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「あら、ジョー様。どうしたの、蛍雪隊に来るなんて」

「お忙しいところ申し訳ない、シャイン殿。少し面倒ごとを頼まれて欲しいのだ」

「白眉隊の隊長様から直々にお願いされたんだもの、断るなんてありえないわ」

「そうか……申し訳ない。実は先日、新しくBランクのハンターがこの前線基地へ来たのだ」

「ええ、聞いているわ。なんでもパーティーではなく、魔物使いをしている個人だとか。アッカ様も個人だったけど、それ以来じゃないかしら?」

「そうだな……彼らの実力は確かだし、反社会的というほどではない」

「抜山隊ほどじゃないってこと?」

「……」

「あらあら、ごめんなさい。バカにしたわけじゃないのよ」

「あまり悪口は言わないほうがいい、彼らを怒らせるとろくなことにならない」

「あらあら、彼らじゃなくて『彼』じゃないかしら。と、余計なことだったわね」

「……彼らに常識というものを教えてほしい。お願いできるのは、貴女だけだ」

「そんなに世間知らずなの?」

「何も知らない、と思って接したほうがいいだろう。そのほうが彼らも喜ぶはずだ」

「あらあら……ある意味では、この前線基地にぴったりの新人ハンターね」



 先日有り金を使い果たしてしまった狐太郎とその一行。

 如何に食事や住居が無償で支給されているとはいえ、今日は遅れを巻き返さなければならなかった。

 もちろん使う当てがあるわけではないのだが、それでもないよりはマシだった。いつか必要になるかもしれないのであれば、ためておくべきだと思われる。


「……むむむ」


 ハンティングを成功させるには、一日の活力が大事。

 それにはやはりきちんと朝食をとらなければならないのだが、アカネは目の前の食事を前に閉口していた。


「同じ材料でも、もうちょっと何とかならないかな~~」


 暖かな家庭料理、と言えば美味しいものというイメージはある。

 田舎のお母さんの手料理、といえば『ごちそう』とは違うが、ちゃんとしたイメージがある。

 しかしそれは、ある程度裕福な、という枕詞が必要だった。


 煮込んで柔らかくしたマメ。

 葉菜の塩漬け。

 魚の酢漬け。

 温いミルク。


 食えないわけではないし、むしろ健康的なのかもしれない。

 栄養摂取と言う意味では、ほぼ問題がないのかもしれない出来立ての料理。

 まずい、美味しくない、食べたくないという点を除けば満点の料理であった。


「我慢して食べなさい、私も我慢しているんだから」

「クツロはいいよね、晩御飯の時はテンション高いもん。私は朝昼晩とテンションが低いんだよ?」

「贅沢言わないの! 食べないと死んじゃうわよ」

「うう~~」


 温いミルクをちびちびと飲みながら、不満をあらわにしているアカネ。

 彼女がちらりと周囲を見れば、コゴエ以外は嫌そうに、なんとか飲み込んでいる。


「贅沢なこと言わないから、せめて白いご飯とお味噌汁が食べたいなあ~~」

(それはそれでめちゃくちゃ贅沢なことなんだけどな……)


 アカネの想像する白いご飯とみそ汁、というのは、狐太郎が想像する献立と大差ないのだろう。

 だがしかし、それを一般庶民が食べられるようになったのは、日本でもごく最近のことだと歴史を勉強すればわかることである。

 コショウと砂金が同じ値段で取引されかねないこの世界では、存在するかしないかは置いておいて、物凄く高額なのだろうと察しはつく。


「コゴエは良いわよね、欲求が低くて」

「作ってくださった方への感謝が大事だ。お前たちも文句を言わずに食え」

「清貧の心よりも、上昇志向が欲しいわ。何とかならないかしら」


 今日も当然のように、作ってくださった女性たちには帰ってもらった。

 即死攻撃や呪詛が得意な悪魔から『お前の作った飯は食えたものではない』などと言われてしまえば、怖くて泣き出してしまいかねない。


(この食事自体は、まあ食えなくもないんだが……アカネの言う通り、今後美味いメシが食える保証がない、と言うのがきつい……食えないと思うと、食いたくなるんだよなあ……)


 作った女性たちは悪くないが、狐太郎たちも悪くはない。

 どうにかして美味い飯を食べるか、あるいはそれを手に入れるための算段を付けたいところである。


「美味しそうな匂い!」


 そんなことを考えていると、アカネががばっと起き上がった。

 きょろきょろと周囲を見渡し、匂いの元を探っている。


「あら……本当にいい匂い」

(なんだ、焼けたパンの匂いか?)


