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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.2 神のいるこの場所で
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彼女のたくらみ




 瑠璃は一人、自室のデスクに座っていた。頬づえをつき、ノートパソコンの画面を見つめる。画面にうつっているのは、先ほど完成させたレポートだ。


 最後の確認をして保存したとき、机の端に置いていたスマホが鳴った。


 手に取って画面を見ると、タップして耳に当てる。


「もしもし?」


「あ、瑠璃ちゃん。今、大丈夫?」


 聴きなじみのある穏やかな声だ。瑠璃は薄い笑みを浮かべ、落ち着いて返す。


「うん、平気。どうしたの?」 


「突然ごめんね。今僕たちが受け持ってる事件に、瑠璃ちゃんも出てくれないかな。もちろん、学業に影響がない範囲で」


「……私は全然かまわないけど」


 瑠璃の目が、考え事をするように上を向いた。その顔から、笑みが消える。


「もしかして、お父さんが私を呼べって言ったの?」


 スマホから、喉を鳴らす音が返ってきた。


「違うよ。みんなで話し合って、瑠璃ちゃんを呼んだほうがいいねってなったんだ」


「だったらお父さんから連絡すればいいのに。わざわざ和也に連絡させるなんてね」


 かすかにトゲのある口調だ。対して電話の声はずっと穏やかだった。


「一応、兄さんなりに気を遣ってるんだよ」


「どうだか」


 瑠璃は冷めた表情で、ため息をつく。背もたれに身を預け、足を組んだ。回転いすに体を預けるその姿は、父親似の冷徹さを漂わせている。


「……で? 三美神が全員そろってるのに、わざわざ私を呼ぶくらい難しい状況なの?」


 目をつむり、和也の返答を待つ。


「そうだね。現場が現場だから。……聖スーザン女学院大学って、わかる?」


「うん、お嬢様大学の」


「そこで学生が立て続けに失踪してる。死体は今のところでてないけどね」


 目を開き、ゆっくりと体を起こした。


「死体も出てないのに三美神が捜査してるの?」


 スマホをスピーカーにして机に置いた。キーボードを打ち始めると、穏やかな笑い声が返ってくる。


「僕も最初は同じようなこと思ってたよ。……でも学校を見て確信した。あそこは絶対に、なにか隠してる。兄さんは多分、それが気になったんだと思う」


 真剣みを帯びた言葉に、キーボードを打つ瑠璃の手がとまる。視線がスマホへと落ちた。


「……まあ、あのスーザンだもん。何もないわけないでしょうね。失踪者は今の時点で何人?」


「この二か月で、都内に住む学生が二人、寮生が十一人で計十三人」


「そう。そんなに。……異常ね」


「面白いのが、それでも大学側は捜査に協力しないスタンスをとってるってこと」


「バカなの? 自分たちを疑ってくれって言ってるようなもんじゃない」


 瑠璃はため息をつき、頭をかかえた。


「……ああ、なるほどね。どうせ三美神も門前払い食らったんでしょ。スーザンって男子禁制だもの。だから私なのね」


 頭から手を離し、ノートパソコンの画面を見すえる。


 そこに開かれていたのは、聖スーザン女学院大学のホームページだ。礼拝堂やシスターの写真を使い、宗教教育を全面的に押し出すようなデザインとなっている。


「ってことは、消えた学生の足取りもつかめてないんじゃない? 私が中に入って情報を集めればいいのね?」


「口にするのは簡単だけど、そううまくいくかなぁ。一応、女性警官が中に入って調べてはいるんだ。でもシスターたちの監視が条件らしくて、調べるにも限界があるみたい」


「……ふうん」


 瑠璃は顎にこぶしを添え、大学の概要ページを開く。そこでは、少人数での密接な教育体制と、宗教の伝統を受け継ぐ教育をアピールする内容が書かれていた。


 他にも気になったページを開き、読んでいく。


 ホームページによると、聖スーザン女学院大学の歴史は長いが、大学として扱われるようになったのは十年前からのようだ。それ以前は短大として運営されていた。


 そのためか、大学そのものの規模は小さい。全学年を合わせても、千人を超えるか超えないか、といったところだ。


 学部によっては高い水準の神学教育に力を入れており、卒業生の中には聖職者になる者もいるらしい。卒業生代表として、にこやかに笑う女性の写真が数人のせられている。


 読み進めるごとに、瑠璃の表情から感情がなくなっていった。


「僕たちは基本的にスーザンにいるから、来れそうなときに来て」


 電話から、穏やかな声が続く。


「ああ、そうそう。そのときは絶対に正装でね」


「正装……」


「なにかあったときのために武器も持っておいでね。仕事するときのいつもの格好で問題ないから」


 瑠璃は頬づえをついて、パソコンの画面を見つめる。カーソルを動かし、学部の紹介ページを次々と開いていった。


 授業風景の写真に写る学生たちは、どれも似たような格好をしている。普通の女子大生のような、はやりに特化した格好ではない。高校の校則の延長のように、全身が保守的だ。


 一目見ただけで、純真無垢なお嬢様だとわかるようなスタイルだった。


「……やっぱり、スーザンの学生ってみんな似たような格好をしてるの?」


 電話はまだ、つながっている。


「え?」


「いかにもお嬢様って感じのワンピースとかスカートで。……清楚せいそでおしとやかですって感じの」


「うん、そうだね。ある意味想像どおりだよ」


 瑠璃はホームページを見ながら意味深にほほ笑む。


「ふうん? やっぱりそうなんだ?」


「瑠璃ちゃん?」


「ちなみになんだけど、失踪した学生の特徴ってわかる? わからないならわからないで、全然いいんだけど」


 瑠璃の言葉に何かを察したのか、スマホの声はしばらく間が続く。しかし、瑠璃のことを責めるような言葉は返ってこなかった。


「……ううん、そこはわかってるよ。確かね……」


 和也の説明が続くなか、瑠璃は高慢な笑みを浮かべる。


 相づちを打ちながら、聖スーザン女学院大学のホームページを閉じた。



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