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人生は順風満帆

 八度目の『名もなき英雄事件』。

 エイセイ兵器の披露イベントで発生した、冒涜教団によるエイセイ兵器強奪事件。

 最大最新最強の兵器が危険思想を持つ敵宗教団体に奪われるという最悪の事態に対し、警察や自警団は何もできなかった。


 披露イベントに参加していた男女五人と自分が誰なのかも知らぬ絶望のモンスターが協力し、副教主であったドクター汚泥と、教主であると同時に都市の指導者でもあった清木リネンを打倒した。

 少年少女たちは清木リネンを間接的に逮捕し、『エイセイ兵器の自爆による大量殺人』を防ぐこともできた。だが……肝心のエイセイ兵器は、大勢の一般冒涜教団員とともに、ほぼ無傷のままランダムワープをしてしまったのである。


(しかし一般人がここまで頑張ったのに、これ以上の要求をするのは無理があるのではなかろうか)


 どの時代、どの場所に移動するのか誰にもわからないランダムワープ。

 探査による試験が意味を成さない、運命力だけが問われる転移。

 奇しくも、というより当然かもしれないが……。フルオートのテラフォーミング機能さえ内蔵しているエイセイ兵器(改造されたため、現在はユウセイ兵器)とそれに乗り込んでいる危険思想の者たちは、相応に重い運命力を持っていた。


 だからであろう。


 英雄やラスボスたちが比較的都合のいい場所、都合のいい時代に転移したように。

 冒涜教団を乗せた船は、既に文明が滅び去った時代の、『敗者の世界』に到達していた。

 いくらでも開拓できる、誰もいない世界。移民船にとって、そしてはみ出し者たちにとってこんな有難いことはなかった。

 彼らは好き放題に『兵器工場』と『発電所』を建築し、『宗教施設』までも過剰に生産した。

 冒涜教団にとっての宗教施設がいかに冒涜的で退廃的なものであるかは、語るまでもあるまい。


 そして彼らの幸運はそれにとどまらない。

 敗者の世界に避難所を設けていた祀を、一方的に補足していたのである。

 いや、この点に関してだけは、冒涜教団の幸運とは言えない。

 彼らはある意味真面目に、好き放題に支配地を広げていた。


 対して祀側にとって敗者の世界は、本拠地でありながら避難所でしかない。

 なにせこの世界には瘴気がないのだ。瘴気世界のモンスターを元にした昏を主戦力とする彼らにとって、この地を正式な拠点にすることはできないのである。

 人材、文明の点で大きく劣る彼らは、この地を完全な支配下に置くだけの労力を持っていなかった。


 仮に、Aランク上位の昏が一体でも迎撃態勢を整えていれば、むしろ冒涜教団を一方的に殲滅し支配下に置けたのだろうが……。

 葬の宝を求めて全戦力を投入した隙を突かれ、彼らはなすすべなく制圧された。


 また激戦によって疲弊していた昏たちも、緊急ワープ先が制圧されていたという最悪の状況によって、なすすべなく捕らえられた。

 なんとか活動できたのはフェニックスのスザクだけ。肉体的な損傷や疲労、瘴気切れとは無縁の彼女だけが、三体の仲間を連れて離脱出来た。


 しかしそれ以外の全員が外科的に洗脳されており、スザク以外の昏は遠からず死ぬ。

 如何にスザクが強いとしても、その天敵であるミゼットを管理下に置けば脅威ではない。


 だが、ここで、十二人目の英雄が立ちあがったのである。



 冒涜教団、本殿(奪取したエイセイ兵器)。

 リモート会議が可能であり、ワープで全員移動できる状態であるにもかかわらず、それが味気ないという理由で、信者たちは正装をしつつ徒歩で集合していた。

 彼らを招集した二代目教主は、壇上で演説を行っている。


「よくぞ集まってくれた、欺瞞無き信者よ。己の欲に忠実な、己の為に生きる者たちよ」


 二代目教主を務める年配の男性は、教主らしく、演技のある動きをする。


「この度は我らの組織で起きた、異常事態について伝えたい。零落者(・・・)の中から正気に返った者が現れた。その目覚めた者は生産されていた対乙種級兵器の一つを奪取し、さらに逃亡していた昏四体と合流したらしい。そして……どうやら祭の宝、瘴気機関さえも確保しているようだ」


