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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.3 よくある話
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よく写る話



 ・被害者 桜庭明 十四歳


 ・盤隆中学校 三年〇組……




 地図を開くと、死体発見現場に赤い丸印がつけられている。元のページに戻って、再び情報を読んでいった。


「あれ……?溺死じゃない……? 」


 瑠璃のつぶやきに、哲が反応した。


「心不全の可能性が高いそうだ。肺に水もなかったみたいだし」


「あ、ほんとだ……」


 瑠璃はタブレットを操作し、死因の詳細のページを読み始めた。


 哲はゆっくりと瞬きをして、健一に視線を向ける。


「川で薬が見つかってただろう?」


「ああ、狭心症がどうたらって、鑑識が言ってたな」


「そう。川に落ちてた薬は二種類。ニトログリセリンの他に、一日に二回服用しなきゃいけないカプセルが見つかってる。二つとも狭心症患者によく処方されるものだった。狭心症はまれに子どもの内から発症することがあるらしい」


 ひとごとのように冷静に話をする哲は、優雅にロイヤルミルクティーをすする。


「警察もたいしたもんだ。流されててもおかしくなかっただろうに、よく見つけたよ」


 瑠璃が見ている画面には、発見された錠剤シートについて記載されている。


錠剤シートは川岸に引っかかっていた。鑑識が捜索範囲を広げて調べたところ、同じように川岸に引っかかった錠剤シートがいくつか見つかったらしい。


哲は話を続けた。


「どうして、川から薬が見つかったんだろうな。薬を飲もうとして、落としてしまったのか……」


 哲の言葉に、健一は落ち着いて返す。


「ああ、そうか。だから川から薬を拾おうとして、あんな体制に……」


「そうだな。必死になって拾おうとするだろうさ。特にニトログリセリンは、発作が起きたら必ず服用しなきゃいけない薬だからな」


 哲は何かを思いついたようにほほ笑む。その笑みは、ひどく奇麗で恐ろしかった。


「もしも……発作が起きているときに、誰かに薬を捨てられたのだとしたら……」


 和也と健一は、神妙な顔つきで哲を見つめた。


「……なんて、考えすぎか? 殺人事件に慣れてるもんだから、どうにも結びつけてしまいたくなるな」


 哲はおかしそうに喉を鳴らして笑う。


 瑠璃はタブレットの画面から目をはなそうとせず、情報を読み進めている。




 ・死亡時刻……〇日、十八時頃。


 ・死因……心筋梗塞。備考:狭心症の持病あり。発作が起こったものと推測される。


 ・通報記録……〇日、六時三十六分。


 ・所持品(現場写真)……カバン(黒)(詳細)。学生証(詳細)。ノート五冊(写真)。教科書七冊(写真)。……。




 写真をタップして開くと、現場に散らかった所持品のようすが表示された。教科書は破けてぼろぼろ。ノートは、表紙が悪質な落書きで埋め尽くされている。


 哲はロイヤルミルクティーを飲みながら言った。


「仮に、川に薬を落としてしまったと考えるなら、発作が起こったときにはすでに川岸にいたんだろう。でも所持品は川岸から離れたところに散乱していた」


 瑠璃はスコーンを食べながらタブレットの画面を触る。画面に油がついたようで、ナプキンで画面をきゅっきゅと拭いていた。


 哲は思い出すように上を見つめながら話す。


「所持品が散乱してた場所から薬を川に落とすのには無理がある。錠剤一つなら転がっていくかもしれないが、シートごとはありえないだろ。誰かに薬を捨てられて拾いに行った、と考えるほうが現実的だと思わないか? 所持品も誰かにぶちまけられたのかもしれない」


 哲は、健一が少年から手紙をもらっていたことをふと思い出す。少年が死亡したのは、その直後で間違いないだろう。


「健一が彼らに会ったのは何時くらいだったっけ? 確か……」


「推定死亡時刻が夕方六時くらいだろ? 俺が会ったのはその三十分くらい前だ」


 和也がひとごとのように言ってのける。


「健一君と会ってすぐに死んじゃったってことだね。確か、万引きしているところをとめたんだっけ?」


「う……そうだよ」


 バツの悪い顔をした健一は和也から目をそらし、哲を見た。和也に渡すよう、哲が顔を振って促す。あのルーズリーフのことを言いたいのだと、健一は察した。


 あまり気は乗らなかったが、ジャケットの内ポケットから取り出し、和也に差し出す。


 和也は不思議そうな表情で受け取って、すぐさま開いて読み始めた。そのようすを、瑠璃が興味芯々で見つめている。


しばらくすると、和也はルーズリーフから顔を上げて、めんどうくさそうに言い放った。


「まったく、健一くんってば、余計なことに首突っ込んで巻き込まれるんだから……」


「目の前で万引きするところだったんだぞ。普通の大人なら止めるだろ」


「僕たち普通の大人じゃないし。そういうのは僕たちの仕事じゃないでしょ~?」


 和也は不満げに健一を見つめた。和也は、正義だ義理だといった感情には無縁で、身内以外はどうでもいいと思っているたちだ。


 和也はルーズリーフをたたみ、人差し指と中指ではさんで、健一に突き返した。受け取った健一は内ポケットに入れなおす。


「僕たちがこの件に首を突っ込む必要はないと思うけど」


 和也は冷たく言い放つ。


「もし、そのいじめっ子たちが殺人か過失致死で関わっていたとしても、僕らがその子たちを殺すことは出来ないんだから、警察に任せちゃえば? 親が権力者なら、健一君が納得いくような対応を警察がしてくれるとは思えないけど」


 和也の言動はシビアで、健一に対して不快そうな表情を浮かべている。瑠璃や哲に向けるような穏やかで優しい雰囲気は、そこにはない。


 確かに和也の言う通りだ。健一は反論するつもりもなかった。


「警察、ね」


 哲がぽつりとつぶやいた。和也は哲に顔を向ける。


「兄さんだって僕と同じ意見でしょ?こんなの僕たちがわざわざ出向くことないよ」


 哲は和也を見て、ため息をつきながら健一に視線を移す。


「盤隆中学のことを少し調べたら、妙なことがわかってな」


 哲の話の内容を、健一は大体察していた。瑠璃のほうに顔を向けると、瑠璃はタブレットを見ながら、紅茶を優雅に飲んでいる。話に入ってくるつもりはないらしい。


「先月のことだ。盤隆中の生徒が一人、自殺してる。飛び降りだ。それは健一がもらった手紙にも書かれてある。その件について隠蔽いんぺいされているってこともな。一応どういう状況だったのか知っておきたかったから、東悟に頼んで資料を見せてもらった」

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