攻略されない系ヒロインたちの野望
今回でタッチダウンの本編に突入しようかと思っていましたが、諸事情により長文が書けないため、短編で濁します。
申し訳ありません。
さて、現央土国大王、ジューガーである。
現在彼は周囲と対立しており、それはもう孤立している。
具体的には、狐太郎周辺のことである。
もっとこき使おうという主流派に対して、大王は狐太郎の意見を尊重して「独力で頑張ろう」と応えている。
もちろん国民に寄り添っているのは主流派であり、彼らの攻勢は強い。大王も国民に対して責任を負う立場なので、正直負い目もある。
だがそれでも、大王の意見が通っている。
なぜだろうか。
誰も強硬手段を取らないし、強硬手段を取られる恐れがないからである。
まず央土で大王に強く意見を言えるのは誰かというと……。
斉天十二魔将主席、四方の大将軍……以上である。
もちろん政治的には正しくないのだが、この五人の誰かから支持を得ないと、なんの意味もない『ご意見』に成り下がる。
なにせ無視しても反乱の恐れがないのだ、そりゃあ保留にするに決まっている。
もちろんこの五人に対して、重臣たちは支持を求めた。
大将軍様十二魔将主席様、大王陛下へ四冠の狐太郎に要請を出すよう要請してください!
という、よくわからん文章をできるだけわかりやすく伝えていた。
これに対して、一人からでもいい返事が来ればよかったのだが、一人も支持しなかったのである。
東方大将軍オーセン「自分で直接狐太郎様に頼めば?」
西方大将軍アッカ「あの兄ちゃんにこれ以上頑張れって? すげえなお前、俺には無理だわ」
南方大将軍カンシン「私もそうしたいのだが……難しいのだ、わかってくれ」
北方大将軍ガクヒ「申し訳ないが、私は彼へ何かを要求できる立場ではない……!」
とまあ、まず四方の大将軍ははっきりと断ってきた。
というか彼らは狐太郎に対して大王と同じような立場なので、大王と意見が完全に一致していたのである。
勝っても負けても国中から恨まれる役目を押し付けられたにもかかわらず、方々から戦力をかき集めて、郎党を総動員して、最善を尽くしてくれたのである。
そんな者にこれ以上働けなど、恥ずかしくて何も言えないのだ。
では十二魔将主席はどうなのか。
もともと十二魔将主席は国王に対してある程度の発言権を持っており、よほどの時は国王を止める役目でもある。
強い権限であるため乱用は許されず、史上においても早々使われたことはないが……国家存亡の危機、国民のためであればそこまでおかしくもない。
ではどうなったかというと……。
近衛兵長ナタ「私は十二魔将主席ではないのだが……?!(マジ切れ寸前)」
まずその支持を求めてきたことにキレた。
そんな重大な権限を使える人間ではないと思っているからこそ、彼は十二魔将主席の座に就かなかったのである。
にもかかわらず、就いていないと知ったうえで『実質十二魔将主席みたいなもんじゃないですか~~権限を使ってくださいよ~~』とか言われたらまあキレる。
とはいえ、仮に彼が十二魔将主席に就いていたとしても、同じようなことを言うだろう。
斉天十二魔将主席ナタ(想定)「四冠の大任を全うされたあの方へ、これ以上何を求めるというのか。貴殿たちは陳情に労力を割く前に、今一度己に何ができるのか考えるべきではないか。助けを求める民に対して、それは違うと説くべきではないか……!」
と、理想論をぶつけてくるに違いない。
なおその場合「俺たちはもう頑張りきってるんだよ!」と思われるだろうが、相手が相手なので反論できなかったりする。
もちろん口に出したら「それは普段からの備えが足りないからだ」という理想論をぶつけられる模様。
近衛兵に内政はわからんのかもしれないが、近衛兵なので仕方ないのかもしれない。
この五人がダメとなれば、当然これに準ずる位置の物へ話が通る。
