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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.3 よくある話
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よく知る話

 若手刑事が目を伏せて、考え込みながら言う。


「ということは、あの少年はこの薬を取ろうとしていたってことですかね?」


「それはわかりませんが、同じような薬が他にも散らばっているみたいですから、ご遺体の既往歴を調べてみても良いかもしれません」


 健一はしばらく刑事たちを見つめたあと、再び遺体に視線を移した。


 昨日押し付けられた手紙の内容が、頭の中に浮かび上がる。厳しい表情を浮かべて、固く目をつぶった。


 哲はそんな健一を冷めた目で見つめる。しばらくして、付近を見まわした。


 三美神に背を向けている鑑識が、しゃがんで何やら調べている。その足元には、黒いカバンや教科書類、筆記道具が広げられていた。哲は足早に近づいて、鑑識の隣にしゃがむ。鑑識は隣に来た人物を見て、びくりと肩を震わせた。


「これは? あの遺体のそばにあったものか?」


 哲の質問に、鑑識はぎこちなく答えた。


「いえ……この辺に散らばっていたんです。ご遺体の所持品かどうかを、調べていました」


 鑑識の手には、学生証が握られている。哲が「見せて」と手を差し出すと、鑑識は文句の一つもなく渡した。


「桜庭明……三年生、ね」


 頭にたたき込むように、哲はつぶやく。






          †






 教室の中は朝から騒々しい。桜庭の机には、悪口や嫌味な落書きが油性ペンで書かれている。


 桜庭が学校に到着するのを、箱崎たちは今か今かと待っていた。机にどんな反応を見せるのか、楽しみでしょうがない。それなのに、桜庭はいつまでたっても来るようすがない。


 箱崎はイライラしたようすで、椅子にもたれる。イライラしていたのは、桜庭が来ないからだけではない。


 箱崎は教室中を見まわした。クラスメイトは全員、今日はやたらと三人をチラチラと見ながら、ひそひそと話をしている。


「やっぱりあれって……」


「いや、違うって……」


「でも来ないってことはそうなんじゃね?」


「何か知ってるやついねえのかよ」


 箱崎はわざとらしくため息をついた。大きい舌打ちもする。


 室内はいっせいに静かになり、みんなが箱崎に顔を向けた。教室は、おびえと、気まずさと、不信感であふれかえっている。


 扉が開いて、担任が中に入ってきた。眼鏡をかけて、何を考えているのかわからない表情をしている。


生徒たちは、それぞれ自分の席に座った。


 担任は教壇の上に立って、挨拶もなく口を開く。


「えー、残念な知らせがある。河川敷があるだろ? おまえたちもよくとおるあそこだよ。あそこでな、桜庭が死んでたらしい」


 あまりにも軽い言い回しに、生徒たちは困惑した。不安そうな表情を浮かべて、ざわつき始める。


「はい、静かにー! 昨日あの河川敷の上を通ったやつで、なんか見たり気付いたりしたやつはいるか?」


 教師は面倒くさそうに聞いた。


 生徒たちは静かになる。どの生徒も、ただ視線をきょろきょろと動かすだけだ。


 箱崎は、といえば、ひどく不機嫌そうな表情を浮かべていた。


「うん、誰もないみたいだな」


 教師は淡泊たんぱくに言い捨てる。


「ほんと悲しいことだなあ。先月は光本、今月は桜庭か。皆も心身の体調は気を付けるんだぞ」


 それだけだった。ほんとうにそれだけで担任は次の連絡に移った。誰も余計な話はしないし、体を動かさずじっとしている。


 本当はみんな理解しているのだ。絶対に箱崎が関係しているのだということを。


 次の標的として選ばれないために、箱崎に目をつけられないように、大人しくするしかない。


 ホームルームが終わると、担任はどこか安心したようすで教室を出ていった。そのとたん、箱崎がつぶやく。


「あー、むかつく。勝手に死んでんじゃねえよ。弱すぎるだろ」


 生徒たちの疑惑が確信に変わった。しかし、誰も箱崎のことを責めることはできない。


 鶴岡が箱崎に、茶化すように言った。


「光本ですら三年もったんだぜ。耐性がねえんだよ、あいつ。薬捨てたのがまずかったのかもな?」


 箱崎は冷たい視線を鶴岡に向けた。鶴岡は一瞬怖気(おじけ)付く。変なことを言ってしまったのかと身構える鶴岡に、箱崎はふざけるような笑みを見せた。


「あいつ、まじで薬飲まないと駄目だったんだ? 一日くらい大丈夫かもって捨てちゃったじゃん。あーあ、生きてたら新しいポーチも買ってあげてたのになぁ。まさかそんな簡単に死ぬなんて、俺が殺しちゃったみたいになっちゃうな」


 箱崎に合わせるように、鶴岡と滝田は乾いた笑いを響かせる。


 箱崎は明るい声色で言った。


「あーあ、また面白いおもちゃ見つけなきゃいけないじゃん」


 生徒たちは、彼らを引いたようすで見つめている。そして同時に恐怖していた。


「しょうがねえな。あいつの机に花置いといてやるか。今まで楽しませてくれてご苦労さんって。こういうのはちゃんとしとかないと、俺たちのところに化けて出てくるかもしれないからさ」


「お、いーね! 」


 三人はけらけらと盛り上がっている。何が面白いのか、まわりはまったく理解できていなかった。


「よーし、次は女子にしようぜ、こん中で一番成績低くて金がないやつ。成績良かったり金持ってたりするといろいろめんどくさいんだよな。学校が手放したがらないし、親は金でどうこうしようとしてくるから」


 女子の数人がびくりと肩を震わせ、顔を見合わせている。箱崎は、その光景を見て気味の悪い笑みを浮かべた。






          †






 西日がさす時間帯に、新名にいな麻耶まやは警視庁の受付に来ていた。一目で盤隆中学だとわかる水色のセーラー服を身にまとい、二つ結びをしている。必死な顔をして、受付ともめていた。

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