学術的に価値のある重要な資料
クラウドラインのウズモは、狐太郎一行を乗せて雲の上を飛んでいた。
背中に人を乗せている関係もあって鈍行なのだが、それでも最短距離を飛んでいるので歩くよりも断然早い。
そしてそろそろドラゴンズランド……ウズモやサカモの故郷につくころ合いになった。
『いやあ……正直故郷にはあんまりいい思い出がないのですが……あのムカデとか英雄がいないだけ、楽園みたいなものですなあ……』
「まあそうだろうねえ……」
クラウドラインと言えば、Aランク中位モンスターの中では最強に位置する……つまり英雄やAランク上位モンスターを除けば最強の怪物である。
もちろんドラゴンズランドでも最強なのだが、その中でもウズモは落ちこぼれであった。
万物の霊長たる人類でも落ちこぼれはいるので、まあそんなものかもしれない。
その故郷から逃げ出したいというのが、彼が狐太郎と会う発端だったのだが……。
旅先での苦労が、彼を少し成長させたのだろう。彼はいじめられるとわかったうえで、故郷に帰るつもりだった。
いじめられなくなったとは思っていない、それをわかっているのも成長である。
『しかし……狐太郎様、アカネ様。折り入ってお願いがあるのですが……このウズモを、『竜王アカネ様一の部下』とか『ムカデ退治に参加した猛者』と呼んでくださいませんか』
「……まあそれぐらいはいいじゃないか、なあアカネ」
「ええ~~?」
アカネの部下の中では一番強いし、何なら部下をまとめる立場でもある。
たまたま遭遇しただけではあるが、エイトロールを相手に奮戦したことも事実である。
もちろん他にもいろいろ活躍したのだから、故郷に帰るとき褒めてあげてもいいような気がする。
だがアカネは、ものすごく嫌そうだった。
「なんか嫌な予感がしたから、あわてて引き返した、なんていう奴が私の一の部下~~?」
(それはまあそうだな、うん)
この上なく露骨に嫌そうなアカネだが、彼女の気持ちは理解できる。
なんなら、ウズモにも自覚はあるだろう。
むしろ、だからこそ彼女から箔をつけてほしいのだ。
『後生でございます、竜王様……このままだと、このウズモ……番を見つけられませぬ!』
「絶えればいいじゃん」
(ひでえ……)
耐えればいい、我慢しろよ、ではない。
絶えればいい、子供を残すのをあきらめろ、である。
「アカネ……いくら何でもそれはないだろ。俺たちがどれだけウズモに助けられたと思っているんだ」
「でもさあ……ウズモはこれからもドラゴンの国に残るわけじゃん。そんで醜態をさらすわけじゃん。そのたびに『あんなんでも竜王様の一の部下が務まるんだな~~』って言われるんだよ?」
『ぐうう……』
狐太郎の意見ももっともだが、アカネの意見ももっともである。
誰かを推薦するということは、それだけリスクを背負うのだ。
ちょっと成長したとはいえ、相変わらず落ちこぼれのままであるウズモを一の部下にすれば、彼女の沽券にかかわる。
「アカネ、お前の意見はもっともだ。ならばウズモよ、アカネの部下、ムカデ退治の雄、とだけ箔をつけてもらえ。それぐらいなら、アカネも許すだろう」
『一の部下、を除けと……ぬう……私めを助けてくださった、コゴエ様がおっしゃるのなら……』
コゴエからの妥協案を聞いて、ウズモは悔しそうに受け入れた。
正直その他大勢の一人のようで気に食わないが、これ以上は許されそうにないのでしかたない。
(まあ……うかつにほめ過ぎて、ウズモみたいに外へ出る若い竜が増えても困るしな)
狐太郎はしばし考えて後に、ウズモへアドバイスを出した。
「まあそのなんだウズモ、今の君なら大抵のモンスターを狩れるだろう。アカネからの箔が無くても、その腕前をアピールすれば目もあるさ」
『そうかもしれませぬが……わびしいものですなあ……』
さんざん怖い思いをしたのに、得られるのは人並みの幸せ。
まああのままくすぶっていればそれさえ手に入らなかった、と自覚しているのでまだ救いはあるが……。
ウズモは切なそうに、ため息をついた。
「まあこういっちゃなんだけど……箔目当ての女なんてろくなもんじゃないぞ?」
『私もそれはわかります。ただ……それでも一生に一度ぐらいは、竜王様のようにちやほやされたいのですよ!』
(若い……!)
