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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.3 よくある話
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よく寄る話





          †






 早朝、小型トラックが河川敷の堤防をゴトゴトと走る。


 運転手は、顔にしわとしみが目立つ、細身の中年男性だ。眠気を抑えきれないようで、思い切りあくびをした。トラックの荷台には、木や鉄の廃材が積んである。


 ふと、運転手の男は、河川敷の高架下で何かが横たわっているのを見た。全体の色は水色で、先端が川につかっている。


 運転手はそれをいぶかし気に眺め、スピードを落としながら進んだ。目を凝らしてよく見ると、その正体をはっきりと理解することができた。 


 その瞬間、急ブレーキをかける。車体が大きく揺れながら停まった。トラックから降りて、その正体を確認するために河川敷をおりていく。


 川岸から垂直に横たわるそれを見て、目を見開く。


 それは、水色の学ランを着た人間だった。うつぶせで手を伸ばし、顔が川につかったまま、ピクリとも動かない。


「ひぃやああああああ」


 静かな朝の河川敷に、腰を抜かした運転手の叫び声が響いた。






          †






 午前七時頃、堤防に数台のパトカーが停まっている。警察や鑑識が河川敷の高架下で、現場検証を行っていた。


 普段、中学生の通学路となっている道が、捜査のために封鎖されている。ここを利用していた生徒たちは、警察官に誘導されながら、遠回りをして学校に向かっていた。


 何事かと興味津々に現場をのぞこうとする生徒もいたが、警察官が見せないようにうまく制止する。そのため、生徒たちは何があったかもわからぬまま、つまらなさそうに去っていく。


 若い新人の刑事が、見張りの警察官に警察手帳を見せ、テープをくぐって現場に入る。


「警部!すみません、遅れて」


 広げられたブルーシートの上に、一人の少年が仰向けに横たわっている。水を吸った顔の表面は膨れ上がり、真っ青だった。


 それを見下ろしていた中年の警部が、若い刑事に顔を向けた。


「まあた、盤隆ばんりゅう中だよ」


 不思議そうに首をかしげた若手に、警部は続けた。


「先月も確か、あったんだ。死人がでた。そっちは自殺ってことになってるけどな」


 警部は頭をかきながらため息をつく。若手が神妙な顔つきになって尋ねた。


「同じ盤隆中学の生徒が……続けざまに亡くなってるんですか」


「ただの偶然かもしれんがな」


 そのとき、まわりにいる警察官と鑑識が、ざわざわと騒ぎだした。見ると、今まさに三美神がテープをくぐって入ってきている。


「ああ?こいつは三美神案件か?」


 苦々しい顔で警部はつぶやいた。哲がすっと警部に近付いて、口を開く。


「ただの野次馬やじうまだよ」


「ただの野次馬やじうまが現場を荒らしていいと思ってるのか?」


 警部は不機嫌丸出しで言い放った。哲は愛想笑いを浮かべる。


「現場を荒らすなんてことはしないから安心してほしい。それに最近、変な犯罪者いないから暇で……」


「暇だからって俺たちの仕事を邪魔するなよ!」


 警部は声を張り上げたが、哲はどこ吹く風。その場を去ろうとはしない。遺体を一瞥いちべつし、真面目な表情で尋ねた。


「溺死か?」


「……そうみたいだな。検視はまだだから、憶測でしかないが、死斑がかなり出てきてるのを見ると死後八時間以上はたってるだろう。この仏さん、顔が水につかってた。何かを取ろうとするみたいに腕を伸ばしてな。」


 警部と哲が話をしている最中、健一は遺体のそばに近寄る。遺体の顔を見下ろす健一に、その後ろをついてきた和也が、首をかしげて尋ねた。


「知ってる人?」


「よくは知らねぇ……。でも昨日会ったばかりだ」


 健一は胸の前で十字を切り、手を組んだ。それを見て、哲と和也も遺体に向かって十字を切り、手を組む。


 その場は一気に静まり返った。三美神が死人に祈りを捧げるあいだ、警察や鑑識の動きはぴたりと止まり、誰も口を開かない。


 三美神は同時に目を開いて、手をおろした。時間が再び動き出したかのように、鑑識たちはせわしなく動き始める。


 警部は、真っ先に健一に声をかけた。


「昨日会った……って、どういうことなんだ?」


 遺体を見つめる健一の瞳は、哀れみに満ちている。


「万引きしようとしてるのを止めたんだよ」


 健一の言葉に、和也があきれたようにほほ笑んだ。


「……はは、健一君っぽいね」


 自分には理解できない、とでも言いたげに、和也は肩をすくめた。


 健一に対して警部は質問を続ける。


「万引きって?」


「ああ……。しようとしてたんだよ。渋谷の本屋で。やらされてたみたいだったけど」


 ふらりと、哲が健一の隣に立った。同じように遺体を見下ろして、顎を触りながら口を開く。


「そういえば、この子の制服、盤隆中学のものだよな。私立でかなり偏差値が高いっていう。制服が特徴的だからすぐわかるな」


 健一は哲に顔を向けた。


「そうなのか?確かに水色の学ランは珍しいと思ったが……」


「結構有名な話だぞ。女子に関しては制服がかわいいからここを受験するってのもいるくらいだ。……ほら、ここを見てみろ」


 哲は制服の袖を指さす。


「袖の線が太めの二本だったら高校生、細目の三本だったら中学生だ」


 健一は、制服の袖をじっと見つめる。水色の袖にぐるりと回った黒い線は、三本で細かった。


「警部!」


 川を捜索していた鑑識が声を張り上げ、手を振っている。


「どうした?」


 警部は若手刑事とともに川岸へ向かった。三美神はその場にとどまって、ようすを見る。


「これ、薬みたいですね」


 鑑識はピンセットではさんでいた錠剤シートを、警部たちに見せた。


「なんの薬だ?」


「ニトログリセリン……狭心症によく使われる薬です」

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