窮鼠猫を嚙む
アッカが何のためにこの前線基地で戦っていたのか、誰と結婚しようとしたのか。
それは「あっ」という感じでお願いします。
新人類の三人を受け入れたガイセイは、自分たちは似た者同士だと語った。
それは決して誇張ではない。勝手な大義を語っていた麒麟たちを、ガイセイたちは他人事だと思わない。
突き詰めれば『自分』か『自分達』さえよければそれでいい、という人間はどこにでもいる。
自分が幸せになれるなら、どんな大義にも飛びついてしまう。
それが人間だ。
だが自分が幸せになれるなら、人間は大義さえ求めない。
それもまた、人間である。
超人的な肉体を持って生まれたガイセイは、故郷でも散々な悪さをしていた。
その彼が曲がりなりにもBランクハンターとして成功しているのは、父や兄の如く尊敬しているアッカあってこそ。
今でも無神経で粗野な彼ではあるが、これでも昔に比べれば大分ましなのだ。
であれば、ガイセイにとってアッカとは尊敬している、慕っている唯一の人物。
彼がこの地を去る時、なんの騒動もなかったわけではない。
「旦那。ここをもう出るってのは本当かい」
「ああ、そうだ。ようやく、ようやく何もかも整ったからな」
アッカは、もうガイセイを見ていなかった。
虎視眈々とこの時を待っていた彼にとって、弟や息子の如く目にかけていたガイセイさえ、興味の対象ではなくなっていた。
「ようやく……あいつに、あいつらに復讐ができる……! あいつから、アイツらから……『幸福』を奪える! 俺を置き去りにして手に入れたものを、人生の答えを! 俺が凌辱できる! 誰にも文句は言わせない!」
虎のような剛毅さではなく、蛇のような執着があった。
豪快を極めた豪傑、アッカ。彼の醜い一面を見ても、ガイセイは決して驚かない。
アッカがこうした表情を見せることは、しばしばあったのだ。
「そうだ、そのための人生だった! 誰にも文句を言わせないための人生だった!」
「旦那……」
どの分野でも言えることだが、何かの頂点に達した者は、そこから先の目標を失ってしまう。
才能のある人間が、途方もない努力をささげて、Aランクハンターになる。
苦行の果てに得た圧倒的な力によって、苦も無くAランクモンスターを蹂躙する。
彼らは力、名誉、財産、権威、尊敬。それらをすべて手に入れた、と言っていい。
だが逆に言えば、大抵の場合、彼らはそこで止まる。
一言で言えば、モチベーションが維持できなくなる。
何もかもを手に入れてしまえるのだから、そこから先がないのだ。
であれば、長年にわたってAランクモンスターと戦い続け、カセイを守り続けたアッカは何が目的だったのか。
それは、ある意味では狐太郎と同じ。大公ジューガーを、味方につけることである。
元より、Aランクハンターである彼は、他の実力者であっても手出しのしにくい怪物である。
たとえどんな暴挙に出たとしても、誰もが見逃すしかないだろう。だが、それでは意味がない。
アッカは、合法的に復讐をしたかった。
かつて彼を陥れた者、合法的に自分から『幸福』を奪った者に報いを与えたかった。
自分でも、悪趣味だとは分かっている。八つ当たりに近いものだとは分かっている。
だがそれでも、その醜悪な目標を正当に達成するために、彼は長い年月を費やしたのである。
鬱屈で醜悪な想いを遂げる。
それがアッカのモチベーションであり、だからこそ彼は頑張ってこれたのだ。
「俺は、もうここに用がねえ。もう俺には、カセイを守る理由も、ここでモンスターと戦う理由もねえ」
だがもう頑張る理由はない。
時は満ちた、もう準備は終わっている。
彼は、ある意味燃え尽きたのだ。
