泣く子と地頭には敵わぬ
「あははは! ぷふぅあああ!」
大鬼クツロは、相変わらず大いに酒を飲んでいた。
周囲の人々が慌てて宴を切り上げようとしているのに、彼女だけは完全に酒宴を続行している。
そしてこの場でも図抜けた実力者である彼女を、周囲の誰もが止められなかったわけで。
「……コゴエ、頭を冷やしてやってくれ」
「承知しました」
しかしそれを止めるのが狐太郎の仕事である。
そして狐太郎の手足になるのは、やはりモンスターだった。
一番頼りになるのは雪女のコゴエである。
「クツロ、いい加減酔いから醒めろ」
コゴエがクツロの頭の上に大量の雪を降らせる。
それによって、一瞬にしてクツロの巨体は雪に埋もれていた。
もちろん雪に埋もれただけなので、直ぐに出てくる。
「な、何するのよ、コゴエ! せっかくの宴会なのに、酔いが醒めちゃうじゃない! なに、モンスターでも来たの?! 違うでしょ!」
「もっと厄介なものが来たのだ、周りを見てみろ」
コゴエに促されて、クツロは周囲を見る。
すると、どの隊員も慌てて片づけをしていた。
肉も酒も、机も椅子も、何もかもが屋内にしまわれている。
それは、大慌ての店じまいだった。
「……え? もう終わっちゃったの?」
「そうだ」
「そ、そんな……まだ序の口だったのに……」
本気でがっくり来ているクツロ。
やはり肉と酒が絡むと、彼女は理性を失うらしい。
「なんでよ……せっかく大公様がお肉とお酒を用意してくれたのに……」
「いや、それがね? なんだかよくわからないけど、ダッキって言う王女様が門の前で待ってるんだって」
嘆いているクツロに、アカネが説明をする。
自分がお宝をもらったせいでこんなことになったので、少々責任を感じているらしい。
もう終わったと思ったのに、最後の最後で面倒なことになってしまった。
「王女……? それは……大公様も無茶ができる相手じゃないわね」
物理的に頭を冷やしたクツロは、状況のまずさを理解した。
今までは大公という権力者が全面的に味方をしてくれたおかげで、そこまで致命的なことにはならなかった。
しかし王女と言えば、大王の娘である。大王はこの国で一番偉いはずなので、大公でも無茶を通すことはできまい。
場合によっては、権力闘争に巻き込まれる可能性もあった。現時点でも厄介なのに、これ以上は御免である。
「わかったらとっとと水でも浴びてきなさい。あんた、酒を浴びたみたいに全身が酒臭いわよ。あと肉の脂もぎっとぎとするぐらい匂う」
「そうね……ちょっと水を浴びて、歯を磨いてくるわ」
狐太郎はこの前線基地の城主であり、よって王女の歓迎に参加する義務がある。
であればそのモンスターであるクツロもまた、傍に控えていなければならない。
もしも王女を歓待するモンスターのうち一体が、やたら酒臭くて肉臭かったら、とても普通に失礼なことだろう。
というか、クツロ本人も恥ずかしい。ササゲが促すまでもなく、あわてて家に走っていった。
「……アカネ、一応確認しておくんだけど。玉手箱やその中身で、気に入っているから手放したくないものとかあるか? 場合によっては王女様に献上することになるかもしれないけど……嫌ならできるだけ粘ってみる」
「……あははは! そんなこと気にしなくていいよ、ご主人様。雲を縫う糸のお爺ちゃんには悪いけど、もううんざりしてたし。大公様に預かってもらうのも、王女様にあげちゃうのも一緒だよ、全然気にしないで」
狐太郎は確認をするが、やはりアカネも面倒すぎてさっさと手放したかったらしい。
そもそも宝物にそこまで執着があったわけでもないのだから、当然の対応だろう。
むしろ狐太郎が自分を気遣ってくれたことの方が、よほど嬉しいようだ。