ウズモの気持ちは、狐太郎にもよくわかる。
とりあえず一度はちやほやされてえ、というのは男のロマンであった。
一度で飽きるかもしれないが、その一度が欲しいのである。
「気持ちはわかるわねえ……むしろ男らしいわ。実際頑張ったんだし……アカネ、ちょっと泥をかぶってやりなさいよ。むしろ頑張った部下に報酬をケチる方が、ずっとみっともないわよ?」
大鬼クツロは、ウズモのロマンに理解を示した。
なんにもせずにモテモテになりたいとかほざいたら殺すところだが、彼はちゃんと頑張ったのだから応援したくなる。
こんな奴が一の部下だなんて、アカネも大したことがないんだなあ……と思われるぐらいはいいではないか。
それぐらいの不名誉は受け入れるべきだと、クツロはウズモの味方になった。
「クツロまでそんなことを言うんだ……まあわかるけどさあ……」
『あと一押しと見ました……ササゲ殿はどう思われますか?!』
「え、私? ぶっちゃけ、生かして帰すだけありがたく思ってほしいんだけど……」
『……そ、そうですか』
(あと一押し足りなかったな……)
約束を重んじる悪魔としては、シュバルツバルトに初めて来た時のことが印象に残りすぎている様子。
命がけで戦う約束を速攻で撤回した賢さを、彼女はひどく軽蔑している様子だった。
『仕方ありませぬ……確かにササゲ様のおっしゃる通り、生きて帰れるだけありがたく思うとしましょう……平凡な幸せが得られるよう、今後も精進いたします』
(賢い……)
ああこれもう無理だわ、と諦めたウズモ。
これ以上無駄に粘っても、いい結果は得られないという判断である。
引き際を誤れば死ぬまでこき使われるので、賢い選択であった。
『……む?』
「あれ?」
その話をしているところで、ウズモとアカネが同時に『なにか』に気付いた。
それに一拍遅れて、コゴエが状況を把握する。
「ご主人様。貴竜たちが、こちらへ向かってきております。それも一体二体ではなく、大量に」
「……出迎えみたいなものか」
元々長老たちに話を通していたので、出迎えが来ても全く不思議ではない。
雲海の上を飛ぶウズモを囲うように、雲を突き破って大勢のドラゴンが飛翔してくる。
「おおお……!」
狐太郎をして、思わず息をのむ光景であった。
Aランク中位、下位の貴竜が、何十種、何百体と出現したのである。
ただでさえ荘厳な雲海を舞台にして、強大なる竜たちの歓迎が始まったのだ。
「すごい……伝説のドラゴンがこんなにたくさん」
「知らない種類のドラゴンも多いぞ……これがドラゴンズランド、その入り口なのか」
元よりこの日の為に苦労を重ねてきた、バブルやロバーである。
二人はあまりの光景に、メモを取ることさえ忘れて見入っていた。
「かっけえ……」
「私たち、竜の国にたどり着いたんだわ……」
あまり乗り気ではなかったキコリやマーメでさえ、竜の群れの出現に圧倒される。
強大なドラゴンが吠え、羽ばたき、鱗を波立たせ、華麗に舞っている。
多くのドラゴンが、全身で、全力で命を表現していた。
「癪だけど……正直羨ましいわ~~。こっちの世界でも鬼や悪魔は大差ないけど、ドラゴンは圧倒的よね~~」
「ええ。私たちが空論城にいった時とはまた状況が違うけど、全力で歓待してくれてもこれほどは……」
「ずいぶんと熱烈な歓迎だな、アカネ。お前も王として、戴冠して応えてやればどうだ?」
三体の魔王は、素直にその光景に感嘆していた。
長老の孫というだけのウズモが帰ってきただけなら、こんな国賓級の歓迎はあり得まい。
ムカデ殺しの竜王、戴冠火竜茜の威光あってこそだ。
ならば王として、民へ礼を示さねばなるまい。
三体はアカネへ威厳を出すよう勧める。
「……ウズモ、回れ右して」
当のアカネはあろうことか、帰るよう指示していた。
『そうですね……戻りましょう』
そしてウズモもまた、それに従った。
全力で出迎えてきたのに、二体の竜は明らかに雰囲気が悪い。
「え、えええ?! アカネ様?! なんで帰るんですか?!」
