崇高な聖域をあなたに 1
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待ち合わせは、霞が関にある地下駐車場だった。黒いワゴンの前で、すでに哲は刑事二人と合流している。
「すみません、遅れてしまって……」
小走りの足音が響き渡る。白いスリーピース姿の皐月が、腰に下げた日本刀を揺らしながら近付いてきた。中に着たベストは黒色で、シャツのボタンは真面目に首元までしめている。
「気にするな。俺たちが早く来ただけだ」
哲は刑事二人に手を向けた。
「今回一緒に行動する刑事。兎丸と神崎だ」
「はじめましてぇ。兎丸ですぅ。よろしくお願いしまぁす」
秋一がにこにこと、間延びした声を出す。隣に立つ凛子が、ぺこりとお辞儀をした。
立っていると秋一の背の低さがずいぶんと際立つ。皐月や哲の肩よりも低い。凛子は瑠璃と同じくらいの背丈で、秋一よりも頭一つ分は高かった。
ふと、皐月はいぶかし気に秋一を見下ろす。秋一と凛子に対する前評判が、ひどく不愉快なものだったことを哲は思い出した。
ある殺人事件の捜査で、秋一は「瑠璃が処刑するところを見たい」からと、瑠璃を現場に出すよう指定した。それを不快に思った哲が、事情を皐月に説明し、無理やり現場に出した経緯がある。
瑠璃に処刑をさせたがらない皐月が、秋一相手に「はじめましてよろしく」となるはずもない。
「あれ? なんか警戒されてます? 」
凛子が冷静に言い返す。
「兎丸さんは刑事としては軽率すぎるので、当然かと」
「ええ! そんなぁ」
秋一はショックを受けたような表情を浮かべて皐月を見つめた。皐月の表情は硬いままだ。
凛子は秋一を無視し、哲と皐月に顔を向ける。
「お二人とも、車にお乗りください。運転は私がいたします」
用件を伝えられることもなく、行き先を伝えられることもない。
二人は言われるがまま、黒のワゴンにのりこみ、二列目の座席に座った。
運転席に凛子が乗り、助手席に秋一が座る。ワゴン車は静かに発進した。
車内はピリピリと肌を刺すような緊張感に満たされている。さすがの秋一もしゃべれないほどだ。重苦しい沈黙の時間が続く。
窓からの景色は都会の街並みから田園に変わっていった。
さらに進み、やがて草木が生い茂る林の中に入る。足場の悪い細道を通り、車内はがたがたと揺れていた。
道を抜けた先に見えたのは、どこかの富豪が別荘に使うような、大きいロッジだった。明るい木目調の外壁で、すべての窓に、レースのカーテンが閉じられている。
ワゴン車は駐車スペースに停まり、哲と皐月が車から降りた。同時に、ロッジの入口から、スーツを着た屈強な男が出てくる。じっとワゴン車のほうを見つめていた。
哲はさっさとロッジの入口へ向かっていった。慌てて皐月がついていく。その後ろを、秋一と凛子が続いた。
ドアの前につくとスーツ姿の男性が、三、四人ほどぞろぞろと出てくる。筋肉の張った体つきが、スーツでは悪目立ちしていた。耳にはめたイヤホンと、にじみ出る警戒心。依頼人に付き添うボディガードだ。
その場で身体検査が始まった。男たちに囲まれ、服の上から手を当てられる。
「僕たちは何も持ってきちゃいませんよ」
両手を上げる秋一が余裕をこきながら言う。同じく両手を上げている凛子がうなずいた。女性である凛子は軽く触れられるほどの、最低限の検査で終わる。
男たちの中でも極めて渋い顔をしている男が、哲のジャケットを上から手でおさえている。この中では一番偉い立場なのだろう。
哲の脇下をおさえた瞬間、眉をひそめた。哲と目が合う。
「ちゃんと申請は出してる。皐月の日本刀も。何かあったら、あなたがたが俺たちを守ってくれるとでも? 」
男は返事をせず、ただ哲を見るだけだ。耳についたイヤホンを押さえだす。何やら連絡が入ったようだ。
結局、二人が持つ武器に関しては何も言われなかった。そのまま中へ通される。リーダー格の男が先頭を歩き、その後に続いた。