「まあ、そうだな。王女様に献上して貸しを作って、いざってときに助けてもらえばいいさ。まあなんか賄賂を贈っているような気分というか、実際賄賂だけどもまあいいよな」
「そうそう! 賄賂賄賂!」
「そうそう、賄賂ぐらいなんてことないわよ」
「これも人の営みだな」
こうやって人は汚れて、傲慢になって、思い上がっていくのだろう。
なり上がっていく狐太郎たちは、自分たちが不平等な特権を手にしつつあることを受け入れていた。
無辜の民が無辜であることを利用しているように、自分たちも特権を利用するまでである。
元々志が高かったわけでもないので、最初から汚れていたのかもしれないが。
※
さて、前線基地の正門前。
つまり荷物などを搬入する、カセイへの道がある側の門の前で、一団は歓迎する態勢になっていた。
当然ながら大公やリァンがその中心になっており、狐太郎やそのモンスターは脇に控えていた。
「あの……大公様。一応なんですが、私たちは黙っていればいいんですよね?」
「ああ、挨拶ぐらいをしてくれればそれでいい。主な対応は私と娘でするから、安心してくれ」
なお、大公を含めたほとんど全員がうんざりしていた。当たり前である。
なにせさっきまで酒宴をして、騒動の終わりを祝っていたのだ。
なのにアポイントメントもなく、いきなり王族が来てしまった。それで苛立たないわけがない。
しかしだからと言って、短気も起こせない。ここで面倒なことになれば、それこそおしまいだ。
「君に限らず、討伐隊のハンターが被害を受ければ、私も損をするのだからね」
無償の善意ではなく、利害の一致。
だからこそ、狐太郎は大公を信じていた。
問題なのは、王女の方である。
(普通に考えて、いきなり王族がここに来るなんて普通じゃない。だとしたら、来る王族も普通じゃない……会いたくねえ~~)
会ってもいない相手を悪く思うのは良くないが、アポなしで押しかけてきている時点で最悪である。
やはりアポイントメントは大事、狐太郎は深く思うのであった。
「そう固くならずとも大丈夫です。今回は正式な来訪ではないのですから、王族と言えども無礼を咎めることはできません。むしろこちらが咎めていいほどです」
王族であるリァンが、狐太郎を勇気づけた。
つまり、ぶん殴るような真似をしてもオッケーということだろう。
正式な場で連続殺人を犯した女性らしい、暴力解禁のお知らせである。
「そ、そうですか……」
さて、長く門の前で王女を待たせていた。
準備が整ったのだから、門を開けて中に入れなければならない。
(今、モンスター来てくれねえかな……ラードーンとか、大歓迎)
狐太郎はここに来て初めて、モンスターの襲来を待ち望んでいた。
なお、マーフィーの法則に曰く、雨が降ることを期待して洗車をしても、雨は降らないとのこと。
「開門!」
白眉隊の号令によって、重い門が開いていく。
そこから入ってくるのは、当然ながら王女であるダッキだった。
「おお~~っほっほっほっほ!」
高く美しい声が聞こえてきた。
「まったく、散々待たせてくれたわねぇ叔父様! いつでもお客を迎えられるように備えておくのは、貴人として当然のことではなくて?」
とても、傲慢な物言いが聞こえてきた。
「いくら大公とは言え、王女である私を、私を、私を! こんな長く待たせるだなんて……殿方としてどうかと思います」
屈強な護衛三人に守られている、絶世の美少女。
「でもまあ、許してあげますわ。急に訪れたのは、こっちの方ですもの!」
芝居がかったセリフに合わせて、ポーズを決めている。
その姿を見て、狐太郎や麒麟たちは驚いていた。
「第一王女、ダッキ! ここに参上ですわ!」
ダッキは、十歳ぐらいの童女だったのだ。
(……末っ子長女かな?)