Aランクハンター、震君のジロー、抹消のホワイト、西原のガイセイである。
が……まあお察しだろう。
震君のジロー「私はもう大将軍ではないのだが?(都合のいい時だけAランクハンター)」
抹消のホワイト「俺は大王様直属のハンターなので、大王様に従います(他の人が反対してないなら大丈夫だろうという日和見)」
西原のガイセイ「なんで俺んとこ来たの? 他の人に断られた? へえ、なんで俺ならいけると思ったんだ?(パワハラ)」
とまあこんな具合に、有力者たち全員が大王を支持していた。
大王自身もそれをわかっていたので、周囲の声をなんとか抑えることができたのである。
かくて大王の政治基盤は、盤石であった。
皮肉な話だが、有力者からだけ支持が強いのは、狐太郎の倒した魔王の軍とよく似ている。
もちろん、褒めていない。
※
さて、その大王である。
今日も彼は、執務室で各地からの報告書、陳情書を読んでいた。
どれもが悲痛な物ばかりであり、切実に援助を求めるものだった。
その一方で、狐太郎が援助をしたところ、復興を手伝ったところからは感謝の文が多く届いている。
(なんとかして狐太郎君になんとかしてもらえないだろうか……)
大王は己の弱さと戦っていた。
(もう一回ぐらいなら、叩頭したら聞いてくれるだろうか……)
読んでいるだけで気がめいる文章を、ずっと読んでいる。
すると己の中に弱い心が生まれ、誘惑してくるのだ。
『いや、もう無理です』
(無理だな……)
だが彼の心には「弱い狐太郎」もいるので、断られると自己論破されていた。
こういうところが、彼の強さだと言える。
「はぁ……」
「あらあら、大王陛下……先の大戦を制した貴方様が、そうもお疲れだとは……民が見ればどう思いますかね?」
「む……君か、ヤングイ」
彼の執務室に訪れた者は、シカイ公爵の娘ヤングイであった。
王族にはいる彼女が現れたことに対して、彼はすこし息を吐く。
「執務の御邪魔でしたか?」
「いや……構わない。元より世情を知るため、ずれを起こさぬために読んでいるだけだからな」
言いたくはないが、作業を中断する口実ができてありがたかった。
読まなければならない資料でも、読み続けるのは苦痛である。
「史に名を刻む大戦争の勝者がそうもお疲れとは……やはり実際の戦争とは生半ならぬものですね」
「ああ。まったく、大変な時期に王になってしまったものだよ」
今回の戦争が、大戦争であったことはジューガーも認める。
それこそ、どの国の歴史書にも……字のない民族でさえも、後世に伝えていくであろう大戦争だった。
特に央土では、後世の学生の誰もがこの戦争について勉強することになるだろう。それぐらいに、稀にみる戦争だった。
だがその勝利が、栄光に満ちていたかと言えば。
いや、勝つ前から、戦う前からそれはなかった。わかっていた。
「だが彼はその役目を全うしてくれた。それを思えば、正統なる王族である私が『しんどいから辞める』など言えるわけがない」
「ご立派です……が、私はその『彼』に会いたかったのです」
狐太郎が城を留守にしていると知って、彼女は退屈そうにしていた。
その姿を見て、大王は少し呆れている。
「狐太郎君なら、ドラゴンズランドへ挨拶にいったよ。ウズモ君たちを帰すつもりだとね。重臣や息子たち……精霊使いや竜騎士は反対していたが……まあ引き留める権限もないからな。あまり無休でこき使うことも心苦しいし、私としてもころあいだったと思う」
「お父様も反対なさっておりました。私がここに来ることを許してくださったのも、私が彼と親密になって、ドラゴンズランドとパイプを作ることを期待してのことでしたし……」
「まあ……意味がないと思うがね」
大王は狐太郎がこの地を去る準備をしていると知っており、それを理解してもいた。
「彼は……運命の流れを感じているらしい。あの戦争が終わった後、何かがまた動き出している。それは彼の故郷に関することであり……おそらく彼の故郷から迎えが来ることを意味している」
