なんのためにあんたたちに預けてたと思うのよ! 学校としての責任があるでしょうが!」
「あんたらも捜査に協力するべきじゃないのか!」
先頭に立つ男性が、必死に懇願する。
「お願いします! 知っていることをすべて教えてください! 普段の生活の中に、居場所の手がかりがあるかもしれないじゃないですか!」
保護者たちの訴えもむなしく、返ってきたのは神父のため息だ。
「こちらはこちらで、精いっぱいのことをしたつもりです。あまりこんなことは言いたくありませんが、娘さんたち、そもそも素行不良が目立っておりましてね」
「そんなはずないでしょ! うちの子が不良だなんてそんな……!」
「親御さんは贔屓目に見るからそうおっしゃいますがね。我々はかなり指導に苦労しておりましたよ。学則は平気で破るわ、学業にも真面目に取り組まないわで……」
神父は盛大なため息をつき、肩をすくめる。
「高校では真面目でも、大学で変貌する、なんてことはよくある話ですからねぇ。うちの寮はとにかく規則に厳しいほうですから、なじめないのも無理はないでしょう」
小ばかにするような目で話す神父に、保護者達の顔はゆがんでいく。
「おおかた、夜の街にでも逃げ出して、ここに戻ってこないようにしてるんでしょうな。不真面目な学生にはよくあることですよ」
神父の口角が、嫌みに上がった。
「まさしく、子が子なら親も親ですよ。子は親を見て育つと言いますからね。我々を批判する前に、ご自分の育児を振り返ってはいかがです? まったく、どういう育て方をすればああなるんだか」
神父の言葉を真正面から受けていた男性は、段ボールを抱きしめるよう、ますます背を丸めた。その体が小刻みに震えだす。
「……の、……この」