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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.5 連れて行ってほしかっただけ
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見つけてほしかっただけ

 部屋の中央で、私服姿の皐月が、リュックと二本の日本刀を抱えながら荒い息を繰り返していた。


 リュックには百合園でもらったスリーピーススーツと革靴が入っている。リュックはともかくとして、さすがに日本刀を瑠璃に見られるわけにはいかなかった。


 三美神の活動に参加するのを反対した立場だ。それなのに自分が参加しているだなんて知られたら何を言われるかわからない。


 とりあえず日本刀を、部屋のクローゼットに入れた。その瞬間、ドアが勢いよく開く。


「うわあああああああ」


 叫びながらクローゼットの扉を素早く閉めた。


「……なんだ、皐月か」


 つまらなさそうな瑠璃の声が、部屋に響く。


「ただいまぐらい言ってよ。変質者でも入って来たのかと思ったじゃない」


「……ごめん」


 瑠璃が不審な目つきで皐月を見つめる。皐月は瑠璃を見つめ返し、安心させるように笑みを浮かべた。


 瑠璃は興味を失ったかのようにため息をつき、ドアを閉める。


 瑠璃がここに来るまでの足音を、皐月は一切聞いていない。三美神と一緒に活動してきた経験は伊達ではないのだ。


 皐月はクローゼットの扉を手で押さえながら、どこか犯罪者と同じような気分に陥っていた。






         †






 それからの皐月の生活が、大きく変わることはなかった。少し忙しくなった程度だ。


 三美神は皐月の学業を優先し、学校を休ませてまで無理やり協力させることはなかった。それは皐月にとって有難いことだ。とはいえ、部活は休まざるを得なかった。それはもうしょうがない、と割り切っている。


 素早く家に戻り、瑠璃がまだ帰ってきてないことを確認したら、スリーピースに着替える。日本刀を二本帯刀し、呼び出された場所にバイクで向かった。目的地の近くにある駐車場に止めて、現場まで少し歩く。


 アパートやマンションが密集する住宅地。刑事や鑑識が集まっているその場所は、ごみ捨て場だった。三美神と鑑識が、地面に置かれた黒いごみ袋の中をのぞき込んでいる。


(なんだろう……?)


 先に来ている者たちは、深刻な顔をして、低い声で話し合っている。袋の中身が気になる皐月は、三美神の後ろからのぞき込む。前回、そうやって見たものがなんだったのかも忘れて。


「あ、皐月……! 」


 和也が気付いて止めようとするも遅かった。皐月はそれをもろに見てしまう。三美神が興味深げに見るものなんて、まともなものではないとわかっていたはずなのに。


 それは両手に収まるほどの大きさで、人間のかたちをしている。赤黒くて、おなかからひものようなものがのびていた。しかしその頭と手足は刃物のようなものですっぱりと切り離されている。


 皐月は胃液が口までせり上がってくる前に、背を向けた。青白い顔で下を向き、口を押えて深呼吸を繰り返す。その体は小刻みに震えていた。


「ごめんね、皐月。来てるの気付かなかったから……」


 和也が優しく背中をさする。子ども扱いに情けなく感じたが、優しくて温かい手に、徐々に安心していった。


 袋の中をしゃがみこんで見ていたベテランの鑑識が、百合園親子に顔を向ける。


「おいおい、ありゃ百合園の息子か? 大丈夫か? 父親と違って全然耐性がねえな」


 鑑識の隣に立つ哲が、冷静に返した。


「場慣れしていないだけだ。いずれ治まる」


 鑑識は袋の中身に視線を戻す。すみずみまで観察しながら、つぶやいた。


「……五、六ヵ月ってところじゃないか? えげつないことしやがるもんだ」


「殺人鬼はえげつないことしかしないものだぞ」


「ふん、いっちょまえに言いやがって」


 哲は疲労を隠し切れずに、ため息をついた。


 そばで一緒に見ていた健一が、顔をゆがませながら言う。


「発見された胎児の遺体はこれで五体目か……。気分わりい。妊婦の遺体も増えてきてるし、はやいとこ犯人をとっつかまえないと」


 哲は健一をちらりと見て、ぼそりとつぶやいた。


「遺体で発見された妊婦は八人。……まだ、見つかってない子どもがいる……」


 皐月の背中をさすっている和也は、哲たちに顔を向けて会話を聞いている。


 落ち着いてきた皐月は、ゆっくりと息を吐いて顔を上げた。


 目の前に建ち並んだマンションやアパート。皐月の前にのびる道を目で追うと、ずっと先のほうに古びれた木造のアパートが見える。暗い色をした二階建てで、小さい窓が並んでいた。今にも倒れそうなほどに朽ちている。


 そのアパートのそばで、一人の少女がたたずんでいた。皐月たちを見つめている。十歳ほどの背丈で、髪が長い。遠目からでは、長い前髪のせいで顔がよく見えなかった。しかし、どことなく薄汚れているのは見て取れる。


 少女は皐月の視線に気付いたらしい。すぐに背を向けてアパートの裏に隠れてしまった。


 皐月の頭から、重々しく鈍い警告が全身を巡った。ひどく嫌な予感がする。これ以上突っ込んではいけない。いや。むしろ今が行動すべきときで、この機会を逃してはいけないのではないか。


 根拠はない。そんな気がするだけだ。嫌な予感を無視したって良い。しかし、嫌な予感に従おうが無視しようが、結局危険な目にあうのは自分だ。ムカデのときもスーザンのときも、そうやって巻き込まれたではないか。……そのせいで、犠牲になった者もいたではないか。


 皐月は、木造アパートのほうへ、静かに歩き出す。


「え? 皐月? どうしたの?」


 ふらりと進んでいく皐月を、和也は戸惑いながら呼び止める。しかし皐月が振りむくことはない。それどころか、いきなり走り出して、まっすぐにアパートへ向かう。

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