「ガイセイ、これからはお前が頑張るんだ」
「旦那……」
そのガイセイにとってのモチベーションは、やはりアッカだった。
この地に来て初めて出会えた格上の人間、自分を躾けてくれた男。
彼のあとを立派に継いで、その姿を見て欲しい。それが彼の戦う理由だった。
「旦那……俺は、まだ駄目だぜ。恥ずかしいけどよ、俺は旦那ほど強くねえ……それどころか、エフェクト技だって使えねえんだ」
「確かにな」
妄執のためにここで戦ってきたアッカではあるが、それだけではない。
ガイセイのことを大事にも思っていたし、この地にも愛着はあった。
なによりも、自分の悪行にお墨付きをくれる大公へ、何かを残すべきだと考えていた。
「だがな、大丈夫だ。お前はもう、ちょいとのきっかけで大化けする。むしろ俺がいれば、お前はこのまんまになっちまうぜ」
「そ、そんなことはねえさ!」
「どうだろうなあ……」
ガイセイのことを、アッカはよく知っている。
ガイセイ本人以上に、ガイセイのことを知っている。
「ガイセイ。お前はな、エフェクト技が嫌いだろう?」
「……まあ、正直な」
「だろうよ。お前は小僧っこの時から、エフェクト技の練習を嫌がってまあ……」
ぼんぼん、とガイセイの頭を叩くアッカ。
何時かは青年と少年だったが、もはや壮年と青年である。
いつの間にか背が追いついた彼の成長を、彼は喜んでいた。
「だ、旦那」
「気持ち悪い顔しているんじゃねえよ。もう酒もぐびぐび飲んでるだろうが、んな顔したって、俺の膝にはもう乗せてやらねえぞ」
「いつの話だよ!」
「前の話だ。だがなあ、ガイセイ……お前がエフェクト技を使えないのは、本気じゃねえからだ」
およそ、ハンターにとってエフェクト技とは必須の技術ではある。
だがガイセイは、それをきちんと使うことができない。
「お前は、エフェクト技なんか使わなくても強いからな。というかまあ、お前拳骨で黙らせる方が好きだろう? エフェクト技を使わないと勝てないなんて、恰好が悪いと思ってるだろう?」
「……」
「お前の悪い癖だ、なんでも拳骨で黙らせようとする。ちょっと危ないかってぐらいだったら、拳骨で押し切ろうとする。そのくせ、拳骨で押し切れそうにない奴が相手でも、エフェクト技さえ使えりゃこんな奴、とも思ってる」
「うぅ……旦那にゃ敵わねえな」
「お前もベテランのBランクハンターだ、ちょっと心境の変化でもあればエフェクト技ぐらい使えるようになる。それどころか、クリエイト技だって出せるようになるさ」
なまじ、才能があるからこそ。なまじ、熟練しているからこそ。なまじ、この森を知っているからこそ。なまじ、力でも立ち回れるからこそ。
ガイセイは本気で、エフェクト技を使いこなさなければならない、とは思えなかった。
「信じろ、ガイセイ。お前は十分強い」
※
ガイセイは、不十分なままでも勝てて来た。
それは突き詰めれば、ガイセイがプロだったからである。
アッカがいたときや、狐太郎がきた後は、彼が無理をして倒さなければならない相手と、直接単独で戦うことは稀だった。
それは彼が怖気づいたからではない。他人の獲物を横取りしようとしなかったからであり、自分が無理をして倒れれば基地の戦力が下がると知っていたからこそ。
つまりは、自分を高めるために強敵と戦うことよりも、基地全体のことを優先した結果である。
彼自身、本当はわかっていたのだ。
今のままでも勝てる相手と戦うだけでは、負荷が足りないと。
今のままでは勝てない相手と戦わなければ、さらなる向上は見込めない。
自分の拳骨へのプライド。
それが吹き飛ぶほどの、負けたくないという思い。
それがなければ、限界を超えることはできない。
(これだ!)
