都会のネズミ、田舎のネズミ
デット技。
それは一時爆発的な力を発揮することができる一方で、非常に重い欠点を背負う力。
まずモンスターの骨や皮を集め、武具とし、それへ常にエナジーを注ぎ続ける。
するとその武具にエナジーが蓄積し始め、やがて意図せずともエナジーが所有者から流れるようになる。
常に力を吸われる、というのは当然負担となる。
だが武具が力を吸う量というのは、常に一定というわけではない。
最悪なことに、武具に蓄積されていたエナジーを使い切ったその瞬間こそが、大量にエナジーを吸う時なのである。
武具が一種の蓄積機能を持ったモンスターとなっているのなら、エナジーが枯渇した状態こそが最もエナジーを吸う瞬間なのは当然であろう。
しかしそれは、術者にとって最悪のデメリットである。
エナジーを強制的に吸い上げるのだから、自らも力を使い切っていれば持つわけはない。
だからこそ、このデット技を使う時は、常に余力を持って術を終えなければならない。
そうでなければ、術の終了と同時に力を吸われて死んでしまうのだ。
今回は強化属性のピンインと治癒属性のリァンが傍にいたからこそ、レデイスのカシラは死なずに済んだ。
もしも処置が遅れていれば、ミイラのようになって死んでいただろう。
限界を超えた力を出す技術が、なぜ廃れたのか。やはり効果にあわないリスク、ということだろう。
(若いねえ……どっちも。そうでもなきゃあ、Bランクになんかなれないか)
仮設の陣地で休息をとるピンインは、治療を終えてもどかしそうにしている一灯隊と、未だに意識が戻っていないカシラを心配しているレデイス賊を見ていた。
特にレデイスである。彼女たちは戦う力を残しているが、戦意が全く残っていない。
それだけカシラを慕っているのだろうが、いろいろとかみ合っていない。はっきり言って、熱意が空回りしていた。
(あのデット技をレデイス全員で使えば、Aランクが相手でもそれなりには善戦できたかもしれない。あの魔王の姿にも色々と制限があったようだし、勝ち目がないとは言えない。ま、私は何にも知らないから適当なことを考えているだけだけども……)
魔王を討つ算段はあった。全員で使い切りの大技を使えば、格上にも勝ち目があったかもしれない。
持てる力を全部魔王にぶつけられれば、相手が一体ならそれなりに勝ち目もあっただろう。
だったら、それが不可能だと判断した時点で、全員引きさがるべきだった。
Cランクハンターのピンインは、それが賢明な判断だと思っている。もちろんそれは、Cランクハンターの理屈だとは分かっているのだが。
だがしかし、勇敢で誠実な判断が常に正しいとは限らない。
彼女たちに大志があるのなら、それこそ時間をかけるべきだったのだ。
登山の練習をしていたからと言って、いきなり見に行ったこともない山へアタックをかけるようなものである。
(全部ぶっこんだ作戦をするなら、その前にできることは全部やっておくべきだったね……いや、しかし)
ピンインは一灯隊がかくも落ち込んでいる理由が、ちっともわからなかった。
(なんだってこいつらは、こんなにもへこんでるんだろうねえ?)
