ラスボス戦記
カセイ兵器、エイセイ兵器とその海賊版は、ルールインフレに対応しすぎていて、強化を受けることができません。
(強化扱いの弱体化とか攻撃とかいろいろあるので)
対ルールインフレの極みはスタンドアローンだということは楽園では常識です。
四人目の英雄とその仲間はそれが勝因でした。
ちなみに……。
キョウツウ技やショクギョウ技はある種のパッケージ品なので、習得度とかがないです。
妨害技ばっかり使っていたからそれだけ得意になるとかがありませんし、まったく使わなかったとしても苦手になることがありません。
シュゾク技の場合はそうでもないです。
央土、北方領土。
中央よりも寒いこの地方では、シュバルツバルトとはまた別のモンスターが多く生息している。
毛深いなどの寒さに強い生態をしているものもいれば、暖かい魔境で生息しているので南国同然の生態をしているものまでいる。
もちろん、人を襲う種類も多い。
人を襲わない種類もいるにはいるが、人間を襲わないことが無害かといえばそうでもないのだ。
強くともBランク中位しかいない環境で、『Aランクモンスター』が出現し、周辺の魔境を荒らし始めたのである。
その種は人間を積極的に襲うわけではないのだが、Aランクというぶっ壊れた能力値ゆえに周囲のモンスターは逃げ惑ったのである。
普段は魔境でおとなしくしているモンスターが逃げ出し、周囲にあった町や村が襲われ被害を出してしまった。
やっかいなことは、モンスターは魔境から湧くということ。
おそらく遠くからやってきたであろうAランクモンスターが生きている限り、魔境で沸いたモンスターは出現するたびに人里へ逃げ込んでくるのだ。
いくつかの魔境を巡回しているそのモンスターを発見し、討伐すること。
それがラスボスたちに課された任務である。
※
とある、魔境から離れた大都市。
現在そこには、多くの避難民が集まっていた。
ふだんからただでさえ人が多い街に、許容量を大きく超えた人々が押し込められている。
元々この町で暮らしていた住人からすれば、気分の悪い話であろう。
もちろん避難してきた人々も被害者なのだから、排他的に扱われて楽しいわけがない。
人間は生物なのだから正常な反応だ。
短期間で解決するから我慢しろと言われても困る。
そのような爆発寸前の街が安定しているのは、大規模な精神医療によるものであった。
多数への強化治療を得意とする楽士、甘茶蝶花。
彼女が竪琴をひき歌を歌えば、その音の届く範囲の人々は癒される。
熱狂という一種の精神異常を、かなり和らげてくれるのだ。
彼女の尽力によって、街の平穏はある程度保たれている。
彼女も周囲の人々も、事件の早期解決を願いながらその時を待っている。
しかし待つというだけでも、この瘴気世界ではままならぬことだ。
大勢の人々が生きている、その匂いが人間を捕食するモンスターを大勢呼び寄せる。
「た、たいへんだ……狼の群れだ、狼の群れが来たぞ!」
Bランク下位モンスター、ブロンズランナー。
Bランク中位モンスター、シルバーランナー。
魔境を移動し、その道中で人間を食い殺す狼型のモンスターである。
人間を好んで捕食する狼の群れが、ゆっくりと近づいてくる。
大柄でゆっくりとしているからこそ接近に気付くこともできたが、恐怖も相応に大きい。
もしもこの大都市に狼の群れどもが接近すればどうなるか。
モンスターに殺される者だけではない、逃げようとする者たち同士がぶつかり合い、押し合い、潰されてしまうだろう。
その惨劇を予測して、物見台の兵士は大声を出していた。
「はやく、はやく! 獅子子さん、来てください!」
「もう来ているわよ、うるさいわねえ」
物見台の屋根の上に、女忍者が一人立っていた。
そのままくるりとぶら下がり、兵士の顔に近づいている。
「獅子子さん! 来てくださったのですね!?」
「ずっとスタンバイしていたわよ。なんなら貴方が気付くよりずっと先に気付いていたわ」
「そ、それならもっと早く動いていただきたいのですが……」
「周囲を警戒するのは貴方の仕事でしょう。まったく……世間的に見れば抜山隊の質が高いというのは本当なのね」
重力を無視した動きでくるりと屋根の上に戻った彼女は、しゅばっと走り出した。