 アカネだけではなく、ササゲや狐太郎もそれに気づく。

 確実に、かぐわしい香りが彼らの家に満ちつつあった。


「あらあら、思った以上に効果てきめんね」


 何もない空間、誰もいない場所。

 そこから声が聞こえてきた。


「どうも初めまして、狐太郎さんとその魔物さんたち」


 そして、その姿があらわになる。


「Bランクのパーティー、蛍雪隊の隊長シャインです」


 三角のトンガリ帽子、濃い緑色のローブ。

 手にはバスケットを持っている、絵にかいたような魔女がそこにいた。


「よろしくね」



 蛍雪隊隊長、シャイン。

 そう名乗った魔女は、なんともかぐわしい香りのするバスケットをもって、一行の前に出現していた。

 匂いや声があったことから判断して、ワープだとか瞬間移動の類ではなく、透明になっていたのだろうと察しはつく。


「ど、どうも……」

「いきなり入ってきて、驚かせちゃったかしら」

「はい、できればノックして欲しかったです……」

「あらあら、ごめんなさい」


 ニコニコと笑っている彼女は、バスケットをずっしりと机の上に置いた。

 それを目にして、今にも飛び出しそうにしているのは、やはりアカネである。

 流石に奪い取るなどをするつもりはないようだが、それでも鬼気迫る勢いだった。

 飢えた獣が獲物にとびかかる前の、うなり声も上げずによだれを滴らせている、遊びのない真顔、というところだった。


「……その、お近づきのしるしと言うことで、スコーンを焼いてきたのだけど、いるかしら?」

「あら、スコーン?」

「ええ、お気に召すといいのだけど」


 バスケットの上に品よく乗せていたハンカチを取ると、そこにはわずかに湯気の出ている焼きたてのスコーンがあった。

 大量生産されている、規格の整っている製品ではないのは当たり前だが、そんなことが気にならなくなるほどおいしそうであった。


「ご主人様、ご主人様、ご主人様!」

「あ、ああ、うん……」


 火竜というか、犬を飼っているような気分である。

 今にもとびかかりそうなアカネは、狐太郎の『食べていいよ』を待っていた。


「シャインさん、いただいてもよろしいですか?」

「ええ、そのために持ってきたのだもの」

「そうか……アカネ、食べてもいいそうだぞ。ありがとうと言ってから……」


 狐太郎が良し、と言った瞬間、アカネはその両手を合わせていた。


「いただきます!」


 むんずとスコーンを握りしめ、明らかに肉食獣とわかる口を開けて、がつがつと食べていく。

 その姿は、明らかにスコーンという料理、お茶菓子のようなものを食べる姿勢ではなかった。

 貪っている、という具合である。


「品が無いわねえ……」


 アカネほどではないが、ササゲもスコーンをしっかりと確保していた。

 やや温いミルクと一緒に、やわらかく温かなスコーンを楽しんでいる。


「ん、ん、ん、ん!」


 アカネは無我夢中で、美味しいともいわずに、ひたすら食べていた。

 飲み込むのが間に合わず頬が膨らんで、もはやリスやハムスターのようですらある。


「も、もっと焼いてきた方が良かったかしら……?」

「いえ、そんなわけには……」

「それじゃあ……貴方の世話をしている人に、作り方を教えてあげましょう。材料はそこそこ高いですけど、それぐらいは何とかなるでしょ」


 わりと軽く言っているが、全く軽くないことだった。

 狐太郎は、不意に問題の一部が解決したことに、喜びを隠せない。


「そ、そうですか……助かります!」


 なお、シャインの方は狐太郎が喜び過ぎているので、少し引いていた。


「ご主人様! おいしいよ! ほら!」


 シャインがバスケット一杯に作ってきたスコーンは、ほとんどアカネが食べつくしていた。

 底の方に残っている最後の一個を、アカネが差し出してくる。


「コゴエ、クツロ……いるか?」

「私は結構ですから、どうぞ」

「クツロと同じです、私どもを気になさらず」


 一応確認をとってから、狐太郎はスコーンを食べる。


(……うん、空腹がスパイスになるぐらいだな)