ガイセイの拳が、クツロの金棒に負けた。
このままぶつけ合わせれば、確実に負ける。
今のガイセイは、ジュピターを発動させている。
言い訳の余地なく、本調子である。
そのうえで、負けそうになっている。
それはつまり、目の前の相手が自分よりも強いということ。
今この瞬間、強くならなければならないということ。
「う、うぉおおおおおおお!」
ささやかなこだわり、過去への執着、今の自分への自信。
それが全て吹き飛んで、新しい自分になる一瞬。
天才だけに許された、大いなる革新という絶頂。
迸る雷が、荒々しくなりながらも一点に集まっていく。
「勝つ!」
ガイセイの声が、雷に乗る。
「勝つ!」
ガイセイの心が、雷を曲げる。
「勝つ!」
実体化した雷が、巨大なオブジェと化す。
雷霆、雷のマークが、そのまま雷によって形成される。
「かぁあああつ!」
放電し続ける『武器』を手に、ガイセイは笑った。
「待たせたな……! ああ、待たせた待たせた! どいつもこいつも、待たせまくりだ! ようやくだ!」
次にもう一度やれと言われても、再現するのは難しい。
使いこなせているとは、お世辞にも言えないだろう。
だがそれでも、ガイセイは雷を形にしていた。
「サンダークリエイト! ジュピテール!」
とどろく雷光を手にした彼は、あまりにも勇壮。
その姿を目にした古株たちは、誰もが一人の男を脳裏に重ねた。
「おらああ!」
「むぅ!」
雷霆の刃が、魔王の金棒と衝突する。
弾ける、弾ける、弾ける。
この二人以外の、あらゆるものが力負けしている。強大な力の衝突は、何もかもを吹き飛ばしていく。
拮抗しているがゆえに、お互いの力が退け合い、爆発しているように力が全方位へ散っている。
そして。
「きゃああああ!」
らしからぬ、乙女の悲鳴。
大きく押しのけられたのは、クツロの方だった。
巨体が吹き飛び、空中に踊る。
自らが生み出した暴風の中で揺さぶられ、大地に落ちて転がった。
「う、うぐぅ……!」
魔王、鬼王、クツロ。
彼女は遥かに体格の劣るガイセイに、吹き飛ばされた。
それはたったの一回後れを取ったというだけではない。
今この瞬間、ガイセイが一定の領域に達したことを示していた。
「これが……Aランクハンター!」
今この瞬間、ガイセイはAランクハンターの力を発揮している。
その域に達した者を、彼女は一人も知らない。
「……この世界で、最強の怪物!」
意義があった、意味があった。
この世界で最強の個体、Aランクハンター。
「……私の性能を、はるかに超えている」
自らの生まれた世界で、自らこそ最強。
少なくとも同等はいても、格上など存在しない。
その生物としての誇りが……。
「でもまあ、どうにもならない程じゃないわね」
そんなものは、最初からない。
「ガイセイ、それが覚醒した貴方? 本気の本気、全力の極致?」
鬼王クツロ、この程度でひるむほど初心ではない。
「この程度なら……勝ち目はある!」
ガイセイの戦績は、バカにできたものではない。
同様にクツロの戦績もまた、バカにできたものではない。
「まあ、そうだよなぁ。お前だって、お前のご主人様だって、Aランクハンター様だもんなあ! Aランクの上位モンスターを、しょっちゅうぶちのめしてるもんなあ!」
この世界で、幾度劣勢を味わったことか。
この世界で、幾度生物の生命力に瞠目したことか。
この世界で、どれだけの怪物を殺してきたことか。
「たかが人間! 潰せば死ぬだけ、百足よりも容易いわ!」
「言ったな! 言ったな! 言いやがったな! 格好がいいじゃねえか!」
魔王より強い人間を見たところで、驚くなど今更であろう。
そして、相手が自分よりも強かったとして、退けるわけではないのだ。
(今のガイセイがAランクハンターに匹敵するとしたら……これクラスの人間が、この国に何人もいるということ。場合によっては、全員が敵としてくる可能性もある。そうでなくとも、他の国から刺客が来たり、無法者として現れないとも限らない……!)