斥候系職業、忍者。
斥候系の基本スキルとして敵や罠の感知、逆に敵へ先制攻撃を行う、敵に発見されにくくなる、逃走が成功しやすい、敵を逃走させにくい。
などのお役立ち能力をパッシブスキルとして備えている。
現在の彼女は多くの戦場を越えることで、己の限界値に達していると言っていい。
だがそれでも、通常戦闘能力は低い。仮に殴り合えば、Bランクの群れ相手を倒すなどほぼ無理だろう。
そんな彼女こそが、この大都市の最高戦力であった。
「ショクギョウ技……囮分身の術!」
ゲームふうに言えば、ヘイトを集める分身。
実体としては、魅力の高い女性の姿をした分身。
その分身が列を無し、ゆっくりと狼の群れに向かって歩いていく。
獅子子はその列から離れると、シルバーランナーの近くにいるブロンズランナーへ近づいていった。
「群れを成す、半端に頭のいいモンスター。普通なら絶望的だけど、正直私にとっては楽なのよね」
人間が動物であり生物であるように、狼も動物であり生物である。
一定の刺激をあたえれば、だいたい同じ反応をする。中には変わり者がいて違う反応をすることもあるだろうが、集団ともなれば話は違う。
「シュゾク技、狐狸分身の術」
ブロンズランナーのすぐそばで、口裂け女やろくろ首のように、陳腐な変身をする分身を生み出した。
それはある種のスタン、びっくりさせて行動を阻害するという程度のものだ。
だが囮分身に気付き、狼の集団はそちらに向かっていた。そのさなかで一頭がうかつな動きをすれば、当然他の狼とぶつかる。
さあ狩りだというテンションで、群れの格下がぶつかってくれば、それはもう不愉快だろう。
悪い大人が無力な子供を潰すように、ふんぎゃとブロンズランナーが一体潰された。
Bランク下位、という強力なモンスターが一体、労せずして倒せていた。
「さてさて、この調子で……狐狸分身の術!」
獅子子はここでさらに、こけおどしの術を連発する。
今度はシルバーランナーの眼前に分身を展開し、その動きをわずかに止めていた。
人間の単位で言えば、食堂に行こうとしたら目の前にでっかいハエが現れたようなもの。
そりゃあびっくりもするし、足も止まる。
だがその間にも、ブロンズランナーたちは囮に向かって突撃し、食らいついていた。
囮分身は幻覚の一種であり、実体はない。
食べても美味しいということはない。
だが攻撃を受けると、相手に対して『快感』をあたえる。
相手は攻撃するほど楽しくなってしまうのだ。
ブロンズランナーたちは腹を満たされることこそないものの、楽しく幻覚に噛みついていた。
おおおおおお!
これを後ろから見ていたシルバーランナーたちは、自分達の部下が先に食っているとみた。
大いに怒り、ブロンズランナーたちに向かって行く。
おおおおおお!
気分が高揚していたブロンズランナーたちは、なんのと逆に反撃する。
Bランク中位とBランク下位。猫とネズミの戦いは、当然シルバーランナーたちの勝利で終わっていた。
だがネズミの群れと猫の群れの戦いである。その程度しか力の差がないのに、全力で殺し合えば相応に傷を負う。
息を荒くしていたシルバーランナーたちは、全身に浅い傷を負う羽目になっていた。
放っておいても死ぬ、ということはない。無力化には程遠いだろう。
「さて、ここでシルバーランナー同士を食い合わせることができればいいのだけど、そんな都合よくは行かないのよね。人間だってネズミを殺すことに躊躇はしないけど、人間同士で殺し合うことには躊躇するでしょ。となりに大きな街があって、餌がたくさんあるのならなおさらね」
如何に数を削ぎ手傷を負わせたとして、獅子子では殺しきることはできない。
街の兵士と協力すればその限りではないが、被害は甚大だろう。
「まあもっとも、弱肉強食の世界では、自分が餌になる心配も必要でしょうね」
血まみれになったシルバーランナーたちは、息を整えると当初の目標である北部の大都市を目指して歩いていこうとする。
しかしその行く手を、大きな影が遮っていた。
Bランク上位モンスター、氷河牙。
シンプルな名前を持つ、トラの怪物である。
人間のように小さい餌を食べることはなく、格下の大型モンスターを捕食する。
まさに大型捕食者である氷河牙は、舌なめずりをしていた。