 ざわつく信者たち。

 何もかも順調だと思っていたところで、不穏な空気が起きていた。

 このままあらゆる世界を、あらゆる冒涜で埋め尽くそうとしていたのに……。


「つまり、彼は我らにとって目標だ。とても良い話だと思わないか?」


 しかしながら、それは彼らが一信徒に過ぎないからである。

 真の冒涜者は、むしろこれを好機と思っていた。


「彼を探し出し、彼を狙おう。彼の周囲に冒涜を振りまき、彼の周囲に災厄をばらまこう。彼のいるところ、彼が世話になっている者、彼を愛する者を冒涜しつくそう」


 邪悪の極みのような教主は、信者に規範を示していた。

 冒涜教団かくあるべし、という教主に、誰もが熱狂する。


 そして教主は、にやりと笑っていた。


(我らを阻む、十二人目の英雄か……くくく!)


 天命を知る男は、己に巡ってきた英雄を歓迎していた。


「一人目の英雄、冠の所有者、天帝。七人目の英雄、葬の所有者、冥王。十一人目の英雄、婚の宝の所有者、始祖。そして私の敵、十二人目の英雄……祭の宝の所有者。名づけるのなら……楽聖、目覚めた零落者といったところか。ふははは!」


 自分のネーミングセンスに陶酔する教主は、英雄を用意した運命に感謝する。

 彼こそまさに、冒涜教団の教主にふさわしかった。



 ドラゴンズランド付近の島で語り合う、狐太郎と狸太郎。

 突然押し掛けた狸太郎は、自分の身に何が起きて、なぜ冒涜教団と敵対しているのか包み隠さず明かしていた。

 途中五回ほど自殺を挟んでいたが、なんとか伝えきったのである。


「いやあもうさあ! これはもう皆殺しにするしかないよな! そうだよなあ! むしろそうしない方が問題だよな、大問題だよな! 深刻な環境問題だよな! もう僕らの星が大ピンチだよな! 滅べって感じだよな!」


「……うん、わかったよ。一緒に冒涜教団と戦おう」


「いよっしゃあああ! 流石英雄の長、話が分かる! さあさあ、冒涜教団を抹殺しよう! 計画が順調で超嬉しい! 俺の人生計画は順風満帆だよこん畜生が! ああああああ! あああああ! あああああ! はい、ここであを何回言ったでしょうか! 冷静に聞いてるんじゃねえよ! 回答しないのが正解だよ! おおおあああああ!」


 狸太郎の抱えている事情が無差別階級なみに重量級であったため、彼への理解が深まった。

 なるほどこれは、ここまでキマっても不思議ではない。


 しかしこのまま彼に付き合っていれば、それはそれで問題が破綻する。

 敵は冒涜教団、悪意のある敵。このままでは事態が悪化するばかりであった。


「狐太郎様、恐れながら進言を。我らがここに居ることは遠からずバレるでしょう。そうなれば奴らは、あえて周辺を巻き込んで攻撃を仕掛けてきます。おそらく……洗脳された私の部下が大量投入されるでしょう。私たちを冒涜するために」


 敵に悪意しかないからこそ、その作戦は読める。

 読めたところでどうしようもないが、覚悟はできる。

 スザクは沈痛な顔で、なんとか話を進めようとしていた。


「早急にこの場を、ドラゴンズランドを離れることを推奨します。可能な限り戦力を集め、こちらから敵の本部に攻め込むべきでしょう」


「となると、麒麟君たちや究極ちゃんたちを回収しないとな」


「置いていったらあとで怒られそうだしね」

「後で、がないでしょうけど怒るでしょうよ」

「しかしそれだけの規模の敵を相手に、我らだけで戦うのは無謀か。とはいえ、我らの世界の問題にこの世界の住人を巻き込むことは心苦しい」

「何言ってんのよ。英雄の一人でも引っ張ってきましょうよ。それぐらいの貢献はしてきたじゃない」


「……そのあたりの交渉をしたくないのでパスで」


 倒れかけている大国から英雄を引っこ抜くというのは、できなくもないだけに気がすすまなかった。

 相手はとっても大変なことになるんだろうなあ、と思うと無理な要求はできなくなる。

 なお、自分達が大変になる模様。


「そういうことであれば、冥王軍との合流をお勧めします。というよりも、そうするほかないでしょう」

「冥王軍?」

「貴方も自らの元にラスボスが集まっていることで察しているでしょうが、この世界には貴方の後に生まれた名前のない英雄たちが流れ着いています。彼らは七人目の英雄、冥王の元に集い軍としての勢力を築いているのです。彼らも冒涜教団を討つことに協力してくれるはず」