「具体的な何かがあるわけではないのに、ですか?」
「ああ……正直に言うが、私もそれを理解している。確かにこのまま、何事もなくとはいくまい」
大王は運命というものに、理解を示していた。
彼は『祈っていれば幸せになれる』などという非現実的な論理とは無縁だが、それとは別に運命を知っている。いや、体感したというべきか。
「先の戦争では……敵味方の誰もが全力を尽くした。その点に関しては、議論の余地はない。だが考えてみれば、おかしなこと、皮肉なことだ。誰もが最善を尽くしたうえで均衡状態に陥るなど……」
「ええ、測ったかのように整っていましたわね。ですがそれが、あの……悲劇につながった」
「悲劇、ああそうだな、悲劇というほかない。あの会戦は、決戦は……悲劇だ」
誰がどう考えても、王都奪還戦は未然に防ぐべきだった。
人間が真に賢いのなら、避けるべきだった。
互いにどんな策があるにせよ、自分たちの利益、命を守るためには交渉で終わらせるべきだった。
双方が退こうとすれば、それだけで退けた。
それぐらいには、お互いに譲歩の余地があった。
だがそれでも、退かずにぶつかり合った。
その決断をした者たちによって、多くの兵の命が失われた。
「……君も聞いただろうが、戦争が終わった後に、麒麟君が準乙種級の武器を手に入れた。いや、今でも何が何だかわからないが、なんかそれぐらい強い武装を持ってきた。それに、究極に匹敵する絶望のモンスターも現れた。いや……こっちも何が何だかわからないが……とにかくそうだった。いやまあ、彼らの故郷のことは本当にさっぱりだが……それらがもっと早く手に入っていれば、それはそれで……決着だった」
準乙種級兵装千念装は使い手の基準が高いため、王都奪還戦前の麒麟が適合するかは微妙である。
絶望のモンスターが、人間同士の戦争に参加したかは怪しい。
だがそれはそれとして、あの戦争に投じられていれば決定打になっていただろう。
「おかしいくらいに戦力が集まっていますね」
「ああ、だがそれは今更なのだ。元からシュバルツバルトの討伐隊には、その流れがあった。元からいた四つの隊に狐太郎君たちが加わり、そこから更に戦力が増強され続け、ついに……ホワイト君と究極君が合流し……ガイセイを含めて英雄が二人立った」
はあ、と彼は息を吐いた。
「今にして思えば、ちょうどよすぎた。それこそ、カセイの防衛戦に合わせるように、その後の王都奪還戦に合わせるように……戦力が整っていた。今にして思えば、運命だったと疑ってしまうほどにな」
「ぷふふ……父上なら羨ましがるでしょうが、私はそう思いませんわ」
失笑を漏らすヤングイだが、決して嘲ってはいなかった。
「貴方は、というよりもシュバルツバルトの討伐隊は、常に身分や経歴を問わぬ強者を求めていた。だからこそ各地から……麒麟様のような方も集まったのでしょう?」
「それは、そうだが……」
「平素から地震への備えをしていて、別の災害が訪れた時に役に立ったとしましょう。それは運命だったとは言わないのでは?」
「……そうかもしれないな」
ご都合主義だった、とは言えない。
大金を約束し経歴不問で強者を募集したら、実際に経歴のわからぬ強者や無謀な若者が集まって、それで戦力が充実していたのだ。
それが有事への備えになっただけである。
「とはいえ……その経歴不問の強者たちと信頼関係を築けたことには、私としては興味がありますわね。コツがあるのなら、ぜひご教授願いたいですわ」
「……なにか変なことをした覚えはない。政治家として基本を押さえただけだ」
大王は、それこそ基本的なことを言った。
「頻繁に会いに行った、それだけだ」
「……なるほど、基本ですわね」
狐太郎たち討伐隊が大公だったころのジューガーに親しみを持っていたのは、単純によく会っていたからである。