なにせ自分のごちそうが、傷だらけで、群れを成して、自分のすぐ前にいるのだから。
そこから先は、一方的な捕食である。
獅子子は面白くもなさそうに、その光景を眺めていた。
「ここは今餌場になっているわ。でもそれって、小型捕食者を狙って大型捕食者が来ているってことなのよねぇ~~。ま、来なかったら来なかったで、街の反対側に誘導して終わりだったけど」
千尋獅子子の鮮やかな手並みに、大都市から歓声が上がった。
この世界の常識から逸脱した『狩猟ぶり』に、人々はもはや全幅の信頼を置いている。
彼女の怪しい術があれば、この大都市は安全圏内。そう思わせるに至っていた。
「人の役に立つのはいいけれど、これほどの重任だとさすがに疲れるわね。そろそろ終わらせてほしいものだけど……あっちはどうなっているかしら」
※
原石麒麟は現地の案内役を務めるBランクハンターたちと共に、周辺を徘徊しているAランクモンスターの捜索を行っていた。
発見次第討伐するという算段であったが、想定外のことが起きていた。
人里離れた雪の積もった森。
その奥に、Aランクモンスターの群れがいたのである。
Aランク中位モンスター、レインボーバブル。
Aランク下位モンスター、カラードパワード。
共にAランクのスライム、それも属性攻撃を得意とする種族である。
カラードパワードは単色の体を持ち、その色に相当する属性攻撃を得意とする。
レインボーバブルは玉虫色の体を持ち、色が変わるごとに異なる属性攻撃を行うことができる。
恐るべき怪物の群れに、Bランクハンターたちは怖気づいていた。
「あ、あの……麒麟さん。貴方の実力は、Aランク下位と中位の中間ですよね? Aランク中位以上は厳しいとおっしゃっていましたよね?」
「ええ、そうです。なので皆様はお下がりください」
麒麟の実力を聞かされていたBランクハンターたちは『これは無理です、ガクヒ様やジロー様に依頼しましょう』と言うかと思っていた。
麒麟は千念装に身を包み、ざんと雪の地面に前への歩みを進めていく。
「え、あ、え? あの、その……」
「皆様のおっしゃりたいことはわかります。しかし勝算は十分にありますので、どうかご安心を」
「ぐ、具体的には!?」
「すべての力を攻撃に注ぎ込み、最小限の回避だけで戦います。一発も被弾せず、かつ一発も打ち損じずにクリーンヒットさせ続ければ勝てます」
「そ、それは……無理では!?」
「無理ではありませんよ」
そこからの戦いは、まさに原石麒麟の言った通りだった。
ゲームのプレイで例えれば、ノーダメージ縛りのチキンプレイに近かった。
格下が十体、格上が一体という圧倒的な戦力差のある戦場で、被弾を避けながら少しずつ敵を削っていく。
ワンミスで自分が死ぬという状況でありながら、麒麟は取り乱すことなく確実にAランクのスライムたちを倒していった。
緩急のある戦いだった。
目で追えない戦いではなく、僅かずつ進んでいく戦い。
遅行の戦いであるがゆえに、Bランクハンターたちにも推移は掴めていた。
序盤が最も苦しく、後半になるほど楽になっていく。
その理屈はわかるのだが、見ている側の方が寿命を削られるような戦いだった。
そしてついに、Aランク中位のレインボーバブルとの一対一になっていた。
「スライム種の攻撃は、基本的にワンパターン。体当たりも発射する攻撃も、属性が違ってもある程度の枠でおさまる。手足がない分単調になるのは無理もないこと。そして視野もそこまでではないし、行動を予測して攻撃してくることもない。であれば……今の僕にとって問題ではありません」
原石麒麟は既に疲れた体で、『格上』との一対一に臨む。
レインボーバブルの攻撃を確実に躱し、渾身の一撃を叩き込むすきを逃さない。
机上の空論が現実になっていく。成功の見込みがないと思われた『成功する唯一の可能性』が実現に向かって行くところを、Bランクハンターたちは見ていた。
「これで……終わりです!」
まさに、神プレイだった。
総戦力差十倍以上の敵を、己の技量でせん滅する。
森の木々が一本残らずへし折れる死闘の末、スライムの死体に囲まれた麒麟は、最後の一太刀でレインボーバブルを討ち果たすと雪の地面に座り込んでいた。
「ぶふぅう……」