自分が送り込んだキョウショウ族の話を、他でもない隊長自身が遮っていたとは、流石に思い至らなかったのである。
※
一灯隊隊長、リゥイ。
彼の半生は波乱万丈なものであったが、おそらくその説明を聞くまでもなく大抵の人間なら察しが付くだろう。
それぐらい彼はわかりやすい男であり、環境によって人格を形成されてしまった男だということだ。
まず、彼が生まれる前に、彼の父は死んでいる。
先日ホワイト・リョウトウが解決したような事件が起きて、それによって生まれる前に父を失ったのだ。
身重でありながら夫を失ったリゥイの母は、税金が安く仕事を得られるという理由で、前線基地の一般職員として暮らすようになった。
彼は生まれたときから、ずっと母親に謝られていた。
父親がいないことを、こんな危ないところで子育てをしていることを、豊かな暮らしをさせてあげられないことを謝っていた。
リゥイはそんな母を愛していたし、彼女を幸せにしたいと子供ながらに思っていた。
しかし、モンスターの襲撃によって、母親は命を落とした。
当時のハンターが手を抜いていたわけではない。しかしどうしても手が回り切らず、結果として母親は死んだのだ。
リゥイは天涯孤独となり、カセイの孤児院へ預けられることになった。
彼はそこでグァンやヂャンと出会い、他の一灯隊の隊員とも出会った。
同じような境遇の彼らと支え合い、今度こそ家族を守ると誓った彼は、一灯隊を結成しハンターとしての活動を始めた。
しかしながら、ハンターの養成校にも通えなかった彼らは、強くなることこそできたものの、ハンターのランクを上げることができなかった。
もちろんお金をためてからハンターの養成校に通うという選択肢もあったのだが、リゥイは困窮している孤児院トウエンを救うために力による解決を図った。
つまり生まれた前線基地で、討伐隊に参加することを選んだのである。
幸運というべきか、リゥイだけではなくグァンやヂャンにも傑出した才能があった。
彼ら三人が引っ張ることによって、一灯隊はBランクハンターとして認められたのである。
Bランクハンターとしてカセイで活動を始めれば、当然報酬は段違いである。
孤児院の建物は瞬く間に修理され、さらに弟分や妹分たちには温かい食事がいきわたるようになり、服などの生活水準も劇的に改善した。
これで、めでたしめでたし、となっていればどれだけ良かった事か。
金があるということは、悪い大人を引き寄せるということである。
加えて大金が舞い込んだことによって、清貧に耐えていた心のタガが外れる者も出始めてしまった。
大量の報酬、悪しき誘惑、そしてそれに負ける家族。
それらによって、一灯隊からの送金が、一部の隊員の遊行費に消え、一部の職員の懐に消え、或いは……遊ぶ金が足りなくなり重ねた借金の返済に使われるようになってしまった。
その時のリゥイは、知ったのだ。
この世には悪を囁く者、良き家族を堕落させる者がいるのだと。
父代わりだった職員は『いままでガキのお守りをしていたんだ、これぐらいのうまみはあっていいはずだ』と口汚く開き直り。
共に戦っていた弟分は『なんで俺達が稼いだカネを、どうでもいい餓鬼に使うんだ』と怒り出していた。
孤児院を豊かにするための金が、彼らを狂わせた。
周囲の悪人が、殺されるほどの悪ではない者が、彼らをそそのかしたのだ。
金にたかる蠅が、悪をうつしたのだ。
リゥイ自身自覚しているが、よくある話である。
自分がこの世で一番かわいそうな男で、他に類を見ない不幸なものだとは思っていない。
孤児院で育っただけに、同じような者を多く知っていた。
悪とは、伝染するもの。悪を伝染させる者は、途方もない悪人である。
怠けて他人の功労をすする者も同様であり、どれだけ重い罰を受けても文句が言えない。
ある意味では父の仇である人語を解するモンスターよりも、さらに質が悪い悪だった。
その一方で、彼はやはり家族を愛し、無力なる者を愛していた。