それはジューガーが意図してのことであり……一種の誠意であった。
もしもそれを怠っていれば、カセイの防衛戦に一団が馳せ参じなかった……という可能性もある。
「そう、結局基本が大事なのだよ。私もそうだが、狐太郎君もそうだ。彼がどうやって魔王と契約を結んだのかはわからないが、契約を維持できていることは不思議ではない。彼もまた、人付き合いの基本を押さえている」
「……それが、例の空論城の時もそうなのですか?」
「ああ、空論城の件もそうだ」
ヤングイは、ここで露骨に目の色を変えた。
それを察したジューガーは、少し呆れた。
己の好物を知らせるというのは、政治家としてあんまりいいことではない。
それが身を持ち崩すほどなら、余計にである。
「世間の人間がどう考えているか知らないが、あの件で最も評価されるべきことは、出発前にキンカクたち三人へ許可を取ったことだ」
「十二魔将末席の権利についてですね?」
「ああ。今思い出しても怖いが、私と同席したキンカク達三人は、それはもう怒っていた」
大王は、肩をすくめた。
他でもない近衛に守られるべき男が、近衛を怖がったのだ。
「君は、ナタに向かって同じことが言えるかね?」
「……自信がありません。必要なら言おうと思うかもしれませんが、いざ本人を前にすればひっこめてしまうかも」
「適切な自己評価だな。そして彼は実際に口にして、それを引っ込めなかった」
仮に狐太郎の逸話を知って、同じようなことをやろうと思ったものがいたとして、同じような状況になったとして……。
ナタに向かって同じことを言えるだろうか。
『国家存亡の危機ってことで、十二魔将末席のチケットを賭けの景品にしていいですか~?』
『は?』
『なんでもないです……聞かなかったことにしてください……』
それを言えたら、すでに英雄であろう。そして狐太郎は、英雄であった。
「悪魔に対しては承諾を得た賭けの商品を用意し、キンカク達には事後承諾ではなく自分から説明をした。一応主席であるのだから、無許可で事後報告という形をとることもできたが、それをせずにね」
「なるほど……前提条件だったため、そこに気を回していませんでしたわ。知略策謀ではなく、度量度胸こそが素晴らしいということですね」
「……いや、知略策謀がとんでもなかった。とんでもなくびっくりした」
大悪魔を一体と、その眷属を引っ張ってくるぐらいだと思っていた。
戦争に協力すると契約を結ぶ、それぐらいだと思っていた。
全員と絶対服従の契約を結ぶとは思わなかった。
「まあとにかくだ……地盤を築いてこその知略だよ。その点はジョー君も狐太郎君も怠っていない。上辺だけ見て評価しようとする輩は、それこそ知性に欠ける」
「……身に沁みますわ。ですが、ええ、やはり狐太郎様は知性と品格に優れた方でいらっしゃいます! 大王様からお話を聞けて、とてもよかったですわ!」
「そ、そうか……」
身内ながら、こんな変な女に好かれるなんて大変だなあ。
大王はそう思ってしまうのだった。
※
さて……。
当然のいまさらだが、狐太郎は今でも最高権力者である。
現在役職を辞している彼だが、権威も権力も衰えていない。むしろ勝った後だからこそ、大抵の無茶を通せるだろう。
その彼を篭絡できれば、この世のすべてをほしいままにできると言っても過言ではない。
そして……皮肉にも、それが可能にできる「立場」にいる者がいる。
ギョクリンの孫娘オシュン、チタセーの曾孫娘クレタケ、ウンリュウの孫娘コメトギである。
先の戦争で北笛に人質として預けられていた、西重の大将軍の血を継ぐ娘たち三人。彼女たちは現在、狐太郎の預かりということになっていた。
乱世の習いによれば、狐太郎が好き勝手にしていい女性ということになる。
だが恋愛とは常に、惚れた方が負け。男が女を好きにしていると思っていたら、女に好きにされていたなんてことはよくあることだ。