ガイセイにとって、限界を超えるための試合。
クツロにとっては、上限を知るための戦いである。
「シュゾク技、鬼炎万丈!」
Aランクハンターを相手に、自分がどこまでやれるのか知らなければならないのだ。
「シュゾク技、鬼気壊々!」
この姿になったところで、知恵がなくなったわけではない。
真っ向から戦えないのなら、奇策に走る。
クツロは大地に拳を打ち込み、大いに地形を砕いていた。
「下らねえな……んなもん意味があるかよ!」
だがそれに何の意味があるのか。
ガイセイは臆することもためらうこともなく、跳躍して斬りかかる。
その爆発力は、まさに圧倒的だった。
「さあ、どうかしら」
ガイセイが圧倒的な攻撃力を得たことは事実。
しかしガイセイ本人が大きくなった、というわけではない。
武器を持ってはいるが、手足が伸びたわけではない。
「小細工は……強者の知恵よ!」
クツロの行動は単純だった。
大きく太い脚を使って、大きく後ろへ仰け反っただけである。
「ああ?!」
ガイセイは、豪快にクリエイトの刃を振り抜いた。
クツロが受けると信じて疑わず、馬鹿正直に空振りをしてしまった。
「やっべ!」
「シュゾク技、鬼拳一逝!」
如何にガイセイが圧倒的な力を持っているとしても、動作そのものは人間である。
跳躍能力があると言っても、空中で軌道を変えられるわけではない。
不十分な体勢から放たれたクツロの拳を、しかし無防備に受けてしまう。
「ちい!」
既に砕かれていた地面へ、ガイセイはめり込んだ。
もちろんその程度で、ガイセイは屈しない。
即座に立ち上がろうとするが、その動作自体が早いわけではない。
「シュゾク技、一鬼当千!」
当たるを幸いに、手にした金棒で滅多打ち。
地面に倒れたガイセイを立ち上がらせまいと、徹底して打ちのめす。
「く……この!」
流石のガイセイも、魔王になったクツロから叩きのめされればダメージを負う。
今まであれば反撃の間もなく、クツロが疲れるまで耐えるしかなかっただろう。
「サンダーエフェクト、ジュピター!」
しかし、今のガイセイはエフェクト技を普通に使える。
クツロの猛攻を受けながらも、全身から電撃を迸らせた。
それはクツロの金棒を弾くことはできなくとも、地面を吹き飛ばすことはできる。
「おらあ!」
体勢を即座に立て直し、電撃の刃で斬りかかる。
クツロはそれを金棒で受けるが、やはり攻撃力では押されてしまう。
「シュゾク技、一鬼火勢!」
「サンダークリエイト! ジュピテール!」
攻撃がぶつかり合う度に、クツロの巨体が押し込まれていく。
鬼炎万丈で向上した攻撃力をもってしても、ガイセイには及んでいない。
「おらおら、どうしたああ! 恰好、つけてみろよ!」
「調子に乗って……!」
大鬼クツロにしてみれば、力で負けるのは面白くない。
しかし、いかんともしがたい実力差。
加えて、この世界に来てから、何度か苦戦を強いられた。力で負けたことも、一度や二度ではない。
だが、自分よりも小さい相手に、力で負けたことはない。
(自分よりも小さい相手に、力負けしている……! こんなに戦い難いだなんて! 魔王のままだと、小技が利かない。でも魔王で無くなれば、力で押し切られてしまう!)
非常に今更ではあるが、なぜクツロ達四体は、普段は通常形態で過ごしているのか。
魔王の姿になることは体の負担になるからだとしても、職業の恩恵を受けられる姿にならないのは不合理に思えるだろう。
理由は簡単である。
単純に上位互換、というわけではないからだ。
魔王になれば、タイカン技が。職業の力を得れば、ショクギョウ技が。それぞれ、通常形態では使えない技が使えるようになる。
しかしデメリットも明確に存在する。
職業の力を得れば、その分他の適性が下がってしまう。クツロの場合、格闘家になれば素手の技の適性が向上するのだが、反面武器を使った技の適性が下がってしまう。
クツロは魔王になった時以外は素手で戦っているが、必要と判断すれば金棒も使える。しかし一旦格闘家になると、武器が必要になった時使えなくなってしまう。
魔王になった時も同様である。種族としての力を全開にしているため、ショクギョウ技が使えないことは当然のこと、本来の適性が低い技がさらに低くなってしまう。
種族としての長所が伸びることと引き換えに、短所までも極端になってしまうのだ。
元々芸達者な悪魔であるササゲの場合は多少は違うが、大鬼であるクツロが魔王になれば自己強化と武器攻撃や格闘攻撃ぐらいしかできなくなってしまう。
多少は使えていた回避技などが使用不能になり、戦術の幅は大いに狭まる。
(そうなれば……タイカン技で押し切るしかない!)