役場のクズは死んでもいいとして、むしろ殺したいぐらいだとしても、かつての母と同じ一般の職員に対しては心を配っていた。
言い方は悪いが、彼は自分と同じ苦しみを味わった者には優しかった。
貧しいゆえに必死で純朴なる彼らを、自分たちの力で守りたいと思っていた。
その彼にとって、亜人を統べていた者が『捨てられた人間』だったというのは、途方もない衝撃だったのだ。
※
リゥイはいくつかの手配をした。
幸か不幸か、レデイスを従えていた女は当分回復せず、ある意味で理想的な人質となっている。
常にリァンやピンインのような補助属性の使い手が付かねば命が危うく、仮に脱出やら救出やらを企てても死んでしまうのだ。
しかもそれを、レデイスの女たち自身がよく知っている。
逃亡の恐れはなかったため、余裕をもって大公や前線基地へ報告に向かわせた。
そして他でもない前線基地には、自ら報告しに行った。
しかし報告をするというよりは、どちらかと言えば懺悔に等しかったのだけれども。
彼は他の者を人払いしてもらったうえで、信頼している大人の一人であるジョーへ状況を報告した。
彼は何も言うことはなく、黙って話を聞いていた。ただそれだけでも、リゥイにはありがたいことだった。
そのうえで、本当に言いたいことを口にする。
「ジョー様……俺は、正しいことができたのでしょうか」
リゥイの胸中は、かきむしりたいほどの罪悪感で淀んでいる。
この地を襲撃せんとした者たちを下したにも関わらず、晴れやかさなどない。
「もちろんだ、君は正しいことをした」
何を言いたいのか、何を言って欲しいのか。
それを分かったうえで、ジョーは見当違いなことを言う。
何事にも順序があると、彼は知っている。
「今回君たちはレデイスと戦ったが、それは独断専行ではなかった。ガイセイを除くすべての隊長が話を聞いたうえで、君が自分で隊を率いて迎え撃つと言ってくれた」
一灯隊もBランクである。Cランクでさえできるような、基本的な手続きはしている。
彼らは私事や暴走で前線基地を出たのではなく、論理的に自分たちが前線基地の外で迎え撃つべきだと判断したうえで、全員にそれを説明してから出たのである。
それを誰も止めなかったのだ、どうして咎めることがあろう。
「結果から言えば、それは正しかった。もしもBランク上位相当の実力を持つ者たちが大挙してくれば、この前線基地への被害は大きかっただろう。そのうえでシュバルツバルトからモンスターが出れば、より大きな被害が出たかもしれない。君たちはそれを未然に防いでくれたのだ」
シュバルツバルトの討伐隊は、まずカセイを守り、次いで前線基地を守らなければならない。
リゥイは脅威の襲来を防ぐために打って出て、実際に被害が出ないようにできたのだ。
準備段階でも、結果から言っても、彼へ文句をつける者はいないだろう。
「それでどうして、誰が君を咎める」
「……」
「もしも君に落ち度があるとすれば」
ジョーは、本題を促す問題点を指摘した。
「キョウショウ族の話を、最後まで聞かなかったことだろう」
リゥイは苛立っていた。
だからこそ、『どうでもいい話』だと思ったことを、聞かずに打ち切ってしまったのである。
「はい……」
実際、他の誰にとっても、どうでもいいことだった。
リゥイや一灯隊にとってだけは重要だったが、彼自身が遮ってしまったのだ。
「公女様に、顔向けできません。俺は……相手が捨て子だと知った瞬間に、彼女を殺せなくなっていたんです」
都会のネズミには、都会のネズミの悩みがある。
田舎のネズミには、田舎のネズミの悩みがある。
そして結局のところ、田舎のネズミには田舎のネズミの悩みしかわからないのだ。
人間が残酷になるのは、相手に興味を持っていないとき。
相手を理解しようとしないなら、どれだけでも残酷なことを行える。
相手がどれだけ泣き叫んでも、それを笑えてしまえるのだ。
無関係だからこそ、相手を良く知らないからこそ、その境遇に共感できないからこそ、害悪だと割り切って暴力を振るえるのだ。