まともではないというよりも、まともな分別がまだついていないのだろう。
体にメリハリもない、如何にも普通な、すこしぽっちゃり気味の童女。
綺麗というか可愛らしいので、将来は美女になるのだろうと察しはつく。
しかしだとしても、現時点ではただのマセたガキだった。
「リァン」
「はい、お父様」
そんな彼女へ、リァンは無言で近づいていく。
「あら、リァンお姉様? なんでそんな恰好を……あら、ちょっと、ちょっとまって! なんで、アレ、えっと?! きゃああ! だ、ダッキのお尻を、どうするの! ま、まって、ダッキは王女だよ! こんなところでお尻を……きゃああああああ!」
無言で尻をひっぱたきまくるリァン。
その手は、柔らかな癒しのオーラに包まれていた。
そんな手で、膝の上に乗せたダッキの尻をひっぱたく。
創造と破壊は表裏一体であり、治癒と攻撃も表裏一体であり、暴力と躾も表裏一体だった。
「いだ! いだ! いだ! た、助けて~~!」
なお、護衛の三人も誰も助けようとしない。
おそらく、三人も同じような心境なのだろう。
つまり、リァンのように尻をひっぱたきたかったのだ。
「うう……ダッキのお尻、凄く痛かった……」
「黙りなさい、ダッキ……次は拳骨よ?」
Cランクモンスターを一撃で殴りつぶすリァンの、怒りに震えた拳。
泣きべそをかいているダッキを解放した後も、攻撃の意志は残っていた。
つまり、まだ殴り足りなかった。
「ごめんなさいね、キンカクさんにギンカクさん、ドッカクさん……どうせダッキが無茶を言ったのでしょう?」
「はい、その通りです。玉手箱のことを知ったダッキ様が、大騒ぎをしてしまいまして……」
「大王様が許可をしてしまったので、あわてて我らが同行した次第……」
「もっと殴っていいですよ、気絶させてもいいぐらいです」
どうやら三人の護衛とも顔見知りらしく、リァンは従姉妹が迷惑をかけたことを謝っていた。
キンカクギンカクドッカクと呼ばれた三人は、各々がガイセイに匹敵するほど大きい。そのうえで白眉隊よりも上の装備をしているのだから、それだけでも地位が窺える。
「……その、失礼ですがリァン様。もしやその恰好は……ハンターのものですか?」
「ええ、その通りです。今私は一灯隊に属するBランクハンターなので」
「め、名義貸しではなく?! 御自ら前線に?! しかもシュバルツバルトの前線基地で?!」
「正気とは思えません! ここはアッカが働いていたほどの危険地帯ですよ?!」
なお、リァンの姿を見て三人はとんでもなく驚いていた。
そしてその言葉を聞いて、狐太郎は概ねを察する。
(なるほど……生まれがしっかりしていないCランクハンターに名義を貸して、自分がBランクハンターになる貴族とかがいるんだな。ケイがあの時『Aランクハンターは金で買えない』って言ってたのは、そういう意味でもあったのか……)
どうやらリァンがBランクハンターになったこと自体は知られていたらしいが、名義だけ貸してバックになったわけではなく、実際に戦っているとは誰も思っていなかったらしい。
まあそりゃそうである。リァンがとんでもなく強いのならまだしも、この森で戦うには不十分だったのだから。
「これも、公女としての務めです」
「そんなことないと思いますよ! 今すぐ辞めた方がいいですって!」
(そうだな)
ある意味ではリァンは立派なのだろうが、たぶん公女のやることではない。
どうやら、この世界の基準から言ってもおかしいらしい。
「それは私が許可したことだ。それに文句をつけるため、ここに来たわけではないだろう」
「た、大公閣下……ええ、その通りです。ダッキ様が、どうしても玉手箱を見たいと言ってきかず……」
「ではさっさと見て帰ってもらおう。見せずに帰したら、また来かねないからな」
大公は不承不承許可をして、閉鎖している美術館にダッキを案内する。
ダッキも最初は泣いていたが、涙をぬぐってよろよろ歩いていく。
どうやら是が非でも宝を見たかったらしい。
(なんか思ってたのと違うな~~。いや、おかしくはないんだけども)
ダッキが仮に十歳ぐらいだったとして、玉手箱を見たくて父親である大王にねだるのは不思議ではない。ちょうどお年頃であろうし、父親も甘くなってしまうだろう。
加えて、十歳ぐらいの童女が第一王女であることも、そこまではおかしくない。大王は大公の兄だというが、そこまで歳の差がないのならダッキぐらいの娘がいるのも普通だ。