 スザクの説明を聞いて、狐太郎はとんでもなくイヤそうな顔をする。


(いよいよ来るか、七人目の英雄との接触が!)


 狐太郎の脳裏に浮かんだのは、初プレイ時の衝撃だった。


(ハードの発達が目覚ましかったあの時、へ~~、ここまで進化したんだ! と感激してた。ゲームが始まって、ノリノリで仲間モンスターのキャラメイクをしたな。七人目も種族とかキャラの声とか選んで決めたのだろうか……)


 初プレイした動画配信者たちを絶望の淵に叩き込む、えげつないストーリー展開。

 遊ぶだけでも辛いゲームを実際に体験した彼の心中や如何に。

 目の前の狸太郎に勝るとも劣るまい。


「彼らは戦力を増強していた時の昏と同等の戦力を誇っています。きっと力になってくれるでしょう」



 一方そのころ、深宇宙探査戦艦ウィッシュ内部の会議室では……。


 元魔王軍四天王筆頭『破戒大僧正』ムサシボウ、その仲間たち。


 同じく元魔王軍四天王『不忠大逆』アヴェンジャー、その仲間たち。

 

 同じく元魔王軍四天王『人殺滴』ローレライ。


 そして元魔王軍四天王『魔王の娘』プリンセス。


 広くSFな円卓を囲む形で、四天王が勢ぞろいしていた。

 その中には当然、九人目の英雄水面蛙太郎と、七人目の英雄人呑蛇太郎も混じっていた。


「ごほん……悠久の時を越えて、今ここに魔王軍四天王が揃ったことを快く思う。それぞれ思うところがあるだろうが、まずはそれを胸に秘めてほしい。そのうえで、まず真っ先に決定すべきことは……」


 重苦しい雰囲気を放つ、哀しみの鎧に宿った霊体、ムサシボウ。

 蛙太郎の体を借りて動く彼は、最初に決めるべきことを口にした。


「誰がこの軍の代表者になるか、だ」

「はあ? ムサシボウ殿がそのままやればいいじゃねえか。そうなるとわかりきって、選挙でもするってのか? 政治的正当性ってやつか?」

「ちがう、そういうことではない。そもそも民主的に決めている場合ではないし、私にその気はない」


 ムサシボウは申し訳なさそうに、代表を辞退していた。


「私は死んだ身だ、今更代表として前に出るなどあってはならないのだ。ここは長年都市の最高権力者として君臨していた、ローレライ殿にお任せしたいのだが……」


「ええ~~? いやよ。私だって長いこと最高権力者やってて、いい加減うんざりしていたのよ? もうプリンセスがやれば? 若い英雄たちのリーダーやってたんでしょ?」


「おいおい、俺にやらせるとか正気か? すぐ惚れる上に、大して強いわけでもねえんだぞ。となれば残るのは……」


「言いにくいだろうから、自ら言おう。はっきり言って、私は不適格もいいところだ。投獄されていても文句は言えないのだ、代表など誰も認めまい」


 悠久の時を越えて再結集した魔王軍四天王。

 半分死んでいて半分生きている状況ながら、わだかまりは特になかった。

 謝ったからとかそういうのではなく、時間が経過しすぎていて『人生における四天王以外の時間』が膨大になった結果だろう。

 先送りしまくることも、悪いことばかりではないようだった。


(なんか昔より仲が良くなっているような気が……)


 しかしそれも当人たちだけの話。

 当時の状況をちらっとだけ把握している蛇太郎は、アヴェンジャーの隣で困惑していた。


「ああもう! 許せない許せない許せない! なんでみんな揃って普通に話し合いをしてるの!? ローレライ様もプリンセス様も、まずそこの裏切り者にけじめをつけさせましょうよ!」

「そうですよ! なんで今でも魔王軍四天王扱い、同格扱いなんですか!?」

ぶひひひいぃいいん!


