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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.7 きらびやかな唇をあなたに
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崇高な聖域をあなたに 2

 ロッジの中は、しっかりと掃除が行き届き、奇麗な内装をしている。本来であれば別荘として、家族や友人たちと過ごすべき場所なのだろう。スーツ姿の男たちが移動して回るのは、実に違和感のある光景だった。


 四人は奥の部屋に案内される。廊下やほかの部屋にはすべての電気が付けられているというのに、この部屋だけは一切つけられていなかった。


 顔を上げるほどの高い位置にある窓から、外の光が差し込んでいる。室内は薄暗いものの、視界は悪くない。


 哲と皐月は部屋の中央で立っておくよう男に指示される。秋一と凛子はドアのそばにひかえた。


 壁際にはスーツ姿の屈強な男性が何人も並び、哲と皐月の動きに目を光らせている。皐月は緊張しているからか、顔をこわばらせていた。


 二人の目の前には、白い大きなパーテーションが置かれている。四人を案内した男性が向こう側に入っていった。すぐにパーテーションの横に出て、姿勢よく待機する。


 パーテーションの向こう側から、若い女性の声が放たれた。


「遠路はるばるご苦労さまでした。ここまでは悪路だったでしょう? 」


 品の良さを感じさせる、穏やかな口調だった。その話し方だけで、どこかのご令嬢であることはすぐにわかる。


 哲が落ち着いた低い声で、返事をした。


我々(われわれ)をここまで呼び出した理由を、おうかがいしても? 」


 パーテーションの向こうで、ため息をつく音がした。


「……ご息女はいらしてないのですか? 」


 パーテーションの隣にひかえていたあの男性が、渋い顔で何度もうなずく。


「そう……。残念ですね」


「どうしても、瑠璃の助けが必要でしょうか? 」


 哲の語気が強かったからか、パーテーションの向こうで、息をのむ音がした。


「……気を損ねてしまったのなら謝ります」


 その声は、先ほどよりも固かった。


「ただ、こういうのは、女性のほうが理解できると思ったので、同性で年齢も近いご息女にと思ったまでです。決して変な動機で指名したわけではないのです」


 周りにいる男たちからの視線が、鋭くなる。


 目の前にいるご令嬢の正体だが、哲の予想は半分外れて、半分当たっていた。ご令嬢は、哲より立場が上でも、哲が言い返すことのできる人物だ。


 てっきり、哲ですら口答えできない人物なのではないかと警戒していたが、杞憂だった。


「こちらこそ、委縮させるつもりはございませんでした。とんだ無礼をお許しください」


 哲は軽く頭を下げる。おそらく向こうには見えていないのだろうが。


「無礼だなんて……これは私のわがままです。三美神の皆さまもご息女もお忙しいでしょうから、仕方ありません」


「それで? ご用件はなんでしょう? 」


 哲にとって、余計なあいさつも前置きも必要ない。それを理解しているのかいないのか、ご令嬢は堂々と声を発した。


「その前に、確認しておきたいのですが。ここまではるばる来てくださったんですもの。依頼を確実に受けてくださる、ということでよろしいのでしょうか」


「それはこちらで判断することです」


 きっぱりと言い返すと、部屋の空気が瞬時に凍った。本来、一般人であれば反論することも許されない相手だ。哲は部屋の空気なんてお構いなしに、話を続けた。


「用件も聞かず依頼を受けろ、なんて、いくらなんでも横暴(おうぼう)すぎるのではありませんか? 例えどれだけ地位の高い方であろうと、我々は内容を聞かずに依頼を受けることはございませんので、あしからず」


 ご令嬢も哲の反応が想定外だったようで、返事をするのに時間を要した。


「……西園寺さまの言い分はよくわかりました。私の甘い考えをおわびしましょう。ではまず、私の話を聞いていただけますか?」


「もちろん」


 言葉を選ぶようにへりくだったご令嬢に、哲はうなずいた。


「実は……個人的にお願いしたいことがあるんです」


 声色が、ぐっと引き締まったものになる。


「私の通っている大学で、妙なことが起こっているようで……」


「妙な事、ですか?」


「ええ」


 ご令嬢の厳かな声は、一人一人に行きわたるほどに響く。


「始まりは、大学に入学して、すぐのことでした。同級生たちに、あるものがはやり始めたんです。……化粧品なんですけど、男性にはわかりますか? リップグロスって」


 哲は振り向いて、扉の横にひかえる凛子を見る。凛子は深くうなずいていた。

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