であれば、そこまで不合理でもない。ただ、意外ではあった。
さて、美術館の中である。
まだ一般公開されたままの状態になっており、きらびやかな宝物の数々が陳列されていた。
それは王女であるダッキをして、見たことのない異邦の宝である。
「わああああ~~!」
ある意味ではほほえましい、大喜びしている童女。
美少女と言えば美少女なのだろうが、幼すぎる彼女は喜び方も幼かった。
展示されている台の周りを、ぴょんぴょんと跳びはねている。
「ねえねえ、触ってもいい? ダッキ、手に取ってみたいんだけど! もちろん落っことさないし、手袋もするから!」
「……あの、狐太郎様」
「別にいいですけど」
「……すみません」
小さなおててに手袋をはめて、ダッキは宝石サンゴを手に取りくるくると回している。
狐太郎たちにとっては見飽きている品なのだが、彼女は目を輝かせながら愛でていた。
そして、当然のように、誰もが予測していた展開になる。
「ねえぇん、Aランクハンターさぁあん?」
まったく色気のない、シナを作りながら狐太郎にすり寄ってくるダッキ。
「私ねえ、今欲しいものがあるんだけどぉ」
目をぱちぱちとして、いろいろと察しろ、と言わんばかりにふるまっている。
「この宝物、くれないかしらあ~~。もしもくれたらねぇ、私がぁああ~~」
唇を尖らせて、アピールする。
「ちゅっちゅしてあげちゃうわよ~~?」
(意味わかってるんだろうか)
ダッキは特別大柄ではないのだが、狐太郎が相対的に小柄なので、年齢に差こそあっても体格に大きな差はない。
そのうえで、彼女は狐太郎に精いっぱいのアピールをしてくる。
「何を言っているの、貴方は……!」
「いだだだだだ!」
「王家の唇を現品交換するなんて……商売女ですか!」
怒ったリァンが、ダッキの耳をつまんで引っ張っていた。
むしろ、耳だけつまんで持ち上げていた。
見ているだけで、物凄くいたそうである。
「お、お父様だったら、ちゅっちゅすればなんでも言うこと聞いてくれるのに……」
「伯父様はどんな教育をしているのかしら……」
(まったくだ)
年頃の娘になんでも買い与えたい、という気持ちはどの父親にもあるだろう。
だがそれを一国の王が娘にやるとなれば、その規模は著しい。少なくとも、今は大問題だった。
「あだだだ……うう……じゃあ仕方ないもん! ダッキ怒ったからね! 荒っぽいよ!」
サンゴなどを手に取るためにつけていた手袋をとって、狐太郎にたたきつける。
「玉手箱をかけて決闘よ! そっちのモンスターと、ダッキの護衛が勝負して、勝った方が玉手箱をゲットするんだから!」
(俺に何のメリットが?)
なにかもっともらしい理屈をつけているような感じだが、そんなことは一切ない。
アカネの物、あるいは狐太郎の物なのだから、それをかけて戦う意味が分からない。
少なくともダッキは、何一つ賭けていなかった。しかも、自分が戦う気もなかった。あっても困るが、ただわがままを言っているだけである。
正直押し付けたくすらある狐太郎をして、ダッキにあげるのが嫌になってきた。
「ダッキの護衛はね、斉天十二魔将に選ばれているお父様直属の戦士なんだから! 一人でも討伐任務を任されるぐらい凄い戦士だもん、絶対負けないわ! やっちゃって!」
斉天十二魔将。それは大王に仕える、最強の戦士たち。
各々が圧倒的な力を持つ選りすぐられた戦士であり、一個人でありながら武将相当の扱いを受けている。その中でもトップに位置する者は、Aランクハンターに比肩する実力者だという。
多くの縛りをもつ大王にとって、己の裁量で自由に動かせる、唯一にして最強の戦力と言えるだろう。
「キンカク!」
「王女様、絶対勝てません」
「ギンカク!」
「ギュウマの親父さんか、ゴクウでも呼んでこないと無理ですぜ」
「ドッカク!」
「俺達十二魔将の中の下っ端なんで、Aランクモンスターの相手とかできません。瞬殺されます」
「なんでよ~~!」
ちなみにシュバルツバルトの討伐隊は、大都市カセイを治める大公ジューガー直属のハンターであり、彼自身の裁量で動かせる最高戦力であった。
その中でも狐太郎はトップであり、国内でも最強の戦士と言ってもよかった。
「斉天十二魔将は最強なんでしょ~~! お父様の信頼する最強の戦士なんでしょ~~! ダッキのために戦って勝ってよ~~!」
(無茶苦茶言ってるけど、年齢的には仕方ないか……?)