「そ、そうですよ! せっかくこんなにドラゴンが迎えてくれたのに……! なぜ!?」
バブルやロバーが、全力で抗議する。
反対しているというよりも、理由がまるでわからないのだ。
少なくともアカネは、こういう時に意地悪をするような性格ではないはずだ。
そんなことは、比較的付き合いの短い二人でもわかる。
(前にもこういうことがあったような……)
それはもちろん、狐太郎も同じだった。
アカネが帰るように言ったこと、それには原因が、理由があるはずだった。
疑問に思った狐太郎は、アカネの顔を覗き込もうとして……。
ぷるぷると全身を振るわせて、顔を赤くしている彼女に気付いた。
「……そうか!!」
狐太郎は、周囲のドラゴンたちを仰いで、そして納得した。
「こいつら全員、アカネに求愛行動してるのか!!」
よくよく観察すれば、どのドラゴンも若い……ように見える。
おそらく年齢的にはウズモと同じぐらいであり、欲求の強い年齢だ。
その彼らがアカネをみて、全力で求愛しているのである。
「ご主人様!! 一々言わないでよ、恥ずかしい!!」
「ああ、うん、ごめんな……本気で恥ずかしいよな!」
「こんなところ……来るんじゃなかった!」
羞恥で顔を真っ赤にしているアカネ。
乙女な彼女としては、セクハラをされている気分なのだろう。
『いやあ……マジすみません……戻りますね』
これにはウズモもドン引きである。
まあ状況が違えば彼も参加したかもしれないが、それでも立場が違えば感じ方も変わるものである。
彼はゆっくりと減速しつつ、大きな頭をゆっくりと回転させ、長い胴体を揺らしながら、ゆっくりと方向転換を始めた。
『いやあ……きついっすわ……発情臭がやべえっすわ……』
同じドラゴンだからであろう、アカネとウズモは同族の興奮を体臭から感じ取れるのだ。
他の面々はまったく気づかないが、アカネとウズモは彼らが現れる前から気付いている様子だったのである。
「ほんと……ほんともう……ウズモ、急いでよ!」
『ああ、いや、振り落としちまうんで……ちょっと待ってください……』
「ああ、のんびりしているから追いかけてきた……!」
ゆっくりと戻りつつあるウズモの周囲に、追従していく若きドラゴンたち。
彼らは争うようにアカネにアピールし、彼女の興味を引こうとしていた。
(セミが鳴くのも求愛だし、蛍が光るのも求愛だからな……俺がドラゴンの求愛を見て圧倒されていても、まあおかしくはないんだ……)
それを見ていた狐太郎は、セクハラに感動していたんだなあ、という気持ちに至っていた。
つまり、しらけていた。
「……アカネ」
恥ずかしさでもだえるアカネに対して、ササゲは優しく肩に手を当てた。
「ササゲ……」
その顔は、実に人間的な笑顔だった。
「ドラゴンの国、臭いわ」
「ぶっ殺す!」
「ドラゴンの国~~、発情臭がするわ~~!」
「ぶっ殺す!」
いつかの意趣返しのように、アカネを挑発するササゲ。
彼女自身は発情臭などまったく感じないのだが、とにかくうれしくてたまらない様子であった。
「まあ待て、アカネ。お前の気持ちは共感できないが……ドラゴンズランドの発情期に、我らが居合わせただけなのではないか? 冬に山に登って寒いと文句を言うのと変わらない、自然の摂理のようなものではないか」
なお、ササゲと同じように性欲のないコゴエは、むしろドラゴンズランドの若きドラゴンたちを擁護した。
「もしもそうなら、お前に興奮することも悪では……」
『コゴエ様、俺たちの発情期まだ結構先っすよ。というか、その時期ならまずアカネ様連れてこないです』
「それもそうだな……ならば、健康ということか」
コゴエは冷静に可能性を考察したが、ウズモによって冷静に否定された。
なのでなんとか、かろうじて擁護することにした。
「あの……コゴエ。私が言うのもどうかと思うけど、貴方いくら何でも本能や欲求を肯定しすぎじゃない?」
その一方で、アカネの気持ちがよくわかるクツロは、むしろコゴエを諫めていた。