「す、すごいです! 流石は斉天十二魔将! あれほどの敵を倒すとは……お見事です!」
「そう褒めないでくださいよ。もう体力が残っていないので、ザコ一匹倒せません。皆さんの救援を当てにしなければできない戦いでした。それに、Bランクハンターの皆さんなら、かばわずとも自力で逃れてくれると信じられましたしね」
謙遜なのかわからない返事に、Bランクハンターたちは苦笑した。
なんの欠点もない勇者とは聞いていたが、精神的にも完璧であるらしい。
「ところで……麒麟殿は普段からあのように、被弾を控える戦いをなさるのですか?」
「いいえ、場合に寄りますね。今回はアレが最善だと思っただけのことです」
原石麒麟は、防御面も堅い。
自己回復も可能なうえで、全属性への高い耐性を誇る。受けながら戦うことも不可能ではない。
というよりも、以前はそうして戦っていた。
だが今の麒麟は、万全の勇者。
防御を生かした速攻もできるし、時間をかけて遅攻もできる。
何でもできるというのは、色々な戦い方もできるということだった。
「それにしても、Aランクモンスターがここまで多くいるとは、さすがに想定外でしたね。これでは周囲の村や町に大きな被害が出ることも納得です」
「それは……そうですね。こんなのが街に直接きていたら、と思うと……ぞっとします」
「その場合は流石に、僕も時間稼ぎをするしかないでしょうね」
(それもできるというのか……)
双方の共通認識として、成熟した英雄ならば、この程度一蹴できるのだろうと思っている。
そういう意味では、麒麟の謙遜も納得できる話だ。
だがそれでも『どんな戦いでもできる』という麒麟への尊敬は薄れない。
彼もまた、この世界の一般人から逸脱した存在だった。
「それにしても……これだけAランクモンスターがいたということは、他にもまだいるかもしれませんね」
「そ、そんな、ぞっとするようなことをいわないでくださいよ」
「冗談ではありません。案外もうひとチームの討伐隊も、Aランクモンスターに遭遇しているかもしれませんね」
麒麟は懸念事項を口にしているが、心配はしていなかった。
己という万能の対極に位置する特種ら、ルールインフレの極みたちがこの世界の住民に後れを取るとは思えない。
※
究極のモンスターと絶望のモンスター。
世にも珍しい特種モンスターである彼女らもまた、現地のBランクハンターと共にAランクモンスターを捜索していた。
雪の降り積もる土地を進む彼女たちは、道中でいろいろなことを話していた。
絶望のモンスターであるノゾミは、同じ境遇である彼女の冒険譚を楽しく聞いていた。
一方で現地のハンターたちも、現Aランクハンターにして元十二魔将であるホワイトの修行時代を興味深そうに聞いていた。
しかし、Aランクモンスターを捜索しているのに、長閑な雰囲気で過ごしていいのだろうか。そう思わないでもなかった。
Aランクモンスターは尋常ならざる死ににくさと、圧倒的な暴虐を誇る怪物。
現にBランクモンスターたちですら逃げ出している。
だからこそ、Aランクモンスターに遭遇した時、このテンションでやりきれるのかと疑ってしまっていたが……。
「おやおや、どうやら僕たちがAランクモンスターを当てたようだね。どう見てもこの地方のモンスターじゃないし、外来種で間違いなさそうだ」
「頭がいっぱいありますね……。この世界特有のモンスター、多頭竜でしょうか」
肝心のAランクモンスターに遭遇した時、Bランクハンターたちこそが肝を潰していた。
Aランク中位、多頭竜型モンスター、ヤマタノオロチ。
八つの頭を持つ竜であり、ラードーンと同種の怪物である。
頭を潰されても再生するという無茶苦茶な怪物が、すべての頭から毒息をまき散らしながら威嚇していた。
「ま、君と僕がいれば問題ないさ。さ、ノゾミちゃん、合体しよう」
「はい。あ、あの……皆さんは下がっていてくださいね?」
Bランクハンターという責任ある立場に就けるだけの実力者集団は、ノゾミから逃げてくれと言われてようやく逃げ出すことができていた。
そうでなければ、逃げるという選択をすることもできないまま死んでいただろう。
そんな彼らが逃げ切ったところで、二体は自分達以外が使用できない技を展開する。