 物凄く失礼なので声に出せないが、シャイン本人が謙遜しているように、そこまで美味しいわけではない。

 だがしかし、この世界で食べた中で、一番おいしい料理であることは疑いのないことだった。


「ありがとうございます、シャインさん」

「大したことしてないから、気にしないでね」


 ようやくアカネも人心地がついたので、話に入る。

 どうやらただおすそ分けに来た、と言うわけではないらしい。


「改めて……私は蛍雪隊の隊長を務めているシャインよ。もちろんBランクのハンターで、普段は狩をせずにシュバルツバルトのモンスターの研究をしているわ」


 役場では、ひと月に一度しか狩りをしないパーティーもいると言っていた。

 おそらくは、蛍雪隊がそれなのだろう。確かに頻繁に森へ出向いているような姿ではなかった。


(というか、女性のハンターなんて初めて見たな)

「女がハンターなんて意外かしら?」

「い、いえ、そんな……!」

「安心して、私も自分以外は知らないわ」


 この世界におけるハンターとは、まさに屈強な大男ばかりだった。

 萌え系のゲームやら美少女ゲームに出てくる美少女ハンターなど、少なくともこの基地にはいなかった。


「というか、私は基本的に、ハンティングには参加しないし」

「え、そうなんですか?」

「私はね……」


 一拍開けて、とても自慢げに教えてきた。


「この前線基地でも唯一の……スロット使いなのよ!」

「え、スロット使い?!」

「そうなのよ! 凄いでしょう?」

(スロット使いってなんだろう……エフェクトとかクリエイトとかと同じものなのか?)


 普通ならスロット使いとは何なのか聞くべきだったのだろう。

 だが当人が余りにも自慢げすぎて、中々聞くことができなかった。


「もしかして、初めて見たのかしら?」

「はい、初めてです」

「でしょうね……うふふ」

(嘘は言ってないが……スロット使いとはいったい……)


 知らなくても支障がなさそうなので、とりあえず黙って話を聞くことにしていた。


「今この基地には、貴方を含めて五つのBランクハンター、パーティーが在籍しているわ。白眉隊にはもう会っているわよね?」

「はい、ジョーさんにはずいぶんとお世話になりました……ご迷惑もおかけしてしまって……」

「白眉隊はこの前線基地の治安維持も兼任しているのよ。その分大変だそうだけど、あの人たち以外には絶対に無理ね」


 つい昨日、東風隊が暴れるところを見た一行である。

 なるほど、治安の維持も大変なようだ。


「その隊長を務めるジョー様から、貴方達にこの街で警戒することを教えるように頼まれたの」

「そ、そうなんですか? ありがたいですけども……昨日あったばかりなんですが……」

「ジョー様は忙しい身だし、できるだけ中立を守ろうとしているから、注意が難しいのよ。悪口を濁すタイプだしね」


 たしかに、他人へ警戒を促すのは、悪口を含めてしまうものだ。

 仮に狐太郎たちが東風隊のことを他人に教えるのなら『役場の女性に暴言を吐いてFランクに落とされた』とか、『難癖をつけて金を奪おうとしてくる』など、ろくなことを言えない。

 それが真実だとしても、中々辛辣な悪口だった。


「この前線基地には不文律があるのよ、それは余計な詮索をしないこと」


 シャインはとても強く、絶対に犯してはいけないのだと言い切っていた。

 それを聞いて、狐太郎もある種の納得をしていた。明らかに文化の異なる格好をしている自分たちを、誰もが特に詮索しないままだったが、それはこの前線基地特有のことだったのだ。


「この基地にいるBランクのハンターは、他のBランクやそれ以下とは比べ物にならないほど強い。そのBランク同士が本格的に戦ったら、シャレにならないのはわかるでしょう?」

(確かに……昨日はササゲがあっさり倒してくれたけど、あれは実力差があったからできたことだしな)


 タイラントタイガーやマンイートヒヒ。

 それらを圧倒できる強者だけが、この前線基地で討伐隊をやっている。

 もしも衝突すれば、ろくなことにならないことは目に見えている。


「だからこそ、相手の事情を探ることは禁止されているわけね。とはいえ、何も知らない相手を怒らせないようにするのも無理でしょ? だから最低限のことだけは教えに来たのよ」