「よくわからないものを否定する、というのはよくあるまい」
「よくわからないものを肯定しないでよ……本人が嫌がっているんだし」
「それはわかっている、だからこそ中立でありたいのだ」
「立ち位置ミスっているわよ、貴方」
(性欲がないモンスターにとって、恥じらいっていうのは一番理解しがたいのかもしれないな……)
状況を把握した狐太郎は、改めて周囲を見る。
現れた時と何も変わっていない、荘厳な竜の舞踊。
それは動物特集番組とかなら『大自然の愛』とか言って『へ~~』で済むのだが……。
こいつらに高度な知恵があるのだと思うと、完全にセクハラである。
「すごい! これが貴竜の求愛行動なんだ! スケッチしないと!」
そして、それと同じような結論に至ったバブル。
確かに貴竜の求愛行動など、ドラゴンズランドでもそうそう見られないだろう。
ましてや多種多様なドラゴンの求愛を一度に見られるなど、それこそ稀ではあるまいか。
この場に居合わせた学者の卵としての使命感に燃えて、彼女は必死でスケッチを始めた。
「や め て !」
本気で嫌がっているアカネは、バブルのスケッチを必死に止めようとしている。
アカネもバブルに嫌がらせの意図はないとわかっている。民俗学、生物学的には大変貴重な資料であり、今後二度と見られないかもしれない状況だ。
だが彼女にしてみれば、集団からナンパされている図を資料として記録されているわけで……。
「それにしても、ちょっとコレ異常じゃないか? 魔王の冠って、その手の効果もあるのか?」
「何を言っているのよ、ご主人様。クツロが亜人の集落に行っても、そんなことになってないでしょ? アカネがそれだけ美人ってことじゃない?」
「ぶっ殺すわよ、ササゲ」
調子に乗っているササゲは、クツロにも喧嘩を売っていた。
幾多の試練を乗り越えた、魔王たちの絆が崩壊の危機に瀕している。
『ああ、あのですね……そこまで本気の奴はいないんですよ。アカネ様が美人なので、囃し立てている奴が大多数というか……』
「ああ……」
「ああ……」
ウズモの説明は、実に正確で的確だった。
クツロと狐太郎は、その光景を自分の種族に置き換えて理解した。
なるほど、中学生や高校生の悪ガキのやりそうなことである。
『ぶっちゃけメスも半分ぐらいいますし……きゃーきゃー言ってるだけですね……はあ……』
「もういい! レックスプラズマで全員焼き殺してやる!」
「ちょ、ちょっと待て! そんな技をここで使ったら、みんな死ぬぞ?!」
『アカネ様?! それ足場の俺がまず死にます!!』
英雄さえ一撃で消し飛ばす、大技中の大技を発射しようとするアカネ。
そんなことをされたらマジでシャレにならないので、狐太郎も全力で止めようとする。
射線の関係上、というか発射までのタメがあるのでまずほとんどのドラゴンは逃げるし、その前段階で真っ先に狐太郎たちが死ぬ。
「人授王権……」
「俺今授けてないぞ?!」
全ての魔王の冠を管理する、それゆえに天帝と呼ばれる男。
その下僕アカネは、自分の尊厳を守るために冠を使おうとした。
「魔王戴か……ん?」
『……ひゃぎゃ?!』
そしてその発動寸前になって、やはりアカネとウズモが『異変』に気付いた。
もちろんそれは、周囲のドラゴンたちも感じ取ったわけで……。
ウズモの周囲にいるすべてのドラゴンが、あわてて四方八方へ、立体的に逃げ出していた。
「アカネ、見なさい。ドラゴンが逃げているわよ」
「殺すよ?」
ここでもササゲは、アカネに意趣返しを怠らなかった。
「それに……、エイトロールが来たから逃げた、とかじゃないから」
アカネはやや落ち着きを取り戻した様子であり、もう魔王になろうとしていなかった。
「じゃあ何が……」
狐太郎が確認をしようとした、その時である。
再び雲海を突き破って、大量のドラゴンたちが出現した。
種類も数も、先ほどと大して変わらない。
違うのは、大きさだろう。先ほどまでのドラゴンが子供なら、今現れたドラゴンたちは大人だった。
