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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.5 連れて行ってほしかっただけ
66/162

教えてほしかっただけ





          †






 遺体の確認を終えた三美神は、テープをくぐって現場を出る。その後ろに皐月も続いた。


 先に進んでいく哲を呼び止める。


「あの、西園寺様」


 哲は振り返る。


「その……聞きたいことがあって」


 皐月は口を閉じ、健一と和也を交互に見た。皐月の視線の意味に気付いた哲は、二人に指示を出す。


「……先に百合園に行っててくれないか。俺たちもあとで向かうから」


「たちってことは、皐月も一緒にくるってこと?」


 怪訝けげんそうに和也が尋ねる。哲はうなずいた。


「今回は瑠璃の代わりだからな。三美神会議にも参加する権利はあるし」


「権利であって義務じゃないんでしょ。皐月が表立って捜査するわけじゃないんだから、別にそこまで立ち入らせなくても……」


 和也は不安げに目を伏せる。哲は堂々と言い放った。


「協力してくれる以上、中途半端に距離を取るのも危険だろう。皐月に好き勝手行動させるわけにもいかないし。常に目の届くところにいてくれたほうが、おまえにとってもいいと思うぞ?」


「でも……」


 和也の表情には、哲に対する不満がにじみ出ていた。皐月を一緒に行動させることに納得していないようだった。


 今回ばかりはどこか折り合いが悪い二人に、健一が穏やかに口を挟む。


「兄さんが言うように、一緒に行動させるほうが安全で良いと思うぞ。兄さんだって、皐月から目を離すことはないだろうし。皐月だって会議に参加した方が、俺たちと同じ行動をとりやすいだろうからな」


 和也はそれでも納得していないのか、顔をゆがませる。とはいえ、渋々とうなずいた。


 健一は哲に顔を向け、困ったように笑った。


「じゃあ、俺たちは先に向かってるから。ほら、行こうぜ」


 健一と、不安げな表情を浮かべたままの和也は、その場から立ち去っていく。二人の姿が見えなくなったころ、哲は皐月に顔を向けて、口を開いた。


「……で、話って? 」


「俺を呼んだ理由についてです」


 哲は首をかしげる。理由は電話で伝えたはずだ、とでも言わんばかりだ。


「俺、瑠璃ちゃんの代わりに呼ばれたんですよね?その……キャリアがどうこう、とか、ごまかせる、とか言ってましたけど、どういうことなんですか?」


 とたんに哲は眉をひそめる。何かを思い出したように頭を抱え、深いため息をついた。


「警視庁の処刑管理課は知っているな? 」


 哲は苦々しく口を開く。皐月は当然だとうなずいた。


「さっきの鶴見警視の部署ですよね? 三美神がつながってる警視庁唯一の部署。それが何か?」


「そこに、キャリアの警部が配属されることになったんだそうだ」


「へえ……」


 皐月はいまいちピンと来ていない顔で、気の抜けた返事をする。哲が腕を組み、不快そうに顔をしかめて話を続けた。


「処刑管理課に自分で希望して配属された物好きだ。年齢も二十五で若い。……東悟が言うには俺たちのファンだと豪語しているらしい」


「ええ? 」


 皐月は開いた口がふさがらない。それはまたえらい物好きがいただ。その警部の思考が理解できそうにない。


 ぽかんと口を開けている皐月の反応に、哲は微妙な表情を浮かべた。短く息をついて話を続ける。


「俺たちが来るなら、自分も現場に出たい、というような男なんだ。キャリア組は本来現場に出ないものなのに。今日も来たがってはいたが、東悟に説得してもらってなんとか部署に残ってもらった」


 実際に三美神のファンだと公言する人は、少なからず存在する。程度の差はあっても、極悪人に対する処刑を正義だととらえて敬い、衰えない容姿に本物の神のごとく崇めたたえるのだ。しかし警察内部で三美神のファンだと言う人間は、極めてまれだろう。


 なんてったって処刑する三美神と逮捕する警察ではお互いに立場が異なる。それに加えて警察上層部の人間の中には、三美神の存在を疎ましく思う者だっているのだ。二十五の若い警部が簡単にファンだと公言すれば、お偉方に厄介者扱いされてもおかしくない。


「そのキャリア警部が今回の事件に瑠璃を出すよう指名してきたんだよ。」


 哲は顔をゆがませた。嫌悪をこれでもかとただよわせている。


「……俺たちのファンだと公言してるくらいだ。俺たちが関わってきた事件のことも知っているし、俺たちがどうやって犯罪者を処分してきたのかも知っている。もちろん……」


 その瞬間、哲は口を閉ざす。ひどく言いにくそうに手を口に当て、目を伏せる。哲はやがて、皐月をちらりと見て、遠慮がちに口を開いた。


「……もちろん、瑠璃のことも把握されてる。瑠璃がどういうタイプの人間で、どうやって殺人鬼を処刑するのか、その全てをな」


 皐月の心臓がどくんと跳ねた。


 瑠璃は三美神と一緒に仕事をしているのだ。だからもちろん、三美神とともに殺人鬼を殺すことだってある。そういうものだと理解してはいるものの、改めて聞くと実に生々しくて重苦しい。


 哲はスーザンの件で皐月を振り回したことを、一応気にしているのだろう。意外にも皐月に気を使っているようだ。


 皐月がちらりと哲の顔を見ると、どこか悲し気で、不快そうな表情を浮かべていた。


「……さっきの遺体、悲惨だっただろう? 」


 皐月はうなずく。


「ああいう遺体を、瑠璃にはあまり見せたくない」

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