 ムサシボウ直属の部下たちは、大声で現状に文句をぶちまける。

 本人が許しているとはいえ、説得に来たムサシボウを一方的に殺したので仕方ないと思われる。


「何千年前の話してるのよ、アンタたち。時効よ時効」

「俺からすれば、お前らが楽園で普通に生きてたことの方が腹立つんだけどな。そのあたり突っ込んでほしいか? 黙ってろ」


「うぐ……」


 なお、他の四天王たちが乗り気でないので却下される。


「む……ごほん。そういうことであれば、この場の者以外で代表を決めるべきだろう。誰か推薦できる者はいるか?」

「そういうムサシボウ殿はどうなの? ご自分の弟子を代表に推薦しないの?」

「あ、いや、そのなんだ……うむ、我が弟子は異様に無口でな。まったく向かない」


(そういや、中にいるんだったな……)


 哀しみの鎧を着たまま、微動だにしない蛙太郎。

 しゃべれないわけではなく無口なだけだそうだが、もはや存在感がない。

 ある意味、ムサシボウ以上にアンデッドめいている。


「プリンセスはどうだ? 若き三人の英雄を従えているそうだが、輝く者はいるか?」

「ん~~……兎太郎の奴は見込みこそあるんだが、若すぎる上に仲間がブレーキになってねえからダメだな。牛太郎は絶対向いてないぜ。蛇太郎は俺からじゃ推薦できねえが、アヴェンジャーが推薦するのなら止めないぜ」


「むっ……」


 ここでアヴェンジャーとアイーダは、蛇太郎をじっと見た。

 互いにあの冒険がフラッシュバックして、思わず目頭を押さえてしまう。


「へ、蛇太郎君は大変な思いをしたから……我らの代表という重責を負わせられない……」

「そうね……彼は私たちが守るわ……!」

(ヤバい、ちょっと泣きそうになった……)


 営々と堆積していた、DLCが追加され、アップデートされ続けるだけの大冒険。

 打ち砕かれるべき、なんにもない日常が脳裏によみがえった。

 お互いを想いあっているのに、ヤマアラシのように傷つけあっていた。


「他の英雄といえば……雁太郎君と鴨太郎君だが、やはり向いていないな。少なくとも、今からいきなり代表とはいかないだろう。そうなると不安だな、これだけ強大な軍事組織にトップ不在では早々に空中分解を起こすぞ」

「その心配は不要でしょ、もうすぐこの時代の覇者と合流するんだから」


 魔王軍四天王、名もなき英雄、エイセイ兵器、キンセイ兵器、魔王の宝。

 数多の重要因子を含む、強大な軍事組織。

 その主になり得るものは、相応の実力と実績が求められる。一都市の君主であったローレライですら足りているとは言えない。

 しかし、この時代にはそれを担える者がいる。


「虎威狐太郎……大国の独裁者すら務めた彼なら、私たちを導いてくれるでしょうね」



 一方そのころ、ドラゴンズランドでは……。


「な、なんだ……動悸、息切れが始まった……!」


 狐太郎はすさまじい危機察知能力を発揮していた。


「どうしたんですか、狐太郎さん! もしかして狐太郎さんも、人生が順風満帆すぎて嫌になっちゃったんですか!? そういう時は頭を空っぽにするのがおすすめですよ! 俺は脳内に爆弾を仕込んでましてね、スイッチオン、ぼかあああああん!」


(なぜだろう、目の前で自爆する人がいるのに、もっと悪いことが起きそうな予感がする……!)

コミカライズの応援、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
頭の中の爆弾は再生するのだろうかw
冒涜教団教祖の目的ってラスボスになることなような気がしてきた。なんだかんだで楽園の英雄は名前が誰1人残ってないけど、楽園のラスボスは魔王とエイター、殺された告発者以外は名前を残している。 それは言葉通…
[一言] 更新再開を機に再読してきました! やっぱおもしれえわ
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