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相手の気持ちが分かる

 万能走破列車ナイルおよび深宇宙探査戦艦ウィッシュの格納庫では、キンセイ兵器のパイロットたちが激憤しながら叫んでいた。

 現在敵襲を受けており、英雄とその仲間が戦っている。にもかかわらず、自分達には出撃の許可が下りなかった。

 中には隔壁を破壊してでも出撃しようとするものまでいたのだが、キンセイ兵器の起動自体が不能になっている。


「どういうことだ! なんでキンセイ兵器での出撃が許可されない!!」


「冒涜教団はAランクの昏を大量に展開しており、そのうえそれぞれに簡易キンセイ兵器を持たせているようなのです。それがどれほどのことか、わからない貴方たちではないでしょう!? 出撃しても殺されるだけです!」


「それでも……それでも、かく乱ぐらいは……」


「キンセイ兵器は起動しません。葬の宝によるコクソウ技で、キンセイ兵器の使用そのものを封じているそうです。貴方たちを出撃させるよりも、敵の武器を封じる方が利点がある……という上の判断です」


「じゃあ俺たちに! 指をくわえて黙ってみていろと言うのか!?」


「そうです! 私たち整備班にもプライドがあります! 死ぬとわかって戦場に送り出すことなど、到底看過できません! 上の判断は適正です!」


「ぐ、ぐぅううう……」


 キンセイ兵器の起動を封じる武器など想像したこともなかった。おそらくだが、カセイ兵器やエイセイ兵器さえ封印できるだろう。魔王の宝とは恐ろしいものだ。


 だがそれが自分たちの戦う力すら封じているなど……。


「牛太郎君たちや雁太郎君、狸太郎君たちも戦っているんだろう。それで、私たちが何もできず、何かをすることも許されないというのか。それは敵が、冒涜教団が狙っていることだというのか……」


 八番目の事件が発生した時と同じ苦しみが、有志たちの胸を締め付ける。

 これでは自分たちは、何をするために参加しているのかわからない。

 そんな彼らに、整備班は希望を持てと叫んでいた。


「大丈夫です! 貴方たちにはまだ活躍の機会があります! いえ、貴方たちが決定打になる時が来ます!」


 整備班の目は、不敵に輝いている。慰めでも欺瞞でもなく、むしろ悪だくみさえしているような顔だった。

 整備班という優秀(・・)()人間(・・)たちは、前線に立つ彼らに隠し玉を用意しているのだ。

 悪ささえ臭わせる顔が、有志たちを冷静にさせる。一気に声のテンションは緩み、冷徹なものになっていた。


「……どうせ時間はある。詳しく説明してもらおうか」

「ええ、よく聞いてください。敵である冒涜教団は、確かに凶悪で恐るべき者たちです。文明を悪用し、濫用の限りを尽くしています。ですが、あくまでも使っているだけです。彼らはデッドコピーを繰り返しているだけで、改良はおろか調整もできないのです」

 

 天帝軍から冥王軍へもたらされた情報によると、敵はエイセイ兵器を違法コピーし、大量生産している。

 だがあくまでも丸写しであり、戦場に合わせた調整などは何一つしていない。

 第一陣および第二陣では、対モンスター戦や対英雄戦を想定しながらも運用や戦術を変えることしかせず、装甲や武装に手を加えていなかった。


 彼らは自らが素人であると理解しているからこそ、余計な手を加えなかったのだろう。

 それはある意味正しいが、素人の限界でもある。


「それはそうだろうが、だからなんだ?」

「ご想像の通り、それだけならなんの意味もありません。私たちが少々の調整をしたところで、段違いの戦力差はどうにもなりません。しかし……もう一要素が加われば話は違います」