これを成人女性が言っていたらほほえましいどころか痛々しいが、十歳かそこらならまあまあ年齢相応である。
よって、狐太郎は咎める気にならなかった。
「何勝手に決闘しようとしてるの、貴方は」
「きゃあああああ!」
「斉天十二魔将は伯父様を守るためにいるのであって、貴女のわがままを聞くためにいるんじゃありません!」
なお、身内からすればとんでもなく迷惑な模様。
ダッキのつやつやのほっぺたを、引きちぎる勢いでつねっているリァン。
治せるだけに、一切遠慮がない。
「いはい、いはい!」
「狐太郎さんだけじゃなくて、アカネさんやコゴエさん、クツロさんやササゲさんにも迷惑でしょう!」
「ほっぺ、ほっぺちぎれちゃう!」
「十二魔将とAランクモンスターが戦ったら、こんなもんじゃないんですからね!」
「ううう……」
頬を押さえて泣いているダッキだが、あいにくと諦める気はない様子。
反省の色がないともいう。
「面倒ね……ねえ、リァン様。もうこの際、一個か二個かあげちゃったら? 書面上は全部大公様が預かってることにすればいいでしょ?」
うんざりしきっているササゲが折衷案を出す。
このままだと話が終わりそうにないので、いくつか渡してしまおうとしていた。
「大王様の娘なら保管も信頼できるし、特別扱いがばれたからって大問題にもならないでしょ」
「それはそうですが……お返しできるものがありませんし……何より教育に悪いです」
(確かに)
ササゲの提案は現実的だが、ダッキの教育に良くない。
ごねたらお宝がもらえると学習されたら、今後も似たようなことを起こすだろう。
「嫌! 絶対に嫌!」
それを証明するように、ダッキは泣きわめいていた。
どうやら折衷案さえ受け入れる気がないらしい。
「全部欲しいの、全部!」
「なんでそんなに全部欲しいの?」
泣きながら癇癪を起しているダッキに対して、所有者であるアカネが尋ねる。
尻をひっぱたかれて耳をちぎられかけてほっぺたをつねられて、なおも欲しがる理由は何なのか。
特別な効果があるわけでもない、ただ飾るだけの高級品を、大王の娘が欲しがる理由は何なのか。
「友達に自慢するの!」
宝物の本質だった。
ただ自慢したいだけらしい。
「これ全部、私のだって自慢したいの!」
開いた口が塞がらないのだが、子供が子供っぽいことを言っているだけだった。
幼女が幼稚なことを言っているので、悲しいことに不思議ではない。
しかも、今まで狐太郎に商談を持ち掛けていた連中も、本質的には同じことを言っているだけであった。
必要だから欲しいのではなく、欲しいから欲しいのである。
「伯父様のになったら、自慢できなくなっちゃう~~!」
(ある意味正直だな……)
狐太郎は、改めて理解する。
人間の浅ましさとは、本質的にはとても幼稚なのだと。
「いい加減にしなさい!」
泣きわめくダッキの頭へ、ついに拳骨が振り下ろされる。
癒しの力を込めた鉄拳が、身内の恥を黙らせていた。
「子供の色仕掛けごっこも泣きわめくのも! どっちも家族にしか効きません! 貴方も王族なら、外では気品を持ちなさい! はしたない!」
筋肉ムキムキで、直ぐ暴力に頼る公女。
しかし相対的に見て、とても礼儀正しいのだと改めて理解する狐太郎であった。
なお、ダッキは失神したので聞いていない模様。
泣く子と地頭(も鉄拳)には勝てぬ