すさまじいほどの怒声と共に、大きな口を開いて悪ガキたちへ噛みついていく。
悪ガキたちは必死で逃げようとするがあっさり捕まってしまい、そのままガリガリゴリゴリ鱗を削られている。
如何にAランクのドラゴンとはいえ、同種の大人から折檻されればそりゃあ痛い。
悪ガキたちの悲鳴が、雲海にとどろいていた。
「わあああ、凄い! ドラゴンの大人は子供にこうやって躾をするんだ! スケッチしないと!」
「やめて!」
またスケッチを始めたバブルと、それを止めるアカネ。
自種族の恥部を記録されるのは、彼女としてはそうとう嫌らしい。
「ねえロバー……ちょっとがっかりしたんじゃないの?」
「いいや! 子供のレベルが低いのは残念だけど……大人は立派じゃないか! 俺たち貴族も同じようなものだろう?」
「よかった……名誉は守られてるね……」
マーメはロバーががっかりしていないか心配な様子だった。
さんざん苦労してここにたどり着いたのに、実物が盛りのついたトカゲではがっかりだろう。
しかしながら大人がしっかり罰を与えていたので、ドラゴンの名誉は守られたのだ。
これで竜王アカネも一安心である。
「おお、すげえ……落ちていくぞ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないの? だってAランクだし……」
折檻された悪ガキが、空から雲海へ、その下へ落ちていく。キコリとマーメは、それを眺めていた。
もちろん雲の高さからの落下なので、ドラゴンの巨体は相当な威力を受け止めることになるだろう。
だがAランクモンスターが高いところから落ちたぐらいで死ぬわけもないので、死ぬとは思っていない。
なんなら、親から噛みつかれたダメージの方がずっと上だろう。
『……ごほん、竜王アカネ様、氷王コゴエ様、鬼王クツロ様、魔王ササゲ様、四冠の狐太郎様ですね』
『この度は大変お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした……』
『これも我らの躾が至らぬが故でございます……誠に恥ずかしい……卵の殻をかぶりたい気持ちでございます』
もうすでに引き返す軌道に入っていたウズモ、その周囲に大人のドラゴンたちが編隊飛行を始めていた。
先ほどまでの小童どもとは比較にならない、成体のドラゴンの群れ。
それが陳謝してくるのだから、一種異様である。
「本当だよ、もう! 大恥もいいところだよ!」
それに対してアカネは、ものすごくまっとうにクレームを入れた。
彼女自身はBランク上位程度の存在なのだが、Aランク中位やAランク下位へ容赦なく不満をぶちまけている。
如何に戴冠しているとはいえ、いかにムカデ退治の猛者とはいえ、Bランク上位の小娘から不満をぶちまけられれば『なにをこの』と思う個体もいるだろう。
だが状況が最悪すぎて、もう謝るしかなかった。自分の子供が集団セクハラしていたら、相手が誰でも謝るしかない。
『本来ならお帰りになることを引き留めたいところなのですが……この体たらくでは翼を広げられませぬ』
『まずはあのトカゲどもを焼きますので、その臭いが収まったときにでも、改めてこちらへ……』
『よろしければ、近くの魔境でゆっくりしていただけないでしょうか……この通りにございます』
そういって、大人のドラゴンたちはいっせいに体をうねらせた。
シンクロナイズドスイミングの水中映像のように、空中で水平移動しながら姿勢を作っていた。
間違いなく、ドラゴンたちの謝罪のポーズである。
「すごい! これがドラゴンの謝罪のポーズなんだ! スケッチしないと!」
「やめて!」
のちにバブルのスケッチは、ドラゴンの文化を伝える重要な資料として扱われるのであった。
多種多様なドラゴンの、求愛行動や謝罪行動を記録できた理由。いかに竜王と同行していたとはいえ難しいはず。後世においても大いに疑問を持たれたのだが……実際はこんな理由であった。