「想像が……止まりませんでした。今でもずっと、彼女のことを脳裏で描いているんです……!」
リゥイには、彼女の境遇が想像できてしまう。それどころか、単なる想像に共感さえしてしまう。
その苦しみを、分かち合えてしまう。極めて一方的に、憐れんでしまえるのだ。
「きっと彼女は、本当に親に捨てられたのでしょう。口減らしだったのかもしれませんし、親の勝手な理由だったのかもしれません。でも親に捨てられた彼女は、亜人に拾われ……そのうえで、辛い人生を送っていたのでしょう……!」
自分でも、滑稽だとは分かっている。
相手の人生を勝手に想像して、勝手に共感して、勝手に感動して、勝手に泣いているのだから。
「育ててやった恩を返せとか、拾ってやったのだから感謝しろと言われて……親がいないことをバカにされ、亜人ではないことをバカにされ……味方なんて、ほとんどいなかったんでしょう……!」
途方もないバカだった。
その想像が全て事実だったとしても、彼女が自分の意志でここを襲撃したことに何の変りもないのに。
それを、彼女に自分で確認したというのに。
「それでも彼女は腐らずに奮起して、力を蓄えて仲間を募って、レデイスという賊を作るに至った……彼女は自分の意志と力で、同じ境遇の子を助けようとしたんです……!」
だがどうしても、それを自分と重ねてしまうのだ。
自分がつらく苦しかった時、同じように辛く苦しかったのだと。
カセイの孤児院で、周囲から侮辱されていたこと。それを彼女も味わっていたのだとしたら。
それは、やはり悲しいことだった。自分にも起きてしまったからこそ、我が事のように思ってしまうのだ。
「その彼女を……俺は、俺は……!」
思い出すのは、キョウショウ族の言葉。
『へえ、厄介者なんで』
あの言葉を聞いた時点で、リゥイは思ってしまったのだ。レデイス賊は、ただの悪党だと。
少し話を聞けば、彼女たちに自分たちと同じ志があると分かったのに。
「悪だと断じて、打ちのめしたんです……!」
胸の内を、信頼できる相手にぶちまける。
弱さを晒すこと自体が、救いになると知っている。
そのうえで、ジョーは白眉隊の隊長として返事をした。
「君は、ちゃんと最後まで話を聞くべきだった。その一点だけは、擁護のしようもない」
「はい」
「話を聞いておけば、君や隊員の心境も変わっていただろう。だがそれでもきっと……君は同じように戦ったはずだ」
リゥイは苦しんでいる、罪悪感にさいなまれている。
しかしそれは、彼が自分を咎めているだけだ。
「君は立派なBランクハンターだ、私はそれを知っている。君も知っているだろう、Bランクハンターとはただ強いだけではなく……嫌な仕事でも、きちんと全うできる者だ」
知らなかったからこそ、残酷に切り捨てることができた。
だが知っていたとしても、苦悩を経たうえで切り捨てることができたはず。
ジョーはそれを疑わなかった。
「君は、話に聞く彼女とは違う。絶対に、違う。彼女は仲間を大事に思い、それを一義として動いているのだろう。だからこそ、仲間からの信頼も厚かったはずだ。だが……彼女たちは周囲に対して無頓着すぎた。彼女たちは賊であることを選び、君たちは社会に貢献する道を選んだ。違うかい?」
リゥイは以前、悪に堕した家族を自ら裁いた。
超えてはいけない一線を越えた者を、自ら罰したのだ。
身内だったとしても、決して特別扱いしなかった。
「君たちへ心無い言葉を投げる者はいただろう、だが君は腐らずに周囲へ自分を認めさせた。彼女たちは自らの意志で周囲へ攻撃的に振舞った。その違いは……君も知っているだろう」
レデイス賊たちは仲間を大事にしていた。
だが一灯隊は仲間以外も守ろうとしていた。
好ましく思わない相手を守る必要性を、彼はちゃんと知っている。
好ましくない相手へ身内がバカをしたのなら、それを謝ることだってしている。
「でも俺は……態度を変え過ぎました。捨て子だと分かった瞬間に、何もかもをひっくり返してしまった。俺は……駄目な隊長です」