そして三人はいずれも、それを狙っていた。だがその心中は、誰もが異なっていた。なんなら、お互いが敵ですらあった。
ギョクリンの孫娘オシュンは、懐に毒を隠し持っていた。
いざ床を共にしたときには、彼を道連れにして死ぬつもりだった。
「おのれ、四冠の狐太郎……土に還った西重兵幾十万、奴隷に堕した西重の民幾千万の恨み……思い知らせてくれよう!」
攻め込んできたのは西重の側だという点を除けば、それなりに正当性のある恨みだった。
むしろ多くの西重民と、心を同じくしていると言える。
「いかに魔物を従えようとも、閨では貧弱なだけの裸の亜人。毒を飲めば、救命も間に合わず……くくく!」
成功する可能性が高いとは言えないが、現実的に起こりうる、成功しうる範疇だった。
むしろ毒など持ち込まず、素手で首を絞め殺す方向にいけばさらに成功率は上がる。
もちろん彼女も助からないが、小娘一人が果たせる復讐としては最上に位置するだろう。
オシュンがそう考えたことは、決して不自然ではない。
ではチタセーの曾孫娘クレタケはどうか。
彼女はさらに、西重の民に寄り添っていた。
「聞けば四冠の狐太郎は、戦時に徴用されただけの将。ならば西重と央土の因縁とは元より無関係……央土の圧政へ一言を入れてくださるかも……」
戦争の功労者である狐太郎が『あんまイジメすぎるなよ』と言えば、西重の民への冷遇もある程度は緩和される可能性がある。
もちろん一気に、劇的に、戦前ほどに回復することはないだろう。だがそれでも、本当に多少はましになるであろうし、他に一切手立てがない。
「私が体をささげて、それで西重の民が少しでも救われるのであれば……私は、それを受け入れます」
彼女一人の体に、そこまで価値があるのかはわからない。
征夷大将軍を務めた男が、一人の女にほだされて国政や国民感情に反する発言をするとも思えない。
だがそれでも、彼女の立場からすれば唯一の希望であり、現実的に起こりうることではあった。
クレタケの考えは、決して愚かではない。
ではウンリュウの孫娘コメトギはどうか。
彼女はそれらとは、明らかに一線を画していた。
「もしも私が四冠の寵愛を独占すれば、私は事実上この世の頂点に……!」
実に、実に、歴史的によくあるパターンだった。
彼女はこの状況で、自分のことしか考えていなかった。
だがこれは、とがめられることではない。
なにせ彼女を含めた三人は、人質として北笛へ送り込まれたのである。
今彼女たちは央土で保護下、監視下に置かれているが、これだって最悪ではない。
最悪の事態とは、それこそ西重が他の国を裏切って、途中で戦争を切り上げた場合である。
その時の彼女たちは、北笛からの憎悪を受け止めることになっただろう。
そういう役目なのだから、まさに生贄なのである。迷惑な話でしかない。
何か非があって北笛に送られたのではない、ただ純粋に、数いる英雄の親族の中の、その一人だからと送り出されたのだ。
これで西重に対する愛国心を失っても、まあとがめられることではあるまい。
勝って戻されて謝られたならまだしも、結局負けました滅びましたでは、まあ白けもするだろう。
「聞くところによれば、狐太郎はまだ正式な妻を迎えていない……ならば私の下に来て、私を気にいることも……そして私だけを愛する可能性もある……!」
虫のいい想像ではあるが、これもあり得ないわけではない。
少なくとも既に正式な妻がいる状態から寝取ろうとするよりは、まだ品があると言えなくもない。
現在彼女の立場からすれば、もっとも前向きと言えなくもない。
「私のもとにくれば、その時は……!」
「私のところにきてくだされば、その時は……」
「私のところにいらっしゃい……!」
さて、狐太郎である。
『会いにくいんで、放置でいいですか?』
『……君の好きにしていいよ』
『じゃあ好きにしますね』
彼は好きにしたのだった。
完