 整備班はタブレットに情報を映し、それを有志たちに見せた。

 彼らはそれを読んでしばらく考えたあと、整備班を凝視する。


「……そうか、調整とはそういうことか」

「ええ。違法改造(チート)なんて生温いものではない環境破壊(ゲームチェンジャー)を見せてやりますよ」


 整備班たちの表情は、有志たちを納得させるだけの悪辣さをあらわにしていた。


「なので、今は控えてください。天帝軍と合流しないことには、何も始まりません」


 やはり今はラスボスや英雄にゆだねるしかない。

 優秀な人間たちは、久方ぶりに忍耐力を試されていた。


「……大丈夫なのか? 勝てるのかどうかではない、生還できるかどうかだ」

「信じましょう。彼らは……運命に選ばれたわけではなく、運命に導かれたわけでもない。運命を切り開いてきた者なのだと。彼らが己を信じているように、私たちも信じましょう」


 今も機体は揺れ続けている。

 戦況が劣勢であることは明らかだった。




 天帝軍の元には、ラードーンのハイドランジアが襲撃を仕掛けていた。

 増殖をしたであろうハイドランジアの群れは、顔こそ同じなのだが肉体の縮尺が違っている。

 不自然に短い、あるいは不自然に長い手足や胴体。個体によっては自分の足から顔や手が生えている者もいて、それが明らかに意志を持ち、武器を手に持っている。

 あまりにも不自然な命だが、これは自然なのだと言い張っている。


「く……多頭竜の頂点が、このように出力されるとは!」

「やっぱりこんなのドラゴンじゃないよ! 細胞分裂みたいに増えてるじゃん! もしくは植物だよコレ!」


 クラウドラインのセイリュウ、魔王になったアカネはフランケンシュタインを足場に奮戦している。

 なまじ人間やドラゴンに似ているだけに、純粋な異形の怪物以上におぞましかった。


「ですから! こんな気色の悪い怪物と、ワタクシどもを一緒にしないでくださいまし!」

「そーだそーだ!」


 ヤマタノオロチのクサナギをはじめとする、天帝軍に属する多頭竜の昏たちが抗議した。

 多頭竜は頭部の再生能力を持つため、生き残っている者の中で割合が多い。

 だからこそセイリュウやアカネの悲鳴が、自分達をバカにしているように思えて不愉快だった。


「そうだな、お前たちのような下等種と一緒にされてはたまらない」

「!」


 機能を封じられた簡易キンセイ兵器を鈍器のように使い、クサナギを叩き潰す。

 クサナギはとっさに竜の頭部でガードするが、頭部は潰されたうえに衝撃を殺しきれず、そのままダメージを受けていた。


「ぐ……」

「再生するのは頭部だけか? 分類上は私と同類だというのに情けない。まあ先天的な特徴だ、お前自身に非はない。まあ、下等生物というだけのことだな」


 七つある竜の頭部が再生するより早く、ハイドランジアが追撃を仕掛けようとする。

 しかし付近にいたスザクがカットに入った。


「クサナギちゃんに何をしているのよ!」

「ほう、噂に聞くフェニックスの昏か」


 両者は真っ向から衝突する。

 ハイドランジアの体はいくつかの部品に分かれてフランケンシュタインの装甲に転がり、スザクの体は火の粉へと粉砕した。


「甲種の中でも最強の再生能力を持ち、瘴気の枷すら意味を成さない鳥の最強種。例の襲撃からも独力で逃走したというが……会えて光栄だ」

「それ、さっき別の個体から言われたわよ!?」

「分裂しているのでな、その後の記憶は共有しておらん。おそらくこの後も何度も聞くことになるだろうが、まあそこは勘弁しろ」


 スザクが火の粉から復活するのは当然だったが、ハイドランジアも当然(・・)のように再起動する。

 いくつかに分解した肉塊の断面から、新しい頭部が生えてくるのだ。

 それら一つ一つが明らかに意志を持った動きで、スザクに向けてコミュニケーションをとっている。


「まったく痛めつけてくれるな。我らにも痛覚はあるのだぞ。それに腹も減る、これから死ぬのに飢えたままなのは癪だな」

「祀とやらが選んだ甲種、というのも納得だ。その再生能力は素晴らしい。戦えてうれしいぞ」