迷いがないわけではない。
アカネほどではないにしても、クツロのタイカン技も高威力。
如何に今のガイセイとはいえ、耐えられるわけではない。
果たして放っていいものか、迷いながらも大きく距離をって金棒を振りかぶる。
「……そうだ、それだ!」
その構えを見てから、ガイセイは手にしている雷の具現へ、さらなる力を注ぎ込む。
「憶えてるぜ、お前のそれ! お前らの最強の技、タイカン技! それを破りたかったんだ!」
以前前線基地を襲った、Aランクモンスターマトウ。
終始圧倒していた彼女は、とどめとしてタイカン技を放った。
その威力を間近で見たものこそ、ガイセイである。
「来いよ! 真っ向からぶち破ってやる!」
既に生み出している雷の刃、それへ更なる力を籠めるその意味は。
彼自身もまた、最大の術を繰り出そうとしているということ。
タイカン技が使いやすいように、あえて真っ向からぶつかる。
負ける気もなく、真っ向からタイカン技を破ろうという、その意気込み。
不遜、傲慢、増長。
それを目にしたクツロは……。
「……殺す」
怒った。
魔王になった者の、最大最強の一撃。
それを知りながら、真っ向から挑もうとは笑わせる。
「はははは! やれるもんならやってみろ! ここまで俺に押されてきて、それはねえだろうが!」
共に、一振りに全力を注ぐ。自分の体に残っている、すべての力を一度で使い切る。
「行くぜ……」
ガイセイは興奮が止まらない。
踏み込んだ境地、踏み込みたかった高み、憧れていた位置。
それに達した実感にまかせて、思い描いていた最大最強の電撃を打ち込む。
「食らいな……サンダークリエイト……デウス!」
いびつな雷が結晶になり膨れ上がる。
膨張し、爆発寸前のように揺れている。
「鬼神が何を恐れるものか、之を避けず断じて行う!」
まさに、至近の雷雲。
しかしそれを恐れるクツロではない。いいや鬼神たるクツロが、何を恐れるというのか。
振りかぶった金棒が、歪に変形し、枝分かれし、醜くよじれていく。
「タイカン技! 鬼神断行!」
※
刹那の衝突が終わった後、狐太郎と三体は慌ててクツロの下へ走っていった。
大量の土砂をまき散らしながらの決着は、死なずに済んだクツロを埋めてしまっている。
「おい、クツロ! 大丈夫か!」
「ご、ご……」
「疲れてるんだろう、わかってる! ああもう……無茶したな、おい……試合なのに、やりすぎだろう……でも、頑張ったな」
何を言っていいのかわからない狐太郎は、とにかく彼女をねぎらった。
そのうえで彼女の五体を確認する。手足が炭化していても、さっぱり不思議ではない。
そう思って手足を見るが、恐るべきことに無事だった。
もちろん疲労しているようだが、それでも外傷はない。
「どうやら正面衝突では、クツロに分があったようね。ご主人様、クツロが倒れているのはタイカン技の反動によるものよ」
「ってことは……」
狐太郎は、ガイセイの方を見た。
そちらの方では、こちらよりも大騒ぎになっている。
「隊長、大丈夫ですか?!」
「これが大丈夫に見えるか? クソ……せっかく気分良くぶっ飛ばしてやろうと思ったのに……!」
意識はしっかりしているものの、地面に倒れているガイセイは起き上がることができなかった。
表情にこそ痛々しさはないが、両手はあらぬ方向に曲がり、胴体の肉も大分持っていかれている。
このまま放っておけば、流石に彼も助からないだろう。それほどに、ダメージを受けていた。
「悪い……見ての通りだな。負けちまった……笑っていいぞ」
「笑えませんよ、もうちょっと格好良く負けてください」
「無茶言うなよ、麒麟。今しゃべるだけでも、結構辛いんだぞ」
「それだけしゃべれるなら大丈夫です」
かくて、大鬼クツロと抜山隊隊長ガイセイの試合は、ガイセイの覚醒を経たうえで、クツロのタイカン技の威力が勝っていたという事実に行きあたった。
そして、やはりわかり切っていたことではあるのだが、熱くなり過ぎた両者は当分戦闘に参加することができなくなってしまったのである。




