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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.3 よくある話
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よく乞う話

「はいこれ」


 哲は、アンティーク調のオペラグラスを健一に差し出した。いかにも哲らしい「良い趣味をした」持ち物だ。いちいちここで反応するのもめんどくさいので、健一は黙って受け取る。


「箱崎の名字があったら言ってくれ。おまえが見たことのある顔なのかどうか確認しろ。手っ取り早くな。このご時世、こういう場所であんまり長々してると通報されかねない」


 いじめっ子たちの顔をちゃんとまともに見ているのは、健一だけだ。言われたとおりにオペラグラスを目に当てる。


 デザイン重視に見えるオペラグラスだったが、性能は極めて良かった。少年たちの体操服に書かれた名前がよく見える。


 少年たちは体操の号令をかけられ、それぞれ広がっていく。健一は一度目を離し、少年たちの姿をゆっくりと見渡したあと、再びオペラグラスをのぞいた。


 オペラグラスを動かしながら、箱崎の名を探す。


「いた」


「顔は?」


 オペラグラスには箱崎の横顔が移る。体操している最中、体を捻って後ろを向いた時の顔を、しっかりと確認した。


 健一はオペラグラスを目から離す。


「間違いねぇな」


「そうか」


 差し出された哲の手に、健一はオペラグラスを返した。


 健一は眉をひそめ、何食わぬ顔で体操を続けている箱崎をにらみ付ける。


「気に食わねえ。もう二人も死んでるのに。きっと悪いことをしたとも思ってねえんだ。あいつが中学生じゃなくて、守られるべき存在じゃなかったら」


「俺がぶっ殺してやるのに、って?」


 過激な言葉に、健一は目を見開いて哲を見た。


「そんなことは、思ってねえよ」


 健一の反応に、哲は妖しく笑った。


「あんまり熱くなるな。大人げない上に格好悪いぞ。そういうとこ、俺は嫌いじゃないけど」


「うるせえ」


 健一は深いため息をついた。


 とりあえず一仕事を終えた二人は、体育の授業を受ける生徒たちを背にし、その場を去っていった。






          †






「なんでお父さんと健一君がしないわけ?」


 放課後、盤隆中の校門前。警備員がいる反対側で、瑠璃の気だるそうな声が放たれる。


「今日の昼にここにきたんでしょ? 二人がそのままやればいいのに」


「まあ、兄さんも健一君も、相手に顔が割れちゃってるだろうからね」


 私服姿の和也が、柔らかく笑う。黒いチェスターコートにネイビーのパンツ。一方で、瑠璃はいつもどおり、グレーチェックのワンピースだった。


 瑠璃は、和也の格好を見て、冷静に言う。


「……和也の私服、久しぶりに見た」


「えへへ、似合う?兄さんからのおさがりなんだ」


「うん、似合ってる。白も良いけど、和也は暗めの色の服がすごく似合うと思うわ。お父さんも良いセンスしてるわね」


 照れたように和也ははにかむ。瑠璃はにこにことほほ笑んで、愛おしそうに和也を見上げた。二人の周りは、ふわふわとした柔らかい空気に満ちている。


「……和也、ここは私だけでいいのよ。和也だって三美神として顔は割れてるだろうから」


 和也は困ったような表情を浮かべる。


「うーん……それはちょっと、不安だな」


「どうして?」


「瑠璃ちゃんってどことなく健一君に似てるときがあるでしょ」


「私のどこが健一君に似てるってのよ?」


 不服そうに語気を強めて瑠璃は言う。その反応に、和也はくすくすと笑った。


「瑠璃ちゃんも、誰かがいじめられてたら、何かせずにはいられないタイプなんじゃない?」


「そんなこと……」


 ない、とは言い切れなかった。そんなことなければ、警視庁で騒ぐ中学生の相手など絶対にしないだろう。


 瑠璃は校門に顔を向ける。もうすでに、校門からは生徒が何人も出てきていた。みんな、ちらちらと二人を見やり、あやしんでいる。


「瑠璃ちゃんはモテモテだねぇ」


 間の抜けた和也の声に、瑠璃はあきれたようにため息をついた。


「いやいや、三美神の和也を見てびっくりしてるんでしょ」


 和也はおそらく、スリーピースだと目立って正体がバレると踏んで、私服で来たのだろう。とはいえそもそも顔が良いので、私服だろうと目立たないわけがない。


「もう。ここは私一人でやるから。和也はどっか隠れてて。お父さんのところに行ってくれてもいいし」


「え~、でも~……。瑠璃ちゃんから離れて兄さんに小言を言われるのは僕なんだけど……」


「いいから、いいから。和也が目立ってると、ちゃんと指示通りに動けないかもしれないのよ、私が 」


 和也はしょんぼりと肩を落とす。西園寺哲の娘なので、こうと決めた瑠璃に何を言っても聞かないことはわかっていた。


「じゃあ、近くで隠れてる。何かあったら連絡するんだよ? 」


和也はしぶしぶと言ったようすで、名残惜しそうにその場を離れていった。






          †






 和也が離れてしばらくすると、新名麻耶が校門から出てきた。警視庁で会ったあの少女だと、瑠璃はすぐに気付く。


 瑠璃はすぐに視線をそらして気付いていないふりをする。相手に気付かれないよう気配を消した。


だが、新名は瑠璃の存在に気付いたようで、駆け寄ってくる。


「あの!助けてあげてください!」


 新名は思い切り声を張り上げ、瑠璃に頭を下げた。


「……何?」


 不審に思いながら尋ねる瑠璃に、新名は頭を上げて言った。


「さっき隣のクラス通ったら、集団リンチっていうか、なんか、拷問みたいなことしてて、しかもやられてるのが、女の子で。……あの……案内するから助けてあげてもらえませんか?」


「なんで私が?」


 めんどうくさそうに答えた瑠璃に、新名は戸惑うようすを見せた。


「だって……私なんかよりも、あなたのほうが強そうだし……。三美神と、関わりのある方、なんですよね……?」

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