「まったく理解しがたいな。甲種の中でも最も素晴らしい生態を持ちながら、そんな下等生物どもを一々守るとは」


「……本当に、同じようなことしか喋らないわね」


「そうか、そうだろうな」


 ハイドランジアのすべての首が伸びて、スザクに巻き付こうとする。

 そのまま締め付けて、フェニックスの殺し方を実践しようとしたのだ。


「さすがにそうはさせません!」


 頭部の再生を終えたクサナギが毒のブレスを噴射する。

 もろに直撃を受けたハイドランジアたちは、即死して動かなくなった。


「やはりAランク上位モンスターは脆い、ですわね。その上小型になっているので栄養の備蓄も少なく、増殖しようにも限度がある」

「ええ、そうね。でも……!?」


 一息ついている二体の前に、突然のワープ反応があった。

 簡易キンセイ兵器を携えて現れたのは、やはりハイドランジアである。


「おお、噂に聞くフェニックスの昏か。戦いたいと思っていたところだ。下等生物も一緒なのはいささか不満だな、そっちを片付けるか」


「……きりがないわね」

「今まで隊長と戦ってきた方も思ってきたことでしてよ。相手の気持ちが分かってよかったですわね」


 苦し紛れに適当なことを言うしかない。

 相手の戦法はシンプルだ。安全圏で増殖したうえで、戦力を逐次投入している。

 普通なら愚策だが、ワープがあるうえで自陣営の戦力が死を恐れない群れならば有効だろう。


 なにより……。


(向こうもこの状況になっているのなら、コクソウ技の四終が、強制勝利技が発動できない! ならば冥王軍は、こちらと同じように苦戦を強いられているはず……援軍は望めない!)

 

 この状況で使える四終は、時間経過で勝利を確定させる『四終、死、製作済みの結末(イベントムービー)』だけだろう。

 しかしこの技は鉄球形態を一定時間維持しなければならない。

 鉄杖形態でキンセイ兵器を封じなければならない現状、使うことは不可能であった。


 そんな彼女の想定通り、冥王軍もまたエイトロールの昏シルルから継続的な攻撃を受けており、現状の打破ができずにいた。



 天帝軍の天帝、狐太郎。

 冥王軍の冥王、蛇太郎。

 彼らは別の場所で同時に襲撃を受けながら、同じことを考えていた。


(祀から情報を抜いているな!? E.O.S対策はばっちりってか!)

(マロンと戦ってきた四終たちの気持ちが分かるな、これはうっとうしい)


 狐太郎はプレイヤーとして、蛇太郎は当事者として、モンスターパラダイス7というギミックボスばっかりのアクションRPGをクリアした者だ。

 今でこそ使う側ではあるが、以前は対処する側だった。敵がそれと同期していることは理解している。


(そのうえ今回の昏との性格的な相性のいい作戦だ、それに前回のような異常事態が発生するとも思えない!)

(事前知識があるうえで、準備期間があるとこうも後れを取るものか……対抗手段があるだけマシだが、心苦しいな)


 E.O.Sは発動さえすれば、Aランク上位モンスターだろうが英雄だろうが問答無用で殺せる。だが問答無用で発動するわけではない。

 E.O.Sは無敵の怪物をギミックボスとして処理する兵器であると同時に、それ自体がギミックボスでもあるのだ。


 ギミックボス。

 それは狩り方が分かっていればむしろ獲物に過ぎない。


(なんとかして合流しないと!)

(合流すれば何とかなるんだ、合流さえすれば!)


 今のままでは両軍も狩られるだけだ。

 一刻も早く合流しなければ、壊滅は必至である。

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― 新着の感想 ―
メオと違って、シルルとハイドランジアは自己同一性には悩まないんですね。
そして、そう言った何もかもを一撃で平らにする、瘴気世界の英雄よ。
どんな戦法で逆転するのか、楽しみですね! ラードーンの昏、原種より悍ましくなってるの、笑いますね。
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