 最低限のことを知らないと、暴れだすような輩がいるということだろうか。

 とんでもない話だと思わざるを得ないが、些細なことで相手を呪う悪魔が自分の仲間なので、何も言えない狐太郎である。


「自分で言うのもどうかと思うけど、私達蛍雪隊はそんなに問題ないわ。正直とっても弱いし、一々怒るような人もいないしね。白眉隊の人たちは、街で暴れたり、積極的にケンカを売らなければ大丈夫よ」

(昨日の東風隊の件は、どういう扱いになっているんだろうか……)

「ただ、一灯隊と抜山隊には気をつけなさい」


 この上なく露骨に、その二つのパーティーが問題児だと言い切っている。


「あまり言いたくはないけど、一灯隊は孤児の集まりよ。しかもその半数以上が、モンスターに家族を殺された者で構成されているわ」

「俺たちと同じ基地にいたらだめなんじゃないですか?」

「貴方たちがいないと、この基地が壊滅しかねないのよ」


 孤児を差別するつもりはないが、モンスターに家族を殺されたハンターというのは、魔物使いが関わっていい相手ではない。


「難癖をつけてくる人がいるかもしれないけど、そういう都合だから我慢してね」

(しかも具体的なアドバイスは無しか……)


 モンスターを憎んでいるはずのハンターを相手に、モンスターによって守られている男がどう接すればいいのか。

 当然ながら、狐太郎には重すぎる話題である。


(ある意味、魔王が望んでいた展開だけども……)


 もちろん会ってみなければ何とも言えないが、わざわざ会うのはリスキーだった。

 仲良くなれればそれが一番だが、仲が悪くなった場合殺し合いになりかねない。

 しかも、高確率で仲が悪くなる。ハイリスクローリターン、ここに極まれり。


「それで、抜山隊なんだけど……はっきり言って、チンピラの集まりね。どの隊員もBランクの実力はあるけど、本来ならこの前線基地にいられる実力じゃないわ。それならなんでいるのかって話だけど……隊長が、頭一つ二つ抜けて強いのよ。アッカ様がいなくなった今、この前線基地では間違いなく最強ね」


 一般の隊員は並みだが、隊長だけやたらと強い。それでもパーティーとして機能しているらしい。

 それだけ隊長が強いということなのだろう。


(まあ俺なんて、何にもできないわけだしな)


 Fランクにさえなれる自信もない狐太郎は、身の程というものを知っていた。


「その隊長本人はけっこうまともだけど、隊員はチンピラだから煽ってくるわよ。ぶん殴っていいわ」

「いいんですか?!」

「殺さなきゃ、自己責任よ。やり過ぎなければ、向こうの隊長も一々取り合わないわ」


 一灯隊と違って、抜山隊は具体的な対策が示された。殴っていいらしい。

 具体的だが、争いを避けるのではなく助長する発言だった。


「ああそうそう、さっき抜山隊の隊長が最強だっていったけど……訂正するわ」


 なにやら含みのある顔で、食卓に座っている四体のモンスターを見る。


「ここにいる新しいBランクハンターの仲間を除いて、かしらね」

「そ、そんなに強いと思いますか?」

「未知、と言ったところかしら。一番警戒するべきことね」


 この世界で出会ったどんなモンスターよりも、人間に似ている、怖いというよりは美しい四体。

 それに対して、彼女は興味を示していた。


「警戒して、たいしたことありませんでした、ならそれでいいのよ。警戒していませんでした、死にました、なんて最悪だしね。結局のところ……ちゃんと知ってさえいれば、人間はどうにかできるものよ」


 人ならざる四体は、それを聞いても全く反応しなかった。

 ある種の、人間を上位に置く言葉を聞いても、不快にさえ感じていない。

 それを確かめながら、シャインは言葉をつづけた。


「まあもちろん、その知る、というのが大変なんだけどね。私は学者として、コツコツ頑張るだけよ」


 そう言って、彼女は席を立った。


「ああ、そうそう。未知というのは怖れた方がいいわ」


 意味ありげに笑い、現れた時同様に姿を消す。


「見えない敵がいるかもしれない、そう知っているだけでもだいぶ違うものよ」


 助言を残して、魔女は去っていった。


(とりあえず、あの人が俺を狙ったらそれまでだってことは確かだな……)