「究極のモンスター……吸収形態。コユウ技、アルティメットドレイン!」
「絶望のモンスター……革命形態。コユウ技、アンリミテッドスライダー!」
少女の姿をした究極のモンスターは、小銃形態となったノゾミを装備する。
巨大な怪物を討ち果たすには貧弱すぎる装備に思えるが、それも一瞬だけのこと。
二体を中心に起きる環境の激変に、ただでさえ逃げていたBランクハンターたちは更に逃げていく。
「アレが、特種……EXランクモンスター……!」
北部ゆえの寒冷地帯が、砂漠や溶岩、鉱山や草原、海や氷河まで目まぐるしく変化していく。
環境を激変させ続ける少女に対して、その環境を呑み込む毒のブレスが襲い掛かった。
ヤマタノオロチは毒の息を得意とする。
シンプルな殺意が二体を呑み込むかと思われたが、その次の瞬間には逆に呑み込み返していた。
「ノゾミちゃん、平気かい?」
「私は、貴方と合体しているので……貴方が平気なら平気です」
「そっか、それは良かった。でもあんまり気分がよくないねえ」
全属性の攻撃を、無制限に吸収する。
子供が考えた頭の悪いチート能力を保有する究極のモンスターは、自分に当たった毒息を逆に吸収しつくしていた。
Aランク中位、その中でも強い部類にはいるドラゴンブレスの直撃が全く通じていない。
ヤマタノオロチはそれでもひるまない。
頭が悪いからなのか、なおも息を吐き続け、それでも通じぬと分かれば頭の一つを動かして噛みつこうとする。
少女の体は、太い牙で貫かれる……はずだった。
しかし究極のモンスターの柔肌には、傷一つついていない。
物理攻撃ですら彼女にとって無意味なのだ。
「ん~~、とりあえず攻撃してみようか」
「そうですね……コユウ技、スライダーショット!」
「コユウ技、ピンポイントドレイン!」
相手の口内に収まったまま、究極の吸収攻撃と絶望の多属性射撃を敢行する。
比較的脆いであろう多頭竜の口内への攻撃は、しかしまったくダメージになっていなかった。
「あちゃ~~……駄目だね、火力が足りなすぎる」
「さっきから環境を激変させているのに、ぜんぜん応えていませんね。生命として強すぎる。野生動物だなんて信じられません」
不死身の怪物である、というのなら瘴気世界のモンスターも負けていない。
純粋な生命力というパワーインフレの一点で、二体の異常な攻撃にも耐えている。
いやあるいは、まったくダメージを与えられていないというべきか。
互いにタフすぎて有効打を浴びせられず、戦況が膠着しているかのようである。
「まいっか、一回やってみただけだしね。予定通りいこうか」
「そうですね……あんまりやりたくないですけど!」
究極のモンスターは、絶望のモンスターを抱えたまま走り出す。
ヤマタノオロチは迎撃するが、やはりまったくダメージを負わず、足止めすらできない。
特種二体は無人の野を行くようにヤマタノオロチの懐に飛び込むと、合体を移行した。
絶望のモンスターの合体対象を、究極のモンスターからヤマタノオロチへ切り替えたのである。
「合体解除……からの、再合体! 絶望のモンスター、暴走形態! コユウ技、アンリミテッド・レゾナンス!」
際限のない回復、強化、供給がヤマタノオロチを襲う。
過剰回復、過剰強化、過剰供給によってヤマタノオロチは体の内側から破壊されていき、破裂するように全身が爆散した。
そう、たとえAランク中位モンスターであっても、彼女と共存することはできない。
同じ特種である究極のモンスター以外にとって、絶望のモンスターは害悪以外の何物でもないのだから。
「ノゾミちゃん、お疲れ様。流石の殺傷能力だね、触れたら勝ちの必殺技だ」
「私はまず触ることが難しいんですよ。その点究極さんがいれば安全に接触できますから、感謝しています」
ことが終わったあとも息を切らしていない。
特異体質を満載した二体は、既にこうなるとわかりきっていた勝利になんの感慨も抱いていなかった。
「……怪物だ」
Aランクモンスターすら及ばぬ、脅威の生態を授けられた楽園のモンスター。
ルールインフレの極みを体現する二体に、Bランクハンターたちは畏怖の念を向けざるを得なかった。
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