どう言い訳をしたところで、捨て子だと分かった瞬間に対応を変え過ぎた。
結果として全員を捕縛できたのだから悪くはないが、それでも途中と方針を変え過ぎている。
隊長として、指揮官として、一貫性を失い過ぎた。
一貫性の大事さを、彼は知っている。それを失うことが、信頼をどれだけ損なうかも知っている。
そのうえで、彼はどうしても共感をしてしまうのだ。
「確かに良くないことだ。だが……それが君だろう」
ジョーは、誠意をもって応じる。
「もしも相手が人間だと分かって、捨て子だと分かって、同情すべき点があると分かって。それでもなお一切ぶれずに彼女を殺していたら……それはそれで、周囲から反感を受けていたはずだ」
リゥイは、ふと思う。
もしもグァンやヂャンが、同じように相手ののど元に切っ先を当てていたら。
そして躊躇せずに刺し殺していたら。果たして、それを正しいと認められるか。
「君が判断を誤った結果、被害が出ていれば批難を受けるだろう。だが君が判断を誤っても、被害は出なかった。であれば君を知る隊員は、君を咎められまいよ」
「……そうでしょうか」
「では君は、私が君の思う『正しいこと』をしていたら、どう思うかな」
ガイセイがアッカを慕っていたように、リゥイはジョーを慕っている。
だがしかし、リゥイはジョーのすべてを肯定しているわけではない。
特に、役場の人間さえ守ろうとしていることは、絶対に相いれなかった。
だがもしも、ジョーが今更役場の人間を見捨てれば。自分同様に、死んで当然だと切り捨てれば。
それは、やはり失望してしまうだろう。
「……ジョー様、俺は」
「君は一灯隊の隊長であり、隊員は君をこそ慕っている。君の考え方ややり方に不満があれば、決して従わないさ」
自分と境遇が重なる者に、やたらと感情移入してしまう。
それは身内に優しいということであり、同時に敵へ同情してしまうこと。
いいことばかりではないが、それもまたリゥイの人格だった。
「今後は話を最後まで聞くことだ。少なくとも今回は、そうしていればよかったはずだよ」
「……はい、聞いてくれてありがとうございました」
「なに、これも仕事さ」
※
さて、これを聞いた狐太郎、アカネ、ササゲ、コゴエの話である。
「それって逆に差別なんじゃ……」
「アカネ、差別とか簡単に言わないほうがいいぞ」
アカネの素直な言葉を、コゴエは制した。
差別という強い言葉は、妄りに使っていいものではない。
「いやでもさあ……私たちもそうだけど、育ちがいい人とか真剣じゃない人とかを、目の敵にし過ぎなんじゃ……」
(確かに……未だに俺たちは嫌われてるしな)
いくら何でも、好き嫌いが激しすぎるし、それが露骨すぎる気もする。
当人たちはまだ配慮しているつもりかもしれないが、まだかなり足りていない。
まだまだ、子供なのかもしれない。
「まあまあ、文字通り親の仇だと思っている人に、押し付け過ぎは良くないわよ」
(悪魔が言うと、説得力があるような……お前が言うなというか)
なお、ササゲは大人の対応だった。
しかし、大人の対応をしても、それはそれでなんかむかつく。
人間とはやはり面倒な生き物だった。
(悪魔を連れている時点で、嫌われても仕方ないかもしれない……)
自分の感情を整理すると、悲しくなる狐太郎。
やはり嫌われるのは、仕方がないことなのだろうか。
悪魔を従えるか、たくさんの人間に好かれるか。どちらかを選ばなければならないのかもしれない。
「いや、でもさあ……態度変え過ぎじゃない?」
「そうでもなかろう」
「そうかな? 人間でも亜人でも、クツロを襲おうとしたり、仲間を傷つけたのは本当なんだし……」
未だに不満のあるアカネへ、コゴエは解説をする。
「財布をすり取られたので追いかけて叩きのめしたら、よく見ると痩せている女の子だった、としたらお前も嫌な気分になるだろう」
「う……」
「そういうことだ」
(なるほど)
つくづく、人の心に敏い雪女であった。