 この基地で一番強いのがこの四体かどうかはともかく、シャインに狙われないようにするべきだと思う狐太郎だった。





 前線基地の中にある、蛍雪隊の隊舎。

 それは狐太郎の暮らしている家とは、あらゆる意味で全く異なっている。


 隊員の住居スペースは狐太郎の家と同じ規模で存在しているが、それよりも大きい隊長専用の施設が隣接する形になっている。

 ハンターの武器庫、あるいは専属の鍛冶屋。それを合わせた物よりも明らかに大きいそれは、シャインのための研究施設である。


 歴代のシュバルツバルトの討伐隊の中でも、蛍雪隊は極めて珍しいパーティーだった。


 隊長のシャインは幼いころから将来を有望視されていた天才少女なのだが、彼女の興味は実用的で実践的な内容とは程遠かった。

 集団で生息するモンスターの文化や、各地のモンスターの些細な形態の差異など、モンスターを倒すことには関係のない研究に没頭していったのである。


 如何に彼女が天才で実家が裕福だったとしても、なんの利益も生まない研究を進めることに理解を得ることはできなかった。

 もしも彼女がなんの才能もない女性だったなら、逆に彼女はある程度の金を与えられて放置されていたかもしれない。

 しかし彼女はスロット使いでもあり、戦闘面でも極めて優秀である。

 だからこそ周囲は彼女へ圧力を加えていった。彼女のためになるという、まったくの善意から、彼女の生き方を否定した。


 そして彼女は、この前線基地に来たのである。

 このシュバルツバルトで討伐隊に参加すれば、国家への奉仕、研究費の調達、モンスターに近い拠点、他の研究者からの妨害をすべて解決できた。

 大量のBランクモンスターを駆除すれば国家も悪い顔はせず、多額の資金を自分で調達でき、仕事と合わせてモンスターの観察が可能で、何よりも他の研究者は危険すぎて近づけなかった。

 それもこれも、彼女の破格の才能あってのことではあった。


「彼らはどうだった、君の率直な感想が聞きたい」

「戦ったところは見ていないから何とも言えないけど……」


 その彼女のもとへ、ジョーは訪れていた。

 白眉隊の隊長が蛍雪隊の隊長に頼んでいたことは、ただ警告をするだけではない。

 彼女に狐太郎とその一行を見定めてほしかったのだ。


「とりあえず、彼女たちは人間を上位者として認めていたわ」

「彼個人ではなく、人間全体をか?」

「軽く挑発してみたけど、その意図にさえ気付いていなかったわ。多分彼女たちが特別なんじゃなく、彼女たちの出身地ではそれが普通なのね」


 相手のことを知れば、対策を練ることができる。

 それは強力なモンスターである四体にとって、侮辱ともいえる言葉だった。

 もちろんシャイン自身もそう思っているが、意外にも彼女たちさえそう思っているようだった。


「昨日は不合格者をあしらったそうだし、人間なら無条件で崇拝しているわけでもないわ。ただ……人間社会とモンスターという生物を秤にかければ、人間に傾くってことでしょうね」

「……飼いならされている、とみていいのだろうか」

「問題ないわね、そこいらのチンピラよりも社会に対して配慮しているわよ」

「ならば構わないが……こうなると、一灯隊や抜山隊が心配だな……」

「今更じゃないかしら? どの道新参者とは衝突するものでしょう?」


 この前線基地で討伐隊に参加している限り、この国の政府はBランクのハンターとして扱う。

 どんな大罪人であったとしても、身元が不確かでも、素行が最悪でも、討伐以外の任務が果たせなくても、通常のBランクよりもさらに高い報酬や特権を与えている。

 だがそれは、この前線基地の内側で従事している人間にとって、とんでもない話である。


「私たちが気を使わないとね……」

「ああ、その通りだ。もしもAランクのモンスターが襲撃してきた時、彼らがいなければ……この前線基地は崩壊する」

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― 新着の感想 ―
[一言] 現代準拠の文明に暮らしていたのなら社会とそれを構築する人間を上位者とみなすのは当たり前ですからね いくら強くても社会に属さずに好き放題できる世界観ではないわけだし人間の恐ろしさも理解している…
[良い点] 別視点というか、ヒーローアクターの方でもあったような元々の住民と異分子の交流的なのよんでて